ホーム » エッセイ » 低迷する選挙の投票率、日本の政治を劣化させ、国の運命を衰退させる
重大な問題を解決できないまま、当たり前のように政権に居座り続ける与党自民党
日本人には「程度の悪い政治家を議会から排除したいという程度の願い」すら無い
今回の参議院選に立候補した自民党の議員たちは、自民党幹部の門番か守衛のような存在
エコノミスト 2019年7月18日
7月21日日曜日、日本は参議院選挙の投票日を迎え、245議席のうち今後6年間124議席に誰が座ることになるかが決まります。
しかしもし選挙ポスター、やかましい声をあげて走り去る選挙カー、鉄道の駅前で開催される演説会がなければ、ほとんどの人は今は選挙中だと意識することはないでしょう。
投票を行うことはテレビ番組の中でも混雑したカフェの中でも、話題の中心ではありません。
事実、関心の低さにより投票率が50%を下回ることを懸念するアナリストもいます。
日本の政治は激しく揺れ動いているわけではありませんが、だからと言って健全というわけではありません。
すべての年齢層において選挙の投票率は長期間低下を続けています(上のグラフ参照)。
そしてまだ選挙権が無い若い世代が無関心なままでいると、投票率の低下は加速することになります。
18歳から20歳までの世代の投票率の低下傾向に大差はありません。
そして選挙制度への信頼性も低下を続けています。
アメリカのシンクタンク、ピューリサーチセンターが2018年に行った調査では、日本の民主主義制度に満足していると答えた日本人はわずか40%で、1年前に比べて10%ポイントも低下しました。
この政治への信頼と関心の低下は、人々にとって差し迫った問題が無いからではありません。
今回の選挙の主な争点は3つあります。
1つ目はかねて計画されていた消費税の8%から10%への引き上げです。
これは現時点でGDPの250パーセントにまで膨らんでいる日本の巨額の公的債務の返済に充てるとされているものです。
しかし多くの経済学者は今回の引き上げにより長期に渡り低迷が続いている日本経済を再びつまずかせてしまう可能性があると懸念しています。
もうひとつは年金問題です。
金融庁は退職後の高齢者世帯が人並みの生活を維持しようと思うなら、公的年金の他に自力で2,000万円貯めなければならないという泣きたくなるような現実をつい最近明らかにしました。
安倍政権はこの問題をもみ消そうとし、矮小化しようとし、問題そのものの存在を否定しようと躍起になりました。
3つ目は自衛隊の存在を完全に合法化するための憲法の平和主義条項の修正案です。
この実質的な国軍について、日本は名前だけは自衛隊としてきました。
一方で安倍政権は憲法第9条を完全に廃止するという考えは捨てました。
この憲法第9条の修正は与党自民党のマニフェストの冒頭にかかげられた公約ですが、世論調査によれば有権者の過半数は反対しているとみられます。
これだけの悪条件が揃っているにもかかわらず、今回の選挙でも自民党は快勝するとみられています。
自民党はこの65年間、わずかな期間を除き日本の政権与党として君臨してきました。
こうした日本の現実についてオーストラリア・ニューサウスウェールズ大学のアウレリア・ジョージ・マルガン氏がこう語りました。
日本人には「程度の悪い政治家を議会から排除したいという程度の願望」すらほとんどないのです。
「日本は実質的に一党独裁国家なのです。」
社民党の吉川元(はじめ)氏がこう語りました。
かつての民主党の元議員である中林美恵子氏のように、日本の有権者はその政策の多くを支持していたにもかかわらず、野党には充分な機会を与えようとはしないと嘆く人々もいます。
混乱が続いた民主党政権時代は日本の有権者に野党に政権を委ねることについての警戒感を植え付けました。
そして北朝鮮の核開発計画、中国の軍事的台頭、アメリカの保護主的経済政策などのイライラさせられるような外交上の問題を解決するには経験の豊富な側に政権を委ねるべきだという考えが強くなったのです。
選挙に関しては大部分の選挙運動についてたった12日から17日間に制限する法律の下では、新しい政党や候補者が有権者の注意を引きつけた上で理解しやすいメッセージを伝えることは困難です。
