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『ゴースト・オブ・ツナミ : 3.11の被災地の生と死』R.L.パリー著《後篇》

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所要時間 約 6分

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責任を曖昧にしたまま事なかれ主義に終始する日本の役人根性を鋭く告発したドキュメンタリー

上からの指示がないと何も決めようとしない大人たちが、たくさんの子供たちを死に追いやった

 

エコノミスト 2017年8月17日

 

この著作のクライマックスを形作ることになる大川小学校についてまず確認しなければならないのは、最初に襲った巨大な地震そのものによって死亡、あるいは負傷したこどもたちや教師は一人もいなかったという事実です。

そして後に明らかになったのは、津波警報に対する優柔不断な対応が致命的結果に結びついたという事でした。

 

この日の午後、大川小学校の橋田校長は執務中ではありませんでした。

そして同校長は震災後も約1週間に及び所在不明の状態が続き、その間生存者、そして遺体の捜索、両親の精神的苦痛に対する対応などに一切関わることが無かったという事実が、その後何もかもが誤った方向に向かってしまったことを象徴することになったのです。

 

大川小学校の石坂教頭を含めた数名の教師が子どもたちを避難させないという決定を下しました。

そして子供たちを救うべく学校に駆け付けた両親たちに、子どもたちの安全は確保されていると告げ、近くに駐車していたスクールバス – もしそれを使っていれば全員の命を救うことができたはず- の存在も無視しました。

その代り教頭と子供たちの安全に責任を持っていた他の大人たちは、緊急マニュアルの「学校近くの空き地、公園など」の意味について検討しました。

しかし近くにはこれらの言葉に一致する場所は無いと判断し、結局何もしなかったのです。

津波に襲われた瞬間、子どもたちは慌てて目の前の丘に駆け上がろうとしましたがもう手遅れでした。

 

「日本列島が存在するようになって以来、繰りかえし日本人の命が津波に奪われてきました。」

ロイド・パリーはこう語ります。

2011年に発生した災害によって他とは異なる現実が生み出されました。

数年後、大川小学校の生存者と義医者の遺族が、日本の学校当局の対応に対し訴訟を起こしました。

 

大川小学校の事件は今や有名になりました。

74人の子供たちが死亡した際、一緒にいた多くの教師も溺死しました。

大切な子どもたちが犠牲になり悲惨な境遇に落とされた家族の多くが、その死は完全に避けることができたはずであり、それをしなかった学校側の対応は事実上犯罪に等しいものだと確信するようになったのです。

5年後、仙台地方裁判所は亡くなった子供たちの家族の「法的に決定的な勝利」を認め、学校側に「明白な責任の所在」があるとする遺族側の主張を認めました。

こうして訴訟に加わった原告は、失われた子供1人につきそれぞれ約6,000万円の賠償金を受け取ることになったのです。

 

責任を曖昧にしたまま事なかれ主義に終始する日本の役人根性をロイド・パリー氏が克明に描写するは、今回が初めてではありません。

2011年に刊行された前作「闇に巣食う人々」の中で、パリー氏は殺害された英国人の若い女性、ルーシー・ブラックマン殺人事件を扱いました。

大川小学校、ルーシー・ブラックマン殺人事件、そのいずれにおいても日本の当局者は、不正行為について責任を問われると厚顔無恥とも言うべき責任の否定を行い、彼らにとって迷惑な質問がいずれ消えてなくなることを期待し、証拠の存在を無視し、時にはそれを隠滅するという行為を行ってきました。

しかしパリー氏はこうした役人たちが逃げおおせることを許しませんでした。

津波の後に実際に起きたことを、第三者が理解しやすいようにパノラマ的に配置した上で詳細な記述を行うことによって、これまでの報道などでは、実に多くの場合表に出て来にくかった理不尽な死に対する嘆きや悲しみに光をあてることに成功しました。

これはすべての社会に対する教訓です。

何か不都合な事実が明らかになると、まずは調査を妨害し事実を隠ぺいするという反応が採られることが多いのだということを警告しています。

 

パリー氏の著作を熟読した後は、今年はもう別のノンフィクション作品を読む必要はなくなるかもしれません。

 

〈 完 〉

https://www.economist.com/news/books-and-arts/21726676-how-authorities-reacted-face-disaster-says-lot-about-japan-remarkable

『ゴースト・オブ・ツナミ : 3.11の被災地の生と死』R.L.パリー著《前篇》

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所要時間 約 6分

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日本に着任以来、2011年まで17,257回発生した地震のほとんどを経験した英国特派員が綴った実録

まさに上からの指示に従わなければならなかった子供たち、その大量死の直接の責任は誰にあったのか

 

エコノミスト 2017年8月17日

2011年3月11日午後2時46分、東京の北東約300kmにある仙台市沖合の太平洋の海底から約30kmを震源とするマグニチュード9.0の地震が発生しました。

日本を襲った史上最も強力な地震であり、科学者たちはその後、西暦869年に発生した貞観地震同じ沈み込み地帯での動きによるものであり、さらには1896年と1933年に発生した巨大地震とも関連するものだと判断しました。

 

そして『東日本大震災』の命名が成された巨大地震は、1千年以上前と同じ巨大津波を発生されることになりました。

2011年に発生した津波は最大で高さが40メートルに達しましたが、869年当時は津波の高さを記録する装置などはなく、被害を受けた村の人びとは津波が内陸のどの場所にまで到達したのか目印になる石を設置するなどし、何世紀にも渡り伝えようとしてきました。

繰り返し起きる巨大地震の日本の歴史は日本の人びとに、発生の際の対処方法について念入りに検討し、備えを怠らないようにするという教訓を与えました。

日本の学校で日常的に行われている地震や津波の際の避難訓練は、著しく効果的であることが証明されています。

2011年に発生した東日本大震災の犠牲者18,500人のうち、学童年齢の子どもたちの犠牲は351人に留まりました。

 

しかし一か所で著しく多くの子どもたちの命が失われてしまった学校がありました。

それが宮城県石巻市の大川小学校です。

『ゴースト・オブ・ツナミ』とはこの日、津波到来の警報がすでに出されていたにもかかわらず、なぜ自分たちではまだ状況判断が出来ない子供たちが丘陵地帯の手前に留め置かれ、このうち多数の子どもたちの命が失われてしまった出来事について、いったい誰が直接の責任を負わなければならないのか、そして子供たちの死という残酷な事実を突きつけられた家族、特にその両親は自分たちが子供たちを守ることができなかったという現実にどう対処したのかというドキュメンタリーです。

2011年まで英国タイムズ紙のアジア特派員を勤めたロイド・パリーは1995年に東京に着任して以来、2011年までに17,257回発生した地震のほとんどを経験しました。
そして2011年に発生した東日本大震災の発生から数週間、彼は津波によって原子炉がメルトダウンした福島第一原発、そしてその先に広がる津波の被災地に何度も出かけました。

彼は何度も東北地方に足を運び地元の公務員、仏教の僧侶、そして最も重要な人々になった大川小学校に子供を通わせていた家族に話を聞きました。

 

鋭い観察眼を持つロイド・パリー氏ですが、そんな彼をもってしても理解に苦しむようなエピソードを数多く耳にしました。

悲嘆にくれた1人の母親は娘の遺体を抱き抱え、死んだ子供の目を覆っていた泥を舐めながらきれいにしていました。

別の母親は未だに娘の遺体が泥の中に埋もれたまま発見されないため、自分自身で辺り一帯を掘り起こして捜索ができるように掘削機を操作するためのライセンスを取得しました。

ロイド・パリー氏は津波から生き残るという運命の分かれ道が、実情に即した適切な避難命令が与えられたかどうか、そしてどう対応したのかに大きく依存していたという事実を学びました。

被害は高齢者に集中しました。

ロイド・パリー氏は104歳で死亡した下川隆史さんに関する話を記録しました。

下川さんは周囲からも愛されていた人であり、2008年にやり投げの競技の100歳以上の部門で世界チャンピオンに輝いた際、この時偶然パリー氏も直接インタビューをしていました。

高齢者の次に犠牲が多かった人々は、津波警報の深刻さを理解していなかった人々、そして避難の前にいったん自宅に戻って大切なものを回収しようとした人々でした。

 

アメリカ出身の若い教師は、はぐれてしまった生徒を両親のもとに連れて行った後、今度は母国にいる両親に自分が無事だという事を電話で伝えるため自宅のアパートに戻ろうとして津波に巻き込まれました。

対照的に市町村が発した警報を聞き逃すまいと注意していた人々は、生き残るための確実なチャンスを手にしました。

最初の警報のサイレンが鳴らされたのは津波到達の約45分前、従って安全な場所に到着するのに十分な時間があったはずでした。

なのになぜ、何が、大川小学校で起きていたのでしょうか?

