ホーム » エッセイ » 【 楽園のオキナワと軍事要衝の沖縄と 】《後篇》
沖縄県民のほとんどは、中国と交戦関係に陥る危険が迫っているとも、その可能性があるとも考えていない
自分たちの土地が日本とアメリカによる二重植民地支配の下に置かれていると感じている沖縄の人々
エコノミスト 2017年2月2日
与那国島に自衛隊の基地が建設されることについては1,500人の島民の間で論争の的になりました。
住民投票ではこのうち5分の2以上が基地の建設に反対しました。
基地建設に賛成した住民の中からさえ、日本の右翼、中でも尖閣諸島を巡る争いの直接のきっかけを作った前東京都知事、石原慎太郎氏を非難する意見が相次ぎました。
結局は基地建設に合意する代わり、多額の経済支援を行うという条件が日本政府から提示され、防衛力強化のための基地建設は承認されたのです。
今後沖縄にはさらに多くの基地の新設が計画されています。
尖閣諸島の管理防衛強化のため、与那国島より人口が多い石垣島にはヘリポートの建設が検討されています。
つぎ込まれる多量の建設資材と有刺鉄線は、同盟関係においてアメリカ側の負担が大きすぎるのではないかと懐疑的になっているドナルド・トランプ大統領に、日本が本気で軍事力の増強に乗り出したことを確信させるかもしれません。
目下のところ安倍晋三首相のタカ派的政策は、誰の助けも必要としない程勢いを得ています。
しかし沖縄県民のほとんどは、中国と交戦関係に陥る危険が迫っているとも、その可能性があるとも考えていません。
沖縄の人々が憤慨しているのはそんなことではありません。
中国政府と日本政府が無人島の領有権を争って政治的緊張を大きくしていること、それを理由に日本のタカ派政権がさらなる紛争の火種になりかねない軍事拠点を拡大させる政策を採っていることに怒りを感じているのです。
沖縄(琉球)諸島南部にはわずか1ヵ所の小さいレーダー基地があっただけでした。
その状況は冷戦時代の日本列島の北端と対照的なものでした。
沖縄は日本の陸地面積のうち0.6%を占めるに過ぎませんが、日本にあるすべてのアメリカ軍施設の5分の3、そして53,000人いる米軍将兵の約半分のホスト役をつとめさせられています。
そして沖縄本島のほぼ5分の1の面積が、アメリカ軍基地に割かれているのです。
戦後70年間、沖縄はアジアのアメリカの軍事的プレゼンスを支えてきたのです。
琉球諸島にアメリカ人が初めて姿を現したのは1850年代の事です。
琉球ならびに日本と国交関係を開くため、彼らは砲艦(小型の軍艦)に乗ってやってきました。
そして第二次世界大戦の終盤、アメリカ人たちが再び姿を現しました。
今度の目的は日本本土への侵攻の前線基地を築くことでした。
第二次世界大戦(太平洋戦争)以前、当時の日本政府は沖縄固有の文化と言語を消滅させ、日本本土と変わらぬ体制を築こうとし、戦争末期にはアメリカ軍の『本土』上陸を阻止するため、沖縄全島ですさまじい防衛戦を展開しました。
あらゆる場所で酸鼻をきわめた戦いが展開され、沖縄の住民の4分の1が沖縄戦に巻き込まれその犠牲になりました。
生存者たちは、新たな主人アメリカ人の下で暮らしの再建に取りかかりました。
アメリカは南国の食べ物に好意を持っただけではなく、戦前の日本政府とは異なり沖縄固有の文化と習俗も大切にする姿勢を見せましたが、その背景には沖縄県民の日本復帰への願望を弱らせるという意図もありました。
結局1972年沖縄は日本に返還されましたが、米軍基地だけはそのまま残ることになりました。
この事実に沖縄は怒りを噴出させ、改めて沖縄県民となった人々は孤立感を深める一方で、小規模ながら独立運動も始まりました。
▽今日のスパム、将来のスパム
沖縄で行われる選挙では、沖縄の人々は、アメリカ軍基地の存在、基地で離着陸を繰り返す航空機などがたてる轟音や騒音、基地の関係者が関わる事故や犯罪にはっきりと反対の立場を表明する候補者が圧倒的に支持されます。
今週、沖縄県の翁長雄志知事は沖縄県民が激しく反発している、アメリカ海兵隊の移転先として建設準備が進む辺野古への基地建設の中止を求め、トランプ政権を説得するためワシントンへ飛びました。
しかしすでに新任のジェームズ・マティス米国国防長官は、アメリカと日本が軍事政策において協同歩調をとり続けることの重要性を再確認し、同盟関係を強化するべく日本に向かう準備が進んでいました。
東京では安倍首相を始めとするタカ派といえど沖縄問題の発言する際にはきわめて慎重に言葉を選ばざるを得ません。
そして沖縄本島の軍事基地を拡充強化することについては、努めて避けて通ろうとしています。
沖縄の人々は自分たちの土地が日本とアメリカによる二重植民地支配の下に置かれていると感じています。
そして悲しいことに中国との領土的緊張の悪化は、そうした支配が続くことを確実にしているようです。
観光客のパラダイスとして上昇を続ける人気と軍事拠点としての重要性の拡大という奇妙な取り合わせは、かかわりのある人々にとって神経にさわり続けることになりそうです。
〈 完 〉
+ – + – + – + – + – + – + – + – + – + – + – + – +
【 トランプが入国を禁じた7カ国の人々の暮らし 】《③イラン》
米国NBCニュース 2017年1月30日
1月27日金曜日、トランプ大統領はテロリズム発生への懸念を理由に、イスラム教徒が多数を占める7つの国からアメリカへの入国を一時的に制限する大統領令を発しました。
死と隣り合わせの武力抗争が日常化してしまった場所で困難を極める生活を強いられている人々はは、尚一層の窮地に追い込まれることになったのです。
2015年国際制裁をゆるめることと引きかえに先進6カ国は、イランの核開発活動を制限する画期的な協定に調印しました。
しかしドナルド・トランプはこの協定を「破滅的なものである」と非難し、廃棄すると誓いました。
2015年4月2日イランの首都テヘラン北部で先進6カ国との協定成立を祝うイラン人の家族。(写真上)
2016年10月12日アショウラの儀式で自分自身の顔と体に泥を塗り、嘆きの仕草をするシーア派イスラム教徒のイラン人女性。(写真下・以下同じ)
2017年1月10日のテヘラン、アキバ・ハシェミ・ラフサンジャニ前大統領の葬儀の場で、最新の選挙で穏健・改革派の勝利のスローガンを叫ぶ参列者たち。
http://www.nbcnews.com/slideshow/conflicts-challenges-faced-7-banned-nations-n714296