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戦場での破壊が進めば進むほど、ビジネスチャンスが膨らむ会社とは?
『中国の世紀』…それが続くのはいつまで?
エコノミスト 9月20日
手はじめに考えるべきこと、それは戦場においてしっかりと自分たちの利益をつかみ取る事です。
フランスの大手セメント会社のラファルジュは今、中東と北アフリカの全域でしっかりと稼いでいます。
その売上高は2009年以降徐々に上がり始め、現在では年間15億ドルの販売益を計上するようになりました。
南アフリカの移動通信設備会社であるMTNも、戦場での破壊が進めば進むほどビジネスチャンスが膨らむ会社です。
同社の営業販売利益はシリア、スーダン、イランの3カ国で、今年上半期56%上昇しました。
大部分の多国籍企業もリスクを減らすことが出来ました。
サブプライムおよびユーロ圏の危機は、意図せざる救済になりました。
各企業は信用市場の行き詰まりによって損失を被らないよう、依然と比べ現金による決済や運用割合を増加させていたのです。
ゼネラル・エレクトリック社(近年は電器製造より、金融会社として有名)は2006年と比べ、倍の現金を保有しています。
そして大部分の大手企業は、投資先の分散化を進めてきました。
投資を1カ国に過度に集中させることは古典的な誤りです。
HSBC(旧The Hongkong and Shanghai Banking Corporation Limited)は1949年の中国革命によってアジア地区の全資産の半分を失いました。
BP(英国石油)社の全身であるアングロ・イラニアン・オイル・カンパニーは、1951年にイランが国有化に踏み切ったことにより同国内の資産のすべてを失いました。
これと似た事例は最近でも見られます。
スペインの石油会社であるレプソルはアルゼンチンに集中的に投資を行い、YPFという企業を買収しましたが2012年に国営化されてしまい、一時経営危機に陥りました。
カナダのファースト・クアンタム社はコンゴ民主共和国で全利益の3分の1を稼ぎ出していましたが、2009年に国有化されてしまいました。
しかし過去20年間、多国籍企業は自身の分散化を進めてきました。
ロシア国内での利益が全利益の10分の1を占める多国籍企業は全部で12社程度です。
BP(英国石油)社はロシア最大の石油会社ロスネフチの国外最大の投資家ですが、投資による収益は得ている利益の10分の1に過ぎません。
マクドナルドのモスクワ・アウトレットは東西融和の象徴でしたが、外交的な報復処置により一時的な閉鎖を強いられました。
しかしこのハンバーガーの巨人がロシア国内で得ていた利益は、全体の5パーセント未満に過ぎませんでした。
同様の事態はロシア以外でも起きています。
スペインのテレフォニカとプロクター・アンド・ギャンブル(P&G)社、ベネズエラ政府が行った資本規制の導入により、数十億ドルの損失を被りました。
しかしいずれの社も、総売り上げの5%未満を失ったにとどまりました。
ロイヤル・ダッチ・シェル最高経営責任者(CEO)のベン・ヴァン・ビューデン氏は、投資の多様化こそが「自分自身に予防接種をする唯一の方法」であると語りました。
企業は変容に対する柔軟性を増すことにより投資分野のリスクを軽減させる一方で、その生産ネットワークづくりのノウハウも巧妙なものになってきました。
どこか一カ所が旗転してしまうことにより、世界的なサプライチェーンが破綻してしまうのはまだ一部では真実です。
2011年に発生したハードディスク生産の生産拠点であるタイ、バンコクの政治騒乱は世界のコンピュータ産業を存亡の淵に追い込みました。
しかしかつては豊かな先進諸国の生産拠点でしかなかった新興諸国も、現在は生産国であると同時に消費国になり、地域経済の中で中核的な役割を担うようになり、結果として各国通貨の安定が担保されるようになりました。
P&G社最高経営責任者(CEO)のアラン・ラフレイ氏は、生産された商品の95%が地産地消の形で消費されていると語りました。
極めて規模の大きな企業は、世界中で売却ルートを自在に変えることができます。
アルセロール・ミッタは2005年にウクライナの製鉄所に50億ドルの仕事をさせましたが、現在はその圧延厚板をウクライナ以外の場所で販売しています。
世界最大の調達企業、利豊(リ&ファン : 香港をベースにする国際輸出企業)はウォルマートなどの世界中の小売企業に商品を供給していますが、同社のウィリアム・ファンは、リーマン・ブラザーズの破たん以来、大部分の会社が第2、第3の予備計画を必ず用意し、不測の事態に備えるようになったと語りました。
「実際の危機に陥るまで、サプライ・チェーンについてはとにかく無駄を省くことにだけ取り組んできました。これまでの5年間で学んだものは、サプライ・チェーンには少し余裕を持たせる必要があるという事でした。100%無駄の無いものはかえって危険だという事です。つまりは弾力性が必要なのです。」
▽ 世界各地の危機的状況は誇張されているのか?