 

〈 後篇に続く 〉

https://www.economist.com/news/books-and-arts/21726676-how-authorities-reacted-face-disaster-says-lot-about-japan-remarkable

 

【『3.11の被災地をさまよう死者たちの霊と忍び寄る前時代の亡霊』リチャード・ロイド・パリー著 】《後篇》

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所要時間 約 7分

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悪政は自然災害ではない、黙って耐え忍んでいるだけでは社会正義は実現しない

政治権力に意見を持とうとしない大勢順応主義は、社会にも自分にも致命的な運命をもたらす

民主主義の実現のため積極的に活動する市民の形成を阻害する、『上からの命令に忠実』な姿勢

 

堀田えり / ガーディアン  2017年8月16日

 

ロイド・パリーの著作の中には被災地での生活の別の側面を伝える部分があります。

村の集落から市や町の地方自治体、都道府県、そしてそれらすべてに対し機能すべき国政レベルに至るまで、あらゆる社会の政治的失敗の幻影が災害後の社会の再建のため機能できていない、という事実です。

そうした事実を最も端的に証明しているのが大川小学校の悲劇です。

ここで起きた悲劇はこの著作のクライマックスのひとつにもなっており、緻密に組み上げられた犯罪小説や心理ドラマよりも、読む者の心に迫ってくる力を持っています。

 

この悲劇だけに特に焦点を当てることがなくとも、バリー氏の著作は読む者を惹きつける力を持っています。

しかし東日本大震災の津波の直接被害を受けた9つの学校の内のひとつで、在校中に命を落とした児童が東日本大震災では75名いましたが、そのうちの74名は大川小学校の犠牲者です。

犠牲になった子供たちの両親は、なぜ大川小学校に限ってこれだけ多くの犠牲者を出していまったのか、その本当の原因、理不尽さといったものを明らかにしたかったのです。

後からの検証によって、警報の発令から津波の到達までには、他の学校の子供たちが高所に避難した事実が承継するように十分な時間がありました。

しかし行政側の見解は変わらず、徹底的な調査を開始するのは難しい状況でした。

 

悲しみに打ちひしがれると同時に怒りに身を震わせた大川小学校の犠牲者の両親は戦うことを決意しました。彼らは、石巻市と宮城県に対して訴訟を起こしたのです。

大川小学校の犠牲者の両親たちは、同時に19世紀以降日本が急速に近代化を進める際に威力を発揮した強力な官僚主義、有司専制の下での中央集権国家としての古い体質とも戦うことになったのです。
この体質、あるいはイデオロギーは国民を国家の下僕とみなします。

 

従って国家や自治体など『お上』の方針に異議を唱えたりすれば、良くて厄介者扱い、悪いければ社会から葬り去るべき自己中心的なトラブルメーカーだという烙印を押されてしまいます。

第二次世界大戦(太平洋戦争)では日本社会の様々な制度やシステムが破壊されましたが、そもそも戦争を引き起こしたのがこうした考え方であったにもかかわらず、そのまま戦後社会にも引き継がれることになってしまいました。

 

ロイド・パリーは次のように記述しました。

このような価値観が支配する社会では、悪政すら「自然災害」と同じ、「普通の人間がいくら努力しても避けられない、人間の手ではどうしようもない災難」だと受け取られてしまう。

そして人々は「無力感にさいなまれつつ結局は明け入れざるを得ず、耐えるしかなくなる」と。

 

政治権力の在り方について個人では判断をしようとしない人々の態度は、やがて大勢順応主義へとつながり、致命的な運命に遭遇することになります。

ある初老の一家族は津波襲来の警報を受けいったんは高台に車で避難しましたが、律儀にもわざわざ丘を下りて他の人びとと同様に指定避難所に入り、そこで津波に襲われ一家全員が死亡しました。

東北地方の被災者の『模範的態度』を引き出したのと同じ特性、すなわち上からの命令には忠実であり、体制の非合理性にはかなりの程度まで寛容である一方、反体制的な騒ぎに対しては嫌悪感を持つという性向は民主主義社会の実現のために積極的に活動する市民の形成を阻害する可能性があると主張しているのかもしれません。

 

しかし障害の存在は、個人の人権確立の戦いのための起爆剤にもなりえます。

今日ほとんど顧みられる事はありませんが、東北地方には民主主義の実現のため苦難を強いられた歴史があります。

明治維新直後の1870年代と80年代、日本の新興市民社会にはどのような憲法がふさわしいかの検討が始まりました。

1860年代の戊辰戦争で北の果ての地方特有の貧困、無力感、血まみれの敗北を経験した東北の思想家たちは、草の根の議論を巻き起こしました。

女性天皇が帝位に就くことの可否、報道の自由、そして東北地方のような『僻地』が他の日本社会の中でどのような位置を忌めるべきか、議論されたことの多くは今日でも充分に議題になり得るものばかりです。

このような東北の民主化運動のなかで、当時起草された憲法が今日注目されています。

これは1881年に宮城県の千葉卓三郎が考案した憲法草案「日本帝国憲法」、通称『五日市憲法』と呼ばれるものです。

この草案は人権に関わる項目に条文の半分以上が割かれており、実際に制定公布された大日本帝国憲法と比べて著しく人権に重きを置いたものになっています。

千葉卓三郎自身は31歳で死亡し、この憲法草案は90年後の今日再び脚光を浴びるまで誰にも顧みられることはありませんでした。

今日の東北地方や日本という国が本当の意味で前に進に進むために必要なのは、千葉卓三郎のような改革者なのです。

 

https://www.theguardian.com/books/2017/aug/16/ghosts-of-tsunami-japan-disaster-richard-lloyd-parry-review

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【星の金貨プロジェクト】を始めたのは、東日本大震災・福島第一原子力発電所事故後の被災地の本当の姿を、日本の政治権力の意向を『そんたく』しない海外メディアの目を通してできるだけ多くの人々に伝えたい、と思ったのがきっかけでした。

その意味でこの記事は非常に重要な価値があり、それ以上にこの後篇の後半部分は、日本の民主主義にとってとても大切なメッセージを含んでいると思います。

【『3.11の被災地をさまよう死者たちの霊と忍び寄る前時代の亡霊』リチャード・ロイド・パリー著 】《前篇》

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所要時間 約 6分

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東日本大震災によって破壊されたコミュニティーへの温かい目線の先にあったもの

不満をもらすことなく秩序正しく東日本大震災の復興に立ち上がった東北の人々、その「負の側面」とは…

 

堀田えり / ガーディアン  2017年8月16日

日本の東北地方は、厳しい気候、そして東京と大阪結ぶ日本の中心地から遠く離れていることもあり、長い間典型的な田舎だとみなされてきました。

そうした見方に加え、東北地方の人びとには固定観念とも言うべき評価が常につきまとっています、いわく口数が少なく、頑固で、幾分謎めいています。

弱音を吐こうとはせず、口元を引き締めて自らの気持ちを奮い立たせ、たとえ希望が見えていなくとも黙々と働き続けていました。

こうしたまさに東北人気質とも言うべき、そして称賛されるべき姿は、東日本大震災が発生、マグニチュード9.0の巨大地震に続いて津波が発生し、福島第一原発で原子炉が破壊される事故が発生した直後の東北地方のいたるところで見ることができました。

 

現地の被災地から報道したジャーナリストたちは、東北地方の人々の苦境の中から懸命に立ち上がろうとする姿を称賛し、生き残った人々の秩序正しい行動に感銘を受けました。

その中にはほとんど何もかもを失ってしまった人々もいたのです。

彼らは緊急避難場所の中でも不満を言うことなく組織立った行動をし、列を乱さずに食糧を受け取り、進んで病気やけがで苦しんでいる人々の世話をしていました。

被災地を訪れた人々は、東北が災害に見事に立ち向かっている事を痛感しました。


しかしリチャード・ロイド・パリーの著作を読むと、東北地方とその場所の人々に関するこれまで世界に伝えられた話が、真実の半分も伝えていないという事を教えてくれます。

もっと厳しい現実が災害後の人びとの暮らしの表面の、もっと下に隠されていたのです。

 

