ホーム » エッセイ » 【 危機が拡大し続ける福島第一原発、さらなる悪化を警告 】国民の関心を、他の問題に逸らして良い場合ではない
疑われる、安倍政権の福島第一原発の現状に対する認識
全ての検証を行う確実な方法も無く、汚染水を移送すべき当ても無い
福島第一原子力発電所の問題について、非常事態を宣言すべきである
田淵弘子/ニューヨークタイムズ 8月23日
8月23日金曜日、津波によって破壊された福島第一原発の管理運営を行う東京電力は、福島県沿岸部の汚染状況についてより深刻な状況に陥り、一層危機的状況になっていると警告を発しました。
そして敷地内には緊急に建造されたタンク内に放射能に汚染された水が200,000トン以上貯蔵されていますが、貯蔵タンクの密閉性に問題があり漏出の疑いが生じているものの、全ての検証を行う確実な方法も無く、汚染水を移送すべき当ても無いことを認めました。
この最新の問題は、2011年3月に襲った巨大地震と巨大津波が引き金となり、3基の原子炉でメルトダウンが発生して以降、東京電力が延々と繰り返してきたトラブル、各種の放射性物質の漏出や設備の故障などのリストに新たな項目を付け加えることとなり、同社の事故収束作業の信頼性、能力に対する深刻な疑問を提起することになりました。
今回の問題は日本の安倍晋三首相が福島第一原発における事故収束作業について、日本政府が直接介入する考えを明らかにしたわずか2週間後に明らかになり、安倍首相がどれほど真剣に福島第一原発の問題解決に取り組んでいるか、その姿勢に対する疑念をかきたてることにもなりました。
安倍政権はこれまで一貫して国内の原子力発電所の再稼働を推進してきました。
そして24日には日本製品や工業技術などの輸出の後押しをするため中東諸国を訪問することになっていますが、その中には原子力発電も含まれています。
安倍首相はさらに、2020年の東京へのオリンピック誘致を実現するため、9月7日に最終投票が行われるアルゼンチンのブエノスアイレスに代表団を率いて自ら乗り込む予定を立てています。
2020年のオリンピック開催地として最終選考に臨むのは、福島第一原発の南240キロに位置する東京、他はイスタンブールとマドリードです。
日本の野党の国会議員はそうした予定を取りやめ、福島第一原子力発電所の問題について、非常事態を宣言するよう求めています。
「福島第一原発の危機は現実のものであり、現在進行しているのです。にも関わらず日本政府は、この問題と向き合おうとしません。」
野党日本共産党の吉良佳子議員はこう語りました。
共産党は先月の選挙で大きく得票を伸ばしました。
「政府は直ちに非常事態宣言を行い、汚染水の漏出を止めるため全力を尽くさなければなりません。」
安倍首相のいる官邸の前で行われていた反原発デモの会場で、吉良議員はこのように語りました。
安倍首相の支持率は依然高いままですが、今回の福島第一原発の事態がそのことにどれ程の影響を及ぼすことになるか、その点は未だ予測することが出来ません。
しかし今回の事態により、福島第一原発の現状が東京電力の手に余るものになっている、その事だけは改めて明確になりました。
東京電力はメルトダウンした核燃料が再び過熱しないよう絶え間なく水を送り続けることにより、そして地下水が一日当たり400トンというペースで原子炉建屋の地下部分に流れ込むことにより作りだされた汚染水335,000トンを保管するため、敷地内に次々と貯蔵タンクを作り続け、今やその数は1,000基近くになっています。
東京電力は8月の第4週、これらのタンクの内の一基から、おびただしい量の汚染水が漏れていたことを公表しました。
そして23日金曜日になって、さらに恐るべき事態について明らかにしました。
福島第一原発の敷地内で200,000トンの汚染水を貯蔵しているタンクの構造が、漏出を起こしたタンク同様、急造されたものであることを明らかにしたのです。