一方でこれら巨大企業の経営者は、夜も寝ていられなくなるような破滅への筋書きの存在を認めています。
ロシアに端を発した外交的緊張は、一層悪化する可能性があります。
西側先進各国が制裁を強化したことに対し、ロシアは天然ガスの供給をストップする対抗措置に出ました。
老人たちが支配するサウジアラビアという君主国家を打倒すれば、石油価格は急騰することになるでしょう。
そして、誰もが恐れるのが中国の政治的不安定または景気の停滞です。
今や地球的規模の生産拠点として、そして市場として、その存在は無視するにはあまりに大きすぎます。
ウォール街の経営者の一人が次のように語りました。
「今は中国の世紀だと言えるでしょうが、毎年好況が続く保証はありません。もし中国の市況が悪化すれば、経済関係者は皆パニックに陥ることになるでしょう。」
ウォール街の別の銀行の頭取は、中国経済の破たんは「回避不能である」と語りました。
巨大多国籍企業の社長は、中国と日本の間で戦争が起きることを何よりも恐れていると答えました。
世界各地で起きている危機が今日の多国籍企業を追いつめることは無いかもしれませんが、投資計画を変更する可能性は充分にあります。
2012年の尖閣諸島・ダイユー列島を巡る紛争が起きた際、日本企業は中国でボイコットに直面し、中国への輸出額は半減しました。
輸出は回復したものの、日本企業は中国への投資を引き揚げ始めました。
日本企業の海外直接投資の金額は2010年と比べ半分になり、全体に占める割合は7%に低下しました。
同様に、ウクライナを巡っての西側諸国とロシアとの争いは、ウクライナのエネルギー産業をグレードアップするための投資を呼び込むことを著しく不利にすることになりました。
そしてリビアとエジプト国内で発生している紛争は、ヨーロッパの製造業のハブとして発展するという北アフリカの希望に打撃を与えました。
国家の場合もそうですが、多国籍企業が求めるものは利益です。
信義に基づく恒久的な同盟関係や社会貢献など、期待する方が間違っています。
< 完 >
http://www.economist.com/news/business/21618815-death-chaos-destruction-theyre-not-bad-companies-you-might-think-profits-time?zid=306&ah=1b164dbd43b0cb27ba0d4c3b12a5e227
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現在の日本の政権を見ていると、『企業性善説』とも言うべき、この記事の結論とは全く逆の価値観を持っているような気がします。
「企業の業績が良くなれば、日本も良くなる。」
何かという言うと、この趣旨の発言を繰り返してはいないでしょうか?
そしてその閣僚は、前回のエコノミストの記事の翻訳( http://kobajun.biz/?p=20067 )でもご紹介した通り、「人種差別のデモを禁止する法律が出来たら、官邸前の抗議行動に対してもその法律を適用する。」と国民を脅す始末。
土台言うことがめちゃくちゃです。