ホーム » エッセイ » 安部首相の必勝プランを狂わせる元盟友、そしてポピュリスト
目的は権力への執着だけ、それが国民の前に明らかにされれば安部首相の賭けは裏目に出る
希望の党と自民党の政策には目立つほどの違いは無く、要は安倍・小池の個人的な争い
ジャスティン・マッカリー / ガーディアン 2017年9月28日
安部首相が政権の経済政策と北朝鮮政策への審判を仰ぐためと称して突如解散を決めた衆議院は、10月に総選挙にむけ各党が準備を急いでいます。
その安倍首相は手ごわい競争相手と化したかつての盟友と対決することになりました。
小池百合子東京都知事が結成した新たな保守政党が、政権与党自民党の対抗勢力として一定の支持を集める中、安部首相は衆議院を解散しました。
安部首相が解散を宣言するわずか1日前に結成された小池氏の希望の党は、これまで自民党を縛って来た既得権益に挑戦し、多様性を尊重する「寛容で保守的な改革」を目指すことを公約しました。
昨年の東京初の女性知事となった小池氏は英語とアラビア語を話すことができる元アナウンサーであり、政治世界の既得権勢力との対決を決意したと語る保守的なポピュリストです。
小池氏は希望の党を正式に立ち上げる際、次のように述べました。
「今この時点で日本をリセットしなければ、今後充分な形で国際競争力と国家安全保障を維持することができなくなります。」
安倍首相は野党が弱体化し分裂している隙に乗じ、予定を1年早め、安倍政権の経済政策と北朝鮮のミサイル・核開発計画に対する厳しい姿勢について国民の信任を得ることを口実に衆議院を解散しました。
10年前安倍氏が初めて首相の座に就いた際に防衛大臣に指名された小池氏は、今回の衆議院選挙には出馬せず、都知事として2020年東京オリンピックの準備の監督を続けたいと語りました。
しかし新党の党首に就くとした小池氏の決定は、その積極的なメディア・アプローチと相まって、保守票と浮動票を自分に引きつけて政権基盤を安定させようとした安倍首相の計算を狂わせることになり、安部首相の計画を挫折させる可能性がでてきました。
2度に渡った私立学園への不正な便宜供与疑惑によってこの夏、2012年後半に首相に就任して以来最低となった安倍政権への支持率ですが、選挙直前には回復傾向にありましたが、希望の党は支持率の差を詰めつつあります。
毎日新聞が行なった世論調査では安倍首相率いる自民党への支持率が29%、希望の党の支持率は18%でした。朝日新聞が行なった別の世論調査では自民党が32%に対し、小池氏の希望の党が13%という結果が出ました。
解散総選挙の実施が決まる前から混乱が続いていた野党第1党の民進党でしたが、希望の党の誕生により混乱に拍車がかかりました。
数名の民進党国会議員が名指しで小池氏が率いる希望の党への入党を拒否されましたが、民進党党首の前原誠司氏は民進党出身者の入党手続きを進めるよう、働きかけを行っていると伝えられています。
今回の選挙でも自民党の勝利が予想される一方、別に誕生した右派政党からの手ごわい挑戦は衆議院における圧倒的過半数という議席数を減らす可能性があります。
自民党・公明党の連立与党は現在、安部首相が強く求める日本の平和主義憲法の改定のために必要な衆参両院の3分の2以上の議席を占有しています。
選挙後再びこの議席数を確保できなければ、安部首相が全政治的なキャリアを捧げたプロジェクトが実質的に挫折する可能性もあります。
東京のBMIリサーチの国際政治・安全保障部門の責任者であるヨエル・サノ氏は、突然の解散選挙について有権者が安部首相の権力への執着だけが目的だと判断すれば、安部首相の賭けは裏目に出る可能性があると語りました。
「特に北朝鮮情勢の厳しさを考えると、日本の国民は今回の唐突な解散総選挙について、安部首相が自分に有利な状況に便乗した相手を見くびった行動だと見なす可能性があります。」
長年日本初の女性首相に就任することを密かに狙ってきたことで知られる小池氏は、昨年行われた選挙で自民党に反旗を翻し東京都知事の座に就くことに成功しました。
そして今年7月には東京都知事選挙において自らの党を率いて再び自民党を破り、次の国政選挙では連立与党に挑戦することになるだろうと見られていました。
イギリスではテレサ・メイ首相が今年の春に解散総選挙を強行した結果、保守党が下院における過半数の議席を失うというだけの敗北に終わりましたが、一部のアナリストは安倍首相が同じ運命に陥ることは無いと見ています。
「日本にはイギリスの労働党のような強力な野党勢力が存在しないからです。」
東京のテンプル大学のアジア研究担当部門の責任者であるジェフ・キングストン教授がこう語りました。
「自民党は小人の国のただ一人の巨人です。突っ走ろうとする安倍首相を止めるものがあるとしたら、それは大きなスキャンダルだけでしょう。」
「現在の圧倒的過半数の議席を維持することは難しいかもしれませんが、日本の野党のばらばらのまま何の準備も出来ていない状況を考えると、連立与党の議席が過半数を割り込むという大きなリスクが発生するとはどうしても考えにくい状況にあります。」
安倍首相と小池氏はいずれも日本の実業界と近い立場にあり、安全保障問題については同じタカ派的存在ですが、今回の選挙では2つの問題について立場が異なっています。
安倍首相は教育政策の充実や高齢者の介護には財源が必要だと述べ2019年の消費税増税をやりきると断言していますが、小池氏は消費増税の凍結を求めています。
そして小池氏は、2011年福島第一原発の原子炉がメルトダウンした事故に言及し脱原発を公約として掲げていますが、安部首相は国内の原子炉の再稼働を後押ししています。
しかしコロンビア大学のゲリー・カーティス名誉教授は、次のように指摘しました。
「小池氏率いる希望の党と自民党の間には目立つほどの違いはありません。これは有権者に対し安部氏と小池氏とどちらが有能か、という事を納得させる競争です。どちらが有能か、どちらの人柄が優れているか、それだけです。」
https://www.theguardian.com/world/2017/sep/28/japan-pm-shinzo-abe-election-challenge-tokyo-governor-yuriko-koike
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前回の記事にも書きましたが、大手メディアの報道は『安部対小池』という図式を強調し、立憲民主・共産・社民というリベラル、世論調査では支持率が4割という存在をことさら軽視しているかのような印象を受けます。
前回も書きましたが、大切なことは心優しいリベラルが1人でも多く投票所に行くことでしょう。
今回の投票をパスすれば、日本は千載に禍根を残すことになると思います。
英誌のエコノミストは『日本の民主党政権を崩壊させるため、米国の諜報機関が積極的役割を演じた』と報じたことがあります( http://kobajun.biz/?p=21901 )が、そうした組織が今回も静観しているとは思えません。
彼らの目的は何でしょうか?
安倍政権下の日本は米国製の兵器を大量に購入するようになりました。
トランプ政権は『より高性能の兵器を日本・韓国に提供する』と発言しました。
そのアメリカでは国内に人口を上回る数の銃器が氾濫し、コンサート会場で突如機銃掃射を受ける可能性すらあるという生活を送らなければなりません。
『せっかく実現した平和国家を武器で汚染するな!』
そんな怒りも込めて、私は投票所に行こうと思っています。