ホーム » エッセイ » 日本の首相のあまりに無神経な振る舞い、世界を怒らせる【 731部隊の陰惨な記憶を呼び覚ます日本の首相 】
日本人が知らない『外交的孤立』: なぜ今、世界の外交舞台で、対日感情が今、悪化しているのか?
マックス・フィッシャー / ワシントンポスト 5月18日
第二次世界大戦中、『731部隊』としてその名を知られる大日本帝国陸軍の一部隊は、中国の一部である当時の満州において、数年間に渡り大規模な生体化学実験、すなわち人体実験を行いました。
日本軍の研究者は、一般人を含む中国人の囚人に対し、化学物質や細菌を注射する、不具者にしてしまう、臓器を摘出するなど、血も凍るような化学実験を繰り返し行いました。
その結果3,000人が死亡し、300,000人以上が病気感染、あるいは障害を負ってしまうという言語に絶する残虐行為を行いました。
731部隊はアジア地区における、日本軍の非人道的行為、戦争犯罪を象徴する存在となりました。
そうした犯罪行為は、戦争の過程で、あるいは大日本帝国政府自身によって、過去繰り返されました。
しかし見過ごせないのは、日本自身が最近になって、そうした歴史的事実を書き換えようとしていることです。
ドイツは第二次世界大戦中のナチスの戦争犯罪について徹底的な調査を行い、犯罪内容をすべて明らかにした上で、国家として謝罪しました。
これに対し、安倍晋三首相を含む一部の日本の右派の政治家たちは、常に言葉を濁しなが第二次世界大戦中の日本は、そこまでの戦争犯罪は行っていないという認識を国内に浸透させてきたのです。
安倍首相は欧米各国の記者たちとのインタビューにおいても、日本が近隣のアジア諸国を侵略・占領した事実について、『侵略』ではないという奇怪な認識を示しました。
常に論争の絶えない靖国神社を今年参拝した、自民党の要職にある議員3名は安倍首相からの供物を持参していました。
靖国神社には、第二次世界大戦における戦争犯罪者も合祀されています。
安倍首相は以前、第二次世界大戦中に日本軍がアジア各地の女性に「従軍慰安婦」として、実質的に売春行為を強制され、性的奴隷として扱われていたという歴史認識に対し、異議を唱えたことがあります。
現在でもその考えを支持する政治家が、日本国内には複数存在します。
そして最も新しい『挑発』ととられた出来事が、5月12日の日曜日に起きました。
安倍首相は自衛隊の松島航空基地を訪問した際、マスコミ向けのポーズをとるためT-4訓練用ジェット機の操縦席に座り、カメラに向かって親指を立て、微笑んで見せました。
まさに微笑んでいるその顔の下に、訓練機の機体に描かれた『731』の文字が大きく描かれることになったのです。
その行為が配慮を欠くものであったかどうかは置いておいて、この『731』という数字が、日本の関係者が言うように、完全に偶然であったという可能性はあります。
しかし偶然であったにせよ、作為的であったにせよ、第二次世界大戦中、日本軍の戦時虐待の犠牲者となった人々の怒りをさら深刻なものにし、日本に対する次のような認識を一層強いものにしてしまいました。
すなわち、日本の多くの政治指導者たちが、日本帝国の第二次世界大戦中の戦時虐待などの行為について反省などしておらず、さらに悪いことには誇りにさえ思っている、
中国政府、韓国政府、両国の当局者は安倍首相の振る舞いに対し怒りをあらわにし、韓国最大の日刊紙は安倍首相のこの時の写真を第一面のトップに掲載しました。
アジアをはじめとする世界各国の外交部門の日本担当部局は、『731』という機体が選ばれた理由について、不幸な間違いであったのか、それとも日本帝国軍隊の被害者を意図的に貶めようとするものであったのか、分析を進めています。
確たる証拠が無い以上、単なる間違いであったと判断することが、最も無難な回答になるでしょう。
しかしいずれが正しいにせよ、最近日本では国家主義者である政治家が自分の胸を叩きながら、大声で吠え散らしていることは事実です。
彼らはこう主張しています。
第二次世界大戦以前、そして戦争中の大日本帝国は、言われるほど悪いことはしていない。
そして、戦後アメリカによって『押し付けられた』平和憲法は、もはや時代にはあわなくなっている、と。
