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星の金貨 東日本大震災や音楽、語学、ゴルフについて語るブログです。

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【 いきり立つ日本、突出する防衛予算 】

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第二次世界大戦以降最大規模に触れ上がる日本の軍事予算
基地建設反対派の新県知事の誕生とともに、沖縄への政治的圧力が一層強まっている

エコノミスト 1月19日

陸上自衛隊訓練
日本の軍事予算は、第二次世界大戦以降最大規模に触れ上がることになりました。

現在の日本の首相、安倍晋三氏は長年続いた軍事予算の削減を逆転させることを誓い、2012年政権の座に座りました。
以来安倍首相は3年連続でその『公約』を実現し続けています。

1月上旬、安倍政権は4兆9,800億円に上る記録的金額の防衛予算の一括法案を可決しました。
2002年に過去最高を記録した金額を超え、3年連続の増額を記録したことになります。

軍需品の購入品目には30台の水陸両用戦闘車両、3機の無人偵察機。6機の最新鋭F-35Aステルス戦闘機が含まれています。

日本の中谷元防衛大臣は、軍事予算の増額について、おなじみになった決まり文句「日本周辺の状況の変化」を理由に挙げ、ターボチャージャー付きの中国の台頭に対応するためのものだと強調しました。
防衛省の担当者は過去10年日本の軍事予算が縮小を続けている間、中国はその軍事費を30倍に増やしたことに言及し、日本は中国に追いつくべく巻き返しを図らなければならないと語りました。

中国海軍
新たな装備は、中国側が釣魚諸島と呼称し領有権を主張している尖閣列島を含む、離島の防衛力を強化する役割を果たすことになります。
予算の中には中国本土に最も近い国境の離島、与那国島に自衛隊のレーダー基地を建設する費用も含まれています。
防衛省はアメリカ海兵隊に倣い、日本にも同様の部隊の創設を狙っています。
日本はこれまでロシア、北朝鮮を仮想敵国とした防衛プランを重要視していましたが、現在は中国を念頭に南部、南西部へと戦略プランの変更を行っており、日本版の海兵隊はこの地域の離島を敵の手から奪還することを目的としています。

しかし構想の要のひとつであるべき沖縄県で、その戦略が崩壊する可能性が出てきました。

東京から南西に1,600キロ彼方にある沖縄本島は、日本国内にあるアメリカ軍基地の実に4分の3が集中しています。
選挙で現職を破り当選した翁長雄志(おおながたかし)新沖縄県知事は、日米両政府が進めようとしているアメリカ軍普天間飛行場の名護市辺野古地区への移設に反対することにより、米軍基地の存在のあまりの重さに対する沖縄県民の膨れ上がる怒りを得票に結びつけました。
現在、沖縄県民の怒りは人口稠密な宜野湾市の真ん中にかなりの面積を占有している普天間空軍基地に集中しています。
普天間基地は数十年の間、沖縄県民にとっては耐え難い騒音と許しがたい犯罪の温床であり続けました。

沖縄基地反対
2006年、普天間基地の設備の老朽化に伴い、日米両政府は比較的人口密度の低い沖縄本島北部の静かな漁村である辺野古に新しい基地を建設することに合意しました。
しかし、この合意が新たな論争を引き起こすことになったのです。

反対派は日米同盟に基づく国民の負担は沖縄県民も日本本土の住民も、等しく負担すべきであるとの考えから、新たな基地は日本本土に建設すべきであると主張しています。

現地で行われた世論調査では、沖縄県民の5分の4が辺野古沖に新たな基地を建設することに反対している事実を明らかにしました。

年長者の活動家たちは、建設現場に工事用のトラックが入るのを妨害する抵抗運動を始めました。

安倍政権が最終的に取りまとめた予算案では、沖縄県に対する一般歳出を160億円減額する一方で、普天間基地移設を始めとする米軍基地関連費用として1,470億円を計上しました。
それは安倍首相が反対運動を力で抑え込み、2020年までに海軍力の半分を太平洋に配置する計画を進める米国との同盟関係を一層強化するという、安倍首相の無言の意思表示でもあります。

翁長沖縄県知事に対しては、今後も基地建設反対派と手を結び続けることに対し、政治的圧力が強まり続けています。
与那国島の自衛隊基地建設反対問題では、2月22日に町民による住民投票が行われることになっています。

沖縄戦04
その結果は悲惨な沖縄戦を体験した平和主義に立つ人々の高齢化が進む中、その最後の抵抗を示すものになるか、あるいはもっと深刻な何事かを安倍首相に伝えるものになる可能性があります。

http://www.economist.com/news/asia/21640007-japans-military-budget-swells-its-largest-second-world-war-up-arms?zid=306&ah=1b164dbd43b0cb27ba0d4c3b12a5e227
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軍備の増強について政府は決まって『抑止力を高める』という言い方をします。
ちょっと込み入った言い方で恐縮ですが、実際には紛争が発生した際に、外交交渉より武力行使を行う可能性の方を高くする、そういうことになると思います。
私たち日本人は、ほんとうにそれで良いのでしょうか?

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【 第二次世界大戦、ドイツUボートの記録 】

アメリカNBCニュース 2013年10月23日
(写真をクリックして、大きな画像をご覧ください)

UB01
写真に残されたナチス・ドイツの潜水艦、U-576の残骸は72年後、アメリカ東海岸のノースカロライナ沖で発見されました。
「ほとんどの人は、大西洋におけるドイツUボートとの戦いが北大西洋の冷たい、冷たい海で行われていたことを連想します。」
アメリカ海洋大気局(NOAA)のデイビッド・アルバーグがこう語りました。
「しかし実際にはアメリカ合衆国のすぐ沖合で戦いが行われていました。ほとんどの人はそうした事実を知りません。」

10月21日NOAAは、ドイツのUボートの残骸がノースカロライナの沿岸わずか50キロの沖合で発見されたと発表しました。
U-576は1942年7月15日に沈没したアメリカの戦時輸送船ブルーフィールドの残骸から200メートル程離れた海底で発見されました。
ヴァージニア州とフロリダ州の間を哨戒中のアメリカ軍の対潜水艦哨戒機と輸送船団の護衛艦に発見され、攻撃の後U-576は撃沈され乗組員45名全員が死亡しました。

