ホーム » エッセイ » 東京2021オリンピックは最も必要なタイミングで、日本の医療と財源を浪費する
日本政府が新型コロナウイルス感染拡大危機に正面から取り組むことができない原因、それが東京2021オリンピック
欧米の先進各国と比較して死亡者数が少ないという日本の相対的な成功は、政治が仕遂げたことではない
ソフトロックダウンがいつ終わるともなく繰り返され、収入面でも生活面でもじわじわ追い詰められる日本人
新型コロナウイルスの『培養シャーレ』として世界的に悪名を馳せたダイヤモンド・プレンセス、東京2021はその陸上版?!
新型コロナウイルスが世界的規模で猛威をふるう中、それとは無関係にオリンピックを開催することは世界中のどこであれ正当化できない
中野晃一 / ガーディアン[意見記事] 2021年5月24日
東京オリンピックの聖火は現在、実況中継を重ねながら日本各地を巡っています。
5月末時点では、全国の47都道府県のうちすでに28都道府県を通過しました。
大会は2ヶ月以内に開催される予定です。
日本国民はオリンピックを待ち受け音を立てるほど気分を高揚させていると思われるかもしれませんが、現実は違います。
日を追うごとに否定的な結論に到達する国民が増えているのです
すなわち東京2020大会は何もかも全て中止する必要がある、というものです。
最新の世論調査では、80%以上の国民が東京オリンピックの中止または延期を望んでいることが明らかにされました。
しかし国際オリンピック委員会(IOC)は中止も延期もありえないと表明しています。
国民が見ている通り、東京オリンピックは日本政府が新型コロナウイルス感染拡大危機に正面から取り組むことができない原因になっています。
さらには最も必要なタイミングで、日本の医療および財源を浪費することになるだろうと予測されています。
日本での新型コロナウイルスによる死亡の約80%は昨年12月以降、すなわち直近の6ヶ月に発生しています。
そして多くの人が最悪の事態がまだやって来てはいないということを恐れています。
数字だけ見ると12,261人の死亡という日本の記録は英国、米国、その他のG7諸国ほど悪くはありません(ただし日本以外のアジア、オセアニア諸国と比較すると死者の数は群を抜いています)。
問題視しなければならないのは、欧米の先進各国と比較して死亡者数が少ないという相対的な成功は日本の政治が仕遂げたことではないと考えていることです。
最新の世論調査では菅義偉首相自身、そして菅内閣の支持率は、彼が昨年9月に就任して以来最低の35%に低下、『支持しない』は43パーセントに達しました。
さらに菅政権の新型コロナウイルス対策については33%が好意的な評価を行う一方、63%が不満を表明しました。
東京を含む日本最大の都市部は、現在、パンデミックの開始以来3度目の非常事態宣言下に置かれていますが、これは今年に入って2度目です。
この非常事態宣言は当初5月11日に終了する予定でしたが、現在は5月31日まで延長されており、さらに延長される可能性があります。
日本の非常事態は決して厳しい封鎖を意味するものではなく、学校や商店、レストランは閉店時間その他の制限が課されてはいるものの営業していますが、比較的大規模な会場については厳しく管理されています。
しかし日本国民は概ね現在の対策が弱すぎる、そして後手に回っていると見ています。
厳格なロックダウン措置は日本では人気がありませんが、ソフトロックダウンがいつ終わるともなく繰り返され収入面でも生活面でもじわじわと追い詰められる現在の苦境は、最も忍耐強く協力的な人々でさえ音を上げたくなるほどのものです。
そして他の国々とは異なり、日本の新型コロナウイルスがうまくいかない・うまく進まない根本的な原因は、新しい変異株の出現や医療・保険システムの欠陥にはなく、オリンピックにあるのです。
菅首相は「オリンピックを最優先させたことはない。」
と主張していますが、今年の夏、世界が日本の動向を注視しその影響が自分たちの国にも及ぶと考えていることに間違いはありません。
