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福島第一・ロボットが原子炉内の溶解ウラン燃料を最終的に確認《前篇》

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所要時間 約 8分

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人間が近づいたらたちまち死に至る程高いレベルの放射線の存在が、すべてを難しいものにしている

放射線に対し高い耐久性を持つ新型ロボットを投入し、所在と状況が不明の核燃料の特定を急ぐ

 

マーティン・ファクラー / ニューヨークタイムズ 2017年11月19日

その日福島第一原子力発電所内で4人のエンジニアが数台のモニターの前に腰を下ろし、中の1人がゲームコントローラのように見える装置を操作していました。

彼らはこれまでの一カ月間、今まさに行なおうとしていることのために訓練を続けてきました。

福島第一原発内の破壊された原子炉の中心部に一台の小型ロボットを送り込み、操作するためです。

 

福島第一原発内の破壊された原子炉内にはこれまでも調査用のロボットが送り込まれてきましたが、あまりにも高い線量の放射線や内部に散らばるがれきによって破損するなどしていずれも操作不能に陥りました。

しかし、ミニ・マンボウと呼ばれる新型は放射線に対する防御能力を高くし、さらに浸水した状態の原子炉建屋内にあるその部分だけ異常に放射線量の高いホットスポットを避けるためのセンサーも備えています。

シューズケースほどの大きさのミニ・マンボウは小型プロペラを装備し、小型ドローンが空中を飛行するのと同じ要領で水中を行き来します。

事故によって破壊された原子炉建屋内を3日間慎重に走査した後、ミニ・マンボウは最終的に最も損傷の激しい原子炉3号機に到達しました。

そして原子炉底面に開いた大きな穴、そしてその下の床に凝固した溶岩のような塊が存在する画像を送信してきました。

これは事故の際に溶融したウラン燃料について初めて撮影された画像になりました。

 

実際に使用される前に、ミニ・マンボウは横須賀でデモンストレーションを行いました。

放射線に対する耐久性の高い機体とセンサーを装備した水中ロボットです。

ミニ・マンボウは以前のロボットが失敗した場所で、残骸のある場所やホット・スポットを巧みに回避しながら、福島第一原発の事故現場で極めて危険な存在であるウラン燃料の所在を明らかにしました。

 

原子炉3号機ではすでに今年7月にも溶解した核燃料の一部と見られる物質の存在を遠隔操作のカメラを使って確認しており、日本政府の関係者は同様の成功を重ねていくことで、チェルノブイリ以降最悪となった原子力発電所事故の転換点になる事を望んでいます。

2011年3月11日に発生した巨大地震と15メートルを超える津波が福島第一原発の重要設備である冷却システムの破壊して福島第一原発の大惨事が発生しましたが、それ以来、溶解した核燃料はどこにどのような形で存在しているのかという問題は、最大の謎の1つとされてきました。

冷却機能を失った原子炉の核燃料は過熱状態に陥り、6基中3基でメルトダウンが発生しました。

ろうそくのろうが溶けるようにして液状化し、鋼鉄製の格納容器を溶かして穴を開けるほど高温化したウラン燃料は、下部のコンクリート製の基礎部分にも浸透して行きました。

 

これまでのところ、後に『フクシマ・フィフティ』として賞賛されることになった福島第一原発の職員たちが海水を原子炉建屋内に注入して再度原子炉の冷却を可能にするまで、核燃料が溶解してどこをどう通りどのような状態になってるのか、誰も状況を把握できずに来ました。

最大の原因はもし人間が近づいたらたちまち死に至る程高いレベルの放射線の存在であり、溶解した核燃料の状況など確認しようがありませんでした。

しかし東京電力の職員たちが事故現場の処理に習熟していくにつれ、行方不明の核燃料を探す余裕も出てきました。

科学者やエンジニアはミニ・マンボウのような放射線耐久型ロボットや、原子炉内部の放射線量の状況を調査するためマンボのような放射線耐性のロボットと、反応炉の内部を見るためにミュオンと呼ばれるエキゾチック空間粒子を使った巨大なX線走査装置も製作しました。

 

日本政府の原子力行政の担当者と原子力発電所を所有する各電力会社は、現場の技術者が溶解した核燃料の所在を特定したことにより国内世論が変わることを望んでいます。

 

福島第一原発の事故により関東北部から東北地方にかけて大量の放射性物質が放出されてすでに6年半が経過しました。

最悪の局面では東京も一時危機的状況に陥るかに見えましたが、現在は福島第一原発が事故直後の混乱を収拾して脅威が去ったことを世間に周知したいと考えています。

すなわち計画的に事故収束・廃炉作業を進めていると…。

東京電力の木元崇宏原子力・立地本部長代理が次のように語りました。

「これまでは、溶解した核燃料がどのような状態でどこにあるのか、正確には分かりませんでした。それが特定できたため、これからはそれを回収する計画に着手することができます。」

 

東京電力は現在、福島第一原発をひとつの巨大な産業事故処理現場と定義したいと強く望んでいます。

約7,000人が毎日作業を続け、新しい汚染水の貯蔵タンクを建設し、敷地内に散乱していた放射性廃棄物を新しい処分場に移し、巨大な水素爆発によって崩壊した原子炉建屋の上に巨大な足場を組み上げました。

敷地内への立ち入りも、1年前は特別性の放射線防護服を着用しなければなりませんでしたが、現在はもっと簡単になりました。

今日では労働者や訪問者は、最も危険な領域を除くすべての領域を街を歩くような格好で移動することが可能です。

東京電力の案内担当者によれば、これは中央部分にあった樹木を伐採し、敷地内をすべて再舗装して汚染を密閉したことにより可能になったと説明しました。

 

[写真下]現在の福島第一原発・1号機原子炉建屋。上部構造は2011年3月の事故の爆発により吹き飛ばされました。

 

《後篇に続く》

https://www.nytimes.com/2017/11/19/science/japan-fukushima-nuclear-meltdown-fuel

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福島第一原発の事故について改めてもっとも許し難いと思うのは、やはり160,000人とも250,000人とも言われる人々のそれまでの暮らしを葬り去った事でしょう。

人間は新たに幸せな暮らしを手に入れればそれですべて良しとするほど単純には出来ていないと思います。

私も年齢を重ねるごとに、自分の祖先がどうだったかという事を考えることが多くなりました。

過去とつながっているという事の価値は、漠然としか理解できないものですが、だからと言ってさほど価値が無いという事でもありません。

 

福島第一原発については物理的な回復に加え、人々の心の再生という事も大切な課題だと思っています。

 

核兵器妄想に取りつかれたトランプ《4》悪夢を再び世界に押しつけるアメリカ大統領

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所要時間 約 7分

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北朝鮮に爆弾を投下することを、トランプ政権はなぜ決まった予定のように話すのでしょうか?

民主主義を理解しようとしない大統領トランプの指を、核兵器発射ボタンから早く引きはがして!

 

レベッカ・ゴードン /ル・モンド・ディプロマティーク 2017年10月31日

これに対し、トランプが起用した民間人のスタッフは褒められたものではありません。

ニッキー・ヘイリー国連大使は9月、CNNの報道番組の中でトランプ政権が

「可能な限りすべての外交的手段を尽くし、まずは北朝鮮に注意を促したい。」と語りました。

しかし、もし外交手段では事態が好転しない場合には

「北朝鮮はマスティス将軍に面倒を見てもらうことになるだろう。」と語りました。

そして放送を聞いている人たちが『面倒を見る』という言葉の意味を取り違えないよう、次のようにダメ押ししました。

「北朝鮮がこれ以上無謀な行動を続けるつもりなら、米国はいかなる手段を使っても国土や同盟国を守らなければならなくなったら、北朝鮮は完全に破壊されることになるだろう。」

 

確かにレックス・ティラーソン国務長官は毅然とした態度で、北朝鮮との対話の窓口を常に開けておく必要性を繰り返し主張し、トランプ得意のツイッターで

「リトル・ロケットマンと交渉しようとして、時間を無駄にしている」と嘲られています。

テイラーソン長官は10月15日、最初の一発を投下するまで外交努力が続くだろうとCNNに説明しました。

 

なぜテイラーソン長官は爆弾を投下することを決まった予定のように話すのでしょうか?

最初の一発を投下するのは誰になるのでしょうか?

彼はアメリカ軍による第一撃について話をしているのでしょうか?

