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【 日本の原子力政策、プルトニウム備蓄への異常なこだわり 】〈後篇〉

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日本が未だに核燃料サイクル計画にしがみついていることは、科学的に見て不合理
核燃料サイクル計画に莫大なカネをつぎ込んだ日本政府と原子力産業界、最早後には引けない状況

田淵ひろ子 / ニューヨークタイムズ 4月9日

六ヶ所村
英国とロシアを含む数カ国が核燃料を作るためにプルトニウムの再処理による核燃料サイクルの実施に踏み切りましたが、アメリカ合衆国はジェラルド・R・フォード、ジミー・カーター両大統領の下で、この計画の実施が核兵器の拡散に新たな途を与える可能性がある事から実施を見合わせました。
もしアメリカが核燃料サイクルの実施に踏み切れば、後に続く国が相次ぐことが予想され、その結果世界中でプルトニウムの備蓄が行われる事態が到来することを恐れたためでした

そのアメリカの当局者がとりわけ懸念するのは、日本のプルトニウムの警備が極めて手薄なことです。
日本国内にあるプルトニウムの保管および使用済み核燃料からのプルトニウムの抽出作業は六ヶ所村再処理工場で行いますが、法律により銃の携帯が許されない日本では警備員は武器を持つことが出来ません。
現在は武装した警官が施設内に常駐するようになりましたが、海外の核不拡散問題の専門家はこうした警備状況では武装したテロリストに襲撃された場合、敵しようが無いと懸念しています。

従業員の詳細な身元調査を行う計画はあるものの、六ヶ所村再処理工場で働く人々はこれまで犯罪歴やテロリストとの関連に関する身元調査を受けたことがありません。

原子力規制委員会01
現在六ヶ所村再処理工場は原子力発電による稼働の認可を待っている状態ですが、安倍政権が閣議決定する予定の新エネルギー計画は、六ヶ所村再処理施設の速やかな稼働へと圧力を強めることになるでしょう。
(六ヶ所村再処理工場には海外で再処理済みのプルトニウムが、すでに貯蔵されています。)

日本の当局は、彼らの核燃料サイクル計画をあきらめるつもりは無いようです。

まだ戦争の傷跡の残る1950年代、最初に原子力発電の目標を設定した時点で当時の日本政府の当局者は、核燃料サイクル計画の実現により日本が輸入石炭、輸入天然ガス、輸入石油に依存しなくて済むエネルギー独立を実現するためのエネルギー安全保障の実現を国家に対して保証して見せました。
日本にとっての新たな同盟国であるアメリカは、この計画を歓迎しました。
当時のアメリカは自国の原子力発電技術と、現在日本で行われているものと類似した核燃料サイクル技術の輸出を切望していたからです。

六ヶ所指令室
アメリカ合衆国は日本の原子炉稼働に向けウラン燃料の提供を行い、さらに原子力発電の研究用として約300キログラムの兵器級プルトニウムを日本に移送しました。
ごく最近、日本がアメリカへの返還に同意したのがこのプルトニウムです。

日本国内に残ったのが核燃料サイクル計画のためのプルトニウムですが、計画は技術的問題を解決できないことに加え、計画そのものへの反対もあってすでに数十年の遅れが発生しています。
「日本がエネルギー安全保障の実現のため、未だにプルトニウムの再処理による核燃料サイクル計画にしがみついていることは、科学的に見て不合理なことです。」
ハーヴァード大学ケネディ行政大学院のマシュー・バン準教授がこう語りました。

エネルギー安全保障の実現もさることながら、日本政府と未だに大きな政治的発言力を有する原子力産業界はこれまで核燃料サイクル計画に莫大な額の投資を行なってしまったため、最早後には引けない状況に陥っている、複数の批評家がそのように見ています。

六ヶ所村再処理施設だけでも、これまで2兆2,000億円以上、そして20年以上の歳月が費やされているのです。

anti-nuclear01
「あなた方は核燃料サイクル計画の実施を決定し、そして国内各所にその設備を着々と建設してきました。
その結果多額の投資が回収出来なくなってしまったのです。このまま計画を順調に進めることは非常に難しい、その事を認めるべきではないでしょうか?」
ヒラリー・クリントン国務長官の顧問を務め、現在はブルッキングス研究所の上級研究員を務めるロバート・アインホーン氏が、日本のプルトニウム備蓄について議論を行ったネルディスカッションの席上、こう発言しました。

日本国内の核燃料サイクル計画の支持者は、半減期が長期にわたる核廃棄物の排出量が減ることになると主張しています。
前の民主党政権が核燃料サイクル計画の段階的縮小を示唆した際には、怒った六ヶ所村議会・役場は全国の原子力発電所から集められた使用済み核燃料を、そのまま各原子力発電所に突き返すと息まきました。
核燃料サイクル計画の実現の遅れにより、日本国内の原子力発電所では使用済み核燃料を収納する場所が無くなりつつあるのです。

「私たちにとって、最も頭の痛い問題です。」
日本の原子力委員会の鈴木達治郎委員長代理がこう語りました。

そして国内には、日本がプルトニウムの備蓄を続けることが国家の安全保障上有益であると主張してはばからない人々がいます。
中国との外交的緊張状態が続き、北朝鮮が日本海でミサイル発射実験を行うなどしている現状を見れば、プルトニウムの保管を続けることは抑止力のひとつとして悪い選択肢ではないと主張しています。

核ミサイル
「誰を傷つける訳でもありません。」
元官僚の石川和男氏がこう語りました。
「中国も北朝鮮も、日本はいつでも核兵器を製造することが可能だと考えてくれるでしょう。」

〈 完 〉

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