ホーム » エッセイ » 【 自立を目指すフリーランサー、消えつつある日本型サラリーマンの伝統 】
日本の職業社会に根を張っていた数々のタブーが今、徐々に姿を消している
経済的進歩を維持していくためには、イノベーションを繰り返し続ける必要がある
長期間海外で生活したり就労した経験を持つ若い人々は、より柔軟な働き方を目の当たりにした経験を持つ
エンマ・ウォリス / ドイチェ・ヴェレ 2018年2月3日
日本経済はこれまで不変だった労働文化の変革に恩恵を受つつあります。
今や日本人はこれまでの伝統の枠組みを壊し、人生と仕事を結びつける新しいモデルを取り入れ始めています。
それがフリーランサーです。
28歳の福島さゆみさんは、彼女が教師の職を捨てると決意した時の両親の反応について、次のように語りました。
「両親は私の頭がおかしくなったと考えたようです。」
日本では世界的金融危機が発生するまで職業については『終身雇用』が唯一当然のように見られていましたが、さゆみさんがとった行動は今では珍しいものではなくなりました。
ビジネス雑誌「フォーブス」によれば、今や日本社会において終身雇用制度の下で働いている労働者は全体の60%に過ぎません。
福島さゆみさんの世代にとって雇用は一時的です。
結果はそうでしたが、福島さんは理想の職業だった教職に就くまで相当の勉強と努力を重ねました。
午前7時から午後11時まで働いた後、福島さんは自分が消耗しきっていることに気がつきましたが、教員のほぼ全員がそうしたきつい仕事をしているという事実はどんな慰めにもなりませんでした。
「教師は日本国内のあらゆることに責任を負わなければならい。」
福島さんはそう確信しています。
「子供たちの両親の中には、平日であるろうが休日であろうが夜な夜な電話してくる人もいました。」
結局福島さんは1年後に退職願を提出しました。
辞めた当時は、そのような決定がどのように否定的に費用化されるか予想もしていませんでした。
「教員を辞めた当時の私は、いろいろな意味で若かったと思います。本当に単純でした。たった1年で仕事を辞めるというのはタブーに近い行動でしたが、ごく最近は若い世代の人びとの多くがそうした選択をするようになりました。」
福島さんは英国人のボーイフレンドの選択を参考にして、フリーライターとしてのキャリアづくりに着手しました。
こうして彼女は増え続けるフリーランサーの群れに身を投じることになったのです。
教師以外にも自分の夢をかなえる方法があることに気づかせ、彼女の背中を押したのはフリーランスの映画製作者である英国人のボーイフレンドでした。
現在福島さんは現在、気に入ったところであればどこでも離れた場所にある日本の大企業の依頼による翻訳を続けながらフリーランスのパテント翻訳者になるためのトレーニングを続けています。
昨年依頼を受けたのはタイ、ヨーロッパ、そして日本国内各地の企業でした。
▽フリーランスという選択
自分が労働市場の一員となる際、敢えてフリーランスという選択をする日本の若者は増え続けています。日本の経済産業省は2017年、クラウドソーシング会社のランサーズ社の集計を基にフリーランサーとして働く人々が前年より約100万人増え1,120万人に達したと発表しました。
ランサーズ社は日本のフリーランサーが1年間で約18.5兆円の収入を得たものと推定しています。
日本政府も労働市場の変化の必要性を認識しているように見えます。
日本政府の作業部会のひとつが2016年以降、新しい雇用モデルを検討していますが、経済産業省はフリーランス人口が拡大すると予測しています。
フリーランス・アソシエーション・ジャパンで働く広報の専門家、平田まりさんは、国は経済の進歩を維持するために常時イノベーションを続けていく必要があると語っています。
技術革新が進んだことにより、企業の事務管理部門の仕事をフリーランサーにアウトソーシングすることが容易になりました。
ランサーズのようなクラウドソーシング・プラットフォームにアクセスすれば、必要とする人材のフリーランサーを簡単に見つけることができます。
▽ 働く人が主役になる社会
現在34歳の平田さん自身は、最初の子供を授かった時にフリーランスに転身しました。