あたかもトランプ政権全体が、外交努力がうまくいかない場合には必然的に戦争もあり得るという選択肢受け入れたように見えます。

それが具体的にどういう事かわかりにくい方は、ブッシュ政権が2003年3月20日にバグダッドに最初の一発と巡航ミサイルが発射される直前まで、イラクの独裁者であるサダム・フセインとの交渉を続けるという口実を掲げていたことを思い出してください。

 

トランプは一方的に命令してものごとを進めたいと考えています。

しかし合衆国憲法の細かな点、法律の定め、そして三権分立という民主主義のルールは、トランプが思っていた以上の障害になっています。

これまで大統領令を濫発して思い通りに進めようとした試みはほとんど失敗しました。

トランプにとっては『三度目の正直』となる、イスラム教徒の入国を禁止する方針は再再度法廷に持ち込まれました。

 

さらにはオバマ大統領の下で整備された医療制度であるオバマケアを無効にし、国家からの補助金拠出を中止させようという最近の取組もすぐには実現しそうにありません。

事実、トランプの方針に対しては、すでに18もの州が無効を求めて法的手続きを行っています。

 

トランプはイライラしています。

なぜ自分は映画スタートレックのジャン・リュック・ピカード指揮官のように、手で合図をするだけで周囲の人間たちにおとなしく言う事を聞かせられないのでしょうか?

なんでも思い通りになるなら、トランプは絶対王政の君主のようなものであり、憲法、法制度、そして議会は何の意味も持たなくなります。

 

 

トランプが望む通りの体制とは絶対君主制に他なりません。

そうなればトランプ一人で核攻撃を命じることができるようになります。

そうなってしまったら、他の問題では成文法や慣習法によってトランプの恣意的な判断が妨げられる可能性は残されますが、ボブ・コーカー上院議員が警告した通り、トランプ一人のせいで世界は『第三次世界大戦への道』を進むことになり、アメリカは1945年8月9日の長崎への原爆都投下以来初めて、核兵器使用に踏み切ることになるでしょう。

「核兵器発射ボタンからトランプの指を引きはがして!」

 

アメリカ議会にもしその気があれば、トランプの狂気を止めるための時間はまだ残されています。

たとえば核兵器の先制攻撃を行うためには、国務長官や国防長官、上下両院の院内総務など指名された人々の全会一致の決議を必要とするとする法案を可決成立させ、大統領の専行を防ぐなど数多くの対策がとれるはずです。

さらに良いことに、アメリカ議会はこれまで長い間放棄されてきた宣戦布告するための憲法上の権利をまだ有しており、カリフォルニアのテッド・リュー下院議員によって1月に提案された簡単な法案を承認すればそのことを再確認することが可能です。

議会調査部によれば、この下院決議案669号法案『2017年核兵器先制使用禁止令』は大統領が核兵器を先制使用することを禁止し、議会の宣戦布告の後、核兵器については議会が承認しなければ使用できないことになっています。

まだ時間があるうちに議会は行動を起こさなければなりません。

一方的に核兵器攻撃を命令する権限をトランプから取り上げれば、北朝鮮政府関係者の不安をひとつ取り除く結果につながるかもしれません。

でもそれ以上に私たちが夜安心して眠りに就くために、是非にも実現しなければならないことのはずなのです。

 

〈 完 〉

https://mondediplo.com/openpage/trump-s-nuclear-dreams

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最も知性に優れた人間が一国の指導者に就くという事は、別に保証されているわけではない。

それはアメリカでも実際私たちが目にしているし、日本に於いてもそうだと思います。

しかしその事に一番責任を持たなければならないのは自分たち自身であり、現実を変えるために何かをしなければなりません。

核兵器妄想に取りつかれたトランプ《3》悪夢を再び世界に押しつけるアメリカ大統領

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所要時間 約 8分

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核兵器使用への日本国民の憂慮に対し、トランプは作った以上使う事も選択肢の一つだと返答していた

これまでさらけ出してきた無分別・無知蒙昧さの一体どれを指して、トランプは『馬鹿』と言われたのか

 

レベッカ・ゴードン /ル・モンド・ディプロマティーク 2017年10月31日

いつでも核兵器の発射ボタンに手をかけるぞという脅しは、広く知られているトランプの『交渉術』のひとつの実例かもしれません。

トランプの交渉術なるものはただ単に攻撃的な手法を合理的な話し合いのように外観を取り繕うため、他が『えっ?』と思うような着手点から交渉プロセスを開始するものです。

 

過去に核兵器の保有への途模索していた可能性のあるイランのような米国の敵性国家であっても、これまでトランプはこうまで破壊的ではありませんでした。

トランプはオバマ大統領が中心になって交渉をまとめ上げたイランとの6カ国協定にずっと反対し続け、度々協定の一方的破棄を口にしてきましたが、実際にはそうはしていません。

イランは協定の内容を順守しているとの国際原子力機関(IAEA)の保証の受け入れを拒否しただけで、判断を議会に委ねるというだけの対応に終りました。

 

トランプが本音では独裁力を発揮したいと考えていることは明らかです。

本来採らなければならない政策をないがしろにしながらそうした衝動を隠し、政権基盤に対する信頼性を手に入れようとしているやり方には驚くべきものがあります。

 

こうしたことは先々に多少の希望が持てるという兆候かもしれませんが、現在のアメリカ大統領の発言の中に世界にとって多少なりとも希望が持てる状況を見出せるかどうかは、占いでもしないと解りません。

残念ながら私たちは、トランプが大統領執務室にいる限り、核兵器使用の可能性の方が高まるだろうという事を懸念しなければなりません。

トランプは核兵器に対して個人的に愛着を持っていることを繰り返し表明してきましたが、実際に使用してしまったらその先に何が待っているのかを真剣に考えている様子はありません。

事実2016年3月、ビル・オライリーがホストを務めるアメリカのFOXニュースの報道番組で、ヨーロッパにおける核兵器の使用を検討することになるかもしれないと語りました。

そしてヨーロッパを『広大な場所』と表現し、そこに明確な目標を定めて核兵器を使用することについて、あたかも理に適った事のように語っていたのです。

そしてさらに同じ月、今度はMSNBCのタウンホールで「私は勝負を降りるつもりはない」と語り、イスラム国(ISIL)の『カリフがいる首都』に対する核兵器攻撃を提案したのです。

少人数であちこちに隠れているゲリラ戦闘員に対する核兵器攻撃?

そんなことは無意味なだけでなく、最悪の結果をもたらすことになるでしょう。

 

NBCニュースのコメンテーターのクリス・マシューズ氏が、トランプが核兵器使用も辞さないという態度を表明していることについて、日本の国民が憂慮しているようだと告げると、彼はこう語りました返答しました。

「じゃなぜ私たちは核兵器を作ってるんだ?我々は使うために核兵器を作ってるんじゃないのか?」

マシューズ氏の質問はドナルド・トランプ以外の別の人間に向けられていたなら、意味のあるものになったかもかもしれません。

レックス・ティラーソン国務長官がトランプを「馬鹿だ」と呼んでいたことが最初に明るみに出た時、トランプがこれまでさらけ出してきた無知蒙昧さの一体どれを指して馬鹿といったのか、私たちは疑問に思っていました。

今はもう誰もが理由を解っています。

2017年7月の国家安全保障ブリーフィングの席上、トランプはアメリカがすでに保有している4,000基の核弾頭を10倍に増やすべきだとの提案を行っていたのです。

 

トランプが最も敬意を払っている顧問は現役の将官あるいは退役した将軍たちですが、ジョン・ケリー参謀総長、ジェームズ・マティス国防長官、H.R.マックマスター国家安全保最高障顧問を含む、リベラル派とは対極にある人物たちです。

まるで軍人の同窓会のような顔ぶれですが、それでもトランプの大統領執務室にあってはまだしも『成熟した』人間に分類されます。

別に確信している訳ではありませんが、気質上彼らの方がアメリカ合衆国のかじ取りに向いているとしても、事実その傾向が見えていますが、顔ぶれを見れば外交問題の解決手段として軍事力の行使が最初のアプローチになる可能性があります。

 

実際にマティス国防長官は、米国やその同盟国に対して北朝鮮が脅威を与えれば「大規模な軍事的報復」行う可能性があると、2017年9月に警告しています。

「私たちは、北朝鮮という国家の全滅を目指しているわけではない。ただし、我々には多くの選択肢がある。」

同様にABCのジョージ・ステファノプーロスに取材を受けた際、マックマスター国家安全保最高障顧問はこう答えました。

「はっきりしていることは、脅威だけでアメリカ軍が実際に行動を起こすことは無い、そうだろう?諸君。」

「脅しだけなら、結果は必然的にそうなる。そうだろう?」

 