  U-576の乗組員。(写真下・以下同じ)
UB02
司令塔の周りに集まったU-576の乗組員。
U-576は輸送船団を発すると直ちに魚雷を発射、3隻の輸送船に命中しましたが、このうち
ブルーフィールドが数分で海の底に沈みました。
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U-576の監視要員。このUボートは、1941年9月から1942年7月の間北極海、北海、大西洋で計5回出撃しました。
UB04
U-576の船長、ハンスディーター・ハイニッケ。
UB05
ドイツが大西洋の制海権を巡って戦いを続けていた当時、フランスのサン・ナゼールにUボートの基地を作りました。
そこに帰還してきたU-576。
UB06

http://www.nbcnews.com/news/world/archive-photos-show-german-u-boat-crew-world-war-ii-n231596

【 イスラム国はなぜ、残虐な殺人を続けるのか?日本人が敵としているのは、いったい何者なのか? 】《後篇》

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所要時間 約 10分

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その正体は世界中から殺人嗜好者を集め、殺人そのものが目的化してしまった狂信者集団
神の名の下に崇高な使命を遂行すること、すなわち連続殺人を続ける事こそ究極の目標

ジョージ・パッカー / ニューヨーカー 2月3日

後藤健二氏01
イスラム国はなぜめったやたらと、世界中の国々に向け宣戦布告するのか?
こうした疑問が生じることは当然です。

次に彼らがどのような行動に出るのか、そしてどの程度の戦闘能力・統治能力を持っているのかを明らかにしたいと、誰もが考えていることでしょう。

しかしイスラム国は通常の論理プロセスを受け付けず、世界が認識を共有する費用対効果分析に基づいて行動している訳でもありません。
彼らは損失を惜しむことも無く、状況に応じて野心を小さくすることもありません。

驚くべきことにイスラム国は自分たちがカリフ、すなわちムハンマドの代理人であると自ら主張し、他のイスラム教徒に限らず世界に衝撃を与えましたが、妄想というのも愚かしい、馬鹿も休み休み言えというのが大方の反応です。

しかしイスラム国にとってその主張こそは正真正銘の本音であり、世界中から新兵を呼び寄せるための最大のプロパガンダなのです。

ISIS03
彼らは目的達成のため、政治理論や正規軍の力ではなく、黙示録のシーンが思い浮かぶような驚愕と衝撃を多用します。

イラク第2の都市モスルが今年6月イスラム国に占領され、アメリカ政府に衝撃が走りました。
その後しばらく、バグダッドの陥落も視野に入る程の勢いを示していました。
2カ月後、今度はシンジャール山岳地帯で暮らすヤジド派の人びとへの大量虐殺を目的とした攻撃が発生、良心のかけらも感じられないその様子に世界が衝撃を受けました。

そしてこの時、人質の首を切り落とす悪名高い処刑が始まり、西側先進国は再度衝撃を受けることになったのです。

そして2014年1月、後藤健二氏の断頭が、日本に衝撃を与えました。

遅かれ早かれ、誰もがイスラム国の真の姿を目の当たりにすることになっていたのかもしれません。

しかしイスラム国がもし、『有志連合』への参加国数をこれ以上増やさないようにすること、あるいは連合からの脱落を促そうとしていたのであれば、その戦術はこれまでは成功していません。

最終的にイスラム国を他のテロリスト集団と同一視することにこだわり続けることは、あまり懸命な事ではありません。

人質の首を切断し、その様子を動画で公開するやり方はイスラム国の前身である『イラクのアルカイダ』の設立者、アブー・ムスアブ・ザルカーウィーが考案したとされていますが、その残忍さについてアルカイダさえ苦言を呈していたと言われています。

IRAQ01
アフガニスタンとパキスタンの国境の山岳地帯に隠れ潜むアイマン・アル・ザワーヒリーは、もはやイスラム国の動向とは無関係なのでしょうか?

少なくともザルカーウィーは自分の役割を熟知していたと考えられます。
そして彼はそれを着実に実行しました。
現在イスラム国の所業が一層残酷なものになっているのは、ザルカーウィーの後継者たちに責任があります。

今回の事件のポイントは、行なわれる暴力に制限をくわえれば、達成されるものにも限界が生じるという事実です。
暴力こそが目的化してしまっているのです。
そしてそれは酷ければひどい程良いのです。

イスラム国は建国運動の仕上げとして、何千人もの人間を殺すわけではないのです。

殺人こそが最終目的なのではないでしょうか?

神の名の下に崇高な連続殺人を行う事こそ、彼らの究極の目標なのではありませんか?

彼らが現実に行っている大量処刑こそは、イスラム国の持っている本当のビジョンに関わる重要な証拠だと言わなければなりません。

year 11
『カリフ』の呼びかけに対し、中東・北アフリカはもちろん、ヨーロッパ、アメリカからも安全で快適な生活を捨ててまで、この恐ろしい目的を達成することに若者たちがひきつけられていく現実を無視するわけにはいきません。
これ程残忍な行為が行なわれることに対し、世界各地から新たに集まった若者たちは後悔していないのでしょうか?
事実は逆なのです。
極端な暴力行為こそが、若者たちをイスラム国に集める原動力のひとつになってしまっており、その数は増大を続けています。

昨年ヴァイス・ニュースが、シリアの領土内にあるイスラム国の首都ラッカでドキュメンタリー番組を制作しました。
この中で衝撃的だったのは、各国から集まったイスラム国の戦闘員の顔に浮かぶ満足げな幸福感でした。

彼らが犯すリスクはきわめて大きなものですが、代わりに得ているものはありふれた連帯感とそう変わるものではありません。
彼らを人間として極めて危険な存在としているものは、理想主義でしょうか?

