ホーム » エッセイ » 福島第一原発が立地する自治体:避難命令の解除、戻ってくるのは…
かつての住民に加え、福島第一原発が県の全域に放出した放射性物質に汚染された廃棄物が戻ってくる
溶け落ちた核燃料、取り出し方法も安全に最終処分する具体的方法も考案すらされていない
アルジャジーラ 2019年4月10日
福島県:日本政府が避難命令を解除したことにより福島第一原発が立地する大熊町に住民が帰ってきましたが、未だに除染が続いている町の60%には住民の立ち入りは禁止されています。
日本は2011年3月の福島第一原発の事故発生後初めて、4月10日立地自治体の一つである大熊町の一部で避難命令を解除しました。
除染作業を行ったことにより、2011年3月に巨大地震・巨大津波によって原子炉3基がメルトダウンした福島第一原発の南西約7kmの地域で、大幅な放射線レベルの低下が確認できたとしています。
避難命令の解除により大熊町の約40%で居住が可能になりますが、もう一つの立地自治体である双葉町は他のいくつかの周辺市町村と同様、全域が避難指定区域のままです。
しかし現地では福島第一原発を安全に廃炉にするための複雑な作業が続けられており、多くの元住民が帰還することについては消極的です。
避難命令の解除に反対している人々は、日本政府が翌年夏に開催が予定されている東京オリンピックに先駆けて日本の安全を内外にアピールする道具として、福島第一原発事故の被害市町村の住民の帰還が利用されていると批判しています。
日本政府は、表層土の除去、木々の伐採、汚染地域の住宅や道路の洗浄による巨大規模の除染プログラムを推進してきましたが、専門家はこうした取り組みも放射性廃棄物をある場所から別の場所に移動させて莫大な量の放射性廃棄物を作り出しているに過ぎず、必要なのは長期的に保管する措置だと指摘しています。
福島第一原子力発電所の6基の原子炉のうち事故では3基がメルトダウンし、発電所の他県に及ぶ周辺市町村を汚染する大量の放射線漏れが発生し、ピーク時には約16万人が福島県内の他の市町村または県外へ避難することを余儀なくされました。
当初立ち入り禁止とされていた区域の大部分で避難命令は解除されました。
しかし福島第一原発に近い場所とその北西方向のいくつかの市町村ではまだ制限が続いています。
これらの地域は原子炉がメルトダウンした後、福島第一原発から放出された放射性物質によって深刻な汚染されてしまいました。
2019年3月時点で大熊町の人口約1万人を含む4万人を超える人々が故郷には帰れないままになっています。
大熊町当局は、町内の2つの地区の避難命令が解除されることにより地域の復興が促進されると語っています。
「私たちはようやく再建の出発点に立とうとしています。」
渡辺利綱大熊町町長は記者団にこう語りました。
5月には大川原地区に新しい公民館がオープンし、50軒の新しい家と商店開設の準備が進行中ですが、町の中心である駅付近の年間放射線量は依然として基準値を超えており、閉鎖されたままです。
病院の診療開始まではさらに2年を待たなければならず、医療機関にかかる必要がある場合は帰還者が近隣の市町村まで自家用車で行くかバスを利用しなければなりません。
福島第一原発の事故以降、反原発感情と放射線被ばくへの懸念は依然として高く、多くの人々が日本政府や電力会社が行う安全宣言に対しては疑念を持っています。
低線量ではあっても長期間の放射線被ばくすることによって、がん発症や他の病気の発症のリスクにどのような影響が及ぶのかはまだ未解明のままです。
さらにそれまで年間1ミリシーベルトとされていた一般市民の被ばく線量の限度を福島第一原発の事故後、原子力関連施設で働く従業員と同じ20ミリシーベルトにまで引き上げたことについても、設定された値が高過ぎると批判が集まっています。
▽ 解消されることの無い懸念
放射線についての懸念が長引き、多くの人々はかつての自宅に戻ることには消極的です。
自宅を離れてすでに8年以上が経った現在、多くの人々が避難した先での新しい仕事、新しい住環境に慣れ親しんでいます。
避難指示が解除された大熊町の2つの地区に改めて住民登録をしたのは367人、割合にすると旧人口の4パーセント未満にとどまっています。
昨年行われた調査では、元住民の12.5パーセントが故郷にある自宅に戻りたいと回答していました。
日本政府は現在は全町が避難指定区域になっている双葉町についても、来年、5,980人の旧町民の何割かを帰還させたいと検討を進めています。
大熊町に集まるのはかつての住民だけではありません。
除染によって発生した福島県全域の汚染土が大熊町に建設される中間貯蔵施設に保管されることになっています。
施設の建設は大幅に遅れ、現在も建設作業が行われています。
福島第一原子力発電所を管理運営する東京電力と日本政府当局はメルトダウンした3基の原子炉のうちの1基から、2021年中に溶け落ちた核燃料の除去を開始する予定だとしています。
しかしメルトダウンした原子炉の内部に関する情報は極めて少なく、仮に取り出せたとしても、それを最終的に安全に処分する具体的方法は考案すらされていないのです。
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根拠がなくてもとりあえず国民にとって耳障りの良いことを言っておいて、その場しのぎを繰り返す。それが『アベ政治』の大きな特徴の一つだと思っていますが、福島第一原発事故に対する対応はその最たるものでしょう。
どころか被災者・避難民を別の自分の人気取り政策に利用しようとするその姿勢は、厳しく非難されるべき性格のものだと思います。不正な手段まで用いて実現が図られたとされる2020年東京オリンピックのために、とことん『落とされてしまった』福島第一原発事故の被災者の帰還を利用するなど、これが民主主義先進国の政治か?! という憤りが湧き上がってきます。