ホーム » エッセイ » エコノミスト流解説 : 憎しみだけが増幅する日本と韓国、不毛の争い
韓国を植民地支配していた時代、国家として犯した残虐行為について、日本はすべてを認めたこともなく相応の賠償をしたこともない
トランプと金正恩の3度の会談の成果は、北朝鮮の核兵器・ミサイル開発計画が持つ本当の危険性を世界に過小評価させただけ
エコノミスト 2019年9月3日
静かな環境で買い物をしたい人にとって、この夏韓国の首都ソウルにある無印良品またはユニクロの店舗は最良の選択だったといえます。
普段なら買い物客で賑わっている両社の各店舗は、7月に韓国に対し一方的に輸出制限を行った日本革の態度に怒った韓国の一般市民の間に日本製品のボイコットが広がった結果、別の場所で衣料品や家庭用品を購入する人が増え、何週間もほとんど無人の状態が続いています。
一方日本では、「信頼できない」韓国人に関する相変もわらぬ偏見が復活しています。
過去の出来事について見過ごしにしたままにはできないという隣国韓国の態度に対する怒りは、外交官から市井で暮らす普通の日本人にまで広がっています。
しかしこの極東アジアの2つの国はともに民主主義を奉する自由主義の国家のはずであり、アメリカにとって欠くことのできないアジア地区最大の同盟国でもあるはずです。
彼らの間にはなぜいさかいが絶えないのでしょうか?
第二次世界大戦中に韓国人を強制労働者として使用した日本企業に対し、韓国の最高裁判所が原告である強制労働の被害者にそれぞれ補償金を支払う義務があると判決を下した2018年10月以来、両国の間にくすぶっていた燠火(おきび)が一気に燃え上がりました。
1965年に締結された日韓条約によってこうした請求問題はすべて解決済みであると長い間主張してきた日本は、韓国政府に対し裁判所を押さえ込むよう要求しました。
これに対し韓国政府は、行政が司法に干渉することはできないとはねつけました。
韓国の法務当局が判決を受けた日本企業の資産を差し押さえる動きに出ると、7月に入ると日本は韓国の最も重要な産業であるエレクトロニクス分野の企業がメモリチップを生産する際に必要とする化学物質について、輸出制限を課しました。
8月、今度は韓国が日本との軍事情報包括保護協定破棄の決定を公表し、争いをさらにエスカレートさせました。
日韓両国の争いは今回の韓国の裁判所の判決にとどまるものではありません。
韓国と日本は過去数十年にわたって議論してきました。
日本は1910年から1945年まで韓国を占領・植民地化しましたが、その間に犯した残虐行為について、すべてを認めたわけでもなく相応の賠償をしたことも一度もありませんでした。
これに対しその時々の韓国政府は、国民の中にくすぶる反日感情を都合よく利用し、民族主義的感情を煽ってきました。
実際、大日本帝国の鉱工業の現場に強制的に送り込まれた韓国人男性、あるいは急日本軍の売春宿で売春行為を強要された韓国人女性に対する補償をめぐって行われた実態解明のための検証は、事実が想像以上に酷いものであったことを証明したのです。
それでも同盟国である日韓両国は、これまでこうした問題の見解の不一致について、商取引と国家安全保障の問題とは切り離して取り扱ってきました。
その理由の一部は、主に北朝鮮によって生じている極東アジアにおける不安定な事態が自分たちの手には負えない事態に陥った際、日韓両国と同盟関係にあるアメリカが介入できるようにするためです。
日米韓3か国の同盟関係こそが極東の危機管理を可能にしてきました。
しかしドナルド・トランプ大統領の下で、アメリカは国際社会の危機管理とはどんどん距離を置くようになってきました。
トランプと北朝鮮の独裁者であるキム・ジョンウンとは昨年6月以来3回に渡り会談を行ってきましたが、その成果といえば北朝鮮の核兵器・ミサイル開発計画が持つ本当の危険性を世界が過小評価するよう演出しただけでした。
トランプは常々極東アジアにおけるアメリカ軍の駐留費用について不満を口にし、日韓両国の同盟国間の言い争いに巻き込まれることを嫌っていました。
しかも現時点ではナショナリスト的姿勢を誇示する方が日本でも韓国でも支持される傾向があり、どちらも態度を改めるつもりはありません。
目下、両国は過去に振り回され続けているだけです。