ホーム » エッセイ » アベさん、経済再生の公約を反古にして改憲に走ったら、地獄を見ますよ…
経済再生の公約をかなぐり捨てて改憲に向かうことは、日本の将来にとって最悪の選択
憲法改定より経済改革をまず達成しなければ、無駄に長く政権にとどまった人物として歴史に名を残す
エコノミスト 2018年9月20日
前任者までは日本の首相はすべて短命に終わってきましたが、安倍晋三氏は前任者の5人と比べるとはるかに長い期間首相を務めています。
今週は自民党総裁に3期連続での勝利をやすやすと手にしました。
昨年行われた衆議院議員会選挙での自民党の圧勝を考えると、安倍氏は2021年まで首相を続けることは確実な状況です。
彼が新に手にした任期を全うすると、彼は1885年に日本の内閣制度が創設されて以降最長の任期を務めた首相ということになります。
彼の下で衆議院選挙では3度、参議院議員選挙では2度の勝利を手にしました。
連立与党の議席を合わせると、安倍首相は国会の3分の2以上を手中にしています。
最も印象的と言って良いのは、自民党の体質的弱点ともいうべき派閥争いを許さなかったことでしょう。
自らが関係する様々なスキャンダルが明るみに出たにもかかわらず、自分自身が3期目の首相を務めることができるように党則の変更を仕組んだため、権力をしっかりと手中にしています。
安倍氏は3選を果たしました。
安倍氏はかつて無いほど強いこの権力を、経済政策を完成させるために利用すべきです。
代わりに日本の平和主義憲法を改定することに目の色を変えれば、泥沼に足を取られ身動きできなくなるでしょう。
安倍首相の長期政権はそれなりに日本に貢献し、政策立案の一貫性を可能にしました。
何十年もの長期間不況に在った日本のGDPは、ゆっくりとですが成長しています。
インフレ率は低いままですが、、安倍氏の在任期間の大部分において経済動向については少なくともポジティブであったと言うことができます。
そのパフォーマンスによって得られたものを見る限り、安倍氏の政権運営は1980年代以降最もうまくいったものの一つです。
それを実現させたものは大規模な財政出動と最大限の金融緩和政策であり、この2つが安倍政権の経済政策のすべてでした。
的を外れた『3本の矢』
安倍氏の下で日本は世界紛争において軍事力の行使を想定した役割を演じようとしています。
安倍首相は日本の「自衛隊」をさらに強力なものに仕上げ、国連平和維持活動に参加すべく海外の紛争地帯に送り込みました。
そして9月中旬、中国の力で勢力範囲を拡大しようとする行動への広範な対抗措置の一環として、安倍政権は戦後初めて南シナ海に潜水艦を派遣することを承認しました。
そして同盟国が攻撃を受けた場合、これまではタブーとされてきた軍事的援護を可能にする安全保障関連法案を可決成立させました。
安倍首相はさらに常設の軍隊の保持を禁止する現在の憲法を修正し、すでに既成事実化している「自衛隊」の常設軍としての地位を法的に明快なものにしたいと考えています。
これは中国の軍事的台頭という点を考えると、まったく合理的な考えです。
しかし憲法の改定は言葉以上に日本では複雑な問題です。
それはそのまま戦前の軍国主義国家同様の侵略的海外政策のイメージにつながるためです。
安倍首相は第3期の在任期間のうちに比較的容易に国会議員と国会の同意を得て国民投票に持ち込み、憲法改定を実現できると考えているかもしれません。
その考えは間違っています。
安倍首相は外交分野において日本も米英のような武断的政策を実現できるようにしたいと意欲を燃やしているのかもしれませんが、日本に最も必要なのは「あたりまえの」経済です。
安倍首相がさんざん宣伝してきた政策 - アベノミクスは未完成です。
財政出動と大規模金融緩和、その最初の『2本の矢』は最も重要な第3の矢の政策、すなわち永続的な日本経済の成長を可能にするための本格的な構造改革に着手するまでの時間を稼ぐためものであったはずです。
確かにいくつか着手したものもあります。
安倍首相はTPP交渉の合意によって、これまで日本政府の手厚い保護のもとにあった日本の産業界を本格的国際競争の場に立たせるため12カ国の国が参加したTPP交渉を妥結させました。
ただしトランプのアメリカは安倍首相の説得にもかかわらず途中で手を引きました。
また年金支給開始年齢の引き上げや年金受給者の医療費負担額の増額などにも取り組むなど、多様な政策を実行することを公約しています。
安倍首相がまずしなければならないことは、こうした公約を現実のものにすることです。
さまざまな分野で、安倍首相の改革はあまりにも後手に回り続けています。
人口の減少が続く日本では、女性の社会進出を容易にしなければなりません。
しかし安倍首相は保育所の数を増やすことしかやっておらず、それすら満足なものではありません。
安倍首相は日本の一般市民に移民政策が日本経済に貢献しうるという説得さえしようとはしませんでした。
代わりにひそかに訓練生としての短期滞在労働を認めはしたものの、それではせっかく日本語を学んでも長く滞在することはできません。
一方、労働市場は過度な規制が敷かれたままです。
労働者は一旦雇い入れると解雇することが難しく、税法上も既婚女性がフルタイムで働くことは不利なままです。
とどのつまり安倍政権は日本の労働者と同じく、長期政権でありそれなりのスキルがあるにもかかわらず、生産性は不十分です。
安倍首相はその政治力を本来向けるべき方向に向けるべきです。
経済改革は憲法改定よりも優先すべき事項です。
それは日本が中国に対等に渡り合っていくためには今以上の経済力が必要であるということだけが理由ではありません。
さもなければ安倍氏は長期政権を実現させた首相としてではなく、大切な時間を無駄に費やしただけの人間として歴史に名を残すことになるでしょう。
https://www.economist.com/leaders/2018/09/22/japans-prime-minister-is-more-of-a-survivor-than-a-reformer
+ – + – + – + – + – + – + – + – + – + – + – + – +
これまで訳した記事を見る限り、日本が採るべき経済政策に関するエコノミストの主張は一貫しています。
完全自由化と合理化です。
しかしそれには大きな痛みが伴い、生活の基盤を脅かされてしまうという人々も少なくないでしょう。
それを国民を追い詰めることなく、いかに日本経済と世界経済の潮流との整合性を取っていくかというのが善政のはずです。
ところが安倍首相の本音は改憲一本槍であり、経済政策はそこに国民の支持をつなぎとめるための表看板にすぎません。
そのために安倍政権の経済政策は他人任せでおざなりです。
張り切って『財政出動』するのは決まって国政選挙の後であり、『大型景気対策』と銘打ったその中身は選挙で自分たちに票を入れた支持層に対する税金を使ったバラまきです。
これで日本経済の本当の改革が実現できるはずもありません。
現に私たちの生活は所得税に住民税、健康保険料に介護保険料に厚生年金、どんどん重くなるばかりです。
その先に合理的な解があるのならまだ我慢もできますが、皆さんはアベ政治の先に多くの一般市民が納得できる合理的な日本があるとお考えですか?