そうして得た自由を愛していますが、彼女は負の側面について大きな懸念を感じています。
現実には大企業が提供する様々な補償が得られない生活は、日本のような管理社会では育児から住宅ローンの取得まで、人生においてさまざまな困難に直面することになりました。
「日本では社会保障制度を始めとするほとんどの制度は、フルタイムの正社員(正規職員)を念頭に設計されているのです。」
平田まりさんがこう語りました。
「正確に言うと、フリーランサーは一般企業が正社員に提供しているレベルの福利厚生を得ることはできないのです。」
こうした問題に取り組むために、フリーランス協会はフリーランサーにセーフティネットを提供するための独自の社会補償プランを立ち上げることを検討しています。
しかしほとんど銀行は個人に融資を行う際には、個人的な記録ではなく、その人が所属する職場の信用力によって判断するため、多くのフリーランサーが認証を得られずにいると言われています。
しかし海外生活が長かったり長期間海外で就労した経験を持つ若い人々は、より柔軟な働き方を目の当たりにした経験を持っているため、思い切ってフリーランサーの選択をする傾向にあります。
京都で生まれた小島愛さんは、米国の高校と大学に通った経験を持っています。
小島さんが学位を修了した際こう説明してくれました。
日本の大企業は社会経験を持たない『新卒』の学生を採用したがる傾向にあるため、型にはまった人間が多くなるのだと。
オーナー企業のサラリーウーマン、そして外資系の多国籍業の法務職員として10年以上働いた後、小島さんは自分が思い描く人生に沿って仕事を設計できるのだということに気がつきました。
小島さんは最終的に京都で自分自身のベーカリーショップを開店することになりましたが、その前にフリーランスのパン職人として仕事を始めました
つい最近にはフリーランスのヨガの教師にもなっています。
小島さんはブーンという音をたてている業務用オーブンと2台の大型冷蔵庫が並ぶ小ぶりな調理場で、店の看板商品であるアメリカンスタイルの焼き菓子を忙しくパッケージする手止めずに話をしてくれました。
出来上がっているのはハート形のブラウニーと深皿焼きのアップルパイです。
彼女は未だ長時間働かざるを得ない状況にありますが、ビジネスは確実に成長しパン作りのレシピを公開することによって手数料収入も得られるようになりました。
彼女は最近、ベーカリーショップをより広く明るい場所に移転しました。
そこにはヨガ教室を開催することが出来る部屋が別に確保されています。
▽ 大名と藩士
長時間労働は自営業についてまわる危険のひとつだと、平田さんは言います。
一部の業種では、週100時間の労働ですら当たり前だと思われています。
フリーランスという立場が、彼らを使う側に悪用されるリスクもあります。
「日本企業には労働基準法に明確に定義されている記述に従わない傾向があります。」
平田さんがこう語りました指摘しました。
「日本の企業はフリーランサーを高度な技術を持つ専門家ではなく、ただ単に安価な労働者と見なしているという結論になります。」
賃金の支払いがトラブルになる可能性もあります。
一部の職場では口約束が一般的になっています。
労働した分の未払い賃金の支払いを求めても、それを受け採ることが困難になるケースがあります。
フリーランス協会やランサーズのような企業は、政府と協力してこうした状況を改善しようとしています。
平田さんはこうした取り組みが仕事の世界と社会の両方に影響を与えることを期待しています。
「現在、従業員と雇用する側との関係は江戸時代の藩主と藩士の関係に似て、『役務の提供と報酬』の在り方は封建的で家父長的傾向が強く、多くの従業員は上からの命令に盲目的に従わざるを得ない状況にあります。
私は日本の社会が一人一人の個人が柔軟な職業選択が可能になるよう願っています。
それが日本人がこうした問題を克服するための方法であり、「すべての市民のダイナミックな関与」を実現できる方法だと考えています。
http://www.dw.com/en/japans-freelancers-go-rogue-shun-salaryman-tradition/a-42428451