ホーム » エッセイ » 【 21世紀社会が抱える深刻な課題 : ノーム・チョムスキー 】《5》
一般市民の基本的人権を蹂躙し、暴力と不寛容によってアメリカの強国化を図るトランプ政権、追従する日本
巨額の軍事予算のわずかな部分を削ることで、富裕な国々は大量の難民に人道的援助を提供できる
自分たちの政府が何をしているのか?市民の側にはできるだけ多くの情報が必要
デモクラシー・ナウ 2017年5月29日
ノーム・チョムスキー :
では私たちはシリアの現状に対し、何をすればよいのでしょうか?
私たちに出来ることは本当に簡単なこと、とても簡単なことです。
この戦禍から逃れて来る人々を援助することです。
皆さんも考えてみてください、いま膨大な数の人々がシリアから脱出を試みていますが、私たちは彼らのために何をしているでしょうか?
アメリカは彼らにここに来るな!と言っているのです。
わずか数代前の私たち自身の祖先も実際に迫り来るナチス・ドイツの脅威を目の前にして、大挙して東ヨーロッパを逃れ、アメリカにやってきました。
その当時のことと現在のシリアの状況を考え合わせてみてください。
しかしトランプはこう言っています。
「私たちはシリア難民の受け入れを望んでいない。アメリカには不要だ。」
ですから、シリア人はここにはほとんど来ないでしょう。来てもほんの一握りの人々だと思います。
しかしヨーロッパもそれほど良くはありません - 実際、状況としては絶望的です。
ですから私たちは自分に何ができるかを考え、実際に行動しなければなりません。
私たちに出来る別の選択肢、それはこの地域の人々に人道援助を提供することです。
すでに難民を受け入れている国があります。
例えばレバノンです。
しかしレバノンは私たちのような豊かな国ではありません。貧しい国なのです。
人口の約40%が難民であり、シリア難民の数が最も多く、その他1948年のイスラエル戦争から逃れて来た人々も多数に上っています。
もう一つの貧しい国ヨルダンも膨大な数の難民を受け入れてきました。
そしてトルコにも数百万人の人々が避難しています。
イランも難民を受け入れています。
このように非常に貧しい国が難民を受け入れている一方で、豊かな国は受け入れを拒否しています。
豊かな国々にとって難民の受け入れは義務ではありません、確かに私たちの義務ではありません。
私たちアメリカが直面しているのは中南米諸国からの難民問題であり、私たちにとっては人間としてのモラルが問われている一層深刻な問題ですが、ここでは話をシリアにとどめておきます。
私たちが出来るもう一つのことは、戦禍から逃れた人々、そしてかろうじて命を守ってはいるものの恐ろしい状況の下で生活しているシリアに残っている人たちに、必要とされる支援を行うことです。
いずれを行うにしてもすべて安価で手続きも簡単です。
軍事予算を増額して破壊活動を大規模なものにすることに比べれば、ほんのわずかな金額で済む話です。
エイミー・グッドマン:
さて、チョムスキーさん、あなたの最新著作に触れる前に、現在アメリカで進行中の社会情勢についてお尋ねします。
中央情報局(Central Intelligence Agency - CIA)長官が就任後最初の基調演説を行い、ウィキリークス(WikiLeaks)の存在を重要な問題として取り上げました。
そして現在アメリカ政府は、約5年もの間ロンドンのエクアドル大使館に軟禁状態となっているジュリアン・アサンジ氏の逮捕状を準備しているようです。
トランプ政権の下でマイク・ポンペオCIA長官はジュリアン・アサンジ氏を「悪魔」と呼び、米国憲法修正第1条で保障されている権利(基本的人権)によって保護されることはないと語っています。
あなたのお考えはいかがですか?
