ホーム » エッセイ » 私物化した権力の上にあぐらをかいたがゆえの没落【 党内派閥の逆襲・アベ一強の終わりと主導権争い 】
独裁政治を好み、国家統制主義を賛美し、どんな手を使ってでも相手を陥れようとする派閥の巣窟・自民党
安倍首相は内閣官房に権限を集中させ、自分に忠誠を誓う政治家だけを厚遇して自分を守っている
安倍首相のやり方のすべてが、何事も話し合って結論を出すという戦後の政治からの逸脱を加速している
エコノミスト 2018年4月19日
4月中旬、数々のスキャンダルの渦中にある安倍首相は今最も恐れなければならない事態に遭遇しました。
同じく首相を務めた先達である小泉純一郎元首相に、ダメ出しをされてしまったのです。
小泉純一郎元首相は2000年代初めの頃、安倍氏が今日の政界における地位を得るまでの道筋を作りました。
その小泉氏がかつての子分(原文は protégé フランス語で被保護者、子分)に対し、もう辞めるべき時だと発言したのです。
小泉元首相は、支持率が下がり続けているにもかかわらず、安倍氏が首相の座にあくまでしがみつけば、自民党は来年予定されている参議院議員選挙で敗北することになるだろうと警告しました。
▽自由主義者でも民主主義者でもない自由民主党が指向するのは独裁制と統制国家
安倍氏は今年9月には自民党の総裁として3期目の任期を確保するために選挙に臨む予定になっています。
昨年行われた衆議院の解散総選挙を含め、安倍政権になってから国政選挙の度に勝利を重ねてきた実績から、自民党はこの秋の総裁戦でも安倍氏は総裁候補として本命視(原文はshoo-in 八百長で勝つ馬という意味もある)してきました。
実際自民党は安倍氏が3期目の総裁になれるよう、党則の変更も行いました。
しかしその後、自分自身のスキャンダルに加えて高級官僚の不祥事が相次ぎ、安倍首相の支持率は2012年に再び首相として返り咲いて以来最低水準に落ち込んでいます。
もし秋の自民党総裁選挙に立候補すれば、投票で手強い挑戦者に直面する可能性が高くなっており、安倍首相の運命は派閥争いを繰り広げる領袖たちの手に委ねられることになりそうです。
4月なかば安倍首相が訪米中に自民党の一部の重鎮たちが夕食会を開き、報道機関はこれを総裁戦に向けた駆け引きの始まりだと伝えました。
自民党についての耳慣れた冗談は、彼らは自由主義者でも民主主義者でもないということです。
その実態は独裁政治を好み、国家統制主義を賛美し、しかも政党とは名ばかりのどんな手を使ってでも相手を陥れようとする派閥の巣窟でありながら、1955年以降ほぼ途切れることなく政権の座に座り続けてきました。
自民党の派閥はそれぞれが独自の指導者、事務所、銀行口座を持っており、西側先進国の政治社会にあっては異質な、しかし公の機関です。
自民党国会議員の大半はそのいずれかの派閥のメンバーです。
▽自民党は左派やリベラルが政権の座につかないようにするという、その一点だけで結びついた烏合の衆
自民党は左派やリベラル派が日本の政権の座につかないようにするという、その一点だけが同じ目的の、思想的にも立場的にも異なる右派右翼の団体が同盟して結成された政党ですが、派閥の起源もそこにあると政治学者の猪口孝志氏が語りました。
これは各選挙区から4〜6人の当選者が選ばれた一昔前の日本の中選挙区制度の下では特に重要なことでした。
この制度の下では自民党所属の候補者が互いに競争することになり、他者より有利になるためには派閥ごとの資金と選挙組織が必要だった、自民党の政治家である中山泰秀氏がこのように説明しました。
しかし中選挙区制は1994年に廃止になり、同時に強力な派閥の主な存在理由も失われました。
その結果自民党の党首には強く自己主張できる機会が与えられることになったのです。
第二次世界大戦以降日本の自民党内には英国政界と比べ2倍以上の数の派閥が存在してきましたが、中選挙区制の下では派閥争いが熾烈になるとたちまち首相の座が揺らぐことになりました。
しかし中選挙区制の廃止の結果、小泉純一郎首相や安倍首相が1960代以降最長期間首相の座に座り続けることを可能にしたのです。
