ホーム » エッセイ » 「ストップ!スタート!」日本の原子力発電《後篇》
莫大な資金を必要とする原子力発電事業、莫大な額の税金を投入してきた日本
巨大地震が集中する日本において、原子力発電所の安全性への懸念は極めて深刻
エコノミスト 2016年10月15日
柏崎刈羽原子力発電所内に掲示されたポスターは『疑問を呈する姿勢』を奨励しています。
権威には素直に従うべきだという日本固有の文化を、敢えて変えようという試みのひとつです。
現在東京電力の安全委員会の議長をつとめる元アメリカ原子力規制委員会委員長のデール・クライン氏は、これらはすべて「進化の過程」にあると語りました。
新潟県の泉田前知事は、原子力発電所の周囲の住民のための避難計画に不備があると指摘しました。
「事故が発生した際、柏崎刈羽原子力発電所周辺で暮らす440,000人の人々を避難させるために必要な10,000台のバスを、いったいどうやって調達するか、具体的計画はありません。」
そして事故発生の際、電力会社、日本政府、新潟県がどのような責任分担の下、住民の避難を行うかも明確でないことも問題として残っています。
原子力発電に反対する市民グループは、原子力発電事業に関する電力会社の財務の健全性に対する懸念が、あまりにも莫大な金額の補助金を日本政府に負担させる結果になったと主張しています。
彼らは再生可能エネルギーの役割を大きくすることにより、将来の日本は原子力発電が無くても充分にやっていけると主張しています。
人口の減少に加え、東日本大震災と福島第一原発の事故発生以降、日本国内では省エネ化が一気に進み、電力消費量の伸びも抑制されたものになりました。
アメリカのNGOであるアメリカ省エネ会議は、日本をドイツの次に世界で省エネ化が進んでいる国と評価しています。
しかし東京大学の有馬純教授は、原子力発電所が稼働できない日本は輸入燃料に著しく依存し続けなければならないと指摘しました。
福島第一原発の事故発生以前の日本の全発電量の64%が、輸入した化石燃料を使った火力発電によるものでしたが、現在はそれが82%にまで上昇し、先進国中最も依存割合の高い国のひとつとなっています。
化石燃料の安定した輸入を続けるためには、混乱が相次ぐ中東諸国と良好な外交関係を維持する必要があります。
原子力発電の停止している分の穴埋めのための然ガスの大量の輸入は、発電コストを引き上げ、電気料金の高騰につながりました。
消費者の家計が圧迫されると同時に、日本の貿易収支を悪化させる一因ともなりました。
また原子力発電所の停止は環境面にも影響を及ぼしています。
天然ガスの消費量の増加に加え、原子力発電所の停止によって発生した不足分を補うため再び稼働した設備の古い火力発電所、はるかに多くの温室効果ガスを放出します。
石炭火力だけでも、2010年の25%と比較すると、その依存割合は31%に上昇しました。
これに石油と天然ガスを加えた化石燃料の発電割合は、今日2010年の61%から85%にまで上昇しています。
これにより日本が2030年までに二酸化炭素の排出を26%削減するという目標は、ほとんど達成不可能になったと見られます。
さらにはたとえ日本が現状に加え、なんとか2、3の原子炉を再稼働させることができたとしても、多くの設備はすでに老朽化してしまっています。
現在ある原子力発電所の再稼働ですら難しい状況で、新たな原子力発電所の建設など困難を通り越しています。
そして使った以上の核燃料を作りだすという高速増殖炉もんじゅの問題があります。
1兆円という途方もない国家予算をつぎ込みながら、1995年の稼働以降相次いだ事故のため、発電実績がわずか1時間というこの原発の廃炉を日本政府が決定できたとしても、すでに作ってしまった再処理核燃料を利用できる原子力発電所はもう存在しなくなりまるのです。
< 完 >
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この記事は原子力発電に関し、日本が直面している問題がいかに容易ならないものであるかを明らかにしたものと言えるでしょう。
特に『再処理事業』のデタラメさが、国全体をどうにもならない状況に追い込んでしまっていることに暗然とならざるを得ません。
結論部分、もんじゅや六ヶ所村再処理工場の継続を決めたところでどちらも技術的に行き詰っているのが現実であり、まさに八方ふさがりです。
大量の原発を動かすロシアや中国の原子炉燃料に再加工でもしない限り、持って行き場がないというのが「いつまでも続く現実」ではないでしょうか?
確かに火力発電の燃料輸入は確かに環境面、経済面では負の効果を生みますが、原子力発電所を動かせば処理不能の使用済み核燃料が積み上がります。
日本が再処理事業を止めることが出来ないのは、六ヶ所村再処理工場に『預けてある』国内各所の原発から出た使用済み核燃料の行き場が無くなり、万が一これらが排出した各原発に戻されるようなことになれば、どの原発の核燃料プールも使用済み核燃料でいっぱいになり、稼働できなくなるからだという指摘があります。
事ここに到った以上はこの問題の根本的解決に誠実に取り組む以外、この国の未来を安全で確かなものにする方法は無いと考えています。
仮に再生可能エネルギー発電所が50年経って使えなくなっても、残るのは鉄くずの類だけのはずです。
しかし原子力発電所を動かせば、無害になるまで何十万年、つまり実質的には永遠に人間にとって極めて危険な使用済み核燃料が国内に積み上がっていくことになります。
地震が多発し、湿度も高く、近年台風による被害も大きくなり続けているこの日本の国土のどこに、使用済み核燃料を永遠に安全に保管する場所があるのでしょうか?
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【 11月4日までの報道写真から 】
アメリカNBCニュース 2016年11月4日
11月4日トルコのディヤルバキルで、大きな爆発の後、損害を受けたアパートに座りこむ女性。
クルド人の中心都市とも言えるディヤルバキルでの爆発で、民間人と警察の双方に多数の犠牲者が出ました。(写真上)
11月1日諸聖人の日を祝うため、墓地を訪問したフィリピンの人々。
フィリピンではこの日、家族で墓をきれいにし、家族そろって墓前で食事や団欒をすることになっています。(写真下・以下同じ)
11月3日イラク南部、モスルの近くの火災を起こし黒煙を上げる油井近くで遊ぶ子供たち。
アメリカを始めとする攻勢により、撤退せざるを得なくなったイスラム国(ISIS)は12カ所以上の油井に放火、そこから上がる黒煙はロサンジェルス以上の面積に充満し、地元の慈善団体は数千もの家族が「煙で充満した地獄」で生活せざるを得なくなっていると報告しています。
10月31日イラク南部、モスルの近くフロントガラスが割れた車両で、ゆっくりと前線地帯を進むイラク政府軍の特殊部隊兵士。
この日、イラク軍はイスラム国(ISIS)が支配するモスルへの包囲の輪をじりじりと狭めていきました。
10月31日チェコ共和国のザーブラッキー湖で、伝統的なコイ漁の網を引く漁師たち。
伝統的なチェコのクリスマス・イブ料理に使われるまで、鯉は生簀で飼育されます。
http://www.nbcnews.com/slideshow/week-pictures-oct-28-nov-4-n678246