東京在住の英紙タイムズのジャーナリストであるロイド・パリー氏は、被災地で何が起きているのかを理解するために東北地方を何度も訪れました。

そして津波によって破壊されたコミュニティに対する感想は思いやりに満ちた、そして心を痛めずにはいられないものになりました。

津波によってその日のうちに命を落としたのは犠牲者のうちの99%、18,500人に上り、一度の災害でこれ程の数の人が死亡したのは長崎への原爆投下以来のことでした。

 

この著作の中で取材を受けた1人の女性は、震災以降変わったのはライフスタイルではないと振り返りました。

「それはみんなの心の中です。あの日以来、誰もが何かしっくりこないものを感じているのです。」
ロイド・パリーはこうしたひとりひとりの心の中の様子を確かめようとし、その何層もの奥深い場所にある深い悲しみが「何かしっくりこないもの」ではないことに気が付きました。

彼は「一人一人の悲しみの内容は異なっており、それはどのようにして大切な人の命が失われてしまったのか小さな微妙な違いに拠っている。」という事に気がつきました。

そしてさらに遺体がいつの時点で回収され埋葬されたのかということにも影響され、結果が違っていました。

そして大切な人の遺体が見つからず行方不明のままというケースでは、残された家族を始めとする多くの人びとが霊能者の助けが必要だと考えたのです。

東北太平洋側の被災地には多くの犠牲者たちの霊がさまよい、その目撃情報はいくつも報告されています。

これは津波によって実に多くの人々が現世との決別について心の準備も何もできないうちに、避けられない形で死を迎えてしまったという事実を、ある意味言い表すものです。

 

死者たちの霊に関する目撃情報は、ほぼ似た内容のものです。

死んだはずの女性が仮設住宅で暮らしていた古くからの友人を訪問し、一緒にお茶を飲んでいなくなりましたが、彼女が座っていたと思われるクッションは濡れていました。

ひとりのタクシー運転手は男性客をのせたところ、津波によってもはや消滅してしまった住所まで行くように言われました。しかしその場所に向かう途中、後部座席に乗っていたはずの男性の姿は消えてしまいました。

この際こうした超常現象を信ずべきかどうかという点は脇に置いておきます。

多くの津波の犠牲者の霊を弔うため教を詠んだ仏教の僧侶によれば、大切なことは多くの人々が死者の霊を間違いなく目撃したと信じている点です。

津波の被災地の『死者たちの霊の問題』の拡大とともに、ひとつひとつの目撃情報を整理記録する大学の研究者が現れ、キリスト教の司祭、神道の宮司、仏教僧などが、極端な例では生きている人に憑りついてしまう『不幸な死者たちの霊を弔うため』に繰り返し奔走するようになったのです。

〈後篇に続く〉

https://www.theguardian.com/books/2017/aug/16/ghosts-of-tsunami-japan-disaster-richard-lloyd-parry-review

 

【 21世紀社会が抱える深刻な課題 : ノーム・チョムスキー 】《4》

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所要時間 約 11分

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紛争地帯の一方の勢力に大量の武器『援助』を行うアメリカ、大規模な人道的危機が発生

「アメリカは世界中の暴力の最大の後援者」

国際紛争の場で次々に発生する残虐行為、そこに見え隠れしているある大国の影

 

デモクラシー・ナウ 2017年5月29日

 

イランにも北朝鮮同様、核開発疑惑が持ち上がっています。

マティスのような米国大統領に近い立場の高官たちは、イランはテロリストの最大のスポンサーであり、そのことが平和への最大の脅威であり続けていると語っています。

ではテロリストのスポンサーとはどういう意味でしょうか?検討してみましょう。

 

たとえば、イエメンではイエメンの反政府勢力である部族、フーシ族にイラン政府が援助を提供していると主張しています。

いいです、そういうことにしておきましょう。

では米国はイエメンで何をしていますか?

サウジアラビアと同盟する勢力にとてつもない量の武器援助を行っています。

供与された武器によって国土が破壊され、大規模な人道的危機が引き起こされ、膨大な数の人々が殺され、飢餓による大量の死亡者が出ています。

そしてさらにサウジアラビアの同盟勢力は、生き残った人々にとって援助を受けるために必要な場所としてたったひとつ残された港湾設備を爆破・破壊すると脅迫しているのです。

しかしテロの主な原因はイランが作り出している、それがアメリカの主張なのです。

エイミー・グッドマン:

私は数週間前の4月4日にも、チョムスキー教授にデモクラシー・ナウ!の番組の中でインタビューを行いました。

その日はちょうどキング牧師が『ベトナムを乗り越えよう』とう演説を行った日から50周年を迎えた日でした。彼はベトナム戦争に反対する理由として「アメリカが世界中の暴力の最大の後援者」になっているからだと語りました。

 

そしてその時私は北朝とイランの問題から、話題をシリアに転じようとしました。

しかしその日はシリアでガス攻撃が行なわれた日で、問題の本質については突っ込んだ議論ができませんでした。

私はチョムスキー教授がシリアの状況についてどうお考えなのか、一度詳しくお伺いしたいと考えていました。

そしてその後、シリアの問題についてはトランプ大統領は中国の習近平主席と完全に利害が一致したと語りました。

そしてトランプ大統領はアメリカがイラクへ向けたトマホークミサイルの発射に成功したと語りましたったのです。

そして、彼はインタビュアーによって誤りを指摘されることになりました。

その話は本当ですか?

ノーム・チョムスキー:

イスラム圏の情報は実に混沌としています。

しかしいくつか私たちが確実に把握していることがあります。

まずシリア国内で深刻な化学兵器攻撃が行われたとすることについて、誰もそれを疑うことはありません

状況証拠を積み上げていくと実行したのはシリア政府だったということになりますが、いくつかの疑問があります。

戦争に勝利するのがもはや間違いないというタイミングで、なぜアサド政権は敢えて化学兵器を使用したのかという疑問です。

 

この時点でアサド政権にとっての最悪の展開は、反政府勢力が間近に迫った勝利の土台を壊してしまう事でした。

その点を考えるといくつかの疑問が生じてきます。

確かにアサド政権は人を殺すことを何とも思わない残忍な体制であり、化学兵器攻撃を行うことについての動機など数え上げたらいくつでも理由があるかもしれません。

しかし、実質的に政権を支えているロシアがなぜ化学兵器攻撃を許したのか?という疑問も湧き上がってきます。

覚えておいて欲しいことがあるのですが、それはシリア政府の空軍基地は同時にロシア軍の基地でもあるという事実です。

ロシアはシリアで大きな影響力を持っています。

そしてロシア軍にとって化学兵器の使用は最終的に何のメリットも無い災厄でしかありません。

化学兵器の使用ということになると、問題はシリアに留まることなく、全世界的な問題に発展する可能性があり、ロシアにとっては何のメリットも無い選択なのです。

 

さらなる懸念があります。

ホワイトハウスは化学兵使用がシリア政府によるものであることが絶対に間違いないと確信するに至った理由を説明するために、諜報報告を提示し、アメリカ軍の行動を正当化しようとしました。

これに対し非常に誠実で信頼できるアナリストであり、マサチューセッツ工科大学の教授であり、きわめて信頼性の高い分析を長期に渡り行ってきた実績を持つテオドール・ポストル教授がこの報告書を詳細に検討しました。

ポストル教授は高く評価されている戦略アナリストであり、そして諜報活動アナリストでもあります。そしてポストル教授はホワイトハウスの報告書を、徹底的に批判しました。

この報告書はオンラインでも見ることができます。

トランプ政権下のホワイトハウスの報告書には確実にいくつかの疑問があるのです。

シリアのアサド政権が化学兵器の使用という人道上許されない行為をしかねないという点は間違いありません。

しかしここに一つの疑問が生じます。

現実の世界で何か行動を起こす前に、その結果を正確に予測することは可能でしょうか?

