ホーム » エッセイ » ハラハラしながらトランプの顔色をうかがうアベ・ジャパン《後編》懸念が深まる日米同盟の行方
日本の軍事費を現在の倍以上に増額しようとしている与党自民党
日本の首相があれだけ媚びへつらっても、トランプは日本にどんな保証も与えはしなかった
エコノミスト 2018年9月6日
これまで日本とアメリカは様々な問題で小競り合いをしてきましたが、安全保障と貿易関係だけは別でした。
しかし今、トランプは経済問題で有利な条件を引き出す材料として安全保障問題を利用する準備が整ったようです。
日本政府当局者は現在、極めて強固だった軍事同盟をトランプ率いるアメリカがどのように貿易問題の取引材料として利用しているか、注意深く見守っています。
そして要求通りに軍事支出を増強しないNATOの加盟国に対してはアメリカは防衛の義務を放棄すると脅している手口についても注視しています。
トランプはアメリカ軍の韓国駐留経費についても不満が蓄積しています。
この点を見て日本政府関係は同様に日本国内の米軍基地の諸経費についても、トランプが同様の考えを持っているのかどうか測ろうとしています。
「NATO加盟国に起きたことは、遅かれ早かれ日本でも起きるでしょう。」
元駐米大使の加藤良三氏がこう語りました。
日米間の同盟関係が決裂するまで悪化すると見ている関係者はほとんどいません。
しかしトランプの予測不能な行動は、日本の政治指導者が独立した積極的な外交政策を展開する努力を強めるよう促しています。
その中には隣り合う巨大な存在との関係を修復することが含まれています。
昨年末に東南アジア・サミットの際に合わせ開催された安倍首相と習近平国家主席の首脳会談以降、世界第2位の中国と3位の日本との政府関係者同士の交流のテンポが高まっています。
10月には安倍首相が日本の首相として7年ぶりに中国の首都北京を訪問する予定になっています。
また北方領土をめぐる争いが続いているロシアとの関係を改善するため 9月10日、ウラジオストクで開催される経済フォーラムに参加する予定を立てています。
この間彼はロシアのプーチン大統領に加え、習近平国家主席と会談する可能性が取りざたされています。
安倍首相にとってアメリカの外交政策に関する最も大きな誤算は貿易分野におけるものでした。
安倍首相はトランプがアメリカはもはや環太平洋パートナーシップ(TPP)の一員ではないと宣言し、TPPから離脱してしまったことを無視してきました。
それでもなんとか安倍首相はアメリカを除く10カ国で貿易協定を締結するところまでこぎつけました。
安倍首相は加盟各国に対し協定の批准のスピードアップを促しています。
これとは別に7月には数年越しの厳しい交渉を経て、日本はEUと世界最大規模の相互自由貿易協定を締結しました。
安倍首相はトランプの保護貿易主義的指向に対抗する動きとして、これを歓迎しました。
さらに日本はもう一つの貿易協定であり、ASEAN加盟10カ国と他の複数の国が参加するアジア地域包括的経済連携に力を入れています。
しかし安全保障分野では日本は米国の傘下にとどまり続ける以外、現実的な選択肢は無いと考えています。
そして安倍首相は実際に、日本国憲法による制約があるものの海外の紛争地帯で日本の自衛隊がアメリカ軍と共同軍事行動ができるよう安全保障関連法案を成立させ、アメリカとの軍事同盟関係を強化しようとしています。
安倍首相は戦闘によって自衛隊員が犠牲になることは避けたいと思っています。
昨年平和維持活動に参加させるため自衛隊員を海外派遣した際は、隊員が殺害されたら辞任すると約束していました。
日本は他の軍事パートナーとの関係構築も行っています。
いわゆる Quadは日本、アメリカ、オーストラリア、インドの間で進展している安全保障パートナーシップであり、メンバー間の協力を強化すること急務であるとされています。
NATOや欧州各国、特にイギリスやフランスとも防衛協力の強化について話し合いを進めています。
先月イギリスは東南アジア地域における軍事協力を強化する一環として東南アジアに3隻の駆逐艦を派遣しました。
