ホーム » エッセイ » 【 なぜ彼らは戦争を欲するのか?! 】《6・最終回》
突如やってきて無警告殺害を実行するドローン…アメリカの『対テロリスト』軍事作戦に苦しむパキスタン国民
一歩間違えば核兵器保有国同士の全面紛争に発展する危険があった、ビン・ラディンの殺害作戦
ノーム・チョムスキー / ガーディアン 2014年8月6日
アメリカ合衆国現職のバラク・オバマ大統領は、核兵器の廃絶という平和を願う市民なら誰もが歓迎する提案を行いました。
しかしこの提案と同時にオバマ大統領は、これからの30年間アメリカが現有する核兵器を維持するために1兆ドルの予算をつぎ込むことに同意していたのです。
モントレー国際研究所のジェームズ・マーチン核拡散防止推進センターの研究によれば、オバマ政権の軍事予算の予算総額に占める割合はロナルド・レーガン政権時代とほぼ同じ規模です。
オバマ大統領は自らの政治基盤を強くするために、危険な賭けをする事にもためらいを見せませんでした。
その代表的なものがネイビー・シール(海軍特殊部隊)によるウサマ・ビン・ラディンの殺害です
オバマ大統領は2013年5月、暗殺が成功したことについて国家安全保障にとっての重要な成果だとする演説を行いました。
この演説は世界中の報道機関が大きく取り上げましたが、そのほとんどがある重要な一節を見落としていました。
オバマはこの作戦の成果を歓迎しましたが、こうした手法が今後の規準にはならないと付け加えたのです。
その理由は『危険が大きすぎる』というものでした。
特殊部隊による攻撃は、より大規模な銃撃戦に発展してしまう危険性がありました。
幸いそうはなりませんでしたが、
「パキスタンとの外交関係、そしてパキスタン市民の対米感情の悪化は見過ごせないレベルにまで大きいものなってしまいました。厳しい現実が待っていました。」
一般には知られていない2、3の事実についてご説明しましょう。
特殊部隊はウサマ・ビン・ラディンを確保したら直ちに撤退するよう予め命じられていました。
もし「大規模な銃撃戦に発展してしまっていたら」、特殊部隊の任務も安全もまったく違ったものになっていたに違いありません。
そしてアメリカ軍はすべての力を、特殊部隊の救出に向けなければならなかったでしょう。
独立国家であるパキスタンは、強力な、よく訓練された常設の軍隊を持っています。
しかもパキスタンは核兵器保有国です。
一方で狂信的イスラム教徒であるジハード戦士やその関係者が、パキスタンの核兵器セキュリティ・システムに侵入してくることを絶えず警戒しなければならない状況にあります。
パキスタンの国民が突如やってくる無人攻撃機ドローンによる無警告殺害を始めとするアメリカ政府の『対テロリスト』軍事行動に苦しみ、反米感情が高まり先鋭化していることは秘密でも何でもありません。
アメリカの海軍特殊部隊がまだビンラディンの隠れ家で作戦を遂行していたまさにそのとき、パキスタンの総参謀長は急襲作戦が実行されていることを把握していましたが、パキスタン軍に対し「どんな未確認の航空機に対しても、必要な対応措置」をとるよう命令しました。
彼は対立関係にある「インドからの攻撃である可能性がある。」と部下たちに説明しました。
一方隣国のアフガニスタンのカブールでは、駐留しているデイビッド・ペトレイアス米軍司令官が、もしパキスタン側が「ジェット戦闘機を緊急発進させた」ならば場合には、直ちに「対応軍事行動をとるよう」指揮下の戦闘機部隊に命じていました。
後にオバマ大統領が語ったように、運にめぐまれたおかげで、最悪の事態は起こりませんでした。
しかし一歩間違えば核保有国同士の全面衝突に発展する危険性がありました。
そして以下のバトラー将軍の懸念が現実となって繰り返されてきたことを、痛感せずにはいられません。
「これまで人類が滅亡せずに済んだことは、奇跡に近いと言わなければなりません。
しかし幸運などというものは、いつまでも続くものではありません。
これから先も私たち人間が必要な努力をするのではなく、神のご加護に頼り、奇跡が永遠に続くことを願う、そんなことでいいのでしょうか?」
〈 完 〉
http://www.theguardian.com/commentisfree/2014/aug/06/hiroshima-day-nuclear-weapons-cold-war-usa-bomb
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安全保障関連法案に関する掲載をいったんお休みして、【 なぜ彼らは戦争を欲するのか?! 】最終回を掲載させていただきました。
思い出したことがあります。
この【星の金貨】でご紹介したかどうかは思い出せないのですが、アメリカ・ロシアを合わせると地球上の全人類を(確か…)35回皆殺しできるだけの核兵器を保有している、という事実です。
軍事上のパラノイアというものが、つくづく常軌を逸したものだという事を痛感します。
健全な社会を築くという事は、こうした類いの人間を決して権力に近づけてはならないという事と同義ではないでしょうか?