こうした意味でイスラム国はこれまで存在した全体主義国家とも国権主義国家とも異なります。
いわば大量虐殺狂信集団とも言うべき存在なのです。

クルド09
通常こうした狂信主義者は他の人間をひきつけることは無く、その脅威も限られています。
周囲に危険をもたらす前に、自滅の危険をはらんでいます。

しかし絶対の正義を実現するためと称しながら、手段と目的がごちゃまぜになり、気がつけば理想の実現のため大量の死体の山を築いた例は、歴史上すべての社会においてみられる事なのです。

イスラム国は一部地域における氾濫、あるいは世界的規模のテロリスト・ネットワーク、そのいずれでもありません。
しかしその両方の要素を持っています。

建国の理念、そして軍隊、その両方に狂信的殺人願望が脈々と息づいています。
過去にこうした実例が無かった訳ではありません。
犠牲者の数に諸説はありますが、カンボジアで100万人以上を虐殺したとされるクメールルージュも、大衆運動の形をとった前衛的狂信者集団でした。

イスラム国は殺人イデオロギーによって統治される現代社会における特定の体制に似ている一方、これまで見たことも無い何かをはらんでいます。
ユーチューブを使った残忍な公開処刑を行うなどの行為は、彼らに対する分析を困難なものにしています。

Paki03
しかし今や必要なことは行動の意味を分析したり、次に起きる事件を予測することではありません。
歴史が教えているのは、この集団がなおも成長を続け、長く世にはびこる可能性があるという事です。
そしておそらくは自滅することも無いだろうということ…

誰かに滅ぼされない限り、イスラム国は生き続けることでしょう。

〈 完 〉

http://www.newyorker.com/news/daily-comment/isis-murdered-kenji-goto
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この結論を読んで、《前篇》を再度ご覧いただくと解ることがあります。
それはイスラム国のクルド人の都市コバーニへの攻撃目的です。
ひとつは、世界各国から集まる『志願兵』のイスラム国への入国ルートの確保。
そしてふたつ目が『異端者』クルド人の大量処刑です。
コバーニが陥落しなかったことに、心からほっとする思いです。

しかし一方でこの記事が示唆しているのは、現代社会の何がイスラム国を生むのか?という事です。
固定化し、閉塞した格差社会です。
その理不尽さに対する怒りを表現することが暴力に直結してしまう、イスラム国はそんな人間たちを呼んでいるのではないでしょうか?

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【 イスラム国 - トルコ-シリア国境で高まる緊張 】《再掲載》

アメリカNBCニュース 10月21日
(写真をクリックして、大きな画像をご覧ください)

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トルコとの国境沿いにあるシリアのコバーニでは、9月中旬からイスラム国による攻撃が激化する中、クルド人たちが町の防衛に苦しんでいます。

10月21日、イスラム国との戦闘で死亡したクルド人戦闘員3人の葬儀で嘆き悲しむ人々。(写真上)

10月20日、自分たちが住んでいたシリア、コバーニで上がる爆発の噴煙をトルコ南東部のムルシットピナル村から眺めるクルド人避難民。(写真下・以下同じ)
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10月20日の戦闘で死亡したクルド人戦闘員の葬儀。
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10月20日、郊外のスルクから見たコバーニ市内の爆発。
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10月19日、スルクの南東部にある避難民キャンプの中を歩く母子。
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10月21日、たき火にあたる避難民キャンプの子供たち。
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http://www.nbcnews.com/storyline/isis-terror/tension-mounts-along-turkey-syria-border-n230796

【 イスラム国はなぜ、残虐な殺人を続けるのか?日本人が敵としているのは何者なのか? 】《前篇》

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所要時間 約 8分

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後藤健二氏の殺害は『日本の9/11』、日本も米国・英国と同じ危険に直面することになった
すでに多くの国々を敵に回しているのに、なぜ彼らは進んで敵を増やすような行為を続けるのか

ジョージ・パッカー / ニューヨーカー 2月3日

後藤健二氏01
なぜ、日本人2人目の人質である後藤健二氏を処刑してしまったのでしょうか?
ジャーナリストの後藤健二氏が首を切り落されるまで、日本人はすでにイスラム国との戦争が始まっているという認識すらありませんでした。
その時点で日本が行なっている事のすべては、イスラム国と直接戦いを行っている国々に対し2億ドルの人道援助を行うということ、それがすべてである、そういう認識でしかありませんでした。

そしてロンドンなまりの英語を話し、これまでもアメリカ人、イギリス人の処刑を行ってきたジハーディ・ジョン(聖戦士ジョン)がビデオに登場し、これから地球上の日本人すべてを殺害の対象とすると脅した後、後藤氏の首を切り落としてしまったのです。

その結果、東京大学の政治学者がタイムズ紙に語ったように
「イスラム国の残虐な行為は、日本に新しく厳しい現実を突きつけたのです。私たちは日本もまた、アメリカやイギリスが直面しているのと同じ危険にさらされることになった事を理解しなければなりません。」

一部の人々は、後藤健二氏の殺害を『日本の9/11』と表現しています。

ではなぜイスラム国はヨルダンとの交渉を決裂させたのでしょうか?
ヨルダンの『9.11』が発生したのは2005年11月9日でした。
首都アンマン市内の3つのホテルでイラク人による自爆テロが発生、結婚披露パーティーに参加していた27人を含む57人が爆殺されました。

ISISヨルダン・パイロット02
結婚式会場の爆破犯人の一人サジダ・アル・リシャウィという名の新婚女性でした。彼女は無数の爆弾を装着したベストを爆発させることができず、裁判で死刑の判決を受け、ヨルダン国内で服役していました。
このリシャウィ死刑囚と後藤さん、そしてイスラム国の捕虜となっているヨルダン人パイロット、モアズ・カサスベ中尉との人質交換が取りざたされ、そしてその交渉が決裂したものと見られています。

人質の死亡は交渉の決裂が原因なのでしょうか?
イスラム国が次の侵略目標としていると見られるヨルダン国内では現在、イスラム国に対する世論が沸騰しています。
イスラム国は今回の交渉において、金銭的利益もまったくなく、リシャウィ死刑囚の奪還も果たせず、得たものと言えば世界中からの敵意だけでした。

ヨルダン人パイロットを生きたまま焼き殺すという極めて残忍な殺害方法は、戦術的にまったく意味を成しません。
その様子を収録したビデオの3日火曜日の公開など、なおさらのことです。
ヨルダンの人々を憤慨させるだけです。

組織はこの殺害を行ったのはイスラム国であると宣言しました。
彼らはこうした行為が『戦友』の士気を高めると考えているのかもしれません。

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一方、グループの状況を見ると、その手元には世界を脅かし、怖がらせ、要求をつきつけるために利用できる人質が尽きかけていることがわかります。
イスラム国の勢力圏内で姿を消してしまった数百に上るシリア人ジャーナリスト、性的奴隷として扱われているヤジド族の女性たち、そして意思に反して支配下にいる何千何万のシリア、イラクの一般人は、残念ながら国際世論に対しそれ程の影響力は持っていないというのが現実です。

イスラム国の攻撃を自分たちの『9.11』であるとする国のリストを長くしていくことに加え、人質たちの『首を切り落とす』ことにはどのような戦略があるのでしょうか?
すでに世界の多くの国々を敵に回してしまっているのに、なぜイスラム国は進んで敵を増やすような行為を続けるのでしょうか?

