ホーム » エッセイ » 【 憲法改変への序曲、伊勢志摩サミット開催の裏に隠された政治意図 】
宗教も政治も、そして原爆の投下すら、安倍首相の国家主義政策実現のための演出に利用される
憲法9条の廃止、歴史の書き換え、国家神道の復活 - 伊勢志摩サミットの演出に隠された国家主義的野望
安倍首相は戦前の宗教的、社会的、政治的秩序を甦らせようとして活動を続ける組織の一員
エコノミスト 5月21日
広島と長崎に原爆が投下され、第二次世界大戦に日本が降伏してからそれほど日数も過ぎていないある日、アメリカ軍兵士の一団が日本の本州にある三重県の伊勢市にある、この国で最も神聖視されている神社の一つにやってきました。
彼らは貴重なイトスギ材で造られた長さ100メートルの宇治橋をジープで渡り、そのまま神社の境内に入ろうとしたため、一人の警備員が押しとどめようとしました。
しかし彼はピストルを突きつけられ、退くように脅されました。
この1,300年の歴史を持つ伊勢神宮の本殿は遷宮と言って20年ごとに作り直されますが、宇治橋も同様に20年ごとに作り直されるため、損害を被ってもいずれ修復されることにはなっていました。
日本は敗戦国として戦後様々な屈辱的な目にあいましたが、これなどは些細な出来事であり、いつのほどか忘れられてしまいました。
世界の中でも富裕な国々のクラブである主要先進7カ国の年次サミットが伊勢神宮近くの島で開催され、5月26日に安倍晋三首相がその仲間のリーダーたちを歓迎するために宇治橋を使うことになっており、その時こそかつての屈辱が拭いさられることになるでしょう。
この施設は人里離れた目立たない場所にあり、海外ではほとんど知られておらず、戦後その神聖特権が廃止された神道により守られてきました。
1947年に施行された日本国憲法はいかなる宗教的特権も認めていません。
「いかなる宗教団体も、国から特権を受け、又は政治上の権力を行使してはならない。」
憲法第20条にはこう明記されています。
伊勢市、志摩市を中心に三重県はほぼ無競争でサミットの会場に選ばれましたが、その背景には安倍氏が率いる首相官邸の強い意向がありました。
安倍首相は自らの政治的使命について「戦後体制からの脱却」と規定し、日本を再び誇り高い強力な国家として蘇らせることを主張しており、今回の選択については隠された意図がほの見えます。
いずれにせよ今回のサミット開催は、特にバラク・オバマが広島を訪問する初のアメリカの大統領になることにより、安倍首相にさらなる政治的恩恵をもたらすことになるでしょう。
ホワイトハウスは、オバマ大統領は1945年8月6日に広島に、そしてその3日後に長崎に課された大量虐殺と大量破壊について謝罪はしないという方針を明確に示しました。
しかし世論調査の結果は、日本人の90パーセントがオバマ大統領の広島訪問を歓迎する意思があることを明らかにしました。
左派にとってこの訪問は戦争の悲惨さと、平和憲法に基づく日本のあり方の重要性を再認識させるものです。
右派の多くにとっては、日本に対して数々の戦時犯罪に対する謝罪や賠償を求めておきながら、日本が被った犠牲についてはほとんど顧慮することのない国際社会の不公正さを象徴するものです。
今回、オバマ大統領が広島を訪問する下地を整えたものとして、昨年12月の日韓両政府による従軍慰安婦問題 - 日本陸軍による女性の強制徴用と売春の強要 - の取り扱いに関する合意の達成を挙げるべきかもしれません。
今回の広島訪問でオバマ大統領がどのような発言・行動をしても、中国が反発することは避けられないでしょう。
中国は、そして相当な数のアメリカ人も、日本が過去の歴史を正当化しようとしていることを強く警戒しています。
原爆の投下が第二次世界大戦を終了させるための正当な行為だったと考えるアメリカ人は、1945年の85パーセントから2015年には56パーセントに減少しましたが、『過半数』であることに依然変わりはありません。
今年後半、安倍首相は『答礼』のため真珠湾攻撃の記念施設を訪問する可能性があります。
