ホーム » エッセイ » 【 70年間世界戦争の無い時代を作った秩序が脅かされている 】《後編》
国際紛争の解決を戦争という手段に頼らない、その新世界秩序の理念を具現化したのが日本国憲法
北朝鮮以上に人類にとって危険なアメリカ大統領トランプの平和秩序破壊
エコノミスト 2017年9月21日
しかしながらこの条約の基本を支える考え方は連合国側が日独伊枢軸国との戦いと、その後に続く平和組織、すなわち国連の構想、その両方に大きな影響を与えています。
戦争が終わったとき、ソビエト連邦に取り込まれた一部の例外を除き、勝利した連合国は枢軸国に征服されていた土地を本来の所有者に返還しました。
ニュルンベルク裁判は侵略戦争を行うことは犯罪行為であるという原則を確立し、少なくともヒトラーに付き従っていた取り巻きたちを戦争犯罪人としました。
国連の創設とハーグの国際司法裁判所の設立は完璧には程遠いものですが、非常にプラスの効果をもたらしました。
強国が弱小国に強要を行う砲艦外交は完全に19世紀の遺物と化し、時代錯誤となりました。
強国による侵略戦争も同様です。
もちろん、世界ではまだまだたくさんの戦争が発生しています。
しかし『新世界秩序』の誕生により再び世界大戦が起きるという可能性はほとんど考えられない状況になりました。
その代り今度は見落とされていた状況、「イントラナショナル」、すなわち国内において戦争が発生する機会が増えてしまいました。
国内情勢が不安定な国家は、かつてまずは強力な隣国に侵略されることを心配しなければなりませんでした。
しかし『新世界秩序』の下では、現状に不満を持つ指導者に率いられた反乱軍に国土を削り取られることよりも、内戦や残虐行為が頻発する暴動の犠牲者となることを心配しなければならなくなりました。
イスラム国家(誤った名称ですが)などの非国家グループは、機能不全に陥っている政府の国土を、少なくともある程度は掌握し、維持できるという事を証明して見せました。
憎むべき政権が支配する体制を打倒するとしてこれまで引き起こされた数々の戦争、目的自体には多少組むべき点があるにしても、戦争によって解決するという構想は誤りであり、しばしば悲惨な結末を導き出しました。
そして外交問題を現実的に解決しようとする人間たちは、一瞬で相手を壊滅させられる核兵器の存在によって、大国はもはやいちいち好戦的な国を相手に戦争などする必要が無くなったと指摘しています。
しかしこの本の著者たちは、過去70年のリベラル的秩序がいずれの選択肢よりも優れたものであり、これからも守り続けることにはきわめて高い価値があると力説しています。
著者たちはリベラル的秩序を現実のものにするため戦った人々にふさわしい敬意を表しています。
そのひとりがシカゴの弁護士サーモン・レビンソン(Salmon Levinson)であり、そのアイデアはケロッグ・ブリアン協定に直接つながりました。
アメリカの外交官、サムナー・ウェルズ(Sumner Welles)は将来戦争を引き起こそうとする国家に対し、武力制裁を課す能力を持つ国際組織を構想し、提案しました。
ポーランド系英国人の法学者ハーシュ・ラウターパチェト(Hersch Lauterpacht)は国際的に普遍性の高い価値観と人間の品性に基づく国際法の体制を整備するのに貢献しました。
カナダの学者であるジェームズ・ショットウェル(James Shotwell)はアストリッド・ブリアンとともに働き、ジュネーヴ協定を成立させた後、国際連盟の成立に貢献しました。
この本の著者であるハサウェイ氏とシャピロ氏は、戦争による国際紛争の解決は違法であるとした第2次世界大戦後のコンセンサスが今や危機に瀕していると警鐘を鳴らしていますが、その見解はまさに的を得たものです。
こうした脅威の中には、戦闘的なジハーディズムがあります。
自分たちの利害が反映されていないことに腹を立てているロシアと野心的な中国は、これまでの国際的なシステムに対抗する方向に向かうことになりそうです。
イランは戦闘的なジハーディストを始めとするテロ組織を支援している疑いが否定できません。
そして核兵器開発計画をやめさせようとする様々な外交的努力を、まるであざ笑うような姿勢を見せて受けれようとはしない北朝鮮。
しかしそれらにも増して人類にとって最大の脅威となり得るのは、現在のアメリカ大統領の在任期間でしょう。
国際的な秩序を軽蔑し、自由貿易を嫌って保護貿易をあからさまに主張し、さらには世界の法的秩序を維持していく上でアメリカが本来果たさなければならない役割を途切れることなく放棄し続けている、アメリカ大統領トランプです。
この注目すべき著作の中に重要人物として登場した「国際主義者」たちは、トランプ政治の有様を見て墓の中で切歯扼腕しているに違いありません。
《完》
https://www.economist.com/news/books-and-arts/21729415-it-was-underpinned-movement-make-waging-aggressive-war-illegal-and?zid=306&ah=1b164dbd43b0cb27ba0d4c3b12a5e227
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この稿を読むと、自滅志向の狂人政権が支配する国が近隣に存在することを理由に、その地域全体の安定のための秩序を、いきなり外交的管理から軍事支配体系に転換してしまう事の無謀さと危険性を思います。
現在のトランプ・安部ラインの発想は、何かあれば米日連合軍が本気で叩きに行くぞ、という発想が基本になっているように見えます。
大統領選挙期間中は『世界の警察官などもうやめる』と発言していたはずのトランプが、ここに来て『同盟各国へ武器を売りつけることは、どうやら巨額のビジネスになりそうだ』ということに気づき、同盟継続をネタに仲間内に『暴力支配』をすすめて回っているようです。
『銃社会』のアメリカ社会では無殺別殺人という理不尽な悲劇が激増していますが、東アジアの安全保障をイコール武器による武力支配に変えてしまった場合、同様の悲劇がもっと大きな規模で起きることになるような気がします。
中国の軍事的台頭に対しては、その軍体制の内部的な検証と分析が不十分なまま、こちらも同等の軍事能力を整備しようという発想では、巨額の予算を軍事に振り向けなければならない上、人的損耗も覚悟しなければなりません。
日本の10代~20代の若年層に、国際紛争の解決に武力の行使もあり得るという考えが拡大しているという調査結果があるですが、自分が前線に立たされ殺されるようになった時、愛国の士を迎えに天使が現れ真っ白な光に包まれて昇天していくというようなイメージでもあるのでしょうか?
実際には顔を半分吹き飛ばされたり、腹部に受けた傷口から内臓が外にはみ出したりして苦しみながら死んでいくのが戦場です。
そんな死を無数に作り続けるのが『武力による解決』だという認識が希薄な時代は、きわめて危険だと思います。