その結論を出す前に、イスラム国はなぜ戦略的には重要ではない、トルコ国境沿いにあるシリアの都市、クルド人が暮らすコバーニの奪取にこだわったのかを考えてみましょう。
コバーニに対してイスラム国は外国から志願してきた兵士を含め数千人を送り込みましたが、数か月に及ぶ市街戦とアメリカ軍が主導する空爆により、1,000人を超える犠牲を払いました。

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クルド人たちは破壊されつくしたコバーニに立ち、大きな犠牲を払って手にした勝利を前に、この戦いが自分たちにとってのスターリングラードの戦いであったと、誇りを新たにしたかもしれません。
コバーニの状況を伝える写真を見る限り、スターリングラードに例えることは決して大げさではありません。
世界はコバーニの人々に借りを作りましたが、もしクルド人国家が樹立されることになれば、この戦いはその重要なマイルストーンとみなされるようになるかもしれません。

しかしなぜ、イスラム国側はかなりの数の戦闘部隊をこの場所で犠牲にしてしまったのでしょうか?
イスラム国のより大きな狙い、それはかつてメソポタミア文明を育んだチグリス川・ユーフラテス川流域一帯を支配することにあるのでしょうか?

しかしそれならなぜ、イスラム国の宣伝担当者は、遠く離れた場所にある国々、日本やフランスを始め数千万数億の人々に対し、YouTubeやツイッターを使ってめったやたらと宣戦布告するのでしょうか?
〈 後篇に続く 〉

http://www.newyorker.com/news/daily-comment/isis-murdered-kenji-goto
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この記事はイスラム国が繰り返す残虐な『殺人』について、際立って他とは違う結論を提示することになります。
その「日本のメディアは言えない」結論は明日公開予定の後篇でご紹介いたします。
ぜひお読みください。

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【 壊滅した故郷を呆然と眺めるクルド人兵士 】

アメリカNBCニュース 2月2日
(写真をクリックして、大きな画像をご覧ください)

壊滅したコバーニ
25歳のクルド人狙撃兵のムサは1月30日金曜日、ビルの屋上から壊滅したシリアの国境沿いの都市、コバーニの様子をじっと見つめていました。
イスラム国との苦しい戦いを続けてきたクルド人勢力は1月26日、トルコとの国境に近いこの戦いの象徴となった町の奪還に成功しました。

アメリカ国務省の幹部は、米軍が主導する空爆により、1,000人以上のイスラム国兵士を殺害したと公表しました。
その中には数多くの幹部級の兵士、並びにイスラム国の主力戦闘員が含まれていると語っています。

ペシュメルガ(クルド人民兵組織)とシリアの民兵組織は、アメリカ政府がトルコ政府と交渉の上トルコ領内に設置した進出路を通ってコバーニに兵員と物資を送り続け、イスラム国との形勢逆転に成功したのです。

壊滅したコバーニ02
http://www.nbcnews.com/storyline/isis-terror/kurdish-fighter-returns-decimated-syrian-city-n297486

【 『積極的平和主義』という名の平和主義の放棄、日本の市民の足元に迫る脅威 】《後篇》

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所要時間 約 9分

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軍事同盟国を増やし、武器輸出の規制を緩和し、憲法第9条の解釈を変更し、自衛隊の増強に注力
安倍政権が舵を取る経済大国から軍事大国への転換

リチャード・ジャバード・ヘイダリアン / アルジャジーラ 2月1日

人質事件ALJ
▽ 資源エネルギーをめぐる利害を超える事態

天然資源に恵まれない日本は、産業力において世界をリードし、世界で第3位の規模の経済を誇る国を作り上げましたが、世界の中で最も資源に恵まれない国々のひとつであるという現実に変わりはなく、2011年に発生した福島第一原子力発電所の事故以来続く危機によって、事態はかえって深刻になっています。
そして日本が消費する化石燃料の90%を供給しているのが中東地域です。

第二次世界大戦後の日本が実現した『経済の奇跡』、それを支えた重要要素のひとつは中東が供給し来た原油でした。
その中東の資源に対する著しい依存が、何かある度日本と中東を繰り返し世界規模の大変動へと追いやることになったのです。
こうした実情を考えれば、日本が1970年代と1980年代に発生した「オイルショック」によって、最も深刻な打撃を被った国のひとつになったことに何の不思議もありません。

長い間、日本はイランを含む多くの中東産油国の最大のお得意様であり続けました。
しかし一方で日本はその経済的影響力を中東地区全体に均一に行き渡らせることに、長い間苦労を続けてきました。

日米艦船
日本の最大の同盟国であるアメリカは、何十年もの間アジア地区における安全保障体制の元締めとしての機能を果たしてきました。
日本は中東における『有力同盟国』として中東地区で何かが起きる度、そのアメリカの外交方針に繰り返し従わざるを得ませんでした。
イランへの大規模投資の凍結、1991年のサダム・フセインに対する米軍・NATO軍による湾岸戦争、2003年の『同盟国有志による』イラクへの侵攻、日本はそのすべてを『支持』してきました。

平和憲法による制約は、日本が海外において軍事力を行使することを厳格に規制されています。
このため西側先進国が中東情勢の動乱にあたふたした挙句、繰り返し軍事介入を行った際も、日本はその役割をほぼ金融面の支援にのみ限定してきました。

日本は第一次湾岸戦争の際、最大の資金提供元になり、イラクを域に回した米軍・NATO軍に対し、130億ドル(約1兆5,300億円)を拠出したのです。

▽ 安倍政権が舵を取る経済大国から軍事大国への転換

中国の急速な台頭と朝鮮半島の政治情勢の不安定さが増す中で、日本は近年その外交方針を急ぎ見直す必要にせまられました。

Abeno07
安倍首相は東シナ海にある尖閣列島(ダイユー諸島)を巡る中国との危険なレベルに達している領土紛争を利用し、さらには経済の復興と人口の若返りを国民に約束することにより、日本の政権を取り戻すことに成功しました。

安倍首相は公約に従い『アベノミクス』と称する大規模な経済政策を実施しましたが、間もなく何十年も続いている日本の経済停滞を終わらせることができる程の政策ではないことが明らかになりました。