この施設はアメリカを参戦に踏み切らせた、史上悪名高い日本の不意打ちを記憶にとどめるためのものです。
これら戦争に直接関わる施設と比較して、伊勢神宮のすぐそばで先進国首脳会議が開催されることは論争の的にはなりません。
しかし安倍首相の支持基盤の大きい部分を占める国家主義者たちは拍手を送っています。
オバマ首相は一般の参拝者が求められる参拝のための儀式は行わないかもしれません。
柄杓で手水の水を汲み、口をすすぎ、手を洗い、神殿の前で二礼二拍手の手順に沿って深々とお辞儀をし、日本の天皇家の祖先である天照大神 - 日本の太陽の女神と祖先の霊にぬかずくことはないでしょう。
それでも 先進国の首脳たちは日本の神道に、正統性を証明する国際的なバッジを与えることになります。
神道は戦前の日本において、帝国主義的侵略を積極的に推進した政治家たちが、その道具として鍛え上げたものです。
靖国神社でサミットを開催し、14人のA級戦犯を含む日本の戦没者に主要先進国の首脳たちが敬意を表することは考えられません。
靖国神社については、2013年12月に参拝してアジア各国の激怒を誘発して以来、安倍首相も参拝はしていません。
安倍首相は神道そのものに対する深い関心を持っているわけではない、神道の将来の聖職者が学んでいる東京の大学の学者がこう語りました。
しかし安倍首相は神道政治連盟のメンバーであり、この組織は戦前の宗教的、社会的・政治的秩序を甦らせようとして運動を続けています。
安倍氏は伊勢神宮の遷宮の儀式が行われた際、2013年神道の古代の式典に参加した史上2人目の首相になりました。
この時安倍首相は9人の閣僚も同行させ、宗教的な儀式を政治声明に変えてしまいました。
こうして見てみれば、伊勢志摩サミットの開催が安倍首相の長期の国家主義のプロジェクトに適合ししていることがわかります。
安倍政権はこれまで防衛費を一方的に増額し、武器輸出禁止を緩め、日本が集団的自衛権を行使できるように憲法の解釈変更を行ってきました。
こうした動きをアメリカは全面的に歓迎しています。
今や日本はアジアに対する中国の野心についての不安を共有する点に関し、アメリカの強力な盟国になっています。
オバマ大統領自身はサミットの中身についてさほど悩んでいる様子はありませんが、広島訪問は安倍首相に対し大きな政治的メリットをプレゼントすることになります。
それを証拠立てるように、オバマ大統領の広島訪問が明らかになると安倍政権の支持率はこの数ヶ月間で初めて50パーセントを超えました。
サミット開催は来年4月に予定されている消費税の8パーセントから10パーセントへの引き上げの約束を反故にする際にも、安倍首相の援護をするかもしれません。
まだまだ世界経済の先行きが不透明な中、財政刺激策ばやりの先進各国からの声明は、日本の指導者に増税延期のための弁解材料を提供するかもしれません。
こうした方向転換を自分にとって有利な材料として利用するため、安倍首相は今年7月に予定されている参議院議員選挙に合わせて衆議院を解散し、衆参同日選挙に踏み切る可能性があります。
「衆参同日選挙」についてはその可能性が現実に近づいているとして、ますます熱心に語られるようになっています。
サミット開催によって政治家としてのイメージを演出する機会を得て、安倍首相は野党の無秩序状態をこれまで以上に自分に有利に利用しようとするでしょう。
▽ 戦後体制のさらなる破壊
安倍首相とうまく折り合いをつけていくためにアメリカにとっての問題は、安倍首相の周囲にいるつまらない人間たちが掲げる国家主義的主張だけを切り離してしまうことは不可能な点にあります。
そこには歴史を書き換えてしまおうとする取り組みもあります。
彼らにとって第二次世界大戦の敗戦の際に犯した唯一の重要なミスは、アメリカ人に平和憲法を『強要され』た際、戦争を放棄するという一文を拒否しそこねたことです。
そして神道を国教として復活させることも…
その方針に従わせるため安倍首相の援護を続けているアメリカは、アジア各国が恐れている方向に、そしてなにより多くの国民自身が恐れている方向に日本を向かわせているのみならず、加速させてさえいるのです。