安倍氏は首相に再任して以来、内閣官房に権限を集中させスタッフを大幅に拡充しました。
日本の研究機関である政策研究大学院大学の研究員の竹中春香氏は、これにより安倍首相の側近政治は特に軍事政策・経済経済政策の分野で担当省庁や自民党の政策研究機関の頭越しに政策を実施するようになったと語りました。
この自民党の執行機関が各選挙区の候補者を選び、官僚組織内の責任者の選出を行います。
内閣官房は自民党の選挙候補者を選出し、官僚組織内の任命権を握っています。
この結果、他者より優位に立つために、議員たちは派閥より何より内閣官房に忠誠を誓わなければなりません。
安倍氏は、政府内の下位の方のポストについては派閥のバランスを考慮していますが、強力な権限を有する省庁の大臣ポストは自分が気に入った人間にだけ与えています。
こうした安倍首相のやり方のすべてが、何事も話し合って結論を出すという戦後の政治からの逸脱を加速していると、東京大学のケネス・モリ・マックエルウェイン氏が指摘しました。
細田派(安倍氏が率いる自民党の最大派閥)はどの派閥にも増してプロパガンダ的性格が強い、政治学者であるアーサー・ストックウィン氏がこう記しています。
「細田派は1950年代にさかのぼる一連の政策理念を推進することに強い関心があります。」
だからこそ安倍首相は国民に不評の平和主義憲法の書き換えに執着するのです。
しかしプロパガンダとはあまり縁のない、リーダーの野望へと行き着くための乗り物としての派閥の機能はなくなったわけではない、こう主張するのはコンサルティング会社テネオ・インテリジェンスの日本問題を専門家であるトビアス・ハリス氏です。
つい最近、自民党内で3番目に大きな派閥に関わるちょっとしたトラブルがありましたが、さらに大きな問題に発展するかもしれません。
その派閥の会長であった額賀福志郎氏が3月に会長辞任を余儀なくされました。
理由の主なものは額賀氏が会長を務める額賀派(平成研究会)が満足できる閣僚ポストを手に入れることができなかったことです。
額賀氏に代わって会長の座に着いた竹下亘氏は、総裁選挙で安倍首相への支持を撤回することをほのめかし、対立する姿勢を鮮明にしています。
竹下氏の派閥の多くは、首相周辺で相次いでいる不祥事にも不満を募らせています。
安倍政権の麻生太郎副首相兼財務大臣は自民党の2番目に大きな派閥の領袖ですが、キングメーカー気取りなのかもしれません。
安倍首相の没落について、小泉元首相はまだどの派閥にも所属していない長男進次郎氏が首相候補者として一躍躍り出るチャンスを感じているかもしれません。
自民党の派閥体制は安倍首相によってその影響力をだいぶ殺がれましたが、そう簡単に無くなりはしないのだという事を安倍首相に突きつけるかもしれません。
https://www.economist.com/news/asia/21740760-shinzo-abe-trouble-different-tribes-within-ruling-party-cabals-japans-prime
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今回の原文には見慣れない英単語(主にこきおろす類の)が頻出し、だいぶ勉強させてもらいました。
この[星の金貨]は、福島第一原子力発電所の事故後、電力業界、原子力行政・産業界、そしてアベ政治があまりも手前勝手な主張を国内で展開し、それに拍手喝采を贈るメディアや評論家などが群がり出てくる有様に我慢できず、「国際社会の正論はそんなものじゃないぞ!」という反論をいちいちぶつけていくために始めたものです。
21世紀の妖怪図鑑を作るわけじゃなし、これまで自民党の派閥の詳しい中身になど興味はありませんでしたが、今回はだいぶ勉強させていただきました。
ただでさえ冒頭の写真の方に関連する記事の掲載回数が多くなっており、その都度日本が劣化している事実を突きつけられ不本意この上ないのですが、民主主義を守るためには[星の金貨]も微力ながら火の玉にならざるを得ません。