ホーム » エッセイ » 再び『流行り』始めた核燃料への投資
エコノミスト 2018年12月6日
12月3日には、通常は株式や債券への投資を専らにしているニューヨークのヘッジファンド、マッキンタイア・パートナーシップスは投資家に対し、商品市場への投資を通知しました。
品物は核燃料のウランです。
創業者のクリス・マッキンタイア氏はこの「少しばかり異常」な投資は、この希少金属の印象的な価値の回復によって正当化されるだろうと述べています。
ウランのスポット価格は2018年4月以来41%上昇し、著しく供給が減少したことに伴い、2年ぶりの高値を記録しました(図表参照)。
2011年の福島第一原発事故は日本とドイツにおいて原子炉あるいは原子力発電所そのものの閉鎖を促し、他の地域でも発電所建設が急減速し、ウランに対する否定的な気分が拡大しました。
(ウランもそこから抽出されるプルトニウムも、原子力発電にとって欠かせない物質です)
最近になってその価格が急激な上昇していますが、コンサルタント会社のUxCによれば、1キロ当たり64ドルという現在の価格は2011年のピーク時の60%以下になっています。
今年生産されたウランのうち、3つの四半期で生産コストが販売価格を上回りました。
こうした状況に対しウラン採掘業者の供給量の削減は後手に回りました。
ほとんどの売上は2011年以前の長期契約によって固定されていたため、その時点の評価価格はそれほど重要ではありませんでした。
しかし今、これらの契約は満了し始めており、2020年を超えて契約が続くのはわずかです。
「その時点で多少の契約は残ることになります。」
最大の鉱業会社の経営幹部がこう語りました。
最大の生産者であるカザフスタンのカザトムブロム(Kazatomprom)は12月に生産量を20%削減すると公表しました。
カナダのライバル会社カメコ(Cameco)はサスカチェワン州にある世界最大のウラン鉱山の操業を一時休止して、世界での供給量を11%削減すると述べました。既存の契約を履行するためには、すでに市場に出回っているウランを調達する方針です。
オーストラリア企業のパラディン・エナジーはすでに倒産しました。
しかしその一方で、ウランの消費は急増しています。
2018年、世界的な原子力発電が最終的に福島第一原発事故以前のレベルに回復しました。
再び需要と供給のバランスが均衡する日が近づきつつあります。
またニューヨークにあるウラニウム・トレーディング、ロンドンのイエローケーキなどファンドが長期保有目的で大量のウランを退蔵しており、こうしたことも価格を押し上げる原因になっています。
5カ月前に上場されたイエローケーキは、保有しているウランの価格が30パーセント以上上昇したことを確認しました。
複数のヘッジファンドも食指を動かしています。
最終的にファンドがウラニウム取引市場に投入した資金は、商品取引市場の16%を占めることになりました。
「ファンドの連中は火に油を注いでいるのです。」
アメリカ企業ウラニウム・エナジー社のスコット・メルバイ氏がこう語りました。
ヘッジファンドは気まぐれです。
2007年にヘッジファンドが市場に参入したことにより、ウランは1ポンドあたり136ドルまで上昇したとUXCのジョナサン・ヒンゼ師が証言しました。
しかし金融危機後の撤退により、ウランの商品市場が崩壊する原因となりました。
しかし長期的な傾向は明らかです。
世界市場でのウランの需要は2035年までに44%増加すると予想されています。
中国は19基の原子炉を建設中であり、さらに41基が計画されています。
サウジアラビアは初めて2基の原発の建設プロジェクトをスタートさせようとしています。
エジプト、ヨルダン、トルコ、アラブ首長国連邦も原発建設計画を発表しました。
すべてのプロジェクトが実現すれば新たにウランを採掘しなければなりません。
これらが現実になることにより、ウランの取引価格は最終的に50ドルから60ドルに必然的に上昇することになるだろう、イエローケーキを率いるアンドレ・ リーベンバーグ氏がこう語りました。
しかしウラン価格の上昇は、原子力発電所にとってそれ程懸念すべきことではありません。
火力発電所における石炭やガスなどと比べれば、原子力発電所にとって燃料費としてのウランの購入費用ははるかに小額だからです。
輸入国にとってより大きな懸念は、供給を確保できるかどうかの方です。
11月26日、国営企業である中国国営ウラニウム企業がナミビアの鉱山を購入し、世界全体の生産量の3%を確保しましたが、これは中国政府がこの問題を真剣に受け止めているということを雄弁に物語っています。
米国政府は輸入を制限し国内生産を支援するために国家安全保障宣言の発動を検討しています。
それにもかかわらず、世界生産量の5分の2を供給するカザフスタンのカザトムブロムのような大型輸出業者は楽観的です。
ウランの需要は価格上昇の影響をほとんど受けないからです。
ウランの価格が高くなったらなったで、自分たちのウランを買わせてたんまり儲ければ良いだけのことです。
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すでに5年前(2013年)に【 2020年代、暴騰するウラン燃料コストが、世界中で原子力発電を崩壊させる!】というガーディアンの記事をご紹介したことがあります。( https://kobajun.biz/?p=12474、https://kobajun.biz/?p=12521 または http://kobajun.chips.jp/?p=12474、http://kobajun.chips.jp/?p=12521)
「ひっ迫している需給関係により、最早低価格のウランなどは存在せず、必然的に原子力発電の段階的廃止、あるいは原料調達不能による原子力発電所の停止と対規模停電、あるいはもっと悪いシナリオが現実のものになりつつあります。」
という内容でした。
こうした点からも、原子力発電はもはや『無理スジ』なのでしょう。