日本自身も防衛力を強化しようとしています。
8月には、米国のミサイル迎撃システムを装備した新型駆逐艦を投入しました。
そして2023年までに同じくミサイル迎撃システムの陸上版であるアメリカ製のイージス・アショアの導入が計画されています。
軍事アナリストによれば、北朝鮮に対して使用可能な空中発射巡航ミサイル、そして米国製のF-35戦闘機を追加購入も計画されています。
与党自民党は、NATOが設定した目標であるGDPの2%に相当する金額にまで軍事費を増加させたいとしています。
ただし、NATO各国の多くはこの『目標』を達成していません。
NATOの欧州メンバーの平均1.3%、アメリカの3.1%と比較すると、2017年に日本が軍事費に費やしたのはGDPの0.9%でした。
これらの取り組みは大統領になる前、アメリカが攻撃された場合日本は「家にいたままソニー製のテレビを見ている」可能性があると嘆いたトランプを喜ばせるに違いありません。
アメリカは長い間、日本に対しもっと軍事費を増額し、隊員が射殺される可能性がある場所に自衛隊員を派遣してはならないという日本国憲法による制約を放棄するよう、日本に迫ってきました。
しかし、トランプが大統領であり続ける限り、日本は現在のアメリカが信頼できる友人なのかどうか心配しなければならないでしょう。
元太平洋軍司令官のブレア氏が次のように語りました。
「かつて日米間にちょっとしたいさかいはありましたが、日米双方が同盟関係の改善に取り組み、充実した中身に仕上げる必要があることを常に理解していました。」
しかし現在の日米両国の政府関係者に、その理解が引き継がれているかどうかは分かりません。
[完]
https://www.economist.com/asia/2018/09/08/japan-is-worried-about-its-alliance-with-america
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中国の『軍事的台頭』について、中国の友人たち(一人は杭州市の病院長、一人は南京市の大学教授、一人は太原市の私立学校長)に尋ねたことがあります。
彼らは一様に顔をしかめ、快く思っていない、困ったものだという感想を漏らしました。
国内には、中国の軍備が膨張していく様子を見て、さあ大変だ日本は危ないぞと煽って回る連中がいます。
世界地図を見ればわかることですが、日本列島は中国の東側にフタをするように横たわっており、その結果中国としてはアメリカのシーレーンに対し、海軍力を強化することによって南シナ海において外洋との接続レーンを確保する路を見出したいというだけの話のように思えます。
尖閣で揉めるのは、そこに新たな不安定要因を持ち込ませたくないというあたりが本音かとも思います。
陸軍は対ロシア、対ベトナム、そして西方の少数民族に対する押さえというあたりがその本質ではないでしょうか。
ところが先ほどの国家主義者連中はまるで中国13億人が束になって攻め込んでくるかのように煽って回っています。
その結果を客観的に見れば、信じられないほど高額な武器を大量にトランプに売りつけられているだけ。
1930年代に現実以上に『敵の脅威』を煽ってまわった結果、日本人は1944年から45年にかけ、世界のどの国も体験しなかった地獄に突き落とされました。
21世紀に国境を越えた向こうにいる相手との諍いを軍事紛争にまで発展させてしまったら、それ以上の地獄が待っているはずです。
ユーゴスラビアの解体やシリアの内戦で、どれだけ多くの人間がどれほど悲惨な目にあったか、私たちはこの目で見てきました。
世界規模ではユーゴスラビア、シリアは『小国』扱いになるでしょうが、それでも起きたことの悲惨さはまさに戦慄すべきものでした。
もし日本と中国の間で武力紛争が起きれば、その何十倍、いや何百倍の凄惨な地獄が作り出されるに違いありません。
対外紛争の解決に『戦争』の二文字はない、私たち日本人はその前提があってこれまで70年間の繁栄と平和を可能にしてきました。
今ここで、それを大転換しなければならない積極的理由はありますか?