実際に起きたことを正確に検証してみましょう。

何かの事件が起きる可能性がある場所というのは実にたくさんありますが、それが現実になった場所は遥かに少ないはずです。

 

そして混乱の極にあるシリア国内から正確な情報を発信することは極めて難しいという事を、頭に入れておいてください。

反政府側の勢力圏に入りこみ、もしそこで彼らの発表内容をそのまま発信しないと、あなたの首は切り落とされてしまう可能性があります。

パトリック・クックバーンなど著名なジャーナリストたちが、こうした状況が存在することを伝えています。

そうした場所から客観的で正確な報道を行うことは不可能です。

そして今度は政府が支配する場所から正確な情報発信ができるのか、という事も明白な問題です。

真剣で勇敢な仕事をしている非常に優秀な記者たちもいますが、普通の人間にとっては簡単にできることではありません。

そのため、シリアについては我々は正確な状況を詳細に把握しているとは言えないのです。

 

これが59発のトマホーク・ミサイルが発射された状況なのです。

ミサイルの発射自体はかなり簡単なことです。

ワシントンにある指令室の椅子に腰かけ、ボタンを押して「さあ、やつを殺せ!」という行為自体は簡単です。

それは賞賛されるべき勇気であり、たくましさを象徴する、つまりはアメリカという国がどれほど強いかということを思い知らせるものなのです。

 

さてアメリカは実際に何をしたのでしょうか?

見た目で判断する限りトマホーク・ミサイルが攻撃したのは、飛行場の中の使われていないと思われる部分を破壊しました。

そして現実に、翌日にはこの飛行場から航空機が離陸していました。

さらなる現実は化学兵器の攻撃を受けたとされる地区は、59基のトマホーク・ミサイルによる攻撃の後、今度はアサド政権が直接行った爆撃によってなお一層激しく攻撃されてしまいました。

ですからアメリカ政府が何を企図していたにせよ、結果的にアサド政権には何の影響も無かったというしかありません。

つまるところアメリカ政府がやったのは、ニッキ・ヘイリー米国国連大使がいつもやっているトランプ新大統領のイメージアップ宣伝だと私は考えています。

「町に新しい保安官がやってきた!」

今や英雄ワイアット・アープがいつでも拳銃を抜いて、悪者どもをやっつけてくれる。もう四の五の言わせないぞ!という訳です。

強い大統領ドナルド・トランプ、そうしたはったりに過ぎなかったのではないでしょうか?

 

《5》へ続く

https://www.democracynow.org/2017/5/29/noam_chomsky_in_conversation_with_amy

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北朝鮮の核実験とミサイル開発に関する報道は国際的にも数が多く、日本においてはニュース番組などでは放送中に必ず一回は取り上げられる、という忙しさです。

NHKを始めとする国内報道では、前提条件としてアメリカの立ち位置を正義とする見解が不動のもののようですが、果たしてそうだろうか?ということを考えるようになりました。

私たち戦後に育った世代は、第二次世界大戦でナチスドイツと戦うアメリカ軍の映画を数限りなく見せられるうちに、頭のどこかに『アメリカ軍=正義の軍隊』という観念を持つようになりました。

しかし、朝鮮戦争、ベトナム戦争、イラク、アフガニスタン、そしてチリのアジェンデ政権の崩壊への謀略等々の『本当の結末』を見るうちに、現代においては一方が完全な正義だという戦争や紛争があるはずがないという事を強く思うようになりました。

そしてケネディ兄弟の暗殺の背後には、本当は誰がいたのか?

これは特にロバート・ケネディ氏の暗殺の瞬間をとらえた報道に小学生ながらも全身が震えた私にとって、そしてジョン・レノンの暗殺の第一報に思わず叫び声をあげたた私にとって、生涯の課題のひとつです。

海外メディアにも北朝鮮を直接取り上げる記事が無数にありますが、対立しているのは何者かという視点も持っていただきたいという意味で、ノーム・チョムスキー教授の講演の続編を掲載しました。

 

【 21世紀社会が抱える深刻な課題 : ノーム・チョムスキー 】《3》

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所要時間 約 9分

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北朝鮮がこれほど執拗に軍事的挑発を繰り返している理由が、世界的識者により解き明かされる

北朝鮮が狂気に支配されることになった根本原因、それは朝鮮戦争時のアメリカ軍の戦闘日誌に記されていた

『狂気の北朝鮮』を作り出した根本原因のひとつは、徹底的破壊を繰り返したアメリカの軍事作戦

 

デモクラシー・ナウ 2017年5月29日

 

エイミー・グッドマン:

この時点でトランプ氏が大統領に就任して約100日が経過しましたが、外交問題では北朝鮮とイランが大きな関心を集めています。

我々は現在市場最低の支持率の大統領の下でこうした問題に直面している訳ですが、どの大統領であってもこの問題は最優先にせざるを得ないと思われます。

 

そしてトランプ大統領はつい数週間前、アフガニスタンで大規模爆風爆弾兵器、モアブ(MOAB : 2003年に米国で作られた通常兵器爆弾。開発時点において、非核兵器としては史上最大の威力を持つとされた)の投下を命令し、さらには化学兵器を使用したシリアに対しても直接攻撃を行いました。

しかしマクマスター国家安全保障担当顧問はすべての外交問題の中、アメリカ政府が最優先で対処しなければならないのは北朝鮮との間の緊張関係だと語っています。

アメリカが直接北朝鮮を攻撃する可能性はあるのでしょうか?

ノーム・チョムスキー:

私はトランプ政権は次にどんな行動をとるのか、非常に予測しにくい政権だと思っています。トランプ自身、自分が5分後に何をするのか把握できていないと思います。わからないので、もじどおり、ですから、確信をもってトランプ政権の今後を予測することは困難です。

しかしこの問題は非常に判断に迷います。その理由はきわめて明快です。

核兵器による攻撃はもちろん、いかなる種類のものであっても北朝鮮に対する攻撃は、国境に近い韓国最大の都市であるソウルに対する大規模な攻撃を誘発し、駐留するアメリカ軍を含め地上のすべてを吹き飛ばしてしまうでしょう。

 

私は軍事技術の専門家ではないので断定的なことは言えませんが、それを防ぎきるだけの防衛手段は存在しないはずです。

さらに北朝鮮は多くのアメリカ軍兵士が駐留している近隣諸国、特に日本各地のアメリカ軍基地に対しても報復攻撃を行う可能性があります。

韓国も日本もとんでもないことになってしまいます。

同時に北朝鮮も一巻の終わりですが。

みなさんもご存じのように、この地域の危険性は高くなっています。

いずれが攻撃を受けても、すぐに報復攻撃が行なわれる可能性は高く、それらは自動化されている可能性の方が高いと考えるべきです。

アメリカ軍の軍司令官や高官はこうした状況を理解しているはずです。

最終的に彼らがどれだけの影響力を持っているかわからりませんが、武力解決による解決は現実的ではありませんし、また選択すべきでもありません。

 

しかし本当の問題は、根本的にこの問題に対処する方法があるかどうかということです。

多くの提案があり、その中には制裁措置も含まれます。

中国にとって大きな脅威である新しい大規模なミサイル防衛システムは、朝鮮半島を巡る緊張を一層高めるでしょう。

さまざまな種類の軍事的威嚇。

アメリカは北朝鮮に空母カール・ビンソンを派遣しましたが、偶発事故により我々にとって思いもかけない事態に発展する危険性もはらんでいます。

力による解決は、必ずしも私たちが望むような結果を導き出すとは限らないのです。

 

現在、ひとつの提案が無視されて続けています。

この提案については、遠い近いは別としてみなさんも一度は耳にしたことがあるはずです。

それはかなりシンプルな提案ですした。

私たちが成し遂げなければならないのは北朝鮮に核兵器開発プログラム、ミサイルシステムの開発を凍結させることのはずです。

 

提案というのは、北朝鮮が提示するその代償を受け入れることです。

単純な事のように聞こえますね。

実際中国と北朝鮮は弾道ミサイルと核兵器開発の凍結条件を具体的に提示してきたのです。

そしてアメリカはそれを拒否する旨即答したのです。

そして、実は責められるべきはトランプだけではありません。

数年前、当時のオバマ大統領にも同じオファーが提示されました。

そしてオバマ政権は即座にそれを拒否したのです。
なぜでしょうか?

