ホーム » エッセイ » 独り勝ちを狙うトランプの北朝鮮外交、恐ろしいツケを払わされるのは日本と韓国《後編》ECO
アジア太平洋地区におけるアメリカの影響力を劇的に低下させるトランプの対北朝鮮外交
北朝鮮に中短距離ミサイルを残し、その防衛のため日韓両国に米国製の武器を大量に買わせるトランプのひとり勝ちシナリオ
エコノミスト 2018年6月7日
▽平和を希求する
中国の研究者はキム・ジョンウン委員長は軍の了承なしに核兵器開発計画を放棄することはできない、ただし北朝鮮の軍当局はアメリカが提示している体制保障など信用していないと語りました。
6月4日、キム委員長は3人の軍高官を解任しました。
キム委員長はこの措置により新しい外交政策に対する反対を抑え込もうとしたと見られています。
変わらない方針もあります。
キム委員長はアメリカに対し、2つの選択肢を与えました。
一つはアメリカ大陸を射程内に収める大陸間弾道弾の即時廃棄です。
そしてもう一つがこれまでも何度か試みられた核兵器開発計画の段階的廃止です。
その手続きがオープンなものであっても、北朝鮮が何も企んでいないと考える方に無理があります。
これまでもそうでした。
北朝鮮は時間をかけて譲歩をしながらも核兵器は温存し、先に制裁の緩和を要求しながら着実に自分たちが得点を重ねようとするでしょう。
考え得るいかさま - そして未来に問題を作り出す種は、北朝鮮が核施設をすべて放棄せずに、軍事施設ではなく発電施設として原子力施設を持ち続けるという選択肢です。
それでもこれはトランプにとっては見た目に好都合な結論です。
長距離ミサイルがない以上、アメリカ本土の安全を確保するという約束は果たしたと言い張ることができるからです。
しかしこの種の取り引きは相変わらず北朝鮮の中・短距離ミサイルの射程内に置かれたままの、アメリカの『重要な同盟国』である日本と韓国にとっては悪夢でしかありません。
北朝鮮の中・短距離ミサイルに装着できる核弾頭が残される可能性すらあるのです。
これまでの同盟国を売り飛ばそうとする意図をアメリカが持っていることが明らかになれば、長期的に見ればアジアにおける戦略的バランスを変えることになるでしょう。
例えば日本あるいは韓国が中国を相手に紛争を発生させた場合、アメリカが同盟国を守るために立ち上がるかどうかについて疑問を抱かざるを得なくなります。
当然の成り行きとして日韓両国は、中国に対する外交関係を再考せざるを得なくなり、結果的にこの地域におけるアメリカの影響力は劇的に低下することになるでしょう。
トランプ・キムの首脳会談の後、中国はいくつかの分野で有利になる可能性があります。
もし北朝鮮が核兵器を減らせば、中国はその裏庭の安全保障上の頭痛が緩和することになります。
米政府関係者の要求通り北朝鮮は地下核実験場の一部について解体爆破を行いましたが、それが仮に偽りであったとしても、破壊された実県施設は中国との国境に非常に近い場所にあります。
北朝鮮がその場所での核実験を中止すれば、中国にとっても脅威が去ることになります。
さらに北朝鮮の譲歩の見返りとして韓国におけるアメリカの軍事プレゼンスが低下することになれば、中国にとってさらに有利な状況が作り出されることになります。
北京にあるシンクタン、カーネギー清華国際政策センターの趙洞(Zhao Tong)氏がこう語りました。
かりにトランプ大統領が再び態度を翻し交渉を打ち切ることになれば、アメリカの国益を優先させることは難しくなります。
米朝首脳会談はどちらに転んでも、北朝鮮に対する国際社会の制裁を緩和することになるからです。
特にトランプが周囲が想定していない駆け引きをしようとして失敗に終わった場合は、北朝鮮の立場は楽になります。
趙氏は、トランプ氏がキム委員長と直接会談をすると決定したその時点で、これまで苦労して作り上げてきた対北朝鮮の厳しい制裁体制が一気に緩み、それとともにアメリカ側は切り札を失ってしまうことになった、趙洞(Zhao Tong)氏がこう語りました。
趙氏によれば中国の当局者は仮に仮に米朝首脳会談が物別れに終わったとしても、北朝鮮の軍事力を無力化するためにアメリカが軍事力の行使に踏み切る可能性はほとんど無くなりました。
韓国は如何なる軍事行動も拒否するだろうし、中国とロシアも強硬に反対するだろう、と趙氏は見ています。
東アジア地区の安全保障問題の専門家も同様に、米朝首脳会談が不調に終わったとしても北朝鮮がこれ以上厳しい国際的な制裁を受ける可能性は低いと見ています。
「北朝鮮はアメリカと直接会談を行ったという実績を手に入れることになり、これまで同様の制裁措置が継続したままの状態に置かれることになります。それで構わないのです。会談の失敗によって、制裁措置がこれまで以上に厳しいものになるわけではないのですから。」
特筆すべきは中国は経済制裁だけでアメリカが目標としている北朝鮮の武装解除は決して実現しないと確信していることです。
むしろ逆に武装強化を図る可能性があります。
今週、昨年の北朝鮮による核実験とミサイル発射実験により休止していた北京と北朝鮮の間の航空路が再開されました。
アメリカが再び敵対的姿勢に戻っても、韓国は北朝鮮との緊張緩和に向けた取り組みを継続する決意のようです。
先週、両国は開城工業団地にある連絡事務所の再開について合意しました。
この事務所も2016年に北朝鮮が核実験を行ったことにより閉鎖されていました。
韓国企業は両国を分断する非武装地帯付近の土地を買い入れてきました。
中には南北協力のために独自の事務所を設置している企業もあります。
国際的なシンクタンクであるISSのマーク・フィッツパトリック氏が次のように述べました。
「韓国人は制裁の回避し、あるいは南北の協力的な経済時器用を再開できるような合理的根拠を探っている可能性があります。」
結論を言えば、キム・ジョンウン総書記は米朝首脳会談の実現によって失うものはほとんど何もありません。
トランプ大統領も普段は彼を嫌っている報道機関から好評価を引き出せるかもしれません。
しかしトランプ個人のことは別として、アメリカという国にとっては決して良い結果を生まない可能性があります。
《完》
https://www.economist.com/asia/2018/06/07/talks-between-america-and-north-korea-might-succeed-at-a-terrible-price
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この記事の中身に加えて日本の安倍首相が米朝会談の直前に渡米し、武器を始め数千億円ものアメリカ製品の購入を約束してきたことを考え合わせると、私たち日本人はアメリカ人ともども詐欺やペテンまがいのことを平気で行う首相や大統領をいただいてしまっていることの悲哀を感じます。
おまけに日本では官房長官も記者会見で
「日本はこれから ト ラ ン プ 様 の ご 意 向 に 従 っ て、なんでもハイハイやってくつもりです。」
みたいな発言をし、国民としては
「一体どうなっているんだ、どこまで日本という国を劣化させるつもりなのだ!」
と憤らざるを得ません。