そしてマックマスターは特に次の点を強調しました。

「キム・ジョンウンはすでに親族を殺し、北朝鮮国民を冷酷に扱っている。核兵器を使用すれば、『相互確証[確実]破壊 - MAD』という冷戦時代の核兵器戦略がどう機能するのか、そこまで頭が回らないのかもしれない。」

 

奇妙な話ですが、史上名高いもう一人の共産主義者の独裁者であるヨシフ・スターリンは血で血を洗うような党内の粛清を行い、数百万人ものソビエト市民を死に至らしめましたが、核兵器についてはそれを使えばどういう結果を招くか充分理解していたようです。

当たり前の人間にとってこの二人のアジア人を理解することには困難が伴いますが、その中身はまったく異なっているようです。

CNNによれば退役将官であるケリー氏ですら、記者団に次のようにそっと耳打ちしました。

「核兵器を搭載したミサイルをアメリカ本土の目標に到達させるだけの能力は、北朝鮮にはありません。」

「もし彼らがすでにその能力を手に入れており、アメリカにとっての脅威が増しているとすれば、外交がうまくいくことを祈りましょう。」

 

《4》に続く

https://mondediplo.com/openpage/trump-s-nuclear-dreams

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核兵器妄想に取りつかれたトランプ《2》悪夢を再び世界に押しつけるアメリカ大統領

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所要時間 約 9分

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核兵器使用のトランプの基準はあまりにも曖昧で、その決断条件は誰も理解できない

核兵器を用いた戦争が始まる危険性を現実の世界に持ち込んでしまったトランプ

 

レベッカ・ゴードン /ル・モンド・ディプロマティーク 2017年10月31日

実際、「核シェルターに関するモラル」は当時、好んで取り上げられた倫理問題のひとつになりました。この問題の中身は次のようなものでした。

万が一に備えて核シェルターを準備しておいた人々が実際に核攻撃が行なわれ自分たちが助かった場合、準備する事無く攻撃で犠牲になった人々に対し責任はあるのか?

 

ライフ・マガジンは1962年発行の号に巻頭記事で、核攻撃に備え『持てる者』と『持たざる者』に格差が生じないように政府に対し、核シェルターの大量建設を求めました。

フィレンツェ・エルガン夫人によるこの記事の中で、彼女は「私は核シェルターに関するモラルに失望しています。」と述べ、次のように続けました。

「自分の家族を守りたいというのは人間として当然のことですが、私の中の倫理観は隣人をも守るための姿勢をもとめています。」

 

今日でも大学の政治学やビジネス倫理学を学んでいる学生が「核シェルターに関するモラル」の課題を与えられることがありますが、これはもう間違いなく古代史の一項目のようなものであり、やらされている学生たちは困惑気味です。

この課題では限られたスペースと乏しい食料しかない核シェルターの中に、ラテン系の娼婦とその幼い息子という親子、白人男性の生物学者、等々が留まり続けることを許すべきかどうかということを考えなければなりません。

スマートフォンの画面に描き出されるこれらの人物は1950年代に制作された、核戦争に備えるよう求める映画の3人の短いスカートを身に着けた女性たちに比べれば、明らかに多様化しています。

思春期、私は皮肉屋として知られたトム・レーラーの『次は誰?』の全文をほとんどそらんじていました。

『まずは核兵器を手に入れること。それでもう大丈夫、なぜなら私たちは平和を愛しているし、母性の大切さをちゃんと認識しているから…』。

そして核戦争に関わるフィクションも読みました。

『フェイルセーフ』、核戦争の結果地球上の生物が全滅に向かう様子を描いた『渚にて』など、どれもぞっとする内容でしたが、中でも最悪だったのは核戦争と人種差別の二重の恐怖を描いたロバート・ハインラインの『ファーンハム・フリーホールド』でした。

この物語では核爆発によって作者の分身とも言うべき自由主義者の主人公が、異次元世界にあるアメリカに送り込まれます。

そこで主人公が目にするのは、若い白人女性が『珍味』として扱われるほど、黒人と白人の人口割合が逆転している世界でした。

 

そしてこの作家は『異星の客』を発表、この本は直感と物事の深層を理解し『共感』し合う事を説き、後にヒッピーの経典とされ大切にされました。

ハインラインは1960年代の快適な白人社会のモラルを完全否定し、別種の完璧な調和をフィクション化した作家でした。

 

核兵器が持つ瞬時に大量殺戮を行う能力や潜在的脅威、つまり自分の人生の中で核戦争の危険性がどの程度現実味を帯びてくる可能性があるかということについて説明することは難しいことですが、1991年のソビエト連邦崩壊の後に生まれ育った人たちに理解してもらうのはなおさら難しいことです。

例えば夜中サイレンの音にたたき起こされて、すべての人が地球最後の日が訪れたことを知らされるような世界で生きていることを説明することは、とても困難なことです。

当時眠れなくなった私はトランジスタラジオを枕の下に置いて、普段は馬鹿にしていたポップスやロック・ミュージックを専門に流していた放送局にチャンネルを合わせ、当時のトップ40のヒット曲を聞きながら、そんな事態はやってこないと繰り返し自分に言い聞かせていました。

現代から見れば病的としか言いようがないこうした恐怖感は、当時は珍しいものではありませんでした。

核戦争に対する絶えざる恐怖は、この時代に子どもだったすべての世代の背景を形作りました。

私の友人たちの両親の多くはアメリカ合衆国政府の職員として働いていましたが、私と同じ恐怖に脅かされていました。

私たちは電話でおやすみを言い合いましたが、高校のボーイフレンドと私は時々、明日自分たちは生きていられることができるかどうかという疑問を口にすることがありました。

私たちの青春時代は常に死という問題と向かい合い、それは人間という種の絶滅によるものでした。

中には少しおかしくなってしまう人すらいました。

私たちは他に例のない戦時意識の中で暮らしており、そんな中で自分たちの将来について計画することは何の意味も無いように感じていたのです。

 

▽21世紀の私たちの現実

 

ベビーブーマー世代の恐怖は現実のものにはなりませんでした。

しかしドナルド・トランプはその恐怖を復活させただけではなく、2017年に北朝鮮との間で核兵器を用いた戦争が始まる危険性を現実の世界に持ち込みました。

世界の各所で行われている調査や分析の結果は、そうした危険が現実のものになる可能性は低いという事を示唆しています。

トランプは今年8月9日に北朝鮮に対し、もしアメリカを脅迫するようなことを再度行ったら「世界がかつて見たことの業火と怒り」によって国土を焼き払うといった類いの脅しを口にしなくなりました。

あるいは、アメリカ本国や同盟国を北朝鮮の攻撃から防衛しなければならない事態に立ち至った場合には躊躇無く北朝鮮の全土を破壊するという、周囲を唖然とさせた国連での約束も実行してはいません。

どちらの場合についても政治学者のスティーヴン・ブラムス氏が指摘していますが、トランプの言い方では核兵器の使用に踏み切る基準をあまりにも曖昧にしているため、どのような事態になれば一線を超えることになるのか理解できません。

 

2017年10月13日のニューヨークタイムズ紙によると、北朝鮮の政府当局者から次のような情報を入手したと伝えています。(https://www.nytimes.com/2017/10/13/...