しかし外交政策の転換については、きわめて積極的でした。
首相就任以来2年の間に複数の大陸との間を数度往復し、何十カ国も訪問することによって日本の外交方針を転換し、フィリピン、ベトナムといった重要な軍事同盟国を増やし、武器輸出に対する規制を緩和し、憲法第9条の解釈の変更により集団的自衛権の行使を可能にし、自衛隊の能力を強化する点においては、安倍氏は歴代首相の中で最も精力的でした

今年早々には、安倍首相は第二次世界大戦以降、最高額となる防衛予算を承認しました。
5兆円に上るその軍事予算により、F-35ステルス戦闘機、イージス艦戦闘システム、P-1海潜哨戒機、ノースロップ・グラマンRQ-4無人攻撃機その他に代表される最新技術を駆使した兵器の購入など、すでに世界有数の軍事力を誇る自衛隊の一層の強化が可能になりました。

トルコ原子力協定
西側先進各国と主要同盟国の中で日本の存在感を高めていくという安部首相の方針のひとつが、イスラム国対策を続ける周辺各国に対する2億ドルの資金供与だったのです。

それにもかかわらず、2人の日本の人質の悲劇的な死は、安倍首相が唱える『積極的平和主義』、すなわち海外紛争に進んで関わっていくという方針に対し、日本国内でくすぶっていた懸念に火を点け、そして反対意見を持つ人々を立ち上がらせる結果になりました。

安倍首相は今回の人質事件で2人の犠牲者の殺害に心を痛め、これ以上日本が海外の紛争に進んで関わることを望まない平和主義的な日本国民の意向を完全に無視して、西側同盟国との間の国際貢献に今後は日本も積極的に参加するという盟約 – 具体的にはイスラム国などの要求には決して屈しないとするアメリカ、イギリスなどとの方針も含めた『積極的平和主義』を、やみくもに推進するわけにはいかなくなっています。

〈 完 〉

※リチャード・ジャバード・ヘイダリアンは、中東・アジア地区の地政学・経済問題の専門家であり「資本主義はどのようにアラブ社会を破壊したのか」「中東動乱の経済ルーツと不安定な未来」などの著作があります。
本稿で示される見解は著者個人のものであり、必ずしもアルジャジーラの編集方針を反映しているわけではありません。

http://www.aljazeera.com/indepth/opinion/2015/02/abe-vision-threat-150201060458999.html
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ヨルダン人パイロットが『焼き殺され』ていたことが解り、ヨルダン政府が死刑囚2名の死刑を執行しました。
後者は法に基づく処刑ですが、どのような形にせよ『殺し合い』が始まったことに慄然とせざるを得ません。
焼き殺すなどというのは言語道断の行為です。
江戸時代日本にも『火あぶりの刑』はありましたが、その残酷さから、火をつけてから間もなく2本の槍を突きいれてとどめをさしていました。
そして交戦中ではあっても国際協定が存在し、捕虜虐待は国際法により禁じられています。
それが完璧な無法状態の殺戮が現実になっている場に、日本も巻き込まれてしまいました。

現在閲覧中の海外記事には、日本はすでに『交戦状態』にある、というものがありました。
振り返れば、太平洋戦争の実質的な始まりは真珠湾攻撃ではありませんでした。
張作霖爆殺、あるいは盧溝橋という『事件』が発端であり、その時も『抗日テロの激化』に対し『非の無い日本が屈することは無い!』と声高に叫ぶ声に、冷静な議論が圧殺されて行ったのです。

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【 故国を逃れ、隣国の路上で命をつなぐ人々 】《再掲載》

アメリカNBCニュース 2013年11月17日
(写真をクリックして、大きな画像をご覧ください)

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開戦から3年が経つにもかかわらず、一向に収束する気配の無い隣国シリアの内戦は、レバノンにとって社会的・政治的に大きな重圧となり続けています。
人口わずか400万人のレバノンには、どこよりも多くのシリア難民が流入しました。
国連によると約200万人の国民がシリアを脱出しましたが、そのうちの半分は子供たちで占められています。
レバノンの路上で命をつなぐ、子供を含めたシリア難民の数は5万人とも、7万人とも言われています。
レバノンの裕福な地区では、シリア難民が物乞いをするか、ごみ箱をあさるか、あるいは道行く人々の靴を磨いている姿が、あらゆる街区で頻繁に目につきます。

シリアのアレッポを脱出し、ベイルートの富裕な地区で物乞いをする女性。(写真上)

シリアのダマスカスを脱出し、娘とともに物乞いをする女性。(写真下・以下同じ)
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くず鉄を集めるシリア難民の10代の少年。(下2点)
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シリアのダーラを脱出し、ベイルートの富裕な地区で靴磨きをする15歳の少年。
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靴磨きをしている少年の手。
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【 『積極的平和主義』という名の平和主義の放棄、日本の市民の足元に迫る脅威 】《前篇》

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残忍な殺され方をした人質を悼む日本の人びと、海外紛争への積極的関与を主張してやまない安倍首相
日本人の心に息づく平和主義の文化、思うに任せぬ安倍氏のタカ派的外交実現への野心

リチャード・ジャバード・ヘイダリアン / アルジャジーラ 2月1日

人質事件ALJ
日本の安倍晋三首相が中東各国を歴訪し、イスラム国への対策を強化している各国を支援するため2億ドルを拠出すると宣言した直後、日本の市民はイスラム国に拘束された2人の日本人人質、後藤健二氏と戦場で捕虜になったもう一人の男性が戦闘員の両脇にひざまずかされているビデオの画面を、恐怖の思いで見つめなければならなくなりました。

イスラム国に対する国際社会が連携した対策の実施に日本が加わることを批難し、人道的問題は中東全域に渡る問題であるという趣旨の演説を行った後、戦闘員の男は72時間以内に身代金として、先に安倍首相が援助を約束したのと全く同額の2億ドルを支払うよう要求しました。

日本が1月23日の身代金の支払いの最終期限を逸した後、昨年8月に誘拐された私設軍事顧問の湯川遥奈氏が殺害されたものと見られています。

この後イスラム国側の要求は変化し、第2の日本人人質、著名なフリージャーナリストである後藤健二氏を無事に釈放する代わり、現在ヨルダン国内に拘留中のイスラム国戦闘員の釈放という『囚人交換』の取引を提示してきました。
この一連の動きはシリアで誘拐された日本人が人質にされ、取引の材料にされた初めての例になりました。