 

その理由は北朝鮮側が交換条件を提示したからです。

交換条件とは、韓国と北朝鮮の事実上の国境38度線からのアメリカ軍の軍事力の撤収です。

今回、トランプ政権は核兵器搭載能力を持つB-52戦略爆撃機を朝鮮半島に派遣しましたが、こうした軍事力の展開に終止符を打つことを求めているのです。

 

さて、アメリカ人はもうほとんど忘れかけているかもしれませんが、北朝鮮は朝鮮戦争の際、アメリカ軍の猛爆撃によって国土を徹底的に破壊された記憶を持っています。

その破壊は最後には爆撃目標が無くなってしまったほど徹底的なものだったのです。

その事実をもし疑うのであれば、アメリカ軍の公式軍事記録の中に3カ月ごとに朝鮮半島を空撮したものが残されていますが、私はそれをぜひ検証してみていただきたいと思います。

これらの写真には当時の様子がそのまま、正確に記録されています。

 

その時点では「もう爆撃目標が残っていません。これからどうしますか?」

結局アメリカは戦術的に必要のないダムの破壊をすることにしました。巨大なダムを。

こうした行為は明らかな戦争犯罪です。

ニュルンベルクでは多くの戦争犯罪人が絞首刑に処されました。

しかしその後も戦争犯罪は続いていたのです。

 

アメリカ軍の戦闘報告書には、ダムの破壊により洪水が発生して谷あいの村落が壊滅し、さらには東アジアの人々が主食にしている収穫前のコメの田んぼを壊滅させた様子が随所に人種差別的なコメントをちりばめながら、生き生きと自画自賛するように記録されています。

あなた自身がその報告書を読み、自分自身として評価することをお勧めします。

北朝鮮はその邪魔はしません。

今日の北朝鮮にいるのはそうした攻撃を生きのびた人々です。

だからこそ核兵器を搭載可能なB-52が周辺を飛び回ったり、威嚇的な軍事訓練に対し北朝鮮が激高するのです。

 

奇妙な人間たちですが、それが彼らの現実なのです。

そして北朝鮮はキム一家による支配体制をアメリカから、かつて経験したアメリカ軍による徹底破壊から守るための『抑止力』として核兵器開発を進めているのです。

北朝鮮の現体制は、あなたの常識の中にある政府という概念と全く異なるものです。

人類史上最悪の政府と呼ぶべきものです。

しかし、北朝鮮政府は現実に存在し続けているのです。

 

《4》へ続く

https://www.democracynow.org/2017/5/29/noam_chomsky_in_conversation_with_amy

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第二次世界大戦(太平洋戦争)当時の日本軍の残虐さを非難する時の韓国人の執拗さには驚く、と中国人の友人から聞いたことがあります。

彼は日本人が参加していないアジア留学生の交流の場で体験したらしいのですが、その激しさは同席していた東南アジア諸国からの留学生も『ひく』ほどのものだったそうです。

その点と朝鮮戦争当時の北朝鮮の『実体験』を重ねてこの記事を読むと、今日の北朝鮮政府のヒステリックな対応の遠因が見えてくるような気がします。

【 21世紀社会が抱える深刻な課題 : ノーム・チョムスキー 】《2》

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北朝鮮がこれほど執拗に軍事的挑発を繰り返している理由が、世界的識者により解き明かされる

人類への貢献を考えることなどカネと時間のムダ!金と権力の追及こそトランプ政治の基本姿勢

何か深刻な問題が明らかになったら、そんな問題は存在しないという法律を作ることが共和党式解決法

 

デモクラシー・ナウ 2017年5月29日

 

ノーム・チョムキー:

昨年2016年11月8日、地球温暖化防止のため約200カ国が参加して行われていた会議は、トランプ新大統領の誕生によって実質的に前に進めなくなってしまいました。

質疑は続いていましたが、会議の課題はまったく変質してしまっていました。

アメリカの離脱が現実味を帯び実質的に意義を失ってしまうかもしれないこの温暖化防止のための取り組みについて、どうすれば救済することができるのか、という事です。

そして実に驚くべきことに、世界の国々は別の国、すなわち中国へ救いを求める方向に向かいだしたのです。

そうです、世界はあの中国に地球温暖化防止のための望みを託そうとしているのです。

一方米国はといえば、人類史上最も危険な組織の支配下に置かれた政府自身の手で、地球温暖化に取り組みを続けてきた3つの政府機関の体制が、今まさに破壊されようとしているのです。

 

その後起きたことをここでいちいち詳しくお話するつもりはありませんが、トランプ政権における閣僚人事はアメリカに富をもたらすか国力を増大させる以外の余計なもの、つまり地球上の人類すべてに貢献するという類いの政府機関についてはすべて破壊する必要があるという信念を持つ人々にポストを与えているように見えます。

そしてトランプ政権の閣僚たちは、そうした破壊活動を秩序正しく(?)進めています。

環境保護局(EPA)の組織は急速に縮小されつつあります。

そしてエネルギー省の中で環境問題に取り組む部門も大幅に縮小され、様々な計画も中止になりました。

さらにこのことは紛れもない事実ですが、こうしたことが行なわれていることに関する情報や資料の公開や投稿を禁止することさえ行なわれているのです。

そしてこうしたことは国家レベルだけで行われているのではないのです。

共和党、呼び方が何であれ、あらゆるレベルでこうしたことを実行しています。

ノースカロライナ州では数年前、主にゲリマンダー(自分たちに都合よく選挙区の線引きを行う事)のおかげで共和党が州議会の支配下にはいりましたが、ある調査が行なわれていました。

この時ノースカロライナ州は、地球温暖化による海面上昇がノースカロライナ州の沿岸地区にどのような影響を及ぼす可能性があるか、その調査研究を行っていました。

 

精密な科学的検証が行なわれた結果、正確に何年後にそうなるかは忘れましたがそれ程長くは無い年数の後、海面が約1メートル上昇し、ノースカロライナ州東部に甚大な被害を及ぼす可能性が明らかになりました。

この事実に対し、共和党が支配する州議会は気候変動に関連する市民運動や議論を禁止する法律を制定することで応じたのです。

驚くべき事ですが、こうした政治のやり方について、著名なコメディアンであり、警抜な発言をすることで有名なスティーブン・コルベールの言葉を引用することにしましょう。

「社会で何か深刻な問題があることが明らかになったら、解決方法はそんな問題は存在しないという法律を作ることである。」

そして実際、アメリカでは至る所でこうした方法が採られているのです。

 

そして問題は気候変動に留まりません、さらに悪い事態が進行中です。

私たち人類は現在、非常に禍々(まがまが)しいものの下で何とか生き延びようとしています。

それは核戦争です。

これはまったく別次元の話です。

この問題についてはオバマ政権も責任を免れることはできませんが、トランプ政権になってその危険は急拡大しています。

 

新たな核兵器開発の脅威については、核兵器が開発されていた初期に、原子工学の科学者たちによってシンプルながらも非常に効率的に核実験の様子をモニタリングできる計測技術が確立されていました。

実現させたのはアメリカの科学雑誌『ブレティン・オブ・ジ・アトミックサイエンティスツ』に参加している科学者たちです。

 

みなさんもすでにご存じだと思いますが、ここに参加しているのは科学者、政治アナリスト、そして社会問題に常に真剣な取り組みを行っている一般市民などであり、現在世界が置かれている状況がどのようなものであるかを明らかにしようとしています。

そして人類はいつ滅亡してしまうのか、という究極の疑問を提示しています。

ここで世界的に注目を集めているのが『終末時計』です。これは地球最後の日まで、残り時間が何分あるかを示すもので、針が深夜零時を指した瞬間、地球が滅亡するとされています。

そして毎年話題になるのが、今年この時計は残り何分を示しているのか?ということです。

 

この時計が考案されたのは1947年、核兵器自体に入ったこの年に終末時計の残り時間は7分間に設定されました。

この時計の針が地球滅亡の瞬間に最も近付いたのは1953年でした。

1953年、米国とロシアはともに水素爆弾の実験を行い成功させましたが、これは人類の生存にとって深刻な脅威です。

 

そして大陸間弾道ミサイルの実験も成功し、当時のソ連はいつでもアメリカに水爆を積んだミサイルを撃ち込むことが可能になり、米国は史上初めて安全保障に対する重大な脅威が存在することを認識せざるを得なくなりました。

この問題の背景にはさらに興味深い話があるのですが、ここでお話している時間はないので、またの機会に取っておきましょう。

とにかく水爆と大陸間弾道ミサイルの誕生により、終末時計が標す人類滅亡までの時間は残り2分にな

そしてそれ以来、終末時計の針は行ったり来たりを繰り返しているのです。

 