「西太平洋におけるアメリカ軍の軍事的領域であるグアム周辺に、北朝鮮が弾道ミサイルを撃ち込む脅威が再燃している。」

現時点でトランプからは何の反応もなく、北朝鮮の脅威が何を意味するものであろうと核兵器を使った報復などは考えられないということだけは言えます。

人類にとって幸いなことに、トランプは当初の過激な発言については後に撤回するか、あるいは別の対応を選択するしか無い状況に置かれているようです。

 

《3》に続く

https://mondediplo.com/openpage/trump-s-nuclear-dreams

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トランプはアメリカ国内で共和党の議員に、北朝鮮は未だアメリカ国内に目標を設定できるだけのミサイル技術を持っていないという前提で、

「戦争になっても、今度は死ぬのはアメリカ人ではなく、朝鮮半島と日本列島の人間たちだ。」

という意味の発言を行ったと一部で伝えられました。

こんなアメリカ大統領はおそらく史上初めてであり、『アメリカ・ファースト』というキャッチフレーズの持つ意味が

「そこまでのものなのか…」

と、絶句せざるを得ません。

 

根底にそんな考えを隠し持つ大統領の国から、

「さあ、やるぞ!」

とばかりに、進んで高額な兵器を大量に買い入れる現政権の姿勢には強烈な違和感を感じます。

核兵器妄想に取りつかれたトランプ《1》

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所要時間 約 9分

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幼稚な頭脳構造を持った無知で無分別な大統領が、世界に再び恐怖の時代をもたらす

終わったはずの悪夢を再び世界の人々に押しつけるアメリカ大統領

 

レベッカ・ゴードン /ル・モンド・ディプロマティーク 2017年10月31日

北朝鮮は今、世界が直面している最も緊急に解決を要する課題かもしれません。

私たちの、幼稚な頭脳構造の無知で無能な大統領は、私たち全員、特にアジアの人々を大災害に一層近づけようとしています。

北朝鮮は米国本土に核弾頭を打ち込むためのミサイルをおそらくはまだ開発していないでしょうが、韓国や日本など近距離の国家に対しては、目標を確実にとらえる能力を有しています。

 

しかし一般市民はこんな状況にどう対処したら良いのでしょうか?

核ミサイルの発射ボタンは私たち一般市民の手の届かない場所に置かれています。

私たち第二次世界大戦後すぐに生まれた世代が『最終ボタン』と呼ぶ装置を操作することになっているのは、ホワイトハウスと呼ばれる場所にいる一握りの人間たちです。

そして今その場所にいるのは、大統領執務室よりは介護施設にいるべき人間たちです。

 

それでもなお、議会で現在棚上げにされたままの軍縮に関する法案も含め、この世界を武器が支配する状況に変えさせないように、ブレーキを踏みこむ時間は残されているかもしれません。

 

一方、第二次世界大戦後に生まれた私たちの多くは現在はもう安全な世界に暮らしていると思っていたのに、過去のものになっていたはずの悪夢を再体験させられることになっています。

▽防御姿勢

 

私はアメリカが広島と長崎に原子爆弾を投下してから7年後に生まれました。

同世代のアメリカ人が皆そうであったように、私も核戦争の影が常にちらつく、もっとはっきり表現すれば核爆弾の恐怖が日常的に存在する世界で成長しました。

この当時、その恐怖は私たちにとって今では考えられない程身近なものだったのです。

 

小学校2年生だった当時、私は学校でみんながきちんと整列させられ、ある訓練を課されていたことを覚えています。

私たちは膝と肘がくっつく程姿勢を低くし、首の後ろを両手で覆い、廊下の頑丈なコンクリートの壁に体をもたせ掛けるよう指示され、みんなおとなしく言われた通りにしていました。

私は家に帰り、その碑にあったことを母に話したところ、母は嘔吐するためにトイレに走って行きました。

母の反応は、自分の娘が学校で勉強や運動ではなく、地球が消滅する日に備えた訓練をさせられていたことに驚き大きなショックを受けたためのものでした。

 

小学校の授業では、当時の米国政府が作った『一般市民』は核戦争にどう備えるべきかという映画を見せられました。

自宅の庭に作った簡易型の核シェルターには、緊急時の食料として少量で良いから缶詰食品を備えておくようにといった類いの内容です。

映画は若く美しい白人の母親らしい女性が、シェルター内の食器棚に缶詰をしまう様子を映し出しながら、ナレーターが缶詰は放射能汚染から食料を守ってくれると説明していました。

しかし少量の缶詰を食べ尽くした後、その後どうやって生きのびることかできるのかについては、説明はありませんでした。
別の映画は、最寄りの地下核シェルターの場所について常々確認しておくようにとか、爆弾が投下された際の防御姿勢について具体的に説明する内容のものでした。

1961年までに私たち家族はニューヨーク州の農村地帯からワシントンに引っ越していました。

私の母親は新しく誕生した平和部隊で仕事をしていました。

ワシントンは私にとって初めての街でしたが、街中至る所に黄色を黒で縁取った核シェルターの表示が掲げられていました。

私が通っていたアリス・ディール中学校は、校舎内で核爆弾に対する避難訓練を行うには生徒数が多すぎました。

代わりに私たちは指示された時間に、私たちはすべて『秘密の』地下核シェルターに見立てた体育館に集合させられました。

校長先生はソビエト連邦が核攻撃を仕掛けてきても、この体育館が生徒全員の命を救ってくれるだろうと真剣そのものの表情で話しました。

でした。

担任の教師が私に怒りの目を向けていましたが、私は校長先生の話に思わず爆笑してしまったことを覚えています。

あの校長先生の話は冗談だったのでしょうか?

 

私たちが暮らしていたのはアメリカの首都ワシントンであり、ソ連が核兵器による攻撃を行う可能性のある政治的目標としてトップにあります。

宗である以上、私たちはソ連が核攻撃を仕掛けてくれば、地上に居れば瞬時に焼き殺され、地下に居て直接の被害を免れても、その後の放射線被ばくによって死ぬしかないという事が解り過ぎるほど解っていました。

私たち家族の中では核シェルターがよく冗談の種にされていました。

家族の誰もが、核戦争が始まってしまったら誰も生き残ることはできないと解っていました。

 

だからこそ私は1960年代初め、母親の友人であるヤモリンスキーという苗字を持つ家庭を訪問した時衝撃を受けたことを覚えています。

ヴァージニア州郊外にあるその家で、私たち子供は外で遊ぶように家から出されました。

私と兄はその家の後ろの森の中に、大きなドーム状の構造物があることに気がつき、新しく友だちになったヤモリンスキー家の兄弟に、

「あれは何?」

と尋ねました。

「ああ、あれは私たち家族のための地下退避豪よ。」

と答えが帰ってきました。

私は唖然としました。

ヤモリンスキー家の人びとはワシントンからほんの数マイルのところに住んでいましたが、彼らは自分たち家族のための地下退避豪を持っていたのです。

彼らは狂っていました。

 

私が知らなかったのは、この家の課長であるアダム・ヤモリンスキーは当時のロバート・マクナマラ国務長官の特別補佐官であり、同長官に格別に気に入られ、アメリカ中の家庭に地下退避豪を作らせるという政策を立案し、国内を混乱に落として入れていた人物だったという事でした。

 

《2》に続く

https://mondediplo.com/openpage/trump-s-nuclear-dreams

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この稿が教えてくれる大切なことは、今生きている私たちがトランプが世界をどちらに向け動かそうとしているのか、厳しい目で監視しなければならないという事ではないでしょうか?

日本の現政権は例によって北朝鮮の脅威を現実以上に強調し、トランプに追随して軍備をもっともっと拡大しなければならないと繰り返し宣伝しています。

それはとりもなおさず、世界が破滅と隣り合わせにいた冷戦時代へと逆行する論理であり、互いの危険が拡大し続ける選択でもあります。

 

わが国ではいつの間にか『専守防衛』という言葉が死語になりつつあります。

日本では大正デモクラシー国家がいつの間にか軍国主義国家に変貌し、ドイツでは当時世界で一番民主主義的と言われていたワイマール共和国がヒトラー率いるナチスの独裁国家に変わってしまい、すさまじい数の国民と周辺国の人びとを殺す時代がやってきた。

その歴史と今と何が違うのか、見つめ続ける必要があります。

世界でただ一カ所、未だに核兵器を突きつけ合う場所

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対中国・対北朝鮮 - 対立・緊張状態を煽り続けることで、日本は自民党一党支配を継続させてきた

安倍政権の存在理由と利害のため、必要不可欠な東アジア地区の『冷戦』構造

 

堀田江理 / アメリカCNNニュース 2017年11月6日

※堀田江理氏はその著作『1941決意なき開戦―現代日本の起源』で2016年アジア・太平洋賞特別賞を受賞しました。

東京大学大学院政策学研究科客員教授。

ここに掲載された評論は堀田氏自身の見解です。

 

米国とロシアの関係が悪化している状況が新たな冷戦へとつながるものであるかどうか、そのすべての議論に対しトランプ大統領が13日に渡り現在行っているアジア5カ国歴訪によって、すでに何ごとかが明らかになっているはずです。

特定の場所において、本当の意味で冷戦は決して終わってはいないのです。

ある意味ではわたしたちがある時点で立ち往生したまま、現在に至っているという表現が適切かもしれません。

最終的にトランプは、11月初旬の東京における安部首相との会談のはるか以前からよく言われているところの、日米の貿易不均衡という手あかのついた議論をむしかえしました。

 

実際、日本側の立場から振り返ってみると、アメリカ大統領選挙運動中に日本をひどく困惑させたのはトランプが日本バッシングを復活させたことでした。

日本バッシングすなわち日本叩きは短い期間ではあったものの、日本が経済大国として世界最大とも言える繁栄を謳歌した1980年代アメリカ中で巻き起こったネガティヴ・キャンペーンでしたが、同時期トランプは取引をまとめ上げる達人という触れ込みでアクの強い大物実業家として頭角を現しつつありました。

選挙期間中、トランプは日米安保条約においてアメリカ側の負担が一方的に大きくなっていると日本を非難し、日米同盟の中身は『不公平な取引だ』と主張しました。

トランプは日本をアメリカの国益を脅かし続ける脅威だと位置づけ、ひと昔もふた昔も前の位置に押し戻そうとしました。

 

2016年の大統領選挙期間中の発言を聞いて、多くの日本人がトランプは時代を間違っているのではないかという疑念を抱かざるを得ませんでした。

日本経済の停滞はすでに数十年に及び、今さらアメリカが脅威と感じなければならない何があるというのでしょうか?