ISISヨルダンパイロット03
昨年末の選挙の完全勝利により首相に再任された安倍晋三氏は、日本国民の命の安全を確保するために「あらゆる外交ルート」を使う「全面的な努力」を行うと誓いました。
安倍氏は中東世界の実力者たち、トルコのレジェプ・タイップ・エルドアン大統領、パレスチナ自治政府のマフムド・アッバス議長、エジプトのアブドル・ファタ・エル-シシ大統領、そしてヨルダンのアブドラ王の支援を取り付けました。

▽ テロリズムと日本

西側先進国の主だった国々、特に米国と足並みをそろえ、イスラム国側にどのような類いの身代金の支払いに対しても、安部首相は厳しい姿勢をとりました。
そして
「日本は、テロリズムに決して屈することは無い。」
と断言しました。
「日本は国際社会と手を携え、テロリズムとの戦いに一歩も引くことなく最善を尽くします。」

そして第2の日本人人質は、イスラム国によって頭部を切り落とされてしまいました。

人質事件01
事件の経過の中、イスラム国側の人質交換の提案に対し、イスラム国の空爆を行っていたヨルダン人パイロットを無事に生還させたいヨルダン当局が交換に応じる姿勢を見せた際、場面は劇的な転換を見せました。
これにより第2の日本人人質の後藤さんも無事生還できる可能性が出てきたのです

関係者の話では、日本とヨルダンの当局者は、イラク国内の部族的指導者や宗教的指導者を介して、イスラム国との交渉を続けてきました。

しかし結局は、後藤氏も湯川氏と同じ運命を辿らされることになり、これについて安倍首相は日本人人質の「身の毛がよだつような」「卑劣な」殺害を非難、
「日本がテロリズムに屈することは絶対に無い」と改めて誓うことになりました。

安倍政権の下で日本は、防衛方針を根本から変える野心的な計画の実施に乗り出しました。
各種の抵抗をものともせずに決断を繰り返す安倍流の政治手法は、日本国内ではそれなりの人気を得ています。

憲法第9条01
しかし今や日本人の心の奥底にはきわめて平和主義的な文化が息づいており、国際舞台において日本がこれまで以上に独自の、そして大きな外交的役割を担おうとする安倍氏の野心は思うに任せません。
そして今回の日本人人質を襲った悲劇は、こうした安倍首相のタカ派的外交路線に対する国内の反発を一層大きなものにする可能性があります。

〈 後篇に続く 〉

※リチャード・ジャバード・ヘイダリアンは、中東・アジア地区の地政学・経済問題の専門家であり「資本主義はどのようにアラブ社会を破壊したのか」「中東動乱の経済ルーツと不安定な未来」などの著作があります。
本稿で示される見解は著者個人のものであり、必ずしもアルジャジーラの編集方針を反映しているわけではありません。

http://www.aljazeera.com/indepth/opinion/2015/02/abe-vision-threat-150201060458999.html
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【 内戦という名の戦争、難民キャンプ、そしてずたずたにされた子供たちの心 】〈4・再掲載〉

アメリカNBCニュース 3月11日
(写真をクリックして、大きな画像をご覧ください)

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レバノンのベカー渓谷では約5,000人の国外脱出をしたシリア難民が、フェイダ・キャンプと呼ばれる場所で生活しています。
AP通信のニュース・カメラマン、ジェローム・ディレイとNBC放送の番組制作者である立花由香が2日間キャンプを訪問し、まだ成年に達していない戦争の生存者がどんな生活を強いられているか、取材と写真撮影を行いました。

8歳のイスラムは兄弟と一緒にシリアのバスラからこのキャンプに逃れてきましたが、それがいつだったのか正確な日付はもう覚えていません。
「ここよりもずっとシリアの暮らしの方が好きだったわ、学校も、友達も、そして自分の家も…」
(写真上)

レバノンの非政府組織の責任者に抱きしめられる12歳のファティマ。
ファティマは母親と一緒にシリアのイドリブから逃れてきましたが、父親はすでに亡くなっていました。
2ヵ月前、厳しい冬の嵐がキャンプのあるベカー渓谷に襲い、暖房設備の無い難民キャンプの環境は危険な程の低温状態に陥り、ファティマの母は命を奪われてしまいました。
ファティマは現在彼女の兄弟と一緒に暮らしていますが、できれば非政府組織の責任者である写真の女性、マリアと一緒に暮らしたいと願っています。
ファティマはマリアを『ママ』と呼ぶようになりました。(写真下・以下同じ)
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8歳のオラもシリアのイドリブから、2週間前に家族と一緒に逃れてきたばかりです。
シリア国内では食糧価格が暴騰し、満足に食事もできず、絶えず空腹だったと語ります。
戦争のため学校も開かれていませんでした。
自宅が爆破された時、幸いにも家には誰もいませんでした。
オラは絵を描くことが大好きです。
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8歳のアリヤムもシリアのイドリブから6ヵ月前、家族と一緒にバスに乗って逃れてきました。
12時間以上の逃避行の間、アリヤムが乗ったバスは何度も銃撃され、暴力も目撃しました。
戦争が始まる前、アリヤムは何の屈託もなく友達と遊んでいました。
しかし今は母親のそばから離れなくなりました。
母親のそばでなければ眠ることも無く、学校に行くこと拒否しています。
母親だけがアリヤムにとっての安らぎなのです。
アリヤムの兄は未だシリア国内に留まっています。
「お兄ちゃんがいなくて、とても寂しいです。」
アリヤムがそう話しました。
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キャンプで屋根の上によじ登って遊ぶ10歳のアドハム。妹のアリヤムとは異なり、アドハムは進んで学校に通います。
朝学校に行き、昼食時にいったん自宅のテントに戻りますが、夕方再び学校に戻っていきます。
彼は日中は家族のために働き、朝と夕方に大好きな学校に通っているのです。
イドリブの自宅で暮らしていた時、すでに学校は破壊されており、アドハムは通学することはできませんでした。
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14歳のバデルはシリア、ホムスの出身です。
彼は1年前のある日、家族のためにパンを買いに行く途中、足に狙撃兵が放った銃弾が命中しました。
彼は傷ついた足にまだ体重をのせることができずにいます。
「得意だったサッカーも出来なくなりました。今は友だちがサッカーをしているのを見ているだけになりました。」
彼は庭付きの大きな自宅に戻れる日を夢見ていましたが、その自宅は家族と一緒にレバノンに批難した一か月後、砲弾によって完全に破壊されてしまいました。
「もう今は何も残っていないそうです。」
バデルはさびしそうにこうつぶやきました。
彼は大人になったら弁護士になるつもりです。
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水を探しに来た10歳のラワン。シリア、イドリブから1年前に家族とともに避難してきました。
ラワンは戦争について忘れることのできない記憶があり、シリアにはもう戻りたくないと語ります。
「私は空を見上げた時、ヘリコプターから爆弾が投下される瞬間を見てしまいました。そして犬が人間の死体を食べているのを見たのです。」
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9歳のフィラス(中央左)と14歳のイド(中央右)は共に1年前シリアのホムスから逃れてきました。
9人兄弟のフィラスは、暴力が横行するシリアから逃れる事が出来、現在は安心して学校に通っています。
一方のイドはこう語りました。
「一日も早く自宅に戻り、テント生活から解放されたいです。」
イドにも8人の兄弟姉妹がいますが、現在は近くのザーレの町で働く、最年長の兄が頼りです。
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http://www.nbcnews.com/storyline/syrias-children/tiny-survivors-faces-endless-conflict-n49401

