ホーム » エッセイ » 【 中国経済の減速と日本経済の不況転落 】《後篇》
中国人観光客による『爆買い』、昨年比で倍以上の来日、しかし消費行動には陰りも見え始めた
安倍政権の経済政策が、日本経済が向かう方向を変えることができるとは考えられない
大企業とそこに連なっている投資家と、中小企業や一般庶民との間にははっきりと溝ができた
ジョナサン・ソブル / ニューヨークタイムズ 2015年11月16日
こうした影響は、パッケージツアーでやって来た中国人観光客が有名ブランドの衣類、ハンドバッグや電子機器などを大量に買い求めるためにやって来る、東京の銀座などの日本の商店街にも表れ始めています。
日本への観光旅行の爆発的ブームは、今年の9月まで中国本土から380万人を連れてきました。
昨年の同期間と比較すると、倍以上の人数です。
彼らの買い物意欲の旺盛ぶりは、日本語に新たに『爆買い』という単語を加えることになりました。
董長垣さんは、今年9月に電子機器のチェーン店であるラオックス銀座店に新たに雇用された中国人社員の1人です。
ラオックスには中国人の買い物客のために、ふさわしい空気清浄器、暖房式便座、そしてハイエンドの炊飯器を選ぶアドバイスをするため20~30人の中国の従業員がいます。
董さんによれば、友人や親せきのおみやげにするため、こうした製品を
「一度に4台購入する人もいます。」
中国経済の減速とは関係なく、円安による中国人観光客の買い物意欲はまだまだ旺盛だと董さんは言います。
ある日の昼下がり、同じ銀座の小さな靴店では、およそ15人ほどの中国人買い物客が最近売り出されたばかりの商品を吟味していました。
店長の川島和浩さんは中国人買い物客の数は変わらないものの、2、3ヶ月前と比べると使う金額は明らかに減少していると語りました。
「以前は手当たり次第に買うと言った状態で、文字通り爆買い状態でした。しかし今では商品を吟味して購入するようになました。」
平均的購入額はひとりの顧客につき5,000円は下がっていると、川島さんは見積もりました。
しかし日本国内の小売業の好調さと観光客の増加は、重工業の不振によって減少した穴を埋めるほどの大きさはありません。
政府が発表した日本の対中輸出額は9月は3.5パーセント減少、2ヶ月連続の減少となりました。
この中の鋼材、自動車部品、産業機械などの幾つかの部門は平均を上回る割合で落ちこみを記録しました。
世界的なカメラメーカー、オフィス用品メーカーであるキャノンを始め多くの日本企業が、この数週間の利益について警戒すべきレベルに落ち込んでいるとの見解をあらかにしました。
また半導体製作機械の供給メーカーに加え新日鐵住金やJFEホールディングスなどの鋼材メーカーは、中国の需要の落ち込みを受け、その業績予想を下方修正しました。
「回復には、時間がかかりそうです。」
こう語るのはキャノンの財務部門の最高責任者である田中俊三氏です。
コマツの財務部門の最高責任者である藤塚幹雄氏は、中国の状況に対する同社の見方として、
「まだ底を打ってはいないと感じている。」
と語りました。
中国から吹く逆風は、経済分野において日本政府が上昇への勢いをつくることを一層難しくしています。
安倍首相のアベノミクスの名で知られる3年に及ぶ経済改革プログラム、日本銀行による大規模金融緩和策は持続的な消費者物価の下落に歯止めをかけ、円安誘導を行うことにより輸出企業に恩恵をもたらしました。
失業率は3.4パーセントとこの20年で最も低くなっています。
しかし改革はまだ「やりかけの」ままです。
スタンダード&プアーズの幹部級のグローバル・エコノミストであるポール・シェアード氏はこう指摘し、日本のデフレーションの程度はまだまだ問題がないレベルには程遠く、企業も一般家庭も経済の先行きに対する警戒を緩めてはいないと分析しています。
日本国内の報道によれば安倍政権は日本経済をさらに一押しするため、3兆5,000億円規模の景気刺激策をまとめ上げようとしています。
しかし日本経済を政策によって支えようとする手法は、政治的には慎重を要します。
日本経済を成長局面に向かわせる際の障害を減らすため、安倍首相は消費税をさらに2パーセント引き上げるタイミングを18ヵ月遅らせましたが、2017年4月には消費税引き上げを実現させると公約しています。
財務省は税収を増やすことにより、できるだけ多くの国債の償還を実現したいと考えています。
日本の国債の総残高はその経済規模と比較すると、世界でも最も大きなものになってしまっています。
柔和さんは経営する金属加工会社で働きながら、安倍政権の経済政策が日本経済が向かう方向を変えることができるとは考えていないと語りました。
アベノミクスは経済の食物連鎖の頂点に立つ大企業とその株や債券を持つ投資家を潤したかもしれないが、柔和さんが経営しているような中小企業に対する恩恵はほとんどなかったと彼は言いました。
「大企業とそこに連なっている投資家と、中小企業や一般庶民との間にははっきりと溝ができました。」
柔和さんがこう語りました。
「持っているものを失わないようになんとか我慢するしかない、今はまさにそんな時です。」
※英文からの翻訳のため日本語の氏名の表記に誤りがある可能性があります。
ご容赦ください。
〈 完 〉
http://www.nytimes.com/2015/11/17/business/international