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福島第一原発事故・東京電力の役員に無罪判決・シリーズ3:世界のメディアはどう伝えたか?!《AP通信》

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東電の担当職員が津波に対し十分な対策を取るよう求めたのに、対策を怠った役員に無罪判決
まるで原子力発電の支持者が書いたような東京地裁の判決文

東京電力は規制当局と共謀し、津波対策を実施すべき現実を無視していた

              

               

山口まり / AP通信 2019年9月19日

            

2011年に発生した福島第一原発の3基の原子炉がメルトダウンした事故について東京電力の3人の元役員の責任を問う刑事裁判で、原告である被災者を支援するグループの人々が2019年9月19日東京地方裁判所前で『不当判決』のバナーを掲げ抗議の意思を明らかにしました。
長引く深刻な放射能汚染によりいまだに数万人の住民が戻れずにいる原子力発電所事故に関わる唯一の刑事裁判でした。

              

東京地方裁判所は9月19日木曜日、2011年の福島第一原子力発電所の巨大事故において、当時の日本政府は原子力発電所に対して極めて高度な安全性は求めていなかったとし、東京電力の元役員3人に職責上の過失はないと判断しました。

               

東京地方裁判所の判決は、長く続く深刻な放射能汚染のために何万人もの住民が自宅や故郷を捨てなければならなくなった原発事故に関する唯一の刑事裁判を結審させるものです。

             

刑事告訴を行った5,700人の福島県住民を代表する弁護士は、検察官に判決を控訴するよう求めました。
被災者を支援するグループの人々は東京地裁の外に立ち、『不当判決』と書かれたプラカードを掲げていました。

               

東京地裁の永渕健一裁判長は、地元の病院や施設から強制的に避難させられた最中または後に容体が悪化して44人の高齢者が死亡したことについても、東京電力の勝又恒久前会長(79)および他の2人の元役員に責任は無いと断じました。

                

            

東京電力の元役員3人は、2011年3月11日にマグニチュード9.0の地震に続いて福島第一原子力発電所を襲った大津波を想定しなかったこと、そして大災害の際に大事故の発生を防ぐための対策を怠ったことについて告発されていました。

                

東京電力の勝又恒久前会長、武藤栄元副社長(69)、武黒一郎元副社長(73)は、2017年6月の裁判の最終論告で自分たちの無罪を主張しました。
3人は口々に津波の発生を予測することは不可能だと主張しました。

                

福島第一原発事故では6基のうち3基の原子炉でメルトダウンが発生し、周辺のコミュニティと海に向け放射性物質が放出されました。

                       

昨年12月の公判で検察側は各役員に5年の禁固刑を要求し、危険の存在を認識していながら巨大津波がもたらす脅威に対し原子力発電所を守るための十分な対策を怠ったとして非難していました。
これに対し東京地裁は今回の判決で被告は東京電力で責任ある地位にあったが、それは必ずしも当時の法的規制の枠組みを超えて対策を講じる責任があったことを意味するものではないとしました。
そして2011年3月のように津波によって福島第一原発が浸水する可能性があると被告が予見できた証拠はないと述べたのです。

              

東京電力の担当職員たちは津波対策の内容を改善する必要性を認識しており、2008年か2009年までには措置を講じることを検討していました。
しかもこうした措置は当時の政府の安全基準に沿ったものだったのです。

                  

検察側は東京電力が実際に津波に襲われる前に一旦福島第一原子力発電所を停止させ必要な安全対策を講じていれば、巨大事故の発生を防ぐことができたと主張していました。
これに対し東京地裁の判決は福島第一原発の稼働を停止すれば電力を公共の用に供するという東京電力の責任が果たせなくなり、その『社会的影響』は大きく、当時可能だとされた対策も東日本大震災の発生には間に合わなかった可能性が高いと述べたのです。

             

                 

裁判を傍聴していた数十人の福島県民とその支援者は、無罪判決に深く失望しました。

              

「だれが当時の責任を取るつもりなのでしょうか?事故を引き起こしたのは東京電力であり、その事実だけは間違いはありません。」
事故発生により病院から避難させられた後、父親が死亡した福島県在住の菅野正勝氏がこう語りました。

