ホーム » エッセイ » 日本に関するトランプの無知はあまりにひどすぎる
日本に対し常識を超えた支配力を持ち続けるアメリカ
トランプは戦略について驚く程無知であり、まともな歴史認識など持ち合わせていない
2003年ブッシュ大統領の合理性に乏しいイラク侵略に加担した日本
ゲイリー J バス / ニューヨークタイムズ 2019年6月28日
トランプ大統領は海外訪問の際に最悪の振る舞いをする、その材料には事欠かないようです。
1年前ヘルシンキでロシアのウラジミール・プーチン大統領と会談する直前、フランスで開催された第一次世界大戦のアメリカ兵戦没者追悼式典への参列を見送った際の理由は「雨が土砂降りだった」(ホワイトハウス談)というものでした。
6月初旬にはロンドン市長を侮辱しました。
しかし大阪で開催されたG20サミットに参加する1週間前の振る舞いに比べれば、誰もが目を剥くというほどではありませんでした。
一連の彼の不安定な振る舞いの中でも飛び抜けてひどいものであり、アメリカ云々以前のトランプ氏の脈絡のない世界に向けた敵意がいかに危険なものであるか、それが客観的にわかる実物教育ともいうべきものでした。
伝えられるところでは日本に到着するまでの間トランプ氏は、1951年に署名され1960年に改訂された日米安全保障条約 - それはアメリカの外交政策の重要な柱の一本であり日米同盟の基盤をなすものです - についてアメリカ側から解消することをずっと考え続けていました。
6月26日日米安保条約についてフォックスニュースの取材を受けたトランプはいかにも馬鹿馬鹿しいといった口調でこう語りました。
「もし日本が攻撃されたらアメリカは第三次世界大戦を戦うことになる。」
そしてこう続けました。
「しかしアメリカが攻撃されても日本は我々を助ける必要はどこにもない。日本人はソニー製のテレビでその様子を見ていれば良いだけだ。」
トランプ氏の発言は、この人物が国務省のさして重要ではないデスクワークすら担当させてもらえない程戦略について無知であり、まともな歴史認識など持ち合わせていないということを表現しています。
トランプ氏は日米安全保障条約が一方的に日本に有利な内容だとほのめかしていましたが、この条約は主にアメリカによって起草されたものです。
大日本帝国が連合国に降伏した1945年8月、第二次世界大戦は終結、その後日本は強権的なダグラス・マッカーサー将軍の監視の下、アメリカ軍が主導する連合国軍の占領下に置かれました。
そして占領が終わった1952年4月、日本は軍国主義と決別し、平和主義と民主主義の理念を受け入れることになったのです。
マッカーサー司令部で当初英文で起草された新しい日本国憲法第9条は、日本が戦争を放棄し、陸軍、海軍、空軍の三軍を永久に保有しないことを宣言しました。
1951年に締結された安全保障条約についてトランプ氏は明らかに過小評価していますが、日本に対し常識を超えた支配力を持つ立場から、アメリカは欲しいものはほぼ全て手に入れることができました。
日本はアメリカ合衆国にのみ、国内とその周辺に空軍及び海軍基地を持つことを認めました。
その軍事力は武力攻撃及びソビエト連邦が扇動する暴動から日本を守ることが使命とされていました。
そして1960年の改定により、日本が武力攻撃を受けた場合にはアメリカが防衛するということがより明確になりました。
冷戦の最中には民主主義国家日本はアジア地区におけるアメリカの同盟各国の中心的位置を占めるようになり、ソビエト連邦と中国という二大共産主義国家に対する防波堤の役割を担っていました。
さらにトランプ氏は2001年9月11日に米国が攻撃された9.11同時多発テロのときの際、日本がどう対応したかに関する知識も無く、同盟国日本を侮辱しています。
同時多発テロでは日本人の犠牲者も出ましたが、全体の有様を見た日本の人々は深く心を痛めました。
