ホーム » エッセイ » Fukushima:いつから海は放射性核廃棄物を捨てても良い場所になったのか《前編》
『見えない、だから気にしなければ良い』というモットーの下、核廃棄物の海洋投棄は最も簡単な処分方法だった
すでに福島第一原発は『世界の海洋科学が見たこともない程の規模』の放射能汚染水を太平洋に流し込んでいる
ティム・シャウエンベルク / ドイチェ・ヴェレ 2020年3月11日
福島第一原子力発電所事故は、前例のない量の放射性物質を太平洋に流し込みました。
しかしそれ以前にも、原水爆実験と放射性核廃棄物により海は汚染されていました。
その影響は今日にまで及んでいます。
福島第一原子力発電所から海洋投棄されることになっている放射能汚染水の量は約120万リットルです。
これは日本の太平洋岸で発生した原子力災害から9年が過ぎた段階で、日本政府の諮問委員会が出した勧告に基づく計画です。
放射能汚染水は福島第一原発事故の後、破壊された原子炉内に残った核燃料を冷却し、さらなるメルトダウンの発生を防ぐため大量の水を注ぎ続けているため増え続けているのです。
現在福島第一原発の指揮にないにある大型タンクに保管されていますが、2022年までには全て満タンになると予想されています。
この放射能汚染水の処理方法をめぐっては日本国内で激しい議論になっていますが、それは単に福島第一原発の事故が福島県沖で極度の海洋汚染を引き起こしたということだけが原因ではありません。
ドイチェ・ヴェレの取材に対しフランス放射線防護原子力安全研究所(IRSN)のザビーネ・シャルマッソン氏は、事故当時放射能汚染水が「直接海に流れ込み、その量は世界の海洋科学の分野で見たこともないほどのものでした。」と語っています。
当時の福島県沖の放射能レベルは、政府の制限である100ベクレルの数百万倍というものでした。
現在でも、日本の沿岸や太平洋の他の地域で放射性物質の検出が続いています。
アメリカ西海岸でも検出されていますが、その放射線量は小さなものであり、フランスの地中海海洋研究所(MIO)の海洋学者ヴィンセント・ロッシ氏によると、それらは「世界保健機関によって設定された有害レベルをはるかに下回る」濃度です。
しかしそれはリスクがないという意味ではない、こう語るのは『核のない世界財団』(Nuclear Free Future Foundation)のホルスト・ハム氏です。
「たった1ベクレルでも私たちの体に入り込めば、細胞を損傷し最終的に癌細胞に変異するのに十分な量なのです。」
EU欧州議会の調査研究によっても同様の結論が出ています。
「最小限の被曝であっても、光量子が人間の細胞核を通過すれば癌を発症するリスクがあります。このリスクは非常に小さいですが、それでもリスクであることに変わりはありません。」
そしてそのリスクは増大しています。
海の放射能汚染は、福島第一原発事故に由来するものだけではなく、世界的に増加傾向にあるのです。
▽ 原水爆実験
1946年、米国は世界で初めて太平洋ビキニ環礁で水爆実験を行いました。
以来数十年に渡り公海上でさらに250回以上の核爆弾の実験が行われました。
このうちのほとんど(193回)はフランス領ポリネシアで行われ、米国(42回)は主にマーシャル諸島と中部太平洋地区で実験を続けました。
しかし海は核兵器戦争の訓練場として利用されただけではありませんでした。
1990年代初期までは、原子力発電所からの放射性核廃棄物の巨大な投棄場所でもあったのです。
国際原子力機関(IAEA)によると、1946年から1993年にかけて、200,000トン以上の核廃棄物(その一部は高放射性)が、主に金属製のドラム缶に入れられ世界各地の海洋に投棄されました。
この中には核弾頭を装備したままの原子力潜水艦も何隻か沈められたのです。
▽ 海は核廃棄物の最終的な保管場所なのですか?
国際原子力機関(IAEA)が公開した資料を検証するとわかりますが、このうち最大量の核廃棄物を投棄したのは英国とソビエト連邦です。
さらに1991年までに、米国は北大西洋と太平洋で90,000バレル以上、少なくとも19万立方メートルの放射性核廃棄物を投棄しました。
ベルギー、フランス、スイス、オランダを含む他の国々も、1960年代、70年代、80年代に北大西洋で大量の放射性核廃棄物を処分しました。
「『見えない、だから気にしなければ良い』というモットーの下で、核廃棄物の海洋投棄は最も簡単な処分方法だったのです。」とホルスト・ハム氏は言います。
今日まで、海洋で計測される放射線の約90%は北大西洋で廃棄されたキャスク由来のものであり、その大部分はロシアの北または西ヨーロッパの沖に沈んでいます。
「核廃棄物の詰まったキャスクはいたるところにあります。」
グリーンピース・フランスの生態学者ヤニック・ルースレット氏がこう語りました。
2000年に環境保護団体が潜水艦を使用してフランス北部の海岸から数百メートルの地点で深さ60メートルまで潜水し、投棄された核廃棄物のドラム缶を調査した際、一緒に潜水艦に乗り込みました。
「投棄された核廃棄物が想像とていた以上にが海岸に近い場所にあることに驚きました。
ルースレット氏がこう語りました。
「ドラム缶はすで錆びて中身が漏れだし、放射線量は目に見えて上昇していました。」
1960年代、英仏海峡では放射性核廃棄物を詰め込んだバレル((金属製の樽状容器)の海洋投棄が一般的に行われていました。
現在、この数十年前に投棄されたバレルが錆つき、放射性物質を漏らし続けているのです。
《後編》に続く
https://www.dw.com/en/fukushima-how-the-ocean-became-a-dumping-ground-for-radioactive-waste/a-52710277
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核廃棄物が海洋投棄された実態を表した上の地図を見ると、放射線に対する無知が生んだ人類の無謀な行為に慄然とならざるを得ません。
そして福島第一原発の膨大な量の放射能汚染水がここまで積み上がってしまったことについては、日本政府すなわち安倍政権が問題をここまで放置した、そのことに最大の責任があることは明らかです。
これほどの問題に真剣に取り組もうとせず、原子力行政と東京電力に丸投げにしたまま、問題をここまで大きくしてしまったその無能ぶりが最大の原因であることは明らかです。