菅首相は非常事態宣言の適用など、難しい決定を下すのをためらい、そして遅らせています。
最終的にやっと非常事態を宣言しても、期間を短く設定し過ぎて、再延長を繰り返す羽目に陥っています。
そうしている間にも、禁止措置は形骸化し始めています。
ラッシュアワー時の通勤電車は相変わらず混雑している一方、飲食店やバーでのアルコールの提供は禁止されています。
理解に苦しむのは、劇場はライヴパフォーマンスのために定員の半数に入場が制限されるものの活動を続けることができるのに、大規模な映画館は閉鎖を命じられていることです。
このように基準があいまいなまま禁止されたり許可されたりという恣意性は、決して最終責任を取るつもりがない国と都道府県の間の調整がうまくいかないことも原因の一つです。
しかし何と言っても日本における最悪の状況は、ワクチン接種プログラムの失敗が誰の目にも明らかなことです。
これまで第一回目のワクチン接種を受けたのが人口のわずか4.4%という日本は、OECDランキングでは最下位であり、医療専門家ですらまだ全員がワクチン接種を終えていません。
菅首相は最近になって、7月末(オリンピック期間中)までに高齢者への予防接種を完了させることを目標にすると宣言しましたが、これまでの1日あたりの接種件数は必要な数の3分の1にとどまっているため、今後は1日あたり100万件の接種を行う必要があります。
日本は必要なワクチンを調達するための資金はありますが、接種体制の不備により購入したワクチンはしまいこまれたままになっています。
東京2020大会が始まる時点ではまだ大多数の国民がワクチン未接種のまま取り残され、感染のリスクにさらされることは今や確実な状況になっています。
学生を含む外国人の新規入国は全面禁止されているものの、オリンピック・パラリンピック参加選手約11,500人、関係者まで含めると約9万人が新たに来日することになります。
選手村で参加選手が一人一人厳重に隔離されない限り、たちまちのうちに昨年新型コロナウイルスの『培養シャーレ』となり世界的に悪名を馳せたクルーズ船ダイヤモンド・プレンセスの陸上版と化してしまう可能性があります。
日本の組織委員会は参加選手を優先的に診療する30の病院を指定した上、医療システムがすでに危機的状況に陥っているこの時期に、200人の医師と500人の看護師を『ボランティア』として募集、無報酬での労働を求めています。
菅首相の頭にあるのは、新型コロナウイルスが蔓延する長いトンネルの向こう側に、東京2020大会が人々が求めている気晴らしと救済を提供するという世界のようです。
さらには今年の秋に予定されている日本の総選挙のことも念頭に置いておく必要があります。
菅首相はこ東京2020大会は『人類がウイルスを打ち負かした象徴』になるだろうと繰り返し強調しています。
しかし『人類がウイルスを打ち負かす』などという認識は、特にワクチン接種が進まない中強力な感染力をもつ変異ウイルスの出現により深刻な感染拡大が続いている地球の赤道付近から南半球にかけての現実とは、まるで矛盾するひとりよがりな思い込みでしかありません。
IOCの副会長であるジョン・コーツは、東京が非常事態下にある場合でもオリンピックは開催が可能であるという驚くべき見解を披露しました。
しかし新型コロナウイルスが世界的規模で猛威をふるう中、それとは無関係に速さと強さを競い合う映像をテレビで放映するための舞台を設営することは、たとえ世界中のどこであれ正当化するのは難しいはずです。
それは日本も例外ではありません。
https://www.theguardian.com/commentisfree/2021/may/24/japan-cancel-olympics-coronavirus
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まずお詫びしなければならないのは、原文はもう少し抑えた調子の品の良い文章であるということで、翻訳しているうちに自分の感情が移入されてしまいました。
「こんな風に訳そう」と考えたわけではなく、「こう訳さずにはいられなかった」のです。