ホーム » エッセイ » 実録『トモダチ』作戦・第4部「放射能汚染」[第2回]そのまま汚染処理エリアに直行しろ!
「何にも触っちゃいかん!誰にも触るな!」
そして経験したことの無い恐怖
ロジャー・ウィザースプーン / ハフィントン・ポスト 3月15日
操舵係のモーリスにとって、放射能汚染を取り除いてもらうため待機することなど、予想もしない出来事でした。
操舵係の重要な任務は2つあります。
ひとつはもちろん操船、もう一つは後続する各艦に旗艦からの指示を与えるための信号旗をマストに掲げることです。
モーリスはその日2週間の間メインマストに掲げられていた星条旗を降ろし、艦長室に持って来るよう命じられました。
「私は国旗を降ろし、丁寧に折りたたんでみ右脇に抱え込みました。
その後私は命じられた通り国旗を所定の場所にしまいました。通常通りの任務をこなしただけのはずでした。」
夕食の後、モーリスが放射線のセンサーの前を通り過ぎた途端、突然すべてのアラームが鳴りだしました。
「彼らは口々に私に向かってこう叫びました。『何にも触っちゃいかん!誰にも触るな!そのまま汚染処理エリアに直行しろ!』とね。」
非常線を張るためのロープが引き回された汚染処理エリアの前には、順番を待つ男女の乗組員の列ができていました。
しかしモーリスは待つ必要はありませんでした。
列の先頭に出るように言われた彼は、そこにいた士官と上級軍医たちから絵の展示会の応募作品のように隅から隅までじろじろと見られました。
裸にされた彼は1枚のタオルを渡され、それで前を隠すように言われ、部屋の中央に立たされました。
そして彼の名前が呼ばれました。
「彼らはほんの少し前までは、放射線は検出されていないと言っていたはずでした。」
モーリスが当時を振り返り、こう語りました。
「彼らは空母のいたるところに放射線測定装置を設置しましたが、その時は何のためにそんなことをしているかの説明はありませんでした。」
「彼らはまず私のブーツをチェックしました。放射線は検出されませんでした。次に私の手の検査を始めました。途端にセンサーがけたたましい警報音を発し始めたのです。」
「私を検査していた人間が飛びのいて、こう叫びました。
『彼から離れろ!』
次にされることは解っていました。私は腕をビニール袋で覆われ、誰も私に近づかないよう命じられました。まるで疫病を持った人間のように扱われたために不安が頂点に達し、もう少しで発作を起こして倒れる所でした。
彼らは私がどこに行って、何をしなければならないか、大声で命令し、決して私に触れようとしませんでした。
私はペンキをこすり落とすスクラブ洗剤を渡されました。それを使って体の右半身と両手を洗うと、まるで砂をこすりつけられたような感触で、表皮の2番目ぐらいまでをはがしてしまいました。
モーリスは結局どれだけの線量が検出されたのか、その正確な数値については教えてはもらえませんでした。ただ乗組員の中で、最大の放射線量が検出されたとしか言われませんでした。
しかしその時点でモーリスが心配していたのは、被ばく線量そのものではありませんでした。
彼を苛んでいたのは未知なるものの恐怖だったのです。
士官たちはまっすぐ彼を見て、大声で何か命令を怒鳴っていました。
その時、彼の同僚たちはどうしていたのでしょうか?
彼らは口を閉ざしたまま彼を見つめながら、汚染除去処理区域の中で自分の番が来るのをじっと待っていました。
「あれ程きまりが悪い思いをしたのは初めてでした。」
「半分裸にされたまま、士官にどなられ、みんなが見ている前で体をごしごしこすらなければならなかったのですから。でも私は何よりも、一体何が起きているのかまるで理解出来ない事の方を恐ろしいと感じていました。私に対する彼らの態度を見ていれば、何か大きなトラブルに巻き込まれてしまったこと、そして周囲が私を怖がっていることだけしか解りませんでした。」
「俺は死んでしまうのだろうか?」
「俺は癌になってしまうのだろうか?」
「それとも艦から降ろされるのか?」
汚染されてしまった場所の皮膚もそのままにしていていいのか、それとも何か治療が必要なのか、とにかく何もかも解りませんでした。」
▽ 汚染された空母USSロナルド・レーガンはどうすればいいのか?
海軍は放射性物質は、石鹸と水を使って洗い流せると信じ込んでいました。
部分的にはそれは真実です。
放射線のうち、最も弱いアルファ線を放出する放射性物質は、表面が滑らかなものに付着した場合には洗い流すことが可能です。
それよりは強いベータ線を発する放射性物質も、皮膚に傷があってそこから入り込まないようにすれば、洗い流すことが可能です。
しかし海軍が使用しているペンキを取り除くためのスクラブ洗剤は、皮膚の表層部分をこそぎ落としてしまいました。
加えて空母ロナルド・レーガンの飛行甲板に使われているのは、プラスティックやガラスのような滑らかな素材ではありません。
飛行甲板の素材のような多孔質物質の表面をこすり洗いしても、放射性物質を除去することは不可能です。
空母ロナルド・レーガンの乗組員たちは、彼らが航海している海洋上に放射性物質の脅威は無いと考えており、モーリスのような航海士たちは、放射能雲(大気中を漂う放射性物質)は自然界の雲と同じくそのままの形で浮遊するものと考えており、操船によって回避することは可能だと考えていました。
しかしこの時点で明らかになったのは、その放射能雲は至る所にあるため、回避できるとは限らないという事でした。
そして長さが400メートルある飛行甲板では、さらに別の警報が鳴り始めていたのです。
〈 第4部・第3回へ続く 〉
A Lasting Legacy of the Fukushima Rescue Mission: Part 4 Living with the Aftermath
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自分の体がどうなったのか、何が起きたのか、それが解らない恐さについては私たち日本人は、より理解しやすい国民かもしれません。
国民皆保険により、毎年の健康診断や人間ドックなどの制度が整備され、多くの人が利用しやすい環境の中で生活しているからです。
こうした検査を私たちが進んで受けるのも、後で「大変な事」にならないよう、自分の健康状態について明確に把握しておきたいと考えるからに他なりません。
しかしここに登場する兵士たちは『自分たちの体に、何か大変なことが起きているらしい』が、それが何かは告げられないままの状態に置かれることになます。
これから回を重ねるにつれ、その『置かれた状況』は深刻なものになっていきます。
第2回、まだまだ断定的なことは書けませんが、第4部、東京電力と日本政府が多くの人間を陥れた『放射能汚染』、その実態をはっきりと掴んでいただくために、ぜひ最終回までお読みくださいますよう、ご案内申し上げます。
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【 起きて!さあ、枕を投げつける日よ! 】
アメリカNBCニュース 4月6日
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