たしか2014年だったと思いますが、アナリストたちは自分たち鳴らす警鐘が無視されるという、初めての経験をしました。

彼らは核時代の始まりが地政学上の新たな時代の幕開け、いわゆるアンスロポシーン(人新世 / 人間が地球の生態系や気候に大きな影響を及ぼすようになった、18世紀後半の産業革命以降の時期を指す言葉。そのはるか前、農業の起こった時代以降を指す場合もある。/【語源】ノーベル賞を受けた大気化学者Paul Crutzenの2000年の造語。anthropo(人間)+ cene(新しい)- アルク http://eow.alc.co.jp/ より)の始まりと時を同じくするという概念を提唱しました。

この人間の活動が地球全体の環境に大きく影響しているということについては、若干の議論があります。

さらにはそれがいつ始まったのかという議論もあります。

 

しかし世界地質学連盟(World Geological Organization)はつい最近、核兵器時代とアンスロポシーン(人新世)はほぼ同じ時期に始まったと結論づけました。

ですから私たちは、人類の生存に対して重大な脅威が二重に存在する時代に生きていることになります。もちろん絶滅させられるのは私たち人間だけではなく、この地球上のほとんどの生命が人間の活動によって非常に深刻な脅威にさらされているのです。

私の記憶では2014年だったはずですが『ブレティン・オブ・ジ・アトミックサイエンティスツ』の人びとはこうしたことを考慮に入れ、真夜中まで残り3分の位置まで週末時計の針を動かしたのです。

 

《3》へ続く

https://www.democracynow.org/2017/5/29/noam_chomsky_in_conversation_with_amy

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「北朝鮮がこれほど執拗に軍事的挑発を繰り返している理由が、世界的識者により解き明かされる」

その理由については次回の《3》で明らかにされます。

現状、狂気に支配される体制を作りだした根本原因が、朝鮮戦争当時のアメリカ軍の戦闘日誌に記されているというチョムスキー氏の卓抜な指摘が行なわれています。

【 21世紀社会が抱える深刻な課題 : ノーム・チョムスキー 】《1》

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人類にとって世界史上最も危険な組織、それが現在の米国共和党

人類史上最強の自由世界のリーダーは、地球環境保護の取り組みを積極的に弱体化させる方向に向かう

 

デモクラシー・ナウ 2017年5月29日

 

反体制の立場に立つ政治学者、言語学者、著作家として世界的に有名なノーム・チョムスキー氏はマサチューセッツ工科大学の名誉教授であり、同校ですでに50年以上教鞭をとり続けてきました。

最新の著作は『アメリカン・ドリームへのレクイエム:富と権力の10原則』です。
今回、『デモクラシー・ナウ!』は特別版としてノーム・チョムスキー氏への1時間にわたるインタビューを行いました。

私たちが4月に行った公開討論では、気候変動、核兵器、北朝鮮、イラン、シリアの内戦、ウィキリークス創設者であるジュリアン・アサンジ氏に対する告発が意味する民主主義への脅威、そしてチョムスキー氏の新しい著作は『アメリカン・ドリームへのレクイエム:富と権力の10原則』などについて話し合いました。
マサチューセッツ州ケンブリッジにあるファースト教区教会に、数百の人々がこの公開討論に参加し、会場は超満員になりました。

 

エイミー・グッドマン:あなたはアメリカの共和党が世界史上人類にとって最も危険な組織だと発言されましたが、その主旨についてお聞きしたいと思います。ご説明をお願いできますか?

ノーム・チョムキー:私はこの発言についてはかつてない程斬新なものだとも言いました。でも皆さんはそれが真実かどうかということが気がかりだと思います。

私が言いたかったのは、人類史上、人間の手により作られた本来なら人間社会に貢献するためだったはずの組織が、人々のコミュニティに対するこれ程の破壊者になり得るものなのか?という事でした。米国共和党、いまや私はこれを政党と呼ぶことについてすらためらいがありますが、史上最大の人類の敵になりつつあるということが疑いようのない現実になっているのです。

共和党の最新のキャンペーンを見てみましょう。

 

カネのかかった派手な宣伝を行っていますが、中身というほどの重要な事実に対する意見が述べられている訳ではありません。

共和党の選挙候補者に共通していることは、今起きている現実を認めようとはいない、あるいは事態が深刻なものであっても曖昧にぼかしてしまうか、そのどちらかです。

例として深刻な環境破壊が起きている現実について、ジョー・ブッシュ氏のどのような発言を行っているか検証してみましょう。彼はこう語っています。

「たしかにそうした現実があるのかもしれません。しかし私たち全員が事態を完全に把握している訳ではありません。大丈夫です、(シェールガス採掘のための)地中破砕工法はちゃんと機能しています。だから私たちはもっとシェールガスを採掘してかまわないのです。」

 

その発言が行なわれた同じ部屋に、『大人の対応をする』といわれている人間がいました、名前はジョン・ケイシック。

「その通り、確かに地球温暖化が進行中ですが、私たちにとってはたいした問題じゃない。」

彼はオハイオ州の知事です。

「オハイオ州では、これからも火力発電を続けるつもりだし、そのことに関して謝罪するつもりもありません。」

彼は地球と人類に対して災厄をもたらそうとすることについて何とも思わない、100%の確信犯です。

 

そしてその後、何が起きたでしょうか。

まずは 11月8日アメリカ大統領選挙が行なわれ、ドナルド・トランプが大統領になりました。

この時、私自身が非常に重要だと考えている会議が北アフリカのモロッコの首都マラケシュで開催されました。

約200の国連加盟国が参加したこの会議は、先の2015年2015年12月にパリで開かれた地球温暖化防止のための会議で合意したいくつかの事項について、その実現を図ることを目的としたものでした。

パリ協定は地球温暖化を食い止めるため実効性の高い条約へ発展することが期待されていましたが、人類史上人間にとって最も危険な組織のため、実現が不可能になりました。

共和党が支配するアメリカ議会は地球規模での環境保護に関するいかなる国際協定も受け入れるつもりはないでしょう。

そのために世界の国々は協定の文言をその手に持ちながら、それが実現される保証を得ることはできないのです。

 

昨年2016年11月8日、とにかくこの時点で世界は環境保護への取り組みを前進させようとしていたのです。

11月8日、世界気象機関は一通の報告書を公表しました。

これの報告書は地球環境の現状と将来の起こりうる事実についての非常に悲観的な分析結果を明らかにしたものであり、地球は危機的状況に近づいていると指摘するものでした。

パリ交渉の目標はまさにこうした状況に立ち至る前に、何とか危機的状況をぎりぎりで回避し、この報告書やその他予測されている環境破壊を未然に食い止めようとするものでした。

しかしその日会議に参加していた人々は皆、一様に議場で凍りつくことになりました。

新しいアメリカ大統領が誰になったのか、その第一報が飛び込んできたからです。

 

その結果、人類史上で最も強力な国家であり、現在最も富める、最も強力な、最も影響力のある自由世界のリーダー、アメリカ合衆国は持てる力を地球環境保護の取り組みを支持しないだけでなく、その取り組みを積極的に弱体化させる方向に向かうことを決定したのです。

世界には環境問題の解決のために多くの取り組みを行っている国々があります。地球規模での成果を上げているとは言えないかもしれませんが、文字通り国家として相当な取り組みを行っているデンマークのような国々が一方にはあります。そしてそれとは正反対の位置にあるのが、世界から孤立したまま、人類史上最も危険な組織が率いる国家、アメリカ合衆国です。

 

アメリカはこう言っているのです。

「我々は温暖化を防止するための国際的な取り組みに参加するつもりはない。現実にはその取り組みを弱体化させる方向に向かっている。」

「我々はこれからも化石燃料をどんどん使い続ける。その結果、環境破壊は危機的状況へと落ち込む転換点を突き破ってしまう可能性がある。それでも我々はパリ協定の順守に向け気候変動の問題について取り組みを行なおうとする開発途上国に、そのための資金を提供するつもりはない。我々は地球環境に壊滅的な影響を与えかねない二酸化炭素、そしてメタンやその他危険性の高いガスの排出制限など、要らざる規制を破壊していく。」

 

《2》へ続く

https://www.democracynow.org/2017/5/29/noam_chomsky_in_conversation_with_amy

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この稿を訳して自然に頭に浮かんだのは、「ならば戦後日本にとって史上最も危険な組織、それが現在の安部自民党」という事でした。

