ホーム » エッセイ » 安倍政権の原発再稼働への強力な後押し、その裏に隠される事実
【 福島第一原発、2年の間途切れることなく汚染水を海洋に漏出か 】
放射性セシウム、トリチウム、そしてストロンチウムの量が急上昇
田淵弘子 / ニューヨークタイムズ 7月10日
日本の原子力規制委員会の委員長が10日水曜日、福島第一原発は地震と津波によって巨大事故を起こして以来、今日に至るまでの間、汚染水を海洋中に漏らし続けていた疑いが手でてきたと語りました。
原子力規制委員会の田中俊一委員長はいつになくはっきりした口調で、原子力規制委員会も東京電力も、漏出箇所がどこであるか特定できずにおり、従って漏出を止めることは不可能であると語りました。
東京電力は福島第一原発の敷地内で採取した地下水の放射性セシウム、トリチウム、そしてストロンチウムの値が急上昇していることを明らかにし、汚染水の漏出を一刻も早く止めなければならない事態にあることも明らかにしました。
このうち特に放射性セシウムとストロンチウムは、人間の発がん性を高める性質があることで知られています。
田中委員長の指摘は全部で6基ある原子炉のうち、3基の炉心でメルトダウンが発生した福島第一原発の事故収束作業が、未だに不安定な状況にあることを図らずも明らかにしました。
目下の緊急課題はメルトダウンした原子炉を覆う原子炉建屋の基礎部分に流れ込んでくる地下水が、次々と汚染されていく状態を解消することです。
発電所の職員たちは増え続ける、膨大な量の汚染水を貯蔵タンク内に収納する作業に追われていますが、肝心の発生原因の方は手つかずのままです。
つい最近まで東京電力は、これらの汚染水が海洋中に流れ込んでいる可能性については、一切否定し続けてきました。
しかし様々な機関による調査結果は、福島第一原発周辺の海洋汚染が容易ならざる状況にあることを証明しており、東京電力の見解とは正反対の事実の存在を示唆していました。
しかし最近になると東京電力の態度は微妙に変化し、汚染水の海洋への流出があったのかなかったのか、はっきりしたことは言えないと語っています。
これに対し田中委員長は、明白な証拠がそろっていると指摘しました。
「海水中の放射性物質の量が高いままであることは事実であり、汚染は一向に無くなりません。それは誰も否定しようの無い事実です。」
田中委員長は原子力規制委員会の幹部との会議後、記者会見でこう語りました。
「一刻も早く、何らかの手を打つ必要があります。」
「しかしながら福島第一原発の現状を考えると、今日、明日に有効な手だてを講じることが出来るとは考えられません。」
田中委員長はさらに次のように続けました。
「たくさんの人々にとって不本意な状況が続くことになるでしょう。しかし、それこそが福島第一原発のような事故の後、私たちが直面しなければならない現実なのです。」
福島第一原発の漏水管理が脆弱なことを認めることにより、一部の専門家が指摘し続けてきたように、事故発生直後に海洋中への大規模な汚染水漏出を起こして以来、福島第一原発は途切れることなく海洋への汚染水漏出を続けてきたという疑いについて、田中委員長は否定できないとの見解を持つに至りました。
東京海洋大学・海洋科学部・ 海洋環境学科の神田穣太准教授が今年始めに発表した研究は、東京電力自身による福島第一原発周辺の海の放射物質の量の測定結果を検証したものです。
検証の結果、福島第一原発からは汚染水の漏出が途切れることなく続いていた可能性が高いと結論づけました。
「もし汚染水が漏れ出していないなら、福島第一原発周辺海域の放射性セシウムの検出値はもっとずっと低いものでなければなりません。」
神田教授は先月、このように語りました。
「潮流によって、事故の初期に流出した放射性物質は現在までにほとんど希釈されてしまっているはずであり、検出されるべき値も、今回測定された物よりずっと低い物でなければなりません。」
「この測定値が意味するものは、配管、排水溝、あるいは他の場所から、東京電力が把握していない汚染水の流出が続いている可能性がある、という事です。」
「至急漏水原因を特定する必要があり、ただちにその『穴』をふさがなければなりません。」
5月以降の説明のつかない地下水の放射性セシウムの検出値の急上昇が続いていますが、検出されたのはセシウムだけではなく、同時にストロンチウム、トリチウムも検出されており、事態は緊急を要します。
東京電力は10日、汚染水が海洋中に流れこんでいるという証拠は無いと表明しました。
同社は過去、福島第一原発がもはや海洋環境に重大な影響を与えてはいないと表明していました。
「現在のところ、何一つ確かなことは言えません。」
東京電力のスポークスマンである今泉則之氏は10日の記者会見でこう述べるにとどまりました。
「しかし私たちは手をこまねいている訳ではありません。現在、なぜこれほど高い値が検出されたのか、急いで原因の解明を行っています。」
汚染水の漏出を止めることが目下の緊急課題という事であれば、当然一つの疑問がわき上がります。
なぜ日本政府は、福島第一原発の事故発生以降停止している各地の原子力発電所について、その再稼働を強力に後押しするのか?という事です。
以下のような批判があります。
他の原子力発電所の安全性を保障し、その再稼働を進める動きの背景には、福島第一原発の事故収束・廃炉作業の現実から人々の目を逸らさせようという動機がある。
一般国民の不安をなだめるため、政府は今月施行された厳格な新基準に合格した原子炉のみを再稼働させると表明しています。
全国の4つの電力会社が合計10基の原子炉の再稼働を申請しました。申請に基づき、現在ちょうど80名の原子力規制委員会のスタッフが内容の検証作業を進めています。
東京電力は日本海に面した新潟県の刈羽崎柏原発の、2基の原子炉の再稼働を申請すると表明しています。
こうした動きは、ただでさえ乏しくなっている東京電力の経営資源を、困難が続く福島第一原発の事故収束・廃炉作業を着実に進めることから、遠ざける結果につながるかもしれません。
東京電力は汚染された地下水が海洋中に流れ込まないよう、いくつかの処置を取りました。その中には、福島第一原発の敷地の地下に沿岸部に沿って、防水壁を建設することも含まれています。
しかし田中委員長はこうした対策の実効性について、疑問を呈しました。
「どのような対策が最も効果があるのか、今は解らない状態です。」
田中委員長がこう語りました。
「もちろん、この汚染水が漏れ出す量をできるだけ減らしたいと誰もが考えています。そして環境破壊を一刻も早く食い止めたいとすべての関係者が願っています。何か良い方法があれば、ぜひご提案いただきたい、そう考えています。」
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選挙前のテレビなどの報道を見ていて、原発の問題が「原発などのエネルギー問題」とされているのを見て、「巧妙なものだな」と思いました。
私にとって福島第一原発の事故、そして原発の問題は日本の民主主義の根幹にかかわる問題です。
福島第一原発の事故をきっかけに脱原発を実現したドイツについて、イギリスの代表紙のひとつ[ガーディアン]は、「ドイツは社会正義を実現した」と伝えました( http://kobajun.biz/?p=2454 )。
では国内に160,000人もの原発難民を抱えていながら、原発再稼働を「推進」する今の日本は、民主社会の人々の目にどう映っているのでしょうか?