ノーム・チョムスキー:
それは事実をもって語るべきでしょう。
ウィキリークスは、政府にとって都合の悪い数多くの情報を公開しています。
しかし市民の側にはできるだけ多くの情報が必要です。
それは自分たちの政府が何をしているのか、についての情報です。
一方権力の中枢にある政府側が情報をできるだけ表に出ないようにするのは当然の成り行きであり、情報の流出を防ぐためにできるだけのことをします。
こうして権力の側は不名誉な行為に走ることになります。
ジュリアン・アッサンジ氏をエクアドル大使館に実質的に軟禁していること自体、恥ずべき行為だと思います。
私は自分自身一度彼を訪ねたことがありますが、もし自分が5年もの間一箇所にずっと居続けることになったらどうなるか想像してみてください。
あらゆる点で、刑務所に入れられるより悪い環境に置かれています。
刑務所にいれば、少なくとも他の囚人と接触する機会があります。
そして屋外に出て、太陽の光を浴びることもできます。
しかしアサンジ氏がいるのは外出することができない小さなアパートです。
バルコニーに出ることはできますが、基本的には小さなアパート内の小さな2部屋に閉じ込められています。
エクアドル大使館は大きな建物ではありません。
この大使館は実質的にはロンドンのアパートのようなもので、常に警察に包囲されています。
アサンジ氏がこうした状況に置かれなければならない明快な根拠は私は無いと考えています。
しかしアメリカ政府はそれを無理やり刑事告発のレベルにまで引き上げようとしているのではないかと思いますが、こうした類の行為は日常生活の中では決して褒められるべき類のものではありません。
権力は情報を隠すことよって自分の身を守るという傾向を持つものであり、本来なら市民が知るべき情報もこうして隠されてしまいます。
市民が本来知るべき情報を持つことを権力は望みません。
私はその点が重要な課題だと考えています。
エイミー・グッドマン:
そうした事実を考えると、私たちはチェルシー・マニング氏やエドワード・スノーデン氏のような人間に対する支持や援助の姿勢を明らかにする必要があるかもしれません。
エドワード・スノーデン氏は未だにエクアドル大使館に閉じ込められていますが、彼は公式の場で市民の知る権利が守らなければならないと語っていました。
ノーム・チョムスキー:
刑事告発するというのが真実なら、スノーデン氏はむしろそのことを誇るべきです。
チェルシー・マニング氏やエドワード・スノーデン氏は勇気ある行動を繰り広げました。
彼らは民主主義社会の市民はこうあるべきであるというその通りに真剣に責任を果たしました。
つまり国民は自分たちの政府が何をしようとしているのか常に把握していなければならないという信念です。
お分かりですか?
自分の国の政府がイラク国内で残酷な殺人を繰り返しているとしたら、国民全員がその事実を知っておくべきである。
1967年にマーティン・ルーサー・キングが行った演説を振り返ってみましょう。
もし政府、あるいは企業が偶然にもあなたの電話での会話を聞いていたとしたら、あるいはあなたがしていることを把握しているとしたら、あるいはこの場での議論を盗聴しているとしたら、そうした類の行為をする権限は民主主義国家の政府にはありません。人々はこのことを肝に銘じておく必要があります。
もし政府機関や企業がこうした行為をすることを決めたことを秘密にしなかったら、誰もが反対することでしょう。
これが政府機関や企業の行為が秘密にされている理由です。
ではなぜ多くのことが秘密にされたままなのでしょうか?
マーティン・ルーサー・キングも、チェルシー・マニングも、エドワード・スノーデンも、自分の身を大きな危険にさらして情報を白日のもとにさらしたのです。
ですから彼らは勇敢なのであり、行ったことは勇気ある行為なのです。
もしウィキリークスが彼らの行為をさらに拡大していれば、彼らはもっと力を得ることができたでしょう。
かれらはやるべきことをやった人々なのです。
エイミー・グッドマン:
確かトランプ大統領はウィキリークスを支持していましたよね?彼は大統領選挙期間中に「私はウィキリークスが大好きです。」と発言していました。
ノーム・チョムスキー:
その通りです。ただしトランプが好む内容のものが暴露されていた時に限ってそうだということです。
どのような権力機構も次のように言うに違いありません。
「私の望む通りの情報を公開するなら大歓迎だが、私自身の情報の公開はお断りだ。」
《6》へ続く
https://www.democracynow.org/2017/5/29/noam_chomsky_in_conversation_with_amy
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トランプ政権というのはまさに一般市民の基本的人権を蹂躙し、暴力と不寛容によってアメリカを強国に持ち上げようとする政治体制のようです。
それに追従する日本の政治体制も大差がなくなってきました。
私たちはそうした体制に対し悪口を言って一時的な快感を得るのではなく、トランプ体制や安倍支配といった政治勢力がこれ以上力を持つことがないように、自分に一体何ができるかということを真剣に悩んでいかなければならないと思います。