ホーム » エッセイ » なぜ日本は多量のプルトニウムを積み増しているのですか?
エネルギー政策の中心に据えられていた核物質が重荷になってきた日本
日本国内の余剰プルトニウム、英仏での半永久保管か国内での地下埋蔵処分、いずれも巨額の費用が発生する
エコノミスト 2018年7月25日
アメリカが投下した原子爆弾により広島と長崎が壊滅させられてから数十年後、日本はドワイト・アイゼンハワー米国大統領が推進していた商業用原子力政策である『原子力の平和利用』を受け入れました。
冷戦の最中、この政略結婚によって日本にもたらされたのが6キログラムの濃縮ウランでした。
この濃縮ウランが日本の原子力政策の発端となり、最終的に原子力発電所が供給量の約3分の1の発電を行うことになったのです。
そして1988年、国際条約による厳しい規制を課された上で日本は核兵器の製造と同じ技術を使い、ウラン濃縮とプルトニウムの抽出を行うことを認められました。
そして2018年7月、日米両政府は1988年の協定を延長しました。
日本国内には現在6,000発の核爆弾を製造するのに充電な量の47トンのプルトニウムが蓄積されています。
日本はこれほどの量のプルトニウムを一体どうするつもりなりでしょうか?
エネルギーの自立という日本の色あせた夢の中心にあるのがプルトニウムです。
原子炉から取り出した使用済み燃料は、プルトニウムを抽出するために再処理することができ、その後プルトニウムは混合酸化物、すなわちMOX燃料にリサイクルされることになります。
このプルトニウムについては原子炉での再利用が目的とされていましたが、2011年の福島第一原子力発電所の重大事故の発性以来日本国内のほとんどの原子炉は停止したままになっています。
新たに導入された厳しい安全基準も原子力発電に抜きがたい不信感を持った国民を納得させるには至らず、国内のほとんどの原子炉は停止したままになっています。
日本の原子力発電設備全般がすでに高齢化しています。
河野太郎外相は日本の原子力発電の現状について「極めて不安定」であると認めています。
プルトニウムを多量に保有することについて日本の立場はますます厳しいものになっています。
日本政府は核爆弾を製造する意図はないとしています。
しかし中国やその他の周辺諸国は、日本がプルトニウムをどれくらいの期間保有することを許されることになるのか疑問視しています。
アナリストらはアジア地区でプルトニウムの保有量を競う状況に陥ることを懸念しています。
さらに核兵器を製造できるレベルの日本のプルトニウムは再処理され、フランスと英国に保管されています。
それは、武装した船舶などによって世界中を移動します。
米国はこうした核物質の輸送と民間施設でのプルトニウムの貯蔵は、核兵器不拡散に対する潜在的な脅威であると指摘しています。
潜在的な脅威とは核兵器製造のため転用されるか、テロリストの標的になる可能性のことです
こうしたアメリカ側の見解が、日本がプルトニウムの保有量を減らすべく動くように軽く揺さぶることになりました。
解決方法のひとつとしてあるのが、日本の核燃料リサイクル政策の中心となっている六ヶ所村再処理工場を本格的に稼働させることです。
東北地方の中でも特に雪深い場所にある六ヶ所村は、年間8トンのプルトニウムを生産することが可能です。
しかしこの施設はすでに計画された予算の3倍、工事の完了予定も20年も遅れています(2022年3月に稼働開始予定)。
仮に再処理プログラムが動き始めたところで、MOX燃料を使用することが可能な原子炉のほとんどは現在停止しています。
アメリカは日本に対しプルトニウムの放棄を迫る、あるいは条文に書かれている通り、1988年の協定を終結させることもできます。
しかし日米関係を考えるとこれは現実にはならないでしょう。
ということは日本は英国やフランスに一時保管されているプルトニウムをそのまま半永久的に保管してもらうか、あるいは余剰プルトニウムを地下埋蔵処分する方法を確立しなければならないということを意味します。
いずれの方法を選択しても、莫大な金額の費用がかかります。
そのため、最もありうるシナリオは現状ののまま何もしないということであり、日本における決して万全とは言えない状況での保管が今後も続くだろうということです。
https://www.economist.com/the-economist-explains/2018/07/25/why-does-japan-have-so-much-plutonium