暴力が肯定される時代となった今、メディアはその価値観と原則を定義しなおさなければならない
自由を守る、そして自由の価値を不朽のものにする、それが報道の真の価値
一般の人々が力を合わせて既成の権力に立ち向かい勝利するという、常識を覆すアイディアを世界に示したフランス革命
キャサリン・ヴィナー / ガーディアン 2017年12月8日
約200年前、イギリスのマンチェスターで発行された新聞にはこう書かれていました。
「報道がただ単に一般市民の興味を集めるというより、問題の本質に対するもっと重要な疑問をかきたてることを求められるようになった、そうした時代に変わったということが明確にされたことは、この国にあっては過去ありませんでした。」
と前置きしたうえで、
「政治的な疑問に対する活発な議論」と「事実に関する正確な詳細」が
「現在のような時代の転換点において特に重要なこと」
であると宣言しました。
そして現在、私たちは歴史上もうひとつの極めて特殊な時代の中を生きています。
ひとつはまばゆいばかりの政治的ショックによって定義されており、もうひとつは私たちの生活全般に及んでいる技術革新による破壊的影響です。
これまでの20年間に一般社会に起きた変化は、それ以前の200年間を上回るスピードで急激に変化しており、ガーディアンを含む報道機関はその変化に追いつくために必死になってきました。
しかし今私たちが生きている時代の混乱は、我々に対し適応能力以上のことを要求しているかもしれません。
私たちがニュースを取材、制作、配信、入手する環境はきわめて劇的に変化してしまいました。
そのために何をしなぜそうするのかを、現在ほど厳しく問われている時代はありません。
ガーディアンを所有しているスコット・トラストが1936年に設立されたとき、その目的をきわめて明快に表現していました。
「ガーディアンの財政的および編集上の独立性を永久に確保し、ガーディアンの報道の自由と自由の精神を商業的干渉と政治的干渉から完全に独立させる」
編集者のひとりとしてこれ以上の使命を見つけることは困難な程、報道機関の所有者としてその使命は明快なものでした。
こうしてガーディアンの唯一の株主は、ジャーナリズムの自由と長期的な生き残りだけに関与することになりました。
しかしスコット・トラストの使命がガーディアンの報道機関としての健全性を永遠に担保する事である一方、ジャーナリズムの使命が何であるかを定義することは現実に編集を行う私たちに任されています。
私たちが取り組む仕事の意義と目的は何でしょうか?
私たちは社会でどのような役割を果たすべきなのでしょうか?
20年間働いてきて、私はガーディアンの存在意義というものを無意識のうちに理解できたと感じています。
私たちジャーナリスト、そして大半の読者が報道に価値を感じている理由は、自由を守るための一つの方法として、そして自由の価値を不朽のものにするという点にあります。
そして私たちは、ガーディアン的ストーリーを定義するもの、それはガーディアン独自の視点によって形成され、良くも悪くも『きわめてガーディアン的なもの』にする要因を熟知しています。
オーストラリアのガーディアンの編集者、次に米国のガーディアンの編集者として過ごしてきた私は、ガーディアンのジャーナリズムの本質を特定し、それとは別の際立つ特徴を作りだすことを常に念頭に置きながら、新たなガーディアンの読者を獲得しようとしてきました。
そして今私はガーディアンとオブザーバーの編集長として、現在はさらに深い洞察が必要だと感じています。
私たちの根本的使命とは何でしょうか?
私たちの過去、現在そして未来、それがこの質問に対する答えです。
混乱が大きくなり続けている現代と深くかかわりながら、自分たちの過去を振り返りつつ永遠に持続可能な方法で、私はガーディアンの方向性を作っていきたいと考えています。
ガーディアンの歴史は1819年8月16日、英国のジャーナリスト、当時28歳だったジョン・エドワード・テイラーが、マンチェスターでの議会改革のための大規模なデモに参加したときから始まりました。セントピーターズ広場では、当時人気の急進的改革派の論客であるヘンリー・ハント(Henry Hunt)が、マンチェスター地区の人口の半数以上にあたる6万人の群衆に対し、夏の日曜日の正装をして帽子を触りながら演説を行っていました。
当時、英国内には既成権力に反抗する気分が充満していました。
30年前のフランス革命は、一般の人々が力を合わせて既成の権力に立ち向かい勝利するという、それまでの常識を覆すアイディアを世界中に広げました。
それは民衆の覚醒であり、既成の権力の座にあったものにとっては恐怖以外の何ものでもありませんでした。
英国がワーテルローで勝利することによりナポレオン戦争が終わった後、英国は景気の落ち込みと失業率の高さに苦しんでいました。
穀物法や大陸封鎖令によって高騰した穀物価格はナポレオン戦争後も人為的に高いままにされ、庶民は飢餓状態にありました。
当時英国では国内至る所で抗議行動や暴動が頻発していました。
それは当時始まりつつあった産業革命の流れの中で新しく発明された工場用の機械を破壊するラッダイト運動から奴隷制度に反対する人々の砂糖をボイコットする運動まで、全国であらゆる種類の抗議行動と暴動が巻き起こっていました。
そして選挙投票権を求める運動も拡大していました。
当時すでに大都市であり人口密度の高いマンチェスター市でしたが、国会には一人の議員もいませんでした。
イングランド南部の豊かな村であるオールド・サラムには有権者は1人しかいませんでしたが、国会には2人の議員を送り込んでいたのです。
大都市で新たに台頭した実業家たちなどは、この腐敗したシステムの改革を要求していました。
そして労働者階級も、さらには歴史上初めて女性も選挙の投票権を求めて立ち上がっていました。
経済的な苦境、政治的な抑圧、経済的な問題を抱えた労働者の状況は政治問題化し、一触即発の状況にありました。
エッセイストのウィリアム・ハズリットはこの1年前、こう書いていました。
「すでに確立されたすべてのものが、我慢できないものになっていた…世界は混乱の極みに達してしまった…」
《2》に続く
https://www.theguardian.com/news/2017/nov/16/a-mission-for-journalism-in-a-time-of-crisis
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新年明けましておめでとうございます。
2018年最初の掲載は『真のジャーナリズムとは何か?』ということを問う大部のガーディアンの記事です。
ひるがえってこの国では安倍政権以降、権力を握る者の強みを見せつけるような政治が行われていることに対し、NHKをはじめとする日本の大手メディアの多くは迎合するような報道を続け、市民にとっての公正と正義が見えにくくなってしまっています。
まさに今回の掲載にある通り、『自由を守るための一つの方法として、そして自由の価値を不朽のものにするという点に報道の価値を感じている』人間の一人として、この記事からご紹介していきます。
なお、1月第1週のみ
第1回 1月1日掲載
第2回 1月4日掲載
第3回 1月7日掲載
とさせていただきます。
以降は従来通り、月・水・金の週3回掲載してまいります。
本年もよろしくお願いいいたします。