 

しかし今回トランプの歴訪によって誰の目にも明らかになったのは、すでにベルリンの壁が崩壊し、核軍縮も実現し、そしてソビエト連邦が崩壊したにもかかわらず、東アジア地区においては未だに冷戦が終わっていないという事実です。

そして登場人物だけは交代したものの、依然として核抑止力と拮抗する軍事力による均衡という冷戦の概念を、アメリカ大統領も東アジア各国の政治指導者も外交の原則の中心に置いているのです。

 

世界ではっきりとそれとわかる共産主義体制は、この地域にだけ残っています。

言うまでも無く中国と北朝鮮です。

それを考えると、東アジア地区に冷戦構造が残っていることは特に驚くべき事ではないのかもしれません。

東アジアでは西側社会が冷戦に『完全勝利していない』という事実は、今や中国が西側社会の経済構造に密接に組みこまれているため、見過ごされやすいという事なのかもしれません。

深刻な安全保障上の問題がこの地域の経済活動にまで暗い影を落とすような事態に対至って初めて、この地区の不安定さを改めて認識することになります。

金正恩(キム・ジョンウン)の発言や行動が、西側社会の私たち全員と東アジアの自由主義諸国にこの単純な事実を思いださせています。
実際、日本の貿易慣行についてのいくつかの不平不満があらためて取り上げられたことを除けば、現在トランプが抱えている最大の懸念は北朝鮮の脅威であり、その深刻さは他の問題に対する欲求不満を忘れてしまうほどのものです。

これは間違いなく、日本との同盟関係についてトランプの関心が高まり続けていることによるものです。

安部首相は日本の外務省も動員し、歴代アメリカ大統領同様にトランプも日本を東アジア地区の安全保障の要塞と位置付ける日米同盟の重要さを理解するよう、積極的に働きかけました。

 

一方、選挙後に初めてトランプと会談した初めての海外の政治指導者である安倍首相は、週末に埼玉県にあるゴルフ場でともにラウンドする際、大統領に対し忠実にそして喜んで付き従うというメッセージを込めたゴルフ・キャップを贈りました。

そこには『ドナルドと晋三、同盟関係をいっそうグレートにする』と大きな刺繍が施されていました。

これまで日本叩きの先頭に立ってきたようなトランプのような人物であっても、こんな這いつくばるような外交的姿勢を見せられれば、日本びいきに変わるのは当然のことかもしれません。

 

19世紀後半ペリー提督が艦隊を率いてやって来て日本を強制的に開放した後、日本は真珠湾を強襲して艦隊を撃破、その後日本が第二次世界大戦後に敗戦して連合軍の占領下に置かれた歴史を振り返ると、日米関係というものが決して平たんではなかったことが解ります。

しかし第二次世界大戦後は一転、日米関係は全体として相互補完的に機能してきました。

 

そして現在、トランプは東アジア地域における冷戦状態の中で日米両国を結びつけているものを理解し、1980年代以来続いてきた経済面における日本に対する古い疑念は消滅させたようにも見受けられます。

 

日本は、これまで同様の東西の冷戦状態が続くことの方が望ましいのです。

それによって日本は何十年もの間続いてきた自民党の一党支配も含め、戦後の体制がそのまま続くことを可能にしてきたのです。

唯一異なるのは、恐らくはご自身は望んではいない、戦前同様の天皇を中心とする帝国制度の復活を願う超保守主義政策を自ら推し進める安部首相の下での、タカ派的外交政策です。

 

最終的にはこれまで以上に緊密になる、あるいは『いっそうグレートな』日米の同盟関係が、東アジアに限って未だに冷戦が終わっていないという事実を証明するものになるでしょう。

トランプは日本に続いて韓国へとアジア諸国の訪問を続けますが、東アジアにおける冷戦のドラマは変わらなく続き、そして今のところはそれ程目立たなくはなっていますが、周囲にとって理解しがたいトランプの行動はこれからも続くことになるでしょう。

 

http://edition.cnn.com/2017/11/06/opinions/east-asia-stuck-cold-war-hotta/index.html

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周囲にとって理解しがたいトランプの行動とはすなわち、人類が1945年以降せっかく築き上げてきた平和秩序を、なぜ再び壊すのか?という事でしょう。

この問題は前回ご紹介した、エコノミスト誌の【 70年間世界戦争の無い時代を作った秩序が脅かされている 】の記事にもある通りです。

ヨーロッパの政治指導者たちも、同地でせっかく解消された冷戦を、アジアの地で継続させようとするトランプの姿勢に眉をひそめているにちがいありません。

それより問題なのは、自国の国民の命がかかっているのに、一緒になって『戦』の方向に進もうとしている日本の政権担当者たちです。

【 70年間世界戦争の無い時代を作った秩序が脅かされている 】《後編》

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国際紛争の解決を戦争という手段に頼らない、その新世界秩序の理念を具現化したのが日本国憲法

北朝鮮以上に人類にとって危険なアメリカ大統領トランプの平和秩序破壊

 

エコノミスト 2017年9月21日

しかしながらこの条約の基本を支える考え方は連合国側が日独伊枢軸国との戦いと、その後に続く平和組織、すなわち国連の構想、その両方に大きな影響を与えています。
戦争が終わったとき、ソビエト連邦に取り込まれた一部の例外を除き、勝利した連合国は枢軸国に征服されていた土地を本来の所有者に返還しました。

ニュルンベルク裁判は侵略戦争を行うことは犯罪行為であるという原則を確立し、少なくともヒトラーに付き従っていた取り巻きたちを戦争犯罪人としました。
国連の創設とハーグの国際司法裁判所の設立は完璧には程遠いものですが、非常にプラスの効果をもたらしました。
強国が弱小国に強要を行う砲艦外交は完全に19世紀の遺物と化し、時代錯誤となりました。
強国による侵略戦争も同様です。

 

もちろん、世界ではまだまだたくさんの戦争が発生しています。

しかし『新世界秩序』の誕生により再び世界大戦が起きるという可能性はほとんど考えられない状況になりました。

その代り今度は見落とされていた状況、「イントラナショナル」、すなわち国内において戦争が発生する機会が増えてしまいました。

国内情勢が不安定な国家は、かつてまずは強力な隣国に侵略されることを心配しなければなりませんでした。

しかし『新世界秩序』の下では、現状に不満を持つ指導者に率いられた反乱軍に国土を削り取られることよりも、内戦や残虐行為が頻発する暴動の犠牲者となることを心配しなければならなくなりました。

イスラム国家(誤った名称ですが)などの非国家グループは、機能不全に陥っている政府の国土を、少なくともある程度は掌握し、維持できるという事を証明して見せました。

憎むべき政権が支配する体制を打倒するとしてこれまで引き起こされた数々の戦争、目的自体には多少組むべき点があるにしても、戦争によって解決するという構想は誤りであり、しばしば悲惨な結末を導き出しました。

 

そして外交問題を現実的に解決しようとする人間たちは、一瞬で相手を壊滅させられる核兵器の存在によって、大国はもはやいちいち好戦的な国を相手に戦争などする必要が無くなったと指摘しています。

しかしこの本の著者たちは、過去70年のリベラル的秩序がいずれの選択肢よりも優れたものであり、これからも守り続けることにはきわめて高い価値があると力説しています。

著者たちはリベラル的秩序を現実のものにするため戦った人々にふさわしい敬意を表しています。

そのひとりがシカゴの弁護士サーモン・レビンソン(Salmon Levinson)であり、そのアイデアはケロッグ・ブリアン協定に直接つながりました。

 