駅前や選挙カーによる選挙運動では、候補者の名前を連呼するだけで精一杯です。そうする時間しかありません。」
こう語るのは、東京大学のケネス・モリ・マックエルウィン氏です。
仮に野党が政権の座に就いたところで、何十年もかけて自民党と密接に結びついてきた日本の官僚組織は、自民党相手に機能したようには機能するつもりはないでしょう。
長年にわたる自民党の支配は、日本の政治を老齢男性の占有物のようにしてしまいました。
今回の選挙はすべての政党に対し女性候補者をもっと多く立候補させるよう国会が決議して以降、最初の選挙です。
7月21日投票の選挙では立候補者総数370名の内、女性候補者が28パーセントを占めますが、これは新記録です。
しかし自民党候補者のうち、女性は15パーセントにとどまっています。
安倍首相を含む多くの自民党議員は彼らの父親からそのまま議席を引き継いだ人間たちです。
今回の参議院選に立候補した自民党の議員たち自身が、自民党が他の政党と比べて社会的に進歩的な考えかたを持っていないということを証明しています。
「彼らはまるで総裁の役割と必要な資質について非常に古い考えしか持っていない自民党幹部の門番か守衛のような存在なのです。」
アメリカのブリッジポート大学のリンダ・ハスムラさんがこう語りました。
例えば、自分が同性愛者であることを公に認めた日本の政治家はほとんどいません。
29歳のレズビアンである村上真理さんは、投票に行くと日本の大政党が同性婚にはん対しているために、自分が「社会的に無視されている」と感ると語ります。
安倍首相の長年の任期は数々の問題を悪化させてきました。
これまでの選挙戦での連続的な勝利とかつては自民党内で勢力を競っていた派閥の弱体化により、自民党内に安倍首相の反対勢力はほとんど存在しません。
最近掲載されたリベラル系の朝日新聞の社説は、
「政府の行政府と立法府との関係が健全な民主主義社会において不可欠な緊張関係を失い、それが現政権の突出した傲慢さと規律の弛緩につながってしまった」と嘆きました。
安倍政権の閣僚たちは、国民への情報提供と公の議論をすることに極めて消極的です。
国会が4月に予算を可決して以降、衆参両院の予算委員会はただの一度も会議を開催していません。
安倍首相と個人的につながりのある森友学園に国有地を法外に安い価格で売却した問題について、安倍政権は明快かつ詳細な説明を行うことを拒否したままです。
最大野党の立憲民主党は日本の健全な民主主義の復活を最大のテーマとする選挙運動を行っています。
朝日新聞は今回の参議院選挙について次のように書いています。
「日本の有権者がこの国の健全な民主主義を取り戻すための選択をする機会になるだろう」
しかし日本人が健全な民主主義を取り戻すことは難しそうです。
ニューサウスウェールズ大学のマルガン氏は、日本の有権者が自公連立政権から圧倒的多数の議席を取り上げ、憲法9条の改定を妨げることになる、その可能性はないわけではないと語りました。
しかし選挙前の世論調査は、それすら現実にならない可能性を示しており、そうなれば
「国民はますます政治から遠ざかり、安倍政権の強権ばかりが目立つことになるでしょう。
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『公開18時間前』とある記事を大急ぎで翻訳しました。
でもせめてあと2日早かったら、と悔やまれます。
それにしてもエコノミストの指摘はいつも通りしんらつです。
「日本人には「程度の悪い政治家を議会から排除したいという程度の願望」すらほとんどないのです。」
「自民党の参議院選候補者はまるで総裁の役割と必要な資質について非常に古い考えしか持っていない自民党幹部の門番か守衛のような存在なのです。」
言われて「なるほど」と感心してしまいます。
しかしこうした指摘を自分の反省材料として受け入れられる日本人は何割いるでしょうか?
一人でも二人でも増やしたい、まずはそこから変わらなければ日本の政治は変わりようがない…
真剣に考え込みました。