ホーム » エッセイ » 朝鮮半島の南北会談・平和への前進とまだ残る不安[社説]
70年にわたり厳しい分断状態に置かれてきた韓国北朝鮮国民は、南北首脳会談の実現を心待ちにしていた
今回の南北対話は本質的で実りある交渉の始まりを告げるものであり、アメリカと北朝鮮との新たな関係の始まりでもある
ニューヨークタイムズ 2018年4月27日
4月27日金曜日、南北朝鮮の国境をまたいで展開された衝撃的な政治劇の後となっては、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)総書記の本心について様々に邪推したり、数週間後に予定されているトランプ大統領との会談がうまくいくはずが無いと誹謗することは、むしろ言っている人間の了見の狭さを露呈することになるでしょう。
結論から言えば、核兵器を使った報復合戦という最悪の事態に備えなければならなかったわずか数ヶ月前の緊迫した状況と比べ、今回の南北首脳会談の様子は全く対照的であり、直接の対話を実現させたことは刃物をチラつかせながら対決姿勢をとるよりもはるかに良いということを衆目の下で明らかにしました。
金委員長と平和主義者である韓国のムン・ジェイン大統領との会談は、70年にわたり厳しい分断状態に置かれた国民にとって心待ちにしていた出来事であり、その希望と長い間心に秘めた思いを思い起こさせる役割を果たしました。
すべての場面に象徴的意味があふれていました。
二人が行き来した国境を示すコンクリートブロックの間に挟まれた通路には、これまで北朝鮮の金氏一族が足を踏み入れたことはありませんでした。
停戦によって朝鮮戦争が1953年に休戦状態に入った際に植樹が行われた土地には、二人を守るように旗と幟をささげ持った19世紀の高麗王朝の儀仗隊が控えていました。
両首脳が署名した「板門店宣言」は朝鮮半島の核兵器を廃絶し、最終的に平和条約を締結することを約束し、会談の雰囲気同様に明るさに満ちたものでした。
トランプ大統領もこうした高揚感に同調するコメントを行いました。
「朝鮮戦争は終わった!」
彼は大喜びでこうツイートしました。
「米国とその偉大な国民は、現在韓国で起きていることを大いに誇りに思うべきだ!」
一方でほとんどの専門家は次のように疑いを持っています。
金正恩氏は依然として絶対的支配権を保持するためにはどんな手段でも使う、残虐な国家の残忍な支配者であり、金氏一族が何年もの歳月と多額の費用を費やして開発した核兵器を簡単に諦めるとは考えられず、結局のところ何も変わらないだろう、と。
金正恩氏が思い描く朝鮮半島の非核化とは「漸進的かつ見返りを得ながら進む」ものであり、経済的利益と北朝鮮の現在の体制の維持についての保障、そして韓国に対する核の傘を米国が引き上げる事と引き換えに部分的かつ段階的に前進すると思われます。
これらの点は交渉が難航することが予想され、トランプ政権が意図する合意事項とも大きく食い違っています。
そして同時に金正恩氏は貧困にあえぐ北朝鮮の生活水準を引き上げる事に根っ真である事は明らかで、保有する核兵器を取引材料として利用して厄介な経済制裁の解除と現在の体制の継続についてアメリカの了解を取り付けるべく交渉の準備を進めています。
米国の国家安全保障問題の顧問に新たに就任したジョン・ボルトン氏は就任する以前あるインタビューで、トランプ・金正恩首脳会議は必ず失敗すると語り、かえって次の段階への障害を取り除く事になるだろうと語っています。
次の段階とは先制攻撃だと考えられています。
しかし長い間対立を続けてきた北朝鮮と韓国は板門店宣言によって新たな時代が始まった事を劇的に宣言したことは、否定的な観測をしてきた人間たちを狼狽させる事になりました。
そして今回の南北対話は本質的で実りある交渉の始まりを告げるものであり、両国民が期待を持って良いものです。
さらにそれは韓国北朝鮮の2国間にとどまらず、アメリカと北朝鮮との新たな関係の始まりでもあります。
韓国北朝鮮の2国間協議の成功は、平和の実現に向けて動き出した現実を尊重するように、トランプに圧力をかける事になるでしょう。
北朝鮮との真摯な交渉に我慢強く取り組み、一方的な要求や脅迫や恫喝を行う事なく平和の実現に努力するよう求める事になるでしょう。
これからの交渉は長い時間をかけて行われる事になるでしょうが、衝動的でその行動を予測し難いトランプ大統領と金正恩委員長の手を核兵器の発射ボタンから遠ざける事ができるだけでも、世界にとっては喜ぶべきことであるはずです。
https://www.nytimes.com/2018/04/27
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朝鮮戦争いうものを、手前勝手な日本史的立場ではなく客観的資料を揃えた世界史的立場から見た時、それがいかに惨烈で残酷なものであったかを理解することができます。
まして日本の高度成長のきっかけを作ったのがその朝鮮戦争であったことを思えば、今回の会談を機に韓国朝鮮の人々が平和の実現を心から願ったことを貶める理由が私たち日本人にあるでしょうか?
今回の会談を茶番だとか言って貶める人間たちは、己れの志操の低さ、この記事にあるように了見の狭さ、そして普遍的人間性の欠如という点について、真剣に考えてもらわなければなりません。