そして親米派で保守派の小泉純一郎首相は、同時多発テロで多数の一般市民が虐殺されたことを自国の憲法第9条を見直す機会として利用し、より多くの国際的責任を担うことを自国に求めました。
小泉政権はテロ対策特別措置法を強行成立させ、アフガニスタンでの作戦を展開中だったアメリカ軍を自衛隊が支援することを可能にしました。
ただし平和主義は日本の国是であり、自衛隊は直接の戦闘行動や作戦支援などしていません。
ブッシュ大統領が2003年にイラクに侵攻したとき、小泉首相は最も忠実な外国の支持者になりました。
日本は憲法上の制約から侵攻作戦に加わることや直接の軍事的役割を果たすことを憲法上禁止されたまま - 戦後のイラクでの人道支援任務を行うため数百人の自衛隊の地上部隊を派遣しました。水と医療援助の提供、道路や建物の修繕などを行いました。
しかし小泉氏は多くの日本人同様小さくはない誤りを犯しました。
それは結果的にブッシュの合理性に乏しいイラク侵略に加担したことです。
しかしトランプ氏が言うような米国を支える姿勢に欠けるという非難はおよそ的外れなものです。
日本の右派タカ派の安倍首相に対するトランプ氏の発言は、意図不明の平手打ちを食らわせるようなものです。
自己保身が目的とはいえ安倍首相はトランプ氏との関係を深めようと懸命であり、米国とイラクの関係が危機的状況に陥らないよう仲介の労もとりました。
1960年の改定日米安保条約を調印したのは安倍首相の祖父、岸信介首相でした。
今年5月の4日間に渡った訪日中、安倍氏はトランプ氏のために日本の新天皇との特別な謁見の場を設け、相撲の特別観覧を設定し、さらには皇居での贅沢な宮中晩餐会でもてなしました。
その挙句東京での記者会見で安倍首相の隣に立ったトランプ氏は、数千人の日本の一般市民を殺害する可能性のある北朝鮮が最近行った短距離弾道ミサイルの発射実験に日本が懸念を示したことに対し、自分には関係のない話だと言い放ったのです。
トランプ氏は、無知で恩知らずで敵意を含んだ言動によって何を得ようとしているのでしょうか?
実際に安全保障条約から撤退する可能性は低いものですが、それでも日本との同盟に疑問を投げかけることで、北朝鮮と台頭する中国に日米関係に揺さぶりをかけるきっかけを与えています。
トランプの言動は明白な理由もなく最も重要な同盟関係を弱体化させ、対立によって引き裂かれた戦略的地域の安定性を損なうものです。
しかし私たちはトランプのこうした言動に慣れてしまっており、そこに隠された本当の危険に気がつきにくくなってしまっているのです。
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トランプの愚かさ、そしてやっていることが非常にに危険だということは、エコノミストやワシントンポスト、ニューヨークタイムズを読めばすぐわかることですが、日本に関わるこの記事のような事実については日本のメディアが伝えるべものだと思います。
ところが対トランプにしても対安倍首相にしても、日本の大手メディアは全くの腰抜け、忖度報道一色です。
かろうじて東京新聞や日刊ゲンダイなどのメディアが一線を守っていますが、彼らがいなければ、日本のメディアはまるで大政翼賛会。
その辺りを恬として恥じない、その理由は何なのでしょうか?
今回の参院選の報道にしても、6日付の朝刊第一面の見出しが『投票率が低いものにとどまると予想され、改憲勢力が勝利する見通し』という、予想屋のような内容がでかでかと掲載されているのを見て本当にがっかりしました。
その新聞社が政界通かどうか?などということはどうでも良いことであり、改憲という非常に重要な課題を目前して選挙に日本の国民が興味を示そうとしない、そのことに警鐘を鳴らすのが『言論機関』の役割ではないのか?という怒りを覚えました。
劣化する政治、劣化するテレビ放送、その上新聞報道まで劣化していけば、この国の未来は本当に危ない。
当事者自身にその危機感がないということに、国民として深刻な危機感を井田がざるをえません。