東京電力は高さが10メートルある鋼鉄製の円筒形のタンクを建造する際、鉄板の継ぎ目にゴムのシーリングを使いましたが、この素材が放射性物質に対して耐久性があるかどうかの検証をしていなかったのです。
東京電力原子力計画部、放射線広報グループマネージャーの今泉典之氏は、汚染水はこのゴムのシーリングの部分、あるいは基礎のコンクリートの部分から漏れ出している可能性が高いと語りました。
さらには、これらのタンクの近くには排水溝があり、どのタンクから漏出が起きても、そこを通って高濃度の汚染水が海にまで流れ込んでいる可能性がある、今泉氏はこう指摘しました。
そして付近の放射線量の測定結果を見ても、汚染水がすでに海に流れ込んでいる疑いは濃厚です。
急造されたタンクには水位計がついておらず、このことも漏出を確認することを困難にしています。
今泉氏によれば、わずか2名の職員が1,000基近いタンクの状態を確認するため、一日2回、2時間の点検を行っています。
日本政府は原子力規制委員会に対し、福島第一原発での事故収束作業を行っている東京電力に対し、もっと積極的に助言、監視を行うよう命じました。
原子力規制委員会は急造したタンクからもっと堅牢なタンクに汚染水を移し替えるよう命じましたが、原子力規制委員会の更田豊志(ふけた・とよし)委員は現地を視察した後、汚染水の量が膨大過ぎて、ただちにそうした作業に入ることは『非現実的』だとの見解を示しました。
今年初め、福島第一原発では地面を掘って急増した貯蔵施設から汚染水が漏れ出しているのが見つかり、急きょ鋼鉄製のタンクに汚染水を移し替える事態となりました。
複数の専門家は、原子炉建屋の地下から汚染水が地下水脈に入り込み、そのまま海に漏出している疑いがあると指摘しました。
福島第一原発の周辺海域で、放射性セシウムの値が上昇していることから考えても、その疑いは濃厚だと言わなければなりません。
東京電力はこれらの放射性物質は、原子炉建屋の基礎部分から漏出したものではなく、最初の事故により汚染された、海岸線に沿って設置されているメンテナンス用のトンネルから出ているものだと主張してきました。
その東京電力も原子炉建屋の基礎部分が、きわめて高濃度に汚染されていることは認めています。
専門家はその汚染が海に流れ込んでいるとしたら、事故初期を上回る汚染を引き起こしていることになると指摘しました。
「思うだに恐ろしいことです。」
今月、気象庁気象研究所、地球化学研究部の青山道夫主任研究官はインタビューにこう答えました。
「それは最悪の結論です、まさに最悪のシナリオです。」
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福島第一原発の事故については、月・火曜日にご紹介したフェアウィンズのアーニー・ガンダーセン氏と、今日ご紹介したニューヨークタイムズの田淵弘子氏、マーティン・ファクラー氏が中心になって解明が進んできた、事故発生から2年半、被災地の近くで暮らしながら世界中の報道の翻訳を続けてきて、今、そんな実感を持っています。
ガンダーセン氏は福島第一原発について、これまで重要な指摘を何度も行ってきました。
しかしフェアウィンズの発信だけでは、世界の隅々にまでその指摘が伝わるという訳には行きません。
そこをニューヨークタイムズという、世界的に報道内容の的確さ、そして何よりその品位の高さが評価されているメディアが取り上げることにより、福島第一原発の真実が世界の認識になりました。
そしてイギリスのガーディアンやドイチェ・べレ(ドイツ国際放送)、あるいはアメリカのCNNニュースや三大ネットワーク、ワシントンポストなどがさらなる検証を行うことにより、私たち日本人も含め世界の人々の眼前に、福島第一原発の真実の姿が明らかにされたのです。
その結果、日本政府や東京電力が対応を余儀なくされ、併せて日本の原子力ムラが福島第一原発の事故収束現場すら支配し、その結果今日どうにもならなくなってしまった、その事実が明るみに出たのてす。