ホーム » エッセイ » 【福島第一原子力発電所から16キロ、ろうそくの灯りの下で、缶詰を主食にし、故郷が命を取り戻すことを願い続けているのです。】
私がこの記事を読んで感じたのは、記者の強烈な正義感でした。
BBCのビデオを見ると、このシャックマン記者、見た目がちょっとひょうきんで、頼りない感じもしますが、なかなかどうして、日本の大新聞社の記者など足元に及ばぬ、まったくもってヒューマンな仕事を成し遂げたのだと思います。
その理由は
1. 現地「立ち入り禁止区域内」に自分で行って取材したこと
2. 松村さんという一人の人間の信頼を得て、彼の内面までもきちんと読者に伝えていること
3. 『危機』を等身大に伝えていること
淡々と事実が伝えられていく中で、私は松村さんの中にある、胸が張り裂けそうな悲しみを感じました。
私は一度、ごく短い時間でしたが、記憶をなくした事があり、人生 - 人の生というものが記憶の集積である事を痛感した事があります。
ここに登場する松村さんもきっと、富岡町のひとつひとつの場所に消しがたい記憶があり、その集積がこの方の人生なのだと思います。
それがある日、住んでいた町を追い立てられ、もう戻るな、と言われる。
そして見知らぬ街の体育館かどこかに連れて行かれ、その一区画を与えられ、死にたくなければ今日からはここで暮らせ、と言われる。
これを理不尽と思わない人間がいるでしょうか?!
前編の記事にある通り、松村さんは避難所を逃げ出しました。
そして立ち入り禁止区域内の故郷で、誰の『庇護』も受けず、たった独りで暮らしています。
BBCの記者はその胸に秘められた思いを、何とか世界に伝えようとして、この記事を書き上げたのでしょう。
訳し終えて『良心の報道』、そんなものに触れることができたような思いがしています。
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【 日本の原子力ゴースト・ゾーンの中で〈後編〉 】
英国BBCニュース 2011年9月13日
環境・科学担当特派員デビッド・シャクマン
▽ 過ちの町
大地震により破壊された上、蜘蛛の巣だらけになった家畜小屋の様子はおぞましいばかりです。
区画された家畜小屋の片隅に、私は腐敗した牝牛と小牛の死体を見つけました。
この家畜小屋では60頭の牛が全滅しました。
松村さんは結局、行政はこの町の人々を救うことができなかった、と信じています。
それが危険を冒してでも、私たちをこの場所に導きいれた理由なのです。
ガイガーカウンターを見つめていると、放射能レベルが予測していた通り、地面近くでは概ね高くなっていることがわかりました。
場所によっては30マイクロシーベルト前後を計測しました。
たまたまこの場所を訪れた私たちにとっては、こうした値は脅威でも何でもありません。
しかし私は松村さんに、こうした環境の中で暮らし続けることに不安はないのか、尋ねずにはいられませんでした。
「もう考えないことにしているんです。チェーンスモーキングの方がもっと健康には悪いですから。」と松村さんは冗談交じりに答えました。
立ち入り禁止区域内では、塵が放射能汚染の主な原因であると考えられています。
松村さんと行動を共にしたいという人がほかにもいるかもしれませんが、この地区への立ち入り禁止の命令はまだしばらくの間、解除されることは無いでしょう。
日本で広く懸念されているのは、立ち入り禁止区域外への汚染の拡大です。
放射能は農業や人間の健康に脅威を及ぼしつつ、20キロ圏をはるかに超えて到達します。そして科学者は、行政などの放射能汚染対策の整備のため、信頼できるデータの収集を急いでいます。
日本の畜産科学研究所は、英国の専門家でランカスターの生態・水系科学センターから、ブレンダ・ハワード博士を招待し、彼女が長年手がけたチェルノブイリの調査結果を踏まえたアドバイスを求めました。
彼女の最初の評価は、日本ではほとんどの牛が屋内で飼育されているため、放射性降下物の被ばくを回避しており、汚染はチェルノブイリ事故ほど深刻なものではないというものでした。
▽ チェルノブイリとは違う
「この場所の家畜の飼育方法は、チェルノブイリとは異なっています。」
「牛は餌をとる場所とは別の場所で放牧されています。乳牛及び肉用牛は家畜舎内に収容されていたため、放射能に汚染されている可能性は少ないと思われます。」とハワード博士は語りました。
しかし土壌の放射能測定値は、概ね高濃度で、土壌の汚染が確認されています。- このことはどれほどの放射能が土壌を通じて、その場所の植物に取り込まれているか、という問題を提起します。
農業・生命科学が専門の東京大学大学院・中西友子教授は、汚染はほとんどが表面的であると考えています。
彼女の最近の研究結果では、放射能の大部分が土壌の表面に近い部分5cm以内にとどまっていることが証明されました。
「結果として、それほど多くはない量の放射性セシウム134及び137が、稲の茎に吸収され、米粒内に吸収された量はさらに少ないものと確信しています。」
「表面だけが汚染されているのです。表土からほぼ5cmの土壌の汚染が高濃度なのです。」
しかし中西教授は一般の人々はこうした調査結果を、素直に受け入れることができないだろうことも認めています。
「今年度産のコメは食べたくない、というのであればそれも仕方がないでしょう。しかし、来年収隠される米については、私は本当に楽観しています。来年のコメは食用として安全です。」
しかし、その結論が正しいと証明された場合でも、まだ広大な面積の汚染された土壌を除染しなければならないという課題が残っています。
表土の除去は、1つの方法ですが、汚染された土の処分問題と作業の費用が高額に上るという問題があります。
地中深く汚染された土を埋めてしまえば放射能濃度は下がりますが、コストがかかりすぎる欠点があります。
6か月が過ぎましたが、確信をもってこの場所はもう安全である、と宣言できるようになるまでいったい何年かかるのか、多くの分野の科学は答えを出せずにいます。
もうしばらく、松村さんもこの福島の影の中で、不自由な暮らしを続けなければならないでしょう。
制御不能に陥っている福島第一原子力発電所から10マイル(約16km)、松村さんはろうそくの灯りの下で、缶詰を主食にしながら暮らしています。
そんな生活を続けながらも、彼は自分が育ったこの町が命を取り戻すことを願い続けているのです。
しかし、それが実現するまでには長く待たなければならないでしょう。
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[動画]次世代のアメリカ宇宙ロケット
アメリカNBCニュース 9月14日
米航空宇宙局(NASA)は、次世代ロケットのCGを発表しました。
それはかつて建造された中でも最も強力なドレッド・ノート型(巨大な)ロケットです。
完成の暁には、火星まで到達できるほどの強力な推進力を持つこのロケットは、議会での予算獲得も容易なものとなるでしょう。
アメリカには現在新しい宇宙開発計画がないため、米国宇宙飛行士は宇宙ステーションとの行き来はロシアに依存しています。
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