http://www.economist.com/news/asia/21699165-g7-gathers-japan-religion-politics-and-bomb-will-all-help-shinzo-abe-rebuilding
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【 ハドソン川のフクシマ 】《3》を掲載する予定でしたが、エコノミストに今週開催される伊勢志摩サミットに関する、極めて興味深い記事が掲載されたので、こちらを先に掲載させていただくことにしました。
少々長いので5月24日いっぱい、トップに置かせていただきます。
1973年アメリカCIAの謀略により南米チリのアジェンデ政権が倒され、代わって政権を握ったピノチェト政権が大量の民主主義活動家を虐殺・拷問したことに象徴されるように、アメリカにおいて民主主義が存在するのはその国内だけの話で、一歩領内を出てしまえば代わりに幅を利かすのはアメリカの国益でしかないのではないか…
この記事を翻訳していてそう思わざるを得ませんでした。
アジアでも1970年シアヌーク殿下の下で国民が曲がりなりにも平和に暮らしていたカンボジアに入り込んだアメリカCIAは、現地国民の思いなど全くおかまい無しにクーデターを演出して容赦なく体制をひっくり返し、世界史上信じられないような国土荒廃への道を開きました。
しばらく前に翻訳した同じエコノミストのタイムキーパーは、日本の民主党政権をひっくり返すのに最大の貢献をしたのもオバマ政権下のアメリカCIAだったと伝えています。
英国のガーディアンはしばらく前、今度のアメリカ大統領選挙について、クリントン、トランプのどちらがなっても戦争好きに変わりはないという趣旨の評論を掲載しました。
誰が来て何をしても過度の期待は抱かないようにしましょう。
市民を守るものは市民の団結以外にありえない
最近翻訳を終えたル・モンド・ディプロマティークの結びの言葉です。
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【 ISISの無差別殺戮が作り出した母子家庭 】《7》
エリン・トリーブ、ソフィア・バルバラニ / アメリカNBCニュース 5月7日
夫はまず私たちを他の人びとと一緒に、シンジャル山脈に向け追い立てるようにして逃がし、自分は村に残りました。
5分ほど後に夫も私たちの後に続いて山に向かっていると電話があったのですが、ISISにつかまってしまいました。
その後二度と夫の声を聴くことはありませんでした。
イスラム社会では、結婚した女性が一人で外を歩き回れば、たちまち人々の批判にさらされます。
少なくとも男性が一人付き添っていなければ、外へは出られないのです。
誰も私たちを助けようとはしません、自分たちが生きていくだけで精いっぱいなのです。
家族を支えていかなければならないのは同じなのに、女性だけが著しく行動を制限されているのは公平ではないと思います。
38歳のレイラ・ミュラッド・ユーセフは不道徳だと批判されることを恐れ、避難キャンプの外で一人で誰かと話をすることすら極力避けています。
夫の生死は未だに不明です。
しかし約2年前にISISが村を占領した時、夫が殺されたのは間違いないと思われます。
毎朝息子は私の両頬にキスをします。ひとつはお母さん、もうひとつはお父さんにと言いながら。
私たち家族の家計は娘たちが支えています。
2人の息子がいますが、働くには幼すぎます。
たくさんの人が私に国を捨てて出ていった方がいいと忠告しました。
でも私は夫が戻ってくるような気がして、どうしても国を出ていく気になれないのです。
神がいつの日か夫を送り届けてくれる…私たちはまだ望みを失っていません。
http://www.nbcnews.com/slideshow/widowed-isis-yazidi-women-find-strength-motherhood-n569466