私はこの問題について、極東アジア地域の研究者であり、各国の主張に対し公正中立の立場をとって来たダートマス大学のジェニファー・リンド教授に、日本軍731部隊の問題についてどう解釈すべきか質問をしました。
以下はその質問に対する、教授が電子メールで寄せた回答です。尚質問の際、橋本氏の発言との関連性についても、コメントを依頼しました。
「今回の出来事は、日本政府と日本の国民が、自分たちの国が過去周辺各国において行った戦争犯罪や戦時虐待などの問題について、正しい認識を持っていないという事を周辺諸国、そして世界中に教える結果となりました。
今回首相が『731』と表示された機体に乗って得意げに微笑んで見せたことは、たとえそれが作為的ではない単なる過失であったとしても、現在の日本の政府が第二次世界大戦の戦前・戦争中におこなった残虐の行為の被害者と被害国に対し、当然持つべき配慮、そして思いやりが欠落していることを証拠立てています。
日本はこの出来事により、外交的に最悪の評価を得ることになりました。
すでに日本の外交的評価は、橋下徹氏の従軍慰安婦に関する発言によって、地に堕ちた状態にありました。
彼はストレスがたまっている人間なら、強姦に及んでも仕方がない、そのことに理解を示すべきだという趣旨の発言を行ったのです。
私と同じような見解を持つことが出来る、良心をもった日本の人々が一人でも多くいることを願うのみです。」
今回の一連の問題は、日本には安倍首相や橋下徹氏の考え方や振る舞いに反対する日本人が数多くいるという事を、証明するためには、逆に良い機会かもしれません。
私自身はこの発言に対し、嫌悪感以上のものを覚えました。
日本は人口の多い、いろいろな意味で強い国家です。
その日本には、周辺諸国の感情を傷つけ、逆なでしてはばからない一部の国家主義的政治家、国家主義者の言動に反対する人々が、政治家を含め数多くいるのです。
しかし一方で、認識の問題も重要です。
安倍首相や橋下徹氏のような国家主義者は今、海外における日本に対する認識を歪め、外交的にも日本をどんどん不利な立場に追い込んでいるのです。
http://www.washingtonpost.com/blogs/worldviews/wp/2013/05/18/japanese-leader-revives-dark-memories-of-imperial-era-biological-experiments-in-china/
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これもまた日本のマスコミが伝えない、そのために日本人が知らない事実が伝えられています。
日本のナショナリズム政治家の言動に対しては、世界の世論は反発している、厳しい目を向けている、という事実です。
この問題については、すでに英国のエコノミストの記事( http://kobajun.biz/?p=11668 )、ワシントンポストの記事( http://kobajun.biz/?p=12187 )などをご紹介していますが、
「日本の外交的評価は、橋下徹氏の従軍慰安婦に関する発言によって、地に堕ちた状態」
「安倍首相や橋下徹氏のような国家主義者は今、海外において日本に対する認識を歪め、外交的にも日本をどんどん不利な立場に追い込んでいる」
とまで踏み込んだ表現をした記事は初めてです。
国際貢献などと騒ぐ前に、ドイツのように姿勢を正し、誰が見ても公平に過去を清算することが大切なのだと思います。
人間として問題のある行為をしていながら、「俺はそんなことやってないよ」と平気で口にする人間を信頼することなどできるでしょうか?
外交的孤立は感情の上だけの事では無く、一国の経済に影響を及ぼすことも考えられます。
尖閣諸島の問題を石原・野田ラインの日本側が『引き起こした』ために、中国における日本のビジネスが大打撃を被ったことは記憶に新しいところですが、生活必需品の多くを中国産に依存している日本国内の物価が、『売り渋り』などの行為によって上昇するリスクも出てきます。
また公式に声明などを発していないにしても、今回の問題で不快感を持ったのは中国・韓国だけでは無いはずであり、そのことは国際関係に微妙な影を落とすことになるでしょう。
国内報道に欺かれてはなりません。
2人に代表される一部政治家のために日本の国際評価は下がっている、それは現実なのです。