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【 山積する緊急の課題を放り出したまま勝利宣言した安倍自民党 】《前編》

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所要時間 約 9分

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選挙中は経済政策を強調、選挙後は一転して改憲を訴え始めた安倍首相
日本のメディアは今回の参議院選挙について、意図的に小さな扱いにとどめていた
棄権した多くの人間には参議院議院選挙の最中だという認識すらなかった

          

               

モトコ・リッチ / ニューヨークタイムズ 2019年7月21日

           

7月21日日曜日、安倍首相は国政選挙での勝利を宣言しました。

              

急速に高齢化する人口、アジアの近隣諸国との緊張関係、そしてホワイトハウスに陣取る予測不能の行動をする相手との貿易交渉などの山積する課題を前に、安倍氏は史上最長の就任期間を持つ首相になる道を確保しました。
安倍首相率いる自民公明の保守連立政権が参議院議席の過半数を獲得したのです。

                  

しかし今回の選挙は安倍首相にとってもう一つの意味での勝利という点で言えば、そうではない結果となりました。
安倍首相が率いる自公連立政権は、1947年当時日本を占領していたアメリカ軍の下で制定公布されて以降一度も改定されたことがない平和憲法を修正するという彼の長年の野心を実現するために必要な議席数を確保できなかったのです。

                   

「我々はこれまでも安定して過半数を獲得してきました。」
安倍氏は日曜日の夜に大勢が判明した段階でこう語りました。
「そして有権者は安定した政治の基盤を望んでいたのだと思います。」

                  

安倍首相率いる自民党と連立与党の公明党が引き続き政権を担うことになりましたが、安倍首相は図らずも12年前の衝撃的な出来事を思い出しました。
第一次安倍内閣当時、選挙で自民党が屈辱的な敗北を喫した結果、安倍氏はわずか1年足らずで首相を辞任せざるを得なくなりました。
安倍氏は2012年に政権復帰した後は安定した政治基盤を築き、現段階で延長された総裁任期を務めており、史上最長の首相になるまで、残すところちょうど4か月となりました

                 

                    

安倍首相は今回の選挙で憲法改定の具体的手続きを開始するために十分な議席を確保できなかったことの意味を、努めて軽く見せようとしています。
「私たちが3分の2以上の議席を確保することは問題ではありません。」
の過半数を獲得するかどうかではありません」
と安倍氏はこう語りました。
「問題は我々が安定した政権基盤を築けるかどうかなのです。」

                 

それでも圧倒的勝利を得られなかったことは、安倍氏の最も重要な目標の1つを遠のかせることになりました。
憲法は戦争の放棄を宣言していますが、安倍氏はことあるごとに日本が軍事力を強化することを可能にするためにこの条文を変更したいという願望を表明してきました。

                

選挙戦の期間中、安倍氏は憲法改正への執着をあまり表には出しませんでした。
その代わり国の財政安定を保証することに集中し、トランプ大統領との個人的な関係を強調する一方、いくつかの野党に対してその政権担当能力に疑問を突きつけました。

「私たちはこう言ってきました、あなたは安定した政府と混乱がどちらを望むのですか?」
安倍氏は21日こう語りました。

                

経済へのテコ入れ、低下し続ける日本人の出生率の引き上げ、会社の管理職と政治の世界に女性の思い切った登用をすることなど、安倍氏がこれまで掲げてきた公約のいずれもが実現には程遠い状況にあるにもかかわらず、安倍首相は選挙で勝利しました。

多角的に検証すれば、安倍氏の成功は国民が自民党の政策に信頼を置いているというよりは、力を持った反対勢力が欠如していることによりもたらされたものであるようです。

                

                

「野党はダメです。」
土曜の夜、たまたま自宅近くで安倍氏の演説会が開かれたため思い立ってやってきたという68歳の麦倉誠さんがこう語りました。
「何と言っても自由民主党ですよ。」

             

今回の投票率は49%弱で、参議院議員選挙としては史上2番目に低いものになりました。
南日本での大雨により投票行動が減殺された可能性もありますが、初めからあきらめてしまっている人々の存在も原因になっている可能性があります。

               

「棄権した人々は、自分たちが投票しても結果には影響しないと思っているのです。」
武蔵野大学政治学部のドナ・ウィークス教授がこう語りました。
 
アナリストの中には、メディアが今回の参院選を軽視する報道体制をとったことも投票者の関心を低下させる一因となったと述べています。
上智大学の政治学者、中野耕一教授が次のように述べています。
「たくさんの人々が棄権しましたが、彼らには現在参議院議院選挙の最中だという認識すらなかったのです。」

                  

安倍首相は米国のトランプの機嫌を取り続け、中国の習近平との関係改善するため様々な働きかけを行い、自分を自由主義社会の政治的リーダーの一人として認識させようと懸命でした。
今年5月に訪日の際、アメリカ大統領トランプは7月の日本の参議院選挙が終わるまでは、厄介な貿易交渉を持ち出すつもりはないとツイートし、安倍氏の取り組みは実を結んだように見えました。

                 

こうした目に見える形の外交面で活動は、日本の舵取りを任せるべき相手として安倍氏は最良の選択肢だという意識を有権者に植え付けることに貢献しました。
安倍氏にはさらに戦後ほとんど一貫して政権を握ってきた政党の総裁を務めているというアドバンテージもあります。

                  

「日本を現在の形にしたのは自由民主党です。」
日曜日の早朝、浅草で投票を済ませた80歳の宮郷由紀子さんがこう語りました。
「私たちは先進的な技術、科学、情報、そのほかすべての面にわたって日本の豊かな暮らしを楽しんでいるのではありませんか。」

                    

一方、主要野党5党の支持者たちは、自分ちが支持する政党を立ち行かせるために苦労を重ねています。
選挙が行われる都度、古い党の分裂再編が行われ、新しい政党が生まれています。

                  

ランド・コーポレーション(RAND Corporation)の日本担当の政治学者ジェフリー・ホーナング氏は次のように述べています。
「繰り返される選挙の中で一貫して同じ主張を展開することは難しいものです。その点安倍氏と自民党はそうするための便利な基盤を築き上げているのです。」

                 

それでも有権者は憲法改定という安倍氏の長年の宿願については拒否する姿勢を見せ、安倍自民党は10議席を失いました。
安倍氏の改憲プランを支持するかどうかで国民の意見は二分され、約半数は安全保障を強力なものにするヴィジョンを支持し、残りの半分は平和主義を強く支持しています。

                

「私は憲法の改定を支持しません。」
こう語る43歳の赤石恵美子さんは野党の候補者に投票しました。
「現在の与党政権は傲慢すぎます。」
と語る映画制作会社で働く赤石さんは日曜の朝、東京近郊の調布投票所で投票しました。
「現在の政権は自分たちがやりたいことなら平気で何でもしています。」

                 

後編に続く
https://www.nytimes.com/Shinzo Abe Declares Victory in Japan Election but Without Mandate to Revise Constitution
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