【 良識を問われるトランプ、見識を疑われている安倍首相 】

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トランプ大統領のご機嫌を取り結ぼうとする態度があからさまな安部首相

トランプ大統領にひたすら媚びを売り続ける安部首相、その腹の内は

北朝鮮に対し、常軌を逸するほど熱心に取り組むアメリカの大統領、しかし日本と韓国の安全は二の次

 

ジョナサン・ソブル / ニューヨークタイムズ 2017年8月11日

 

日本の安部首相ほどあからさまにドナルド・トランプ大統領のご機嫌を取り結ぼうとする首相や大統領は、国際社会にはほとんど見当たりません。

安部首相はトランプ大統領が昨年11月の大統領選挙で勝利して以来、ニューヨークのトランプタワーやフロリダ州のリゾートであるマーラ・ラゴにある別荘に喜び勇んで駆けつけました。

2人は2月に行ったゴルフで新密度を深め、他の食事客から丸見えの場所で北朝鮮が発射したミサイルへの対処法を協議しました。

 

ミサイルを発射した当人の北朝鮮の指導者キム・ジョンウンとトランプとの間の核兵器開発を巡る激しい応酬がどんどん過激さを増していく中、この安部首相とトランプ大統領の『緊密な関係』の意義が問われることになりそうです。

加速する北朝鮮の軍事技術の進歩とトランプの地上最強の国家の大統領とは思えない程激しい反応は、日米の緊密な同盟関係の在り方と安倍首相の政治生命のこれからを複雑にする可能性があります。

アナリストの分析によれば、安部首相がトランプ大統領に媚びるようにして付き従っているのには二つの理由があります。

ひとつはトランプがこれまで大統領執務室の中で繰り返し問題にしてきた対日貿易不均衡問題について、その攻撃の矛先を鈍らせること、そしてもうひとつが日本の防衛問題に大統領自身が関わり続けることを確実なものにすることです。

 

大統領選挙期間中、トランプは国際社会におけるアメリカの軍事負担を軽減する政策を提案しましたが、これは同盟国である日本の防衛力の弱体化、さらには孤立化を招く恐れがありました。

しかし実際に安倍首相が直面しているのはまったく逆の問題になりました。

すなわち、日米の共通の敵・北朝鮮に対し常軌を逸するほど熱心に取り組むアメリカの大統領の姿です。

ニューヨークに本拠を置く政治的問題のコンサルタントであるテネオ・インテリジェンスの日本アナリスト、トビアス・ハリス氏は

「現状はむしろアメリカの側が事態を一層エスカレートさせるための導火線に火をつけてまわっている様なものですが、安部首相はアメリカに対し冷静な対応を求めるような行動はとっていません。このまま何もしないのであれば、日本国内で安倍首相に対する批判が巻き起こることは、簡単に予想できることです。」
ハリス氏によればトランプ大統領が行なっているような瀬戸際外交を望む日本人などほとんど存在しません。

硬な保守派である安倍氏はこれまでずっと北朝鮮に対する厳しい制裁を提言し続けてきました。

そして北朝鮮からの脅威が高まっていることを強く主張し、日本国憲法に基づく制約を様々な方法を使って取り払い、日本の軍事力の強化を推進してきたのです。

こうした背景もあり、現在進行している北朝鮮とアメリカの対立の激化は、まさに安倍首相の思うつぼだという見方が支配的でした。

8月10日、北朝鮮は太平洋のアメリカ空軍が重要な拠点を構えるグアム島周辺の海域に、中距離弾道ミサイルを撃ち込む計画を検討していると発表しました。

そうなればミサイルは西日本上空を飛行することになり、1998年に北朝鮮のミサイルが北日本上空を通過した記憶がよみがえった日本で全国的な騒動を引き起こしました。
「我が国は一度決意を固めれば、数秒のうちに日本列島を灰にする能力をすでにこの手にしている。」

北朝鮮はグアム周辺にミサイルを撃ち込む可能性を明らかにした同じ声明の中で、朝鮮民主主義人民共和国名でこう述べました。

 

日本はすでにミサイル防衛システムを強化してきましたが、北朝鮮による攻撃が現実味を帯びる中、防衛省関係の官僚は報復攻撃あるいは先制攻撃によって北朝鮮の軍事目標を攻撃できる長距離巡航ミサイルのような武器を購入装備するかどうかについての議論が行なわれています。

しかしこうした武器を装備することは日本が何十年にもわたり守ってきた平和主義を覆すことになり、考え方自体論争の的になります。


日本の自衛隊は平和憲法の定めにより直接国土が攻撃を受けた際初めて軍事力を行使できるとされていますが、アメリカ側は敵の基地を直接攻撃する積極的軍事行動を担当することになっています。

いわゆる盾と槍の関係であり、日本が盾、アメリカが槍の役割を担うことになります。

北朝鮮に対する懸念は大きくなり続けていますが、ほとんどの日本人は盾と槍の分業関係に満足しているようです。

もし安倍首相がそうした関係を変えたいと考えているのならば、注意深く歩みを進める必要があります。

 

安倍政権の支持率は数か月に渡って下落を続けてきました。

その一因に挙げられているのが、論議など、自衛隊に対する制約を取り払うため安部政権による軍事優先政策が行き過ぎていると感じる有権者が増えているという事実です。

世論調査によれば、日本国憲法の改定を支持しているのは有権者の約3分の1に過ぎません。

 

国際平和カーネギー基金(Carnegie Endowment for International Peace)」の上級研究員であるジェームス・L・ショフ氏は8月10日掲載された記事の中で次のように述べました

「安倍首相は長い間目標に掲げてきた憲法改定に、残り少ない政治的資産をつぎ込むつもりだろう。」

そして攻撃的な武器を入手するための「大胆な政策の実行」は、「この目標の達成を一層遠のかせることになるだろう」と付け加えました。

来年には自民党総裁選挙を控えていますが、安部首相のライバルのひとりである岸田文夫元外務大臣は、国民は日本の郡制度の変更はもつと慎重に進めるべきだと考えていると判断しているものと見られます。
「政治家としての哲学を一言で表現すれば、安倍首相は保守派です。一部には強硬なタカ派だと評する人もいます。」

岸田氏は、テレビの討論番組でこう語り、次のようにつけ加えました。

「私自身はリベラルな平和主義者です」

北朝鮮に対する敵対的発言を繰り返すトランプ氏の態度は、安倍氏にとっては頭の痛い問題です。

 

トランプはキム・ジョンウン率いる北朝鮮政府に対する戦争表現をさらに過激にし、ついこの前用いた『炎と怒り』という威嚇ではとても足りないと語りました。

こうした過激な発言は、日本国内においては北朝鮮との軍事的対立に伴うリスクを痛感させることになりました。

北朝鮮が開発している弾道ミサイルはアメリカ大陸に到達可能だと専門家が指摘していますが、近隣諸国はそのミサイルの目標が自分たちの国にならないよう我慢を続けています。

そのため北朝鮮に対する軍事行動を行う事への支持は日本、韓国の両国ともに低く、トランプの過激な発言は現実の解決にほとんど役には立ちません。

 

拓殖大学世界研究所の竹田秀史教授は、

「現在のアメリカ政府が日本と韓国の安全保障について本当に真剣に考えているのかどうか、むしろその事に対する懸念が高まっている。」

と語りました。

 

https://www.nytimes.com/Trump’s Tough Talk on North Korea Puts Japan’s Leader in Delicate Spot

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対米追従という言葉がありますが、この記事を読むと同盟国として冷静な対応を促す、助言をするという対等な立場を、安部首相その人が捨ててかかっていることが解ります。

そして安部首相がトランプに賭けの代償として差し出しているのは例によって、自分の命や財産ではなく一般国民の命や財産だという事です。

 

その先に、巨額の軍事予算に苦しむアメリカ政府に代わり、日本が巨額の予算を要する軍事負担を引き受けるという最終目的があるように感じます。

そのためにトランプが挑発的言動を繰り返して北朝鮮を硬化させ、その反応を世界中に見せつけ、

「ほら、こいつらはこんなに危険な連中なのだ。だからしっかり我々も軍事能力を高くする必要があるのだ。」

というやり方で、日本に多額の軍事負担を押し付ける。

 

