ホーム » エッセイ » 良心を持たない政治家と官僚たちが、現代人の不健康の根本原因を作り出している《後編》
肥満の最大の原因は飲みものや菓子類を通して消費する砂糖の量が爆発に増加していること
肥満率は貧困率と強い相関関係を持つ、『自己責任』を認識すべきは一部の政治家や官僚
ジョージ・モンビオット / ガーディアン 2018年8月15日
では現代においてこれほど肥満の人が多くなった本当の理由はなんでしょうか?
あなたが栄養学に関するデータを詳細に検証してみると、だんだんと答えが見えてきます。
実は私たちは1976年には今より多くの量を食べていましたが、食べていたものが違っていました。
今日私たち摂取する新鮮な牛乳を購入する量は半減しましたが、しヨーグルトは5倍、アイスクリームは3倍、そして日常的に摂取する『スウィーツ』の量は39倍になっていたのです。
卵の消費量は1976年と同程度ですが、朝食用シリアルは3倍、普通のシリアルスナックは2倍の量を購入しています。
ジャガイモの消費量は半分になりましたが、ポテトチップスの消費量は3倍になっています。
直接砂糖を購入する量は急激に減少していますが、飲みものや菓子類を通して消費する砂糖の量は爆発に増加しているとみられます(残念ながら1992年以前の統計データはありません。ただこの年から飲みものや菓子類の購入量が急激に増加しています。1976年当時の飲み物を通して摂取するカロリーの量はたった9キロカロリーで、誰もそれを継続的に記録すべきだとは考えられなかったのです)。
言い換えれば、私たちの身の回りには砂糖が入った食品が急増したのです。
何割かの専門家が長年指摘してきた通り、肥満者数の急増の第一の原因はこの点にあるようです。
こうした変化は偶然の賜物ではありません。
ジャック・プレッティ氏は映画『我々を太らせた人間たち』の中でこう訴えていました。
食品会社は多額の費用を投じて砂糖によって私たちの体の自然な食欲制御メカニズムを狂わせ自然な食欲以上に食べるよう製品を設計し、さらにパッケージングとプロモーションによって残された自制心も壊してしまうのです。
食品会社は食品科学者や心理学者を大量に動員し、体が必要以上に食べるように私たちを欺き続けるのです。
私たちの抵抗を打ち破るため、最新の神経科学の成果を都合よく利用した大量の広告を行うのです。
あえてその事実に対して警鐘を鳴らしても、食品業界と広告業界は力づくで押さえ込みにかかります。
こうして肥満については、太った人間の自己責任が問われることになります。
彼らは金で言う事を聞く科学者やシンクタンクを雇い、現代人の肥満の原因についての検証を混乱させます。
かつてたばこ会社が喫煙について行ったキャンペーン同様、肥満は飽くまで「自己責任」だという考えを普及させているのです。
巨額の費用をかけて私たちの自制心を失わせ、その挙句肥満になるのは自己管理ができない人間だからだと、個人を責めるよう仕向けます。
1976年の写真が投げかけた疑問に対しても、そのやり方が効果を発揮しています。
「言い訳すべきではありません。自分のことは自分で責任を取るべきです!」
「ジャンクフードばかり食べるよう強制される人間などいません。それは飽くまで個人的な選択なのです。私たちは檻の中で飼われているペットではないのです。」
「ときどき無料の保険制度は間違いなのではないかと思うときがあります。いつでも医療を受ける権利が保障されていると思うから、いい加減な気持ちになって太ってしまうのです。」
そうではないと主張しても、業界の宣伝工作に潰されてしまいます。
結果私たちは被害者であるはずの個人の方を喜んで責めるようになるのです。
ランセットの論文によると、驚くべきことに国策に関わる政治家や官僚の90%以上が「個人的な心の持ちよう」が「肥満の増加に、強くあるいは非常に強
影響を与えている」と考えています。
そうしてこうした人間たちは体重オーバーあるいは肥満に陥った人々の61パーセントが、なぜ自制心を失ってしまったのか構造的要因を理解していません。
しかしこれまで聞いたこともない肥満の真の原因については、証拠不十分のようにも見えるかもしれません。
おそらくその理由は体重増加恐怖症(精神医学用語)が俗物根性の形に実に巧妙に偽装されているからだと思われます。
多くの先進国では、経済的に社会の底辺に近い人ほど肥満率が高くなっています。
肥満率は貧困率と強い相関関係を持っており、なぜ英国の肥満者数の割合が他のヨーロッパ、OECD諸国の大部分よりも高いのかを説明してくれます。
科学的文献は、社会的地位や収入が低いことにより、消費支出、ストレス、不安、抑うつ状態などがネガティヴ要因となり、人々の食事内容を悪化させる傾向があることを示唆しています。
失業の原因の一つが社会の構造的問題であるのと全く同じように、多額の借金を抱え込んでしまったことが分不相応な高額な住居のローンを背負いこんだことが原因であるように、肥満に陥った人々の多くは社会が抱える問題が作り出しているのです。
自制心を発揮すべきなのは政府の方です。
自己責任を認識すべきなのは、一部の政治家や官僚なのです。
この問題に真剣に取り組むべきなのは、本当の原因がわかっていながら市民を食い物にしてきた人間たちなのです。
《完》
https://www.theguardian.com/commentisfree/2018/aug/15/age-of-obesity-shaming-overweight-people
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皆さんは『官僚的良心』という言葉があったことをご存知でしょうか?
アベアソウ政権の下ではすっかり死語になってしまいましたが、国民のため無私の精神で行政や司法業務に取り組む官僚の姿勢のことであり、官僚自身何か判断を下さなければならなくなった時、何より公正さを尊重する精神のことでもあります。
ご紹介した記事は英国の問題を扱ったものですが、そのまま、いやそれ以上に日本に当てはまります。
財務大臣兼副総理が経済的弱者に対し、あたかも無用無益の存在であるかのごとく見下すような発言をする政府。
その下で『官僚的良心』など実行どころか、発想しようもないのではないでしょうか?
そのような政治家・官僚の下で最も苦しめられるのが、経済的弱者や社会的弱者、力を持たない人々です。
こうした人々を真っ先に不幸にする国家が、美しい国でなどあるはずがないではありませんか。