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【 『原発無き日本』をめぐる戦い 】[ニューヨーク・タイムズ]

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所要時間 約 13分

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次々に明らかになる、危険な場所に巨額の投資を行い、原発を建設した日本の電力会社の事歴

ヒロコ・タブチ / ニューヨークタイムズ 8月29日


福島第一原発の事故の後、日本は原子力発電を減らすために動いていますが、厳しい経済的現実と向き合っています。
原子力発電を直ちに廃止した場合、電力会社のうちの数社はその負担に耐え切れなくなる可能性があります。

仮に今年2012年のうちに国内にあるすべての原子炉を廃炉にしたとしましょう。
国内の電力会社は併せて4兆4,000億円の損失を計上しなければならなくなります。
そして少なくとも4社が債務不履行に陥る可能性が出てきます。
この結果は国の機関である資源エネルギー庁が試算しました。

ただちに原子力発電を止めた場合のこの巨額の損失は、日本政府に大きな懸念を抱かせることになりました。政府は厳格化された原子力発電の安全基準の実施への要求と、巨大電力会社によって運営される原子力発電所の実態とのバランスを取ることに苦労してきました。
日本の原子力発電は国内電力需要の約3割を供給してきましたが、現在はそのほとんどが停止しています。
「人々は原子力発電の廃止について比較的簡単に口にしますが、それに伴う経済的、財政的処理は大変厳しいものになります。」
東京国際大学のエネルギー・資源経済学、環境経済学を専門とする武石礼司教授がこう語りました。


日本政府は現在、原子力発電のへの依存を減らすための3つの選択肢を検討していますが、いずれの選択肢においても2030年までに各電力会社に対し、その償却を容易にするための方策を取りながら、原子炉を廃炉にすることが求められることになります。
そして使用期間を40年とする日本の規則により、2030年までには大部分の原子炉が、いかなる理由があっても廃炉にすることを求められることになります。

しかし、原子力発電所の付近の地殻で、次々に断層の存在が確認されるなど、新たな安全面での懸念も認識されるようになり、はたして原子炉の再稼働が最終的に可能なのかどうかという疑念も浮上してきました。
さらには廃炉まで18年という年限の設定も、怒りを募らせる国民に対し、政府の前提条件の置き方はおかしい、という不満を抱かせることになっています。

「どうしたら国民の生命、安全よりも経済を優先させることができるのですか?」
現代アートの芸術家で脱原発抗議運動のリーダーの一人である小田まさのり氏が、先週行われた野田首相との直接会談の後、こう問いかけました。
政府によって提示されている選択肢のうちのひとつは、2030年時点での原子力発電への依存割合を20%から25%としています。
もう一つは15%、そして残る最後の選択肢がゼロです。
政府は15%の原子力発電を続ける選択を望んでいましたが、湧き上がる世論は圧倒的に原子力発電の完全廃止を求めました。
ただ、いずれを選んでも、原子炉を順次再稼働していくことは必要だとされていたのです。


ここ数カ月の間に全国規模の総選挙が実施される可能性が高くなり、ここに到り、日本の各政党、そして現政権の閣僚までが原子力発電の廃止への支持を表明するようになりました。
原子炉の運命は、原子力発電とそれ以外の発電方法に関する、広範囲な白熱した議論の行方に左右されることになります。

原子力発電を廃止するために必要となる費用、経済的側面に議論は集中しました。日本最大の経営者団体、経団連は経済的に危機的状況に陥る、と警告しました。数万の雇用が失われると主張し、返す刀で再生可能エネルギーの実現には数多くの問題がつきまとう、と切り捨てました。

「福島第一原発の事故以降、化石燃料の輸入額は増え続け、日本の貿易赤字額は記録的に膨んでしまった。
この夏停電が起きるような事態は起きませんでしたが、電力不足は企業にとって負担になっている。
日本の温室効果ガスの排出も増え、再生可能エネルギーは風力も太陽光も小規模で不安定な割には、コストが高い。」
政治の場に影響力を発揮すべく結成された経団連は、このように主張しています。
「経済的に安価な電力が安定的に供給されなければ、日本の経済成長は不可能である。」
9月初旬、経団連は改めてこのように表明しました。


電力会社にとって、短期的な経済的苦境はより鮮明です。
今年政府による専門家の委員会は、京都の北約270キロにある志賀原子力発電所の下に活断層が存在する可能性があると、指摘しました。それが事実とすれば、原子力発電所の設置そのものが許されない可能性があります。
政府の試算によると、志賀原子力発電所の廃止が決定すれば、運営する北陸電力は3,130億円の損失を被ることになり、会社そのものが立ち行かなくなる可能性があります。
損失を構成するのは、廃炉が早まることによって発生する追加費用、核関連施設の評価減、そして核廃棄物と核燃料の処理によって発生する費用などです。

もう一社、窮地に陥る可能性があるのは中部電力です。
浜岡原発5号機は同発電所で最新、そして国内で最大規模の原子炉ですが、同社はこの原子炉を何とか救済しようと熱望しています。
この原子炉は2005年に稼働を開始しましたが、浜岡原発は津波による被害が非常に発生しやすい場所にあることから、昨年5月、当時の菅前首相の指示により停止したままになっています。
しかしこの原子炉は停止中に発生した配管の断裂により、約5トンに上る海水が原子炉内部に入り込んだため、炉心が損傷してしまっている可能性があります。