【 なぜ交渉は失敗したのか?テロリストとの交渉、そして報酬に関わる駆け引き 】

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人質の拘束・人質交換は、アラブ社会では勢力争いの際の常とう手段。相手の『交渉力』を見極めた対応が必要だった
イスラム国との人質交換は一部の国々にとっては悪夢、しかしその交渉はテロリスト集団と直接対決するより、効果的戦略である可能性がある

サイモン・ティズダル / ザ・ガーディアン 1月28日

ISISヨルダンパイロット01
イスラム国に捕らえられたヨルダンの空軍パイロットと引き換えに、何十人もの一般人を殺害したテロリストを釈放する用意があるというヨルダン政府の意思表示は、一部の西側諸国の政府、政治家、外交官をぞっとさせる決定です。
しかし中東諸国の多くは、このいわば捕虜交換が進行しても、肩をすくめる程度で大方は同意することになりそうです。

カリフ、首長、そして各部族が支配地域の争奪や勢力争いを行う際、人質拘束と人質交換は中東地域における常とう手段であり、それを生業とする人間たちの存在すら現実のものでした。
これは別にアラブ社会に限った事ではなく、非常に似たことは中世ヨーロッパでも起きました。
レオ9世がその典型的な例です。
皇子たちは格好の材料でした。
人質は通貨であり、事態を転換させるための『てこ』の役割を果たしたのです。
そして通常、死んでいるより生きている方が貴重な価値を持っています。

イスラム国の人質の取り扱いは、利用するのか、処刑するのか、その扱いは目的によって著しく異なります。

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見せしめのための処刑を人質をできる限り大々的に行うそのやり方は、国際社会におけるイスラム国の悪評を決定的なものにする一方、シリアとイラクにおけるその支配地域においては、立場の違いによる恐怖と尊敬を徹底させることにもなりました。
彼らは自分たちが演ずるドラマから受ける印象をより強烈にするため、動画や他のメディアを効果的に利用し、彼らに対する恐怖をいやがうえにも高めていく一方、交渉力も強めていきました。

こうしたイスラム国の一連の手口は、人質拘束を違法と考える西側の指導者たちにとって、基本的に受け入れられないものです。
彼らの要求に屈することはもちろん、交渉に応じたりその他人質交換に関わり合いを持つこと一切が、許せない事なのです。
その立場を具体的にしているのが、米国政府と英国政府です。
両政府は交渉そのものを否定はしませんが、譲歩をすることはありません。
結果的に人質交換に関わる一切の話し合いが無意味なものになります。

過去にイタリアその他のヨーロッパ各国の政府が、自国民を自由にするためにどんな種類の身代金の支払いにも応じました。
これに対し英米両政府は、結果的に将来より多くの人質拘束事件の発生につながるものであり、西側先進国同士の足の引っ張り合いにつながると批判しました。

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しかしそのアメリカ自身が昨年、アフガニスタンでタリバンの人質になっていたバウ・バーグダール陸軍軍曹と、キューバのグァンタナモ米軍基地に抑留していた5人のタリバン兵との人質交換に応じました。
この対応は国内外で論争の的になりましたが、米国政府はこれまでの方針を変更するつもりはないとしています。

しかし共和党のマイク・ロジャーズ議員は、この決定が「世界中のテロリストに、米国人を人質にとることの大きな誘因を作りだすことになった」として「米国の方針の根本的変換」を非難し、この決定が「これからアメリカの戦士の命を脅かす原因を作りだしてしまった。」と語りました。

ダブルスタンダードの問題は、より根深いものとなっています。
人質交渉を批判し、法に沿った裁きを行うよう求めている同じ人間が、裁判や訴追抜きでテロリスト容疑者をグァンタナモ米軍基地に長期間拘留することは、戦場で人質を連行することと何ら変わりない行為であるという批判があります。

この極めて複雑な状況に足をとられたのが日本政府でした。
日本政府はヨルダンとイスラム国の取引の中に自国民である後藤健二氏が含まれる中、その安全を確保できるのかどうか、折衝を続けています。

ISISヨルダン・パイロット02
日本政府は過去、誘拐犯に身代金を支払ったことがあると伝えられている一方で、1996年に発生したフジモリ政権下での在ペルー日本大使公邸占拠事件では、左翼ゲリラ側の要求には応じませんでした。

保守タカ派の安倍晋三首相は、こうした事件の際には犯人側の要求には従わないとする米国と英国の方針に、日本の歩調を合わせようとしているように見られています。
日本の外交官は、この事件を巡る一般市民の意見が割れていると語りました。
後藤氏を勇敢なジャーナリストと評価する人々がいる一方で、シリアの紛争地帯に入ったこと自体誤りであり自己責任を取るべきだとの意見も多数があると、この外交官は語りました。

安倍首相には今のところ、怒りをあらわにする一方で後藤氏の身を案ずる以外、なすすべがありません。
ヨルダン側が譲歩しない限り、後藤氏とヨルダン空軍のパイロットが生きていられる時間はあとわずかしかないというビデオが公開されたことに対し、「卑劣な」行為だと非難しました。

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英国トニー・ブレア政権時代に参謀長を務めたジョナサン・パウエル氏は、人質事件が発生すれば最終的には当事国の政府自身がテロリスト・グループとの交渉に臨まなければならなくなると主張します。