アメリカの外交官、サムナー・ウェルズ(Sumner Welles)は将来戦争を引き起こそうとする国家に対し、武力制裁を課す能力を持つ国際組織を構想し、提案しました。

ポーランド系英国人の法学者ハーシュ・ラウターパチェト(Hersch Lauterpacht)は国際的に普遍性の高い価値観と人間の品性に基づく国際法の体制を整備するのに貢献しました。

カナダの学者であるジェームズ・ショットウェル(James Shotwell)はアストリッド・ブリアンとともに働き、ジュネーヴ協定を成立させた後、国際連盟の成立に貢献しました。
この本の著者であるハサウェイ氏とシャピロ氏は、戦争による国際紛争の解決は違法であるとした第2次世界大戦後のコンセンサスが今や危機に瀕していると警鐘を鳴らしていますが、その見解はまさに的を得たものです。

 

こうした脅威の中には、戦闘的なジハーディズムがあります。

自分たちの利害が反映されていないことに腹を立てているロシアと野心的な中国は、これまでの国際的なシステムに対抗する方向に向かうことになりそうです。

イランは戦闘的なジハーディストを始めとするテロ組織を支援している疑いが否定できません。

そして核兵器開発計画をやめさせようとする様々な外交的努力を、まるであざ笑うような姿勢を見せて受けれようとはしない北朝鮮。

 

しかしそれらにも増して人類にとって最大の脅威となり得るのは、現在のアメリカ大統領の在任期間でしょう。
国際的な秩序を軽蔑し、自由貿易を嫌って保護貿易をあからさまに主張し、さらには世界の法的秩序を維持していく上でアメリカが本来果たさなければならない役割を途切れることなく放棄し続けている、アメリカ大統領トランプです。

この注目すべき著作の中に重要人物として登場した「国際主義者」たちは、トランプ政治の有様を見て墓の中で切歯扼腕しているに違いありません。

 

《完》

https://www.economist.com/news/books-and-arts/21729415-it-was-underpinned-movement-make-waging-aggressive-war-illegal-and?zid=306&ah=1b164dbd43b0cb27ba0d4c3b12a5e227

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この稿を読むと、自滅志向の狂人政権が支配する国が近隣に存在することを理由に、その地域全体の安定のための秩序を、いきなり外交的管理から軍事支配体系に転換してしまう事の無謀さと危険性を思います。

現在のトランプ・安部ラインの発想は、何かあれば米日連合軍が本気で叩きに行くぞ、という発想が基本になっているように見えます。

大統領選挙期間中は『世界の警察官などもうやめる』と発言していたはずのトランプが、ここに来て『同盟各国へ武器を売りつけることは、どうやら巨額のビジネスになりそうだ』ということに気づき、同盟継続をネタに仲間内に『暴力支配』をすすめて回っているようです。

 

『銃社会』のアメリカ社会では無殺別殺人という理不尽な悲劇が激増していますが、東アジアの安全保障をイコール武器による武力支配に変えてしまった場合、同様の悲劇がもっと大きな規模で起きることになるような気がします。

中国の軍事的台頭に対しては、その軍体制の内部的な検証と分析が不十分なまま、こちらも同等の軍事能力を整備しようという発想では、巨額の予算を軍事に振り向けなければならない上、人的損耗も覚悟しなければなりません。

 

日本の10代~20代の若年層に、国際紛争の解決に武力の行使もあり得るという考えが拡大しているという調査結果があるですが、自分が前線に立たされ殺されるようになった時、愛国の士を迎えに天使が現れ真っ白な光に包まれて昇天していくというようなイメージでもあるのでしょうか?

実際には顔を半分吹き飛ばされたり、腹部に受けた傷口から内臓が外にはみ出したりして苦しみながら死んでいくのが戦場です。

そんな死を無数に作り続けるのが『武力による解決』だという認識が希薄な時代は、きわめて危険だと思います。

【 70年間世界戦争の無い時代を作った秩序が脅かされている 】《前編》

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積極的に戦争を仕掛ける行為を違法とする規律によって支えられている21世紀の世界、その論理はきわめて正当

軍国主義を神聖化してしまったナチスドイツと大日本帝国が、世界を巻き込んで第二次世界大戦を引き起こした

 

エコノミスト 2017年9月21日

『ジ・インターナショナリスツ』

戦争を禁ずる急進的計画は、どのようにして世界を作り直すか?

オーナ・ハザウェイ、スコット・シャピロ共著 サイモン&シュスター社

 

第二次世界大戦の廃墟の中から生まれた、基本的に戦争はすべきでないというルールに基盤を置く国際秩序は、それまでのいかなる時代と比較しても、人類社会に大きな改善をもたらしました。

それは前例のない規模で貿易を刺激し、弱小国家であっても、略奪的な干渉を受けることを恐れることなく、潜在的能力を発揮できる世界を実現させました。

その一連の秩序の中心にあったのが、積極的に戦争の加害者となった国家に恩恵を与えてはならないという原則でした。

 

特に侵略によって領土を手に入れた場合は、国際社会はその行為を合法であると認めることはく、代わりに侵略者は制裁を受けるべきであるとされ、概ね経済制裁が科されることになります。

例外的に国連の承認のもとに多国籍軍が編成され、その軍事介入により侵略者が不法に略取した領土を放棄することを余儀なくされた例もありました。

 

しかし今、自国の立場同様手の国の立場も尊重するというリベラルな立場の国際主義が多方面からの攻撃の矢面にさらされています。

ドナルド・トランプの『アメリカ・ファースト』主義は国際主義を明確に否定しています。

訳知り顔の首脳たちと称されるEU指導者の内少なくとも2人は、トランプ大統領の移民排斥主義者としての過度な発言について少しは抑えたものにして欲しいと思いつつも、基本的な姿勢は似たようなもののようです。

 

5月に掲載されたウォール・ストリート・ジャーナルの記事には、トランプ政権で安全保障問題の顧問を務めるH.R. マックマスターとケイリー・コーンがそれぞれ、次のように記しました。

「世界はグローバルなコミュニティではなく、国家、NGO、企業が自分たちが少しでも有利な立場を得ようと、相手を出し抜くためにしのぎを削り合っている場所である。私たちは自分たちのフォーラムに他とは比較にならない程強力な軍事的、政治的、経済的、文化的、道徳的な強さをもたらすつもりである。我々は国際情勢の本当の状況を否定することなく、私たちはそれを進んで受け入れる立場をとる。」。

 

ともに文化的に優れた、あるいは道徳的に優れているという表現が当てはまらない2人、政治的介入と軍事的介入によって自分たち影響力を発揮できるエリアを拡大し、国際社会における自由主義的秩序を弱らせようとしているウラジミール・プーチンも習近平も、トランプの取り巻きが発したこの声明の中に、反対すべき何ものも発見しない事でしょう。

プーチン大統領は2014年にクリミアをロシアに併合しましたが、これは第二次世界大戦戦後初めてヨーロッパの国境が力づくで変更された事例になりました。

この際ロシアはウクライナ東部の分離独立を目指す武装勢力の支援支援を得て、隠密侵攻を行いました。習近平は国際法に反して人工島を作り、南シナ海にある世界の商業用航路の半分以上を中国の領海に繰り入れようとしています。

 

イエール大学の法学部教授であるオーナ・ハザウェイとスコット・シャピロによる 『インターナショナリスツ”(Internationalists)』は、自由主義的国際秩序が世界史の中でどのようにして形成されたのか、そして今だからこそそれが守らなければならない、その理由について堅牢な歴史観の下、情熱的に語られています。

1928年の彼らはこの体制を新世界秩序と呼び、17世紀オランダの学者であるヒューゴ・グロティウスが提唱した『旧世界秩序』と明確に区別し、1928年のパリ不戦条約にその基礎を置くと記述しています。

パリ不戦条約は第一次世界大戦後に締結された多国間条約であり、条約締結国同士の国際紛争を解決する手段としての戦争を放棄し、平和的手段により解決することを規定した条約です。

最初フランスとアメリカの協議から始まり多国間協議に拡大したことにちなみ、米国国務長官フランク・ケロッグ(冒頭の写真右端の人物)とフランス外相アリスティード・ブリアン(同前列左端の人物)両名の名をとってケロッグ・ブリアン協定とも呼ばれるこの条約には、当時の大国を含む50以上の国々が署名しました。