経営規模の小さい2社、北海道電力と東北電力の場合、事態はさらに悪い可能性があります。
原子力関連施設の評価損により、債務超過に陥る可能性があると政府が試算しました。
2社が所有している原子力発電所の巨大地震に対する危険性は、これまで考えられていたよりも一層高い可能性が出てきました。


そして東京電力。
日本最大の電力会社であり、事故を起こした福島第一原発の所有者。
同社は所有する稼働可能な(福島第一原発の5号機、6号機の2基と、16キロ離れた場所にある福島第二原発の4基を含む)13基の原子炉の再稼働ができない場合は、1兆1,500億円の追加の欠損を計上しなければなりません。

福島第一原発、福島第二原発が立地する福島県は、県内の全原子炉の廃炉を求めています。
ただでさえ福島第一原発の事故処理と賠償のため巨額の債務を抱え、実質的に国有化された東京電力にとって、福島第一原発、福島第二原発ともに廃止の決定は、致命的事態となり得る可能性があります。

CLSAキャピタルパートナーズ・ジャパン株式会社で、日本の電力会社を担当するアナリスト、ベン・バワーズ氏は次のように語りました。
「私は数年のうちに、日本の各電力会社が原子力発電所をゼロにするよう迫られることにはならない、そう考えています。」
「そんなことをすれば、電力会社数社が債務超過に陥ってしまいます。」
「そのような選択をすべきではありません、だって他に電力会社は存在しないのですから。既存の電力会社が営業を続けられるような、選択をすべきだと思います。」

原子力発電所の廃止に前向きな人々は、事故が起きた場合には、その経費がたちまち巨額に上ることを考慮すべきだと語ります。
彼らは再生可能エネルギーの開発について楽観的であり、とりわけ国の重点的な支援により開発が加速するものと見ています。そして新たな技術の開発により、二酸化炭素の排出も削減され、新たな雇用創出も可能であると考えています。


「経済面における原子力発電の仮定は、もはや成り立たなくなりました。」
東京の青山学院大学の本間照光経済学部教授が、このように語りました。
「原子力発電についての最大の前提条件、それは事故は起きない、という事だったのです。」

たとえ危険であることが解っていても、電力会社は政府に対し原子炉の再稼働を働きかけるべき、強い動機があります。
しかし、いったん事故が起きてしまえば、その処理費用は電力会社の資産価値をはるかに超えるものになる可能性が高く、いかなる災害が発生しても政府ともども解決にあたると説得を試みましたが、民間の保険会社は電力会社の保険加入に応じようとはしませんでした。

そうとなれば、日本国内の原子炉を再稼働する場合、その金銭的リスクを負うのも、安全上のリスクを負うのも一般国民、一般の納税者という事になります。
しかしもし利益が得られたとしても、それはすべて、電力会社とその株主の手に渡ることになります。

この点について、ハーバード大学法学部のJ.マーク・ラムザイヤー教授は学術誌に今月掲載した、日本の原子力産業界をテーマにした論文『論理的な疑問』の中でこう述べています。
「彼らは利益については総取りにしますが、一方の義務はと言うと、それを引き受けるつもりは無いのです。」


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中部電力・浜岡原発


長文なので一回で掲載することをためらったのですが、途中で切るとおかしなことになるので一気に掲載しました。
最後までお読みくださった方、お疲れさまでした。

ところでもう何度もご紹介したのですが、この記事こそは広瀬隆さんの著作「原子炉時限爆弾」(ダイヤモンド社)との読み比べをお薦めしたものです。
と言うのも、この著作の中で広瀬さんは、3.11発生以前すでに、日本で一番危ないのが中部電力の浜岡原発、次に危ないひとつが東京電力の柏崎刈羽原発である、と指摘されていたからです。
どちらも極めて軟弱な地盤の上に建設されているにもかかわらず、指摘を受けると学問上は明らかにおかしい言い逃れを重ね、今日に至っている、とそう指摘をされています。
日本全国、どの原子力発電所の建設においても、こうしたごまかしや危険な事実の隠ぺいが繰り返された。
そしてそれを『むしろ進んで』追認していた原子力安全・保安院や原子力委員会などの国家機関。

さらには国内の全原子炉の廃炉費用に4兆4千億円の費用が必要とありますが、国は高速増殖炉もんじゅに対してだけですでに5兆円をつぎ込んでいるはずです。
そしていろいろな名目をつけ、様々な形の『補助金』が、支出されているはずなのです。

記事中の電力会社のコメントなどを見ていると
「原子力発電所はもうこれだけ作ってしまったんだ!これをどうしろと言うのだ?」
と、私たち国民に向かって開き直られているような気がしますが、

▽できたものをどうするのかの責任

ではなく、

▽危険とわかっていて、なぜそんな巨額投資を行い、原発建設を進めたのか、その責任

これをまず、事実の検証と議論を重ねながら明らかにしていく必要があると思います。
そうでなければ、ゼロも、15も、25も、単なる数字いじりに終わってしまいます。

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