パウエル氏の見解では、どうせ交渉することになるのなら、その取り組みは早ければ早い程有利になります。
そうした接触を続けることで、人質解放と武力闘争路線の放棄を含む平和的解決が得られるための糸口をつけることができると、パウエル氏は主張します。

北アイルランド問題では、サッチャー政権時代は爆弾テロなどが相次ぎましたが、ブレア政権になってやっと直接IRAとの直接対話が実現し、人質解放と武力闘争路線の放棄屁とつながっていったのです。

http://www.theguardian.com/world/2015/jan/28/jordan-shows-negotiating-terrorists-reap-rewards
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この稿をアップした朝、後藤さんが殺害されたニュースが大々的に伝えられていました。
痛恨という言葉以外浮かびません。
その来歴と実績を思うと涙しか浮かびません。

ただ思うのは今回、見栄を切ったのはその周辺をボディガードがしっかり警護している保守タカ派の安倍首相、そして殺害されたのはヒューマニストであり、紛争地の子供たちの保護者であり、難民の人々を同じ人間として理解するよう絶えず訴えていたジャーナリストの後藤さんという一般市民だったということです。

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根拠の無い話で恐縮ですが、イスラム教というのはマホメットが生きていた6世紀前後のアラブ社会の、殺人、強盗、強姦などが当たり前のように行われていた状況を嘆いた彼が考えだした究極の解決手段だと、私は考えています。
マホメットがイスラム教の聖典を編集する際、先行していたキリスト教を参考にしたのは有名な話です。
窃盗犯の手首を切り落としたり、姦淫の罪に対する処刑方法が極めて残忍だったりするのは、そのせいではないでしょうか。
一方で偶像崇拝を否定、他宗教であっても規律正しい生活を送っているならその『異文化』社会は尊重しなさいと諭す一方、『野蛮人』には容赦なく聖戦を仕掛けよとするなど、合理的な論理性を有しています。
聖戦の対象を対キリスト教徒にまで広げさせたのは、十字軍遠征を行ったヨーロッパ社会の方です。
十字軍遠征は『聖地』にこだわったキリスト教徒が、イスラム教徒に自分たちを敵として認識させた意味を持っています。

この記事を翻訳していた時も、パキスタンでスンニ派の中の過激派がシーア派のモスクを襲撃し、50人以上を殺傷したニュースを伝えていました。
こうした争いは宗教的動機よりも、実は過去部族間抗争を繰り返していた遺伝子がそうさせるのではないか、ふとそう思いました。
人を殺せば殺す程何かが進展するなどというのは、マホメットなら言下に否定するに違いありません。
マホメットは明らかに『識者』と呼ばれるべき人であり、深遠な哲学者であった仏陀と同じ領域にいた『聖人』であったはずですから…

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【 内戦という名の戦争、難民キャンプ、そしてずたずたにされた子供たちの心 】〈3・再掲載〉

アメリカNBCニュース 3月11日
(写真をクリックして、大きな画像をご覧ください)

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レバノンのベカー渓谷では約5,000人の国外脱出をしたシリア難民が、フェイダ・キャンプと呼ばれる場所で生活しています。
AP通信のニュース・カメラマン、ジェローム・ディレイとNBC放送の番組制作者である立花由香が2日間キャンプを訪問し、まだ成年に達していない戦争の生存者がどんな生活を強いられているか、取材と写真撮影を行いました。

2歳になるシャハドがフェイダ・キャンプの外を歩いています。
彼女が1歳のとき、家族はシリアのホムスから逃れてきました。
母親のハタラがこう語りました。
「シリアでは子供たちが皆不幸な目にあっています。シャハドだけが例外であるはずがありません。」
シャハドの家族はシリアでは自分たちの家を持ち、子供たち全員が自分の部屋を持っていました。
「でも今は6人の娘と1人の息子の持ち物は、このテントだけです。」
(写真上)

9歳のモハメドは、シリア、ハレブの出身です。
モハメドト7人の兄弟、そして両親は2ヵ月前、このキャンプに到着しました。
「ぼくは、爆弾が空から落ちてくるのをみたことがあるよ。」
モハメドがこう離しました。
彼はシリアの自宅をすごく恋しく思っています。
(写真下・以下同じ)
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8歳のアイマンは、3人の兄弟、2人の姉妹と5ヵ月前、シリア、ハレブから逃れてきました。
彼女は、6メートル四方のテントで、両親と6人の兄弟姉妹と暮らしています。
ハレブでの生活は危険な上、食べるものにも事欠く有様で、それが脱出の理由でした。
彼女はキャンプ内の学校に通い、友人と遊んでそれなりに楽しんではいますが、今すぐにでもシリアに戻りたいと考えています。
彼女の夢は画工の先生になる事です。
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6歳のラニムと彼女の家族は、2月にシリア、ハレブから逃れてきました。
ハレブは治安状況が非常に悪く、食べるものも不足し、そして父親にとっては建設労働者としての仕事がありませんでした。
その父は、4人の子供たちが近くで戦いが行われていたために、もはや学校にも行くことができなかったと言いました。
「ここレバノンで少なくとも、子供たちは無事でいる事ができるのです、そして学校へも行くことができます。」
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12歳のマハムードと8人の兄弟姉妹は1年前に、このキャンプに逃れて来ました。
彼は午前8時から午後4時まで自動車修理工場で週6日間働き、週給30ドルを受け取ります。
通勤は徒歩で1時間ほどですが、すぐ下の弟のアーメド(11歳)も同じ修理工場で働き、こちらは週に12ドルしか受け取れません。
彼は教育機会を失ってしまうことを恐れ、夜学に通っています。
本当は働きたくなどないのですが、父親には仕事が無く他に選択肢は無いのだと語りました。
syr20
http://www.nbcnews.com/storyline/syrias-children/tiny-survivors-faces-endless-conflict-n49401

http://www.nbcnews.com/storyline/syrias-children/tiny-survivors-faces-endless-conflict-n49401

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ほんとうの「今」を知りたくて、ニューヨークタイムズ、アメリカCNN、NBC、ガーディアン、ドイツ国際放送などのニュースを1日一本選んで翻訳・掲載しています。 趣味はゴルフ、絵を描くこと、クラシック音楽、Jazz、Rock&Pops、司馬遼太郎と山本周五郎と歴史書など。 @idonochawanという名前でツィートしてます。
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