今回の騒ぎで得をするのは3人だけ、海外のアメリカ軍の負担を減らすという公約を守れるトランプ、北朝鮮国内の団結を強化できるキム・ジョンウン、そして日本の軍事力増大を信条に掲げる安部首相です。

 

21世紀社会の国際紛争を軍事力で解決できるのか?という議論など、一切ありません。

 

 

【 アメリカと北朝鮮は戦争を始めるのか? 】《後編》

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各国の専門家が読み解く『緊迫する朝鮮半島情勢』今後の展開・冷静な分析
朝鮮戦争の休戦状態を終わらせて平和条約を締結するため、米国側に何度も和平交渉を提案した北朝鮮

「俺は最強国家アメリカの大統領だ」とトランプが虚勢を張れば張る程、北朝鮮国内の団結が強まる結果になる

 

ベンジャミン・ハース(香港)ジャスティン・マッカリー(東京)トム・フィリップス(北京)バーニー・メルキン(シドニー)/ ガーディアン  2017年8月9日

▽ ロバート・ケリー 釜山国立大学准教授

 

トランプ大統領の発言については、2通りの解釈方法があります。
楽観的な解釈をしたいですか?
そしてあなたはトランプの支持者ですか?
トランプは自分の意図を隠そうとしていますが、トランプはアメリカはこれ以上戦略的な意図から忍耐を続けるつもりはないという意思を中国政府に伝え、圧力をかけることです。

それほど楽観的ではなく、おそらくこちらの方がより正確でしょうが、トランプは自分が強大な権力を持つアメリカ大統領だということを誇示したいのです。

北朝鮮とアメリカ、そのどちらにも戦略と呼べるほどのものはあるのでしょうか?
それはまるで子供たちの遊び場で見かける、いつも弱いものいじめをしている2人の罵り合いのようなものです。

北朝鮮は挑発などせず、ある日突然アメリカの主要な基地や国土を一方的に攻撃するつもりはないのでしょうか?
そのやり方なら、米国の報復攻撃を封じ込めることが可能です。
核兵器を自前で開発できる北朝鮮人の頭が悪いはずはありません。
彼らの核兵器は、犯罪ではなく防衛のためのものです。

 

北朝鮮は、かつてカダフィ大佐とサダムフセインに何が起きたのか、心配しているのはその点です。
彼らはアメリカ人が変化を利用して何かを仕掛けてくることを心配しており、核兵器は機に乗じてアメリカが乗り出してくることを防ぐことを保証しています。
これがすべてです。
グアムにミサイル撃ち込むなどというのは、ただのこけ脅しが一つ増えたというだけの話です。

しかし北朝鮮はもう後戻りするつもりはありません。


彼らはミサイル実験を続け、その結果近いうちに核弾頭の小型化を実現することでしょう。
さらにはミサイルが大気圏に再突入する際、破壊されないようにその強度を高める作業が残っています。
それまでの間、北朝鮮とアメリカの激しい応酬が続くことになるでしょう。

 

▽ ジョン・デュルリー(韓国ソウル市延世大学、北朝鮮専門家)

 

米朝関係において私たちは、よもやアメリカ側から予測不能な発言行動や不安材料が飛び出してくることなど予想していませんでした。
だからこそ世界中の人々がこれほど狼狽しているのであり、私たちはアメリカ大統領がこのような口調で相手を罵ることに慣れてはいません。

こうした類の罵り合いや声高な脅迫が、戦争や制裁といった国際的な問題を合理的解決に導いた例などはなく、全く無意味で馬鹿げています。

 

もし解決に向け一歩でも前進させたいのであれば、我々がするべきことは外交的努力です。
アメリカ政府の北朝鮮へのメッセージは次のようなものでなければなりません。
「アメリカ合衆国は北朝鮮が経済的発展を成し遂げ、アジア社会との融和関係を構築し、他の東アジア諸国同様国家としての安定した状態を手するよう望んでいます。それができれば北朝鮮は核兵器の開発と保有を放棄することが可能になるでしょう。」

しかし事態が進展しないことを望んでいる人々もいます。
例えば、核兵器の不拡散に焦点に問題を絞れば、日常的に北朝鮮に打撃を与える政策を実行して弱らせ、孤立させることにより、これから核兵器を作ろうあるいは持とうとする国々にこう自戒させるのです。
「とりあえず我が国が、北朝鮮の二の舞にだけはならないようにしなければならない。」
こうした政策が実在することについては論理的根拠があります。

 

アメリカや韓国からの敵意がこうした形で示されることは、北朝鮮にとっては大歓迎なのです。
北朝鮮は国際社会がうんざりするほどこのやり方を続けるでしょう。
彼らはアメリカ政府との間で日常的に脅し合いをすることにより、国内での立場を安定させるやり方に満足しています。
それは実際に素晴らしい効果があります。
彼らはむしろ危機的状況を望んでおり、アメリカによって包囲されているという点を強調することで国内の引き締めを図ることができるのです。

しかし軍事紛争が発生することはあり得ないことではありません。
バランスを取り続けることは容易ではありません。
私はもっと憂慮すべき点は別にあると考えています。
私は韓国人はこの問題の本質を見極めようとしていないと考えています。
私は韓国政府がこの問題についてあまりにも消極的であると思います。

 

▽ グリフィス大学弾道ミサイル実験専門家 アンドリュー・オニール教授

 

ミサイル実験の結果次第で今後の北朝鮮の姿勢は変化し、多くの問題が影響を受けることになるでしょう。

北朝鮮は今年2017年7月にICBM(大陸間弾道ミサイル)発射実験を2度成功させたことにより、その技術開発が新たな段階に到達したことを世界に印象付けました。

これに2016年に2度の核爆発実験を行ったことを考え合わせると、事態はアメリカやその同盟国にとっては黙って見過ごせないレベルに到達しました。

中国も深刻な懸念を抱くこととなり、北朝鮮に圧力をかけるための追加措置に歩調を合わせざるを得なくなっています。

ここで問題となるのは、

①北朝鮮を思いとどまらせるようには、国連の安全保障理事会の制裁が機能していない

②北朝鮮の大量破壊兵器がある軍事施設に攻撃を仕掛ければ、北東アジア全域で戦争状態に陥る危険性があり、現実的選択肢ではありえない

 

しかしトランプ大統領の「炎と怒り」の発言は、国際社会におけるアメリカの絶対的優位を守るためには軍事力の行使も辞さないとの意思表示を行ったという意味で、ひとつの大きな転換点となる可能性があります。

 

もし北朝鮮がさらに大規模な挑発行為に踏み切ったにもかかわらず、アメリカが有効な対抗措置を採ることができなければ、トランプの大統領としての信頼の失墜へとつながり、焦るあまり直接軍事行動を決断する可能性があります。

歴史的観点から見た場合、米国も北朝鮮も紛争ぼっ発の危険性が高まれば高まる程、それを回避すべく対策を採ろうとしてきました。

しかしドナルド・トランプと金正日(キム・ジョンウン)には、これまでにない問題があります。

それは2人とも、負の連鎖に陥ることを防ぐ抑止力よりも、自分たちの危機管理能力と事態を回避させられる能力の方が上だという根拠のない自身を持ち過ぎているという事です。

金正日(キム・ジョンウン)体制の北朝鮮の国内情勢もまた重要な役割を果たしているということを理解することも重要です。

北朝鮮政府の高官クラスの失脚は頻繁でその後の運命は残忍なものであり、金正日(キム・ジョンウン)自身は自分の基盤の強度はまだ不足していると考え不安を持っていますが、それ以上に心配しているのは中国が後ろ盾になったクーデターの勃発です。

 

北朝鮮にとって歴史的な敵であり、現代においては絶えざる脅威を押し付けてくる敵、すなわちアメリカに対し、毅然と立ち向かう金正日(キム・ジョンウン)という物語は、国内統制の手綱を引き締め、政権、軍隊、北朝鮮労働党に対する彼の支配力を強化するのに役立つことになります。

 

https://www.theguardian.com/world/2017/aug/09/north-korea-v-the-us-how-likely-is-war

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ほんとうの「今」を知りたくて、ニューヨークタイムズ、アメリカCNN、NBC、ガーディアン、ドイツ国際放送などのニュースを1日一本選んで翻訳・掲載しています。 趣味はゴルフ、絵を描くこと、クラシック音楽、Jazz、Rock&Pops、司馬遼太郎と山本周五郎と歴史書など。 @idonochawanという名前でツィートしてます。
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