                

原告団の弁護士を務める河合弘之氏はこの判決に対しては控訴手続きが取られなければならないと述べています。
「この判決は裁判官が原子力発電所の危険性を何も理解していないことを証明するものであり、会社の経営陣とその経営方針に迎合するものです。」
「この判決はまるで原子力発電の支持者が書いたかのように聞こえました。」

           

検察側は3人の被告が、電源の損失と巨大事故を引き起こす可能性のある10メートルを超える津波襲来の可能性を予測するデータと科学的研究結果に接していたと裁判所の公判で明らかにしていました。

             

弁護側は裁判で津波の予測方法はまだ十分に確立されていなかったと主張し、東京電力が当時の予測を基に津波対策をしていたとしても実際の被害はそれよりも大きなく、事故は防げなかったと主張していました。

                 

東京電力は、判決について直接コメントすることはしませんでしたが、「揺るぎない決意をもって」原子力発電所の安全性を高めながら、被災者の補償と福島第一原発およびその周辺地域の事故収束・除染作業に専念することを誓いました。
勝又前会長は弁護士を通じて発表した声明の中で「多大なトラブルを引き起こしたことについて人々に」謝罪しました。

                  

              

福島第一原発が事故を起こしてから8年以上が経過しましたが、今の所安定した状態を保ち、事故収束・廃炉作業が進んでいます。
しかし完了までには数十年に渡るプロセスが必要であり、作業はまだ始まったばかりです。
東京電力は急造した雑多な種類の1,000のタンクに貯蔵されている大量の処理済み放射能放射性水の保管に苦慮し、事故収束作業の妨げになっています。

               

検察側は裁判で、2007年の新潟地震による柏崎刈羽原子力発電所での損傷事故の後、東京電力は津波安全性レビューを実施しており、3人の元役員はそのプロセスに定期的に参加していたことを指摘しました。
2008年3月、東京電力の子会社は15.7メートルの高さの津波が福島第一原発を襲う可能性があり、護岸工事を検討するよう会社に促しましたが、当時の経営陣は多額の支出を避けるためにこの案の採用を見送ったと言われています。

               

検察側はさらに数百に上る新証拠を提出しましたが、その中には安全性担当者と2人の副社長との間の電子メールが含まれ、津波への懸念が強まる中、福島第一原発における防御対策強化の必要性が高まっていたことを示唆していました。
法廷では20人以上の東京電力の職員と科学者が証言しました。

               

日本政府と議会の事故調査委員会はそれぞれ、東京電力の安全意識が欠如した企業体質と津波の危険性を過小評価する貧弱なリスク管理体制が大事故につながったと結論付けていました。
さらに東京電力が規制当局と共謀して津波対策を実施すべき現実を無視していたことも指摘しました。

               

これに対し東京電力はもっと多くの安全対策を取るべきだったかもしれないが、福島第一原発を完全に破壊してしまうほど巨大な津波が襲来することを予測することは不可能だったと主張しました。

              

                 

すでに東京電力は事故に関連した補償に9兆円を費やしました。福島第一原発の廃炉措置に推定で8兆円、さらに除染に6兆円を支出しなければなりません。

                

https://www.apnews.com/35ad7c0e1dad48359335a928b57bdda7

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シリーズも3回目です。

最初にガーディアンのジャスティン・マッカリー氏の記事を翻訳し、「日本の司法には、福島第一原発事故によって生活を破壊されてしまった人々の人権を守ろうという姿勢が無い」という視点を得たことが、その後の記事の流れを分かりやすくしてくれました。

               

この記事の執筆者である山口まりさんは福島第一原発事故発生直後から、ニューヨークタイムズの田淵ひろ子さんと並んで、精力的に取材・報道されてきた方です。

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ほんとうの「今」を知りたくて、ニューヨークタイムズ、アメリカCNN、NBC、ガーディアン、ドイツ国際放送などのニュースを1日一本選んで翻訳・掲載しています。 趣味はゴルフ、絵を描くこと、クラシック音楽、Jazz、Rock&Pops、司馬遼太郎と山本周五郎と歴史書など。 @idonochawanという名前でツィートしてます。
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