 

 

この条約は1914-18年の第一次世界「大戦」がもたらした直接的な成果でした。

第一次世界大戦は実際に旧世界秩序を崩壊させた戦いであり、1,100万人の戦闘員が犠牲となった世界史上初めての世界規模の戦争でした。

条約の目的が目的とするところは侵略戦争と領土征服を禁止することでした。

 

しかし条約の実際の施行に問題がありました。

1931年の日本による満州占領はまさに旧世界秩序の下で行われていた侵略行為と同じものであり、新しい条約の下では決して正当化されませんでしたが、日本が侵略した土地を放棄させるまでの力はありませんでした。

 

そしてその後の10年間、条約の締結国も国際連盟も軍国主義の台頭を抑えようともしませんでしたし、抑えることもできませんでした。

そして軍国主義を神聖化してしまった日本やドイツが第二次世界大戦を引き起こすことを阻止することはできなかったのです。

 

《後編に続く》

https://www.economist.com/news/books-and-arts/21729415-it-was-underpinned-movement-make-waging-aggressive-war-illegal-and?zid=306&ah=1b164dbd43b0cb27ba0d4c3b12a5e227

 

安部首相に国民の信任は無い – 安部首相の敵は平和主義

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欠陥のある選挙制度と戦後2番目に低い投票率の選挙での勝利に、国民は納得していない!

立憲民主党は平和主義を守り、安倍政権下で拡大した貧富の格差を縮小に取り組む姿勢を打ち出した

国際紛争解決のため軍事力の行使を禁止する憲法、その条文の削除もねらっている安倍首相

 

エコノミスト 2017年10月27日

安倍首相は総選挙の翌日、自分が自民党に新たな歴史を刻んだことを誇示しました。

彼が率いる仏教団体の創価学会に支えられる公明党との連立与党は2017年10月22日に投票が行われた衆議院議員選挙で大きな勝利を収め、衆議院議員選挙において3回連続で地滑り的勝利を収めた事になります。

参議院選挙も含めれば5回連続で勝利したことになります。

 

この結果を受け、総理大臣としての任期を4年延長することになれば、第2次世界大戦以降日本最長の首相となる可能性が出てきました。

この見通しは今回の選挙前に支持率が急落しただけでなく、政治的立場が危機的状況に陥ることが多く、多数の有権者から徹底的に嫌われている政治家、すなわち安部晋三氏にとっては願っても無い素晴らしい展望です。

安倍首相は現在、日本国憲法の平和主義的表現を書き換えるという、長年抱き続けてきた目標を達成するチャンスをその手に握っています。

自民党は現在衆議院において465議席中281議席を占め、安倍氏が勝敗ラインとした単独過半数をはるかに超えている議席を持っています。

この結果は衆議院で10議席削減される中での結果であり、安部自民党が全体の中でより大きなシェアを持つことを意味しています。

公明党が得た結果はそれほど良くはありませんでした。

しかし公明党の29議席に加えて3人の無所属候補者の支持により、安部首相は衆議院において3分の2の議席を支配することになり、たとえ参議院の承認が得られなくとも大部分の法律を通過させる能力を持つことになりました。

 

しかしこうした結果に多くの国民は納得していないように見えます。

今回の選挙の投票率は戦後2番目に低いものになりました。投票日に台風が接近し、各地で大雨になったためです。

自民党への投票理由の多くは現状維持を望むか、あるいは朝鮮半島の緊張が高まり続けることへの不安によるものでした。

自民党の勝利はまた、対立する野党の分裂と混乱の恩恵も受けました。

野党第一党の民主党の首脳は、東京都知事の小池百合子氏が設立した新党「希望の党」の旗の下での候補者選出を決めました。

一時は与党側に対し深刻な脅威を与える可能性も取りざたされましたが、結果は選挙前に民進党として保有していた57議席のうち7議席を失うという結果に終わりました。

政策の行方が有権者にわかりにくいということも一因でしたが、小池氏が自分の保守的な方針に従う民進党議員のみを受け入れ「他は排除する」と表明したことが、多くの有権者を去らせることになりました。

 

行き場を失った民進党の左派系議員が再結集し、投票日の3週間前に結成されたのが立憲民主党でした。

希望の党の200人に対し、立憲民主党が擁立できた候補者は78名に留まりました。

しかし立憲民主党は善戦し、衆議院において自民党に次ぐ勢力を持つ野党第一党になりました。

選挙前と比べ約3倍に議席数を増やしたという事実は、安倍首相に対し有権者が大きな不満を持っていることを象徴するものです。

立憲民主党は憲法に基づく日本の平和主義を守り、安倍政権下で拡大した貧富の格差を縮小したいと表明しています。

しかし立憲民衆党が安部首相の前に大きく立ちはだかるというわけにはいかないでしょう。

安部首相は選挙戦に勝利した翌日、日本が他国並みに軍事力を制限している日本国憲法の改定が「主要政策」のひとつとであると表明しました。

安部首相は自衛隊を正規の日本国軍として明記するよう、憲法第9条の条文を変更したいと考えています。

そして国際紛争解決のための軍事力の行使を禁止している憲法の条文も削除してしまう事を望んでいますが、平和主義の存続を願う多くの日本国民と敵対することを恐れ、この点についてはあまり強くは言っていません。

 

安倍首相の目標は、現状に合わせて憲法の条文を変えようというものです。

自衛隊は世界でも有数の規模と装備を持った軍隊です。

2014年には憲法の解釈変更を行い、同盟国が攻撃を受けた場合には日本は援護のための軍事行動ができるようにしました。

2015年に制定された複数の安全保障関連法案は、同盟国の「集団的自衛権行使」のために自衛隊を海外の紛争地域への派遣を可能にしました。

しかし憲法の文言は、日本人兵士を危険な戦場に送り込むことに反対する政治家に有利です。

米国を含む一部の国々は、安倍首相が日本はこうした制約を撤廃すべき段階に至っているという主張を支持しています。

太平洋戦争の戦前戦中に日本軍の残忍な統治支配の記憶が悪夢として記憶に刻みつけられている中国や韓国を除けば、この段階で日本軍国主義の復活を恐れる国はほとんどありません。

 

しかし憲法の変更は容易ではないでしょう。

安倍首相が率いる連立与党は国会の両院の3分の2を支配し、憲法改定の発議に必要な要件を満たしています。

日本第二の都市である大阪に支持基盤を持つ維新の党と希望の党も改憲に前向きです。

 

しかし憲法第9条に手をつけることは、政治的には難問のままです。

いかなる変更も国民投票により半数以上の支持を獲得しなければなりません。

そして結果がどうなるか、確実な見通しは存在しません。

▽ 間合いを測る

 

安倍首相がどのタイミングで改憲に着手するのか現時点では不明です。

彼はすべての政党の同意を得て改憲を実現したいと語っていますが、その希望に立憲民主党が沿うことは不可能でしょう。

2018年9月に予定されている自民党の総裁選挙に勝利し、新たな任期を手にした上で会見に着手するだろうと見ている人々もいます。

2019年には統一地方選挙と参議院選挙があり、翌年には東京オリンピックが開催されます。

こうした状況から、安倍首相は来年末までに改憲法案を国会に提出したいと考えているかもしれません。

 

他の分野における政策はあまり変わり映えがしません。

安倍首相は2019年10月に予定されている消費税の増額による収入の一部を幼稚園の無料化に充てると公約する一方、日本が直面するもう一つの大きな課題、すなわち人口の高齢化にどのように取り組むべきかについてはほとんど言及していません。

選挙中に実現を約束した優先事項は、残業時間を制限するだけでなく、悪名高い日本のストレスのかかる労働環境を変える『働き方改革』法案の整備を推進することです。

選挙戦には勝利したものの、安部首相の立場はもろさを露呈し続けるでしょう。

来年予定されている自民党総裁選挙で、安倍首相に挑戦しようとする人間は今のところ現れていません。

しかし今年の初め、2件のスキャンダルに関係しているとの疑惑を持たれた後、安部首相の支持率が急落したことを、ライバルと目される人々、そして有権者も忘れてはいません。

保守的なメディアの編集者でさえ、安倍首相が経済政策をおざなりにしたまま改憲に夢中になったりしないよう警告しています。

彼は彼の政治的な抜け目のなさを充分証明しました。

 

しかし安倍首相に対する国民の負託は脆弱なものです。

 

https://www.economist.com/news/asia/21730551-mr-abe-wants-japan-be-normal-military-power

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アメリカ大統領トランプ来日の際の日本の首相の阿諛追従ぶりには、右派左派を問わず心ある日本国民が失望や失笑に似た感想を持ったことでしょう。

フランスやドイツの首相ならもっとずっと毅然としていたに違いありません。

 

しかしゲッペルス率いるナチスドイツの宣伝省並みに国家の宣伝機関と化した『国営放送』NHKの報道などを見る限り、そうした国家的愚劣さとも言うべき様子は伝わってきません。

国営放送局から『国策放送局』に変質してしまったNHK職員諸氏であっても、1944年から1945年にかけて『大本営発表』と称して虚報を日本中にばらまいた戦争犯罪とも言うべき報道によって、最終的に国民がどれ程悲惨な目に遭わされたか、その知識が無い訳ではないでしょう。

しかしもう、かつて『映像の世紀』や『オリバーストーンが伝える現代アメリカ史』のような「NHKならではの」スペシャル番組など、「後のたたりが怖くて」作りたくないのかもしれません。

だからこそ、こうしたエコノミストの記事に代表される『はるかに広い視野を持った正論』を、何とか一本でも多くご紹介しなければならないという思いを新たにしています。

残虐な対人兵器を次々と造り続ける世界《後編》

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広島、長崎…この世界が実際に人間に対して核兵器を使用したのは、日本人に対してだけ

ほぼすべての戦場の大規模爆撃で使用されているクラスター爆弾、その犠牲者のうち民間人の割合は98%に上っている

 

アンナ・ニグマチュリナ、シャキーブ・アズラル / アルジャジーラ 2017年10月28日

▽核兵器(大量破壊兵器)

 

核兵器が実際に戦争で使用されたのは、第二次世界大戦中アメリカが日本の広島と長崎の2都市に核爆弾を投下した時だけです。

第二次世界大戦が終了すると、アメリカを中心とする西側社会とソビエト連邦を中心とする東側社会との冷戦が始まり、核兵器の開発競争が激化、この間核兵器実験と備蓄量は飛躍的に増大し、そのまま今日に至っています。

その後東西の融和が進み締結された多数の条約によりほぼすべての核兵器実験が禁止され、世界の核兵器の備蓄量は1985年の6万発以上をピークに低下を続け、現在は約15,000発にまで削減されました。

各条約に署名した国々は2022年までにさらに約7,000発にまで核弾頭の保有量を削減することを約束しています。
核兵器廃絶のための国際キャンペーン(ICAN)はこうした取り組みを実現させるため多大な貢献をしたとして、2017年のノーベル平和賞を受賞しました。

 

[核兵器保有国が行なった核実験実施年表]

 

▽ 対人地雷(通常兵器)

人間を標的とする対人地雷は歴史を通じて使われてきましたが、第二次世界大戦中に最も広範に使われました。

対人地雷は戦争や紛争が終結した後も尚、そこから除去されない限りいつまで見いつまでも民間人の殺傷を続けることになります。

1997年に締結された対人地雷全面禁止条約(オタワ条約・正式名称:「対人地雷の使用、貯蔵、生産及び移譲の禁止並びに廃棄に関する条約」)は、地雷の生産と使用を制限することを目的としています。

条約の実施以来、159の加盟国はこれまで5千百万個の地雷を破壊し、もはや備蓄していないことを宣言しました。

戦争や内戦、深刻な武力紛争が起きたボスニア、カンボジア、アフガニスタン、ミャンマー、エジプトなどでは今日もなお地雷除去作業が続けられ、その荒廃ぶりは歴然としています。

そしてこの条約に非加盟の国は未だに量の地雷を保有しており、世界はなお廃棄に向けた取り組みを継続して行かなければなりません。

地雷禁止キャンペーン(ICBL)は「対人地雷の禁止と除去のために」大きな貢献をしたことが認められ、1997年のノーベル平和賞を授与されました。

また従来型の地雷の備蓄量が減少する一方で、国家では無い武装グループがスマート地雷を使用する事例が増加し、近年再び民間人の死亡や怪我が増加傾向にあります。

 

[地雷禁止条約発効以前の地雷使用状況(上)と条約発効後の地雷使用状況(下)]

 

▽ クラスター爆弾(通常兵器)

第2次世界大戦中にソビエト連邦が史上初めて使用して以来、ほぼすべての戦場の大規模爆撃で使用されています。

その犠牲者中、民間人の割合は98%に上っています。

襲撃の標的とされた地域では、広範囲にわたり多数犠牲者が出るとともに、残された不発弾によっても多数の犠牲者が作り出されています。

 

2008年のクラスター弾に関する条約(クラスター弾の使用や保有、製造を全面的に禁止する条約。クラスター爆弾禁止条約あるいはオスロ条約とも呼ばれる)には108カ国が署名しましたが、サウジアラビアやシリアを含む世界の約半数の国々がこの条約に署名しておらず、現在も戦争や武力紛争で使用を続けています。

[世界には約100万発のクラスター爆弾があると見られていますが、オスロ条約解明国が廃棄できたのはその18%に留まっています。]

 

▽ 軍縮のこれからの課題、悪意ある革新的軍事技術の開発

潜在的に悪意を持った兵器使用の可能性を伴う技術的進歩は、これからの軍縮への努力に新たな課題を提起しています。

こうした努力に対し、多くの軍事技術の開発と進歩が国家ではなく民間部門主体で進められているという事実によってさらに複雑になっています。

この結果条約などに加盟する国家の制約が及ばないことになり、技術開発や改良に対する規制が一層難しくなっているのです。

サイバー攻撃、致命的な破壊力を持つ全自動の兵器、無人航空機(ドローン)、合成バイオテクノロジー(遺伝子工学)、衛星技術、人工知能など、こうした技術が新しい悪意のある兵器として生まれ変わる可能性があるのです。

[国連の軍縮委員会は現在、兵器として使用可能な、あるいは悪用される恐れのある最新技術について、規制や管理の強化を検討しています]

 

http://www.aljazeera.com/indepth/features/2017/10/disarming-world-171024071441249.html

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ここで紹介されている他にも、残虐な兵器はまだまだあり、それを最初に開発したのは大体がアメリカです。

例えばアメリカがイラク戦争やアフガニスタン戦争で使った劣化ウラン弾などはその最たるものです。

投下された瞬間の実写フィルムを見たことがありますが、要するに超小型核爆弾ともいうべきもので、『通常兵器」としては凄まじい破壊力を発揮します。

問題なのは落とされた方が被る、放射能汚染です。

 

イラク国内でこの爆弾を投下された地域では、『子供を作るな、産むな』と言うキャンペーンが行われているという記事を翻訳・ご紹介したことがあります。(気がつけば投稿数が1,600を超えてしまっており、もう自分でもその記事を見つけることができなくなってしまっています。お詫びします。)

人間として生まれてきて「あなたはすでに汚染されてしまった。子供をつくってはいけない…」と言われることは、どれほどの悲劇でしょうか?

 

今回アメリカ大統領のトランプが来日し、国家の負債が記録的金額に上っている日本に対し、もっと米国製の武器を買えと放言し、日本の首相はヘラヘラ笑っていました。

ご紹介した記事にある、残虐な兵器を少しでも減らそうとしている世界の取り組みに対し、まさに冒涜というべきではないでしょうか?

 

国家予算を教育に回せば、教育された人間はその後の何十年をどんどん良い方に変えていくことができます。

しかし驚くほど高額な最新鋭の武器は、10年も経てばガラクタです。

イラク戦争でソ連製のT55やT60戦車で戦場に向かっていたイラク軍の兵士が、米軍のアパッチヘリの集団の襲撃を受けて『屠殺』されるように殺されたことはすでにご紹介した通りです。

 

一定の防衛能力を装備することは否定しません(永世中立国のスイスは国防軍を持っています)が、直接交戦する可能性は極めて低いのに仮想敵国の脅威を煽り続けて、極めて高価なその実不要な武器を積み上げていくことの真の目的は何なのでしょうか?

 

 

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ほんとうの「今」を知りたくて、ニューヨークタイムズ、アメリカCNN、NBC、ガーディアン、ドイツ国際放送などのニュースを1日一本選んで翻訳・掲載しています。 趣味はゴルフ、絵を描くこと、クラシック音楽、Jazz、Rock&Pops、司馬遼太郎と山本周五郎と歴史書など。 @idonochawanという名前でツィートしてます。
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