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『一緒に生きよう!(リビング・トゥギャザー)』は、すべての困窮者が互いに助け合うための共通の願い
日本には人種差別やその他の規準による差別が厳然と存在するという問題に、連帯して取り組む人権活動家たち
弱い立場の人々の人権を守ろうという活動を、今、世界的に連携させようという動きが進んでいる
ビビアン・ショー / アルジャジーラ 2017年3月12日
▽『一緒に生きよう!(リビング・トゥギャザー)』
2016年の秋、私は一人のアーティストに会うために新宿の同性愛者が良く集まる場所を訪問しました。彼の名はアキラ・ザ・ハスラー、バーテンダーとして働く時間帯の前に話を聞きました。
彼が働いているバーは、間口が狭くアパートの一室程度の広さしかありませんが、カウンターが入り口から店の奥まで伸びています。
ビンテージものティーカップが店内の棚にきちんと並べられていました。
政治的な問題も良く話題に上るこの店は、東京のちょっと変わった反人種差別主義者やファシズムと闘うアンティファ(Antifa)活動家に人気があります。
アキラはベテランの人権活動家であり、東京で展開されている反人種差別主義活動の場で、『一緒に生きよう!(リビング・トゥギャザー)』という考え方を一般社会に根付かせる運動において中核的役割を果たしています。
このキャッチ・フレーズは、1990年代日本で展開されたHIV問題啓発運動に由来します。
『一緒に生きよう!(リビング・トゥギャザー)』は、様々な市民活動の場に登場するようになりました。
私たちが選挙中に行われている署名運動の場に取材に行ったときは、ボランティアの人々が帽子の上に、カメラマンのギャラリーの開設に合わせて行われた記者会見の席上でも、2014年に東京で行われたノー・ヘイト・パレードの山車に乗った女装した男性もこのキャッチ・フレーズを高々と掲げていました。
『一緒に生きよう!(リビング・トゥギャザー)』という言葉には、単なるキャッチ・フレーズを超えた意味合いがあります。
外国人、同性愛者などの性的な少数者、命に関わる慢性疾患を抱え込んでしまっている人々、そして原子力発電所近くで暮らすことを余儀なくされ、常に不安に苛まれて暮らしている人々など、生きていくことが決して楽ではない人々の共通した概念なのです。
「結局私は、いくつかの条件に共通点を持つ人々が互いに親近感を抱いていると考えるようになりました。」
アキラ氏がこう語りました。
そして「普通の」日本人の中で普通と言う概念から外れてしまっているために、社会の中で様々な困難を抱え込んでしまっている人々を結びつける糸について話しました。
「私たちはこう考えています、『私には関係が無い』、そうした考え方は『一緒に生きよう!(リビング・トゥギャザー)』というポリシーには反する生き方だと思います。
東日本大震災で津波の被害を受けた広大なエリア、そして福島第一原発の事故の被害を被ったさらに広大なエリアでは未だに差復興再建の事業が続けられていますが、多くの問題が未解決のままであり、こうした地域で暮らす多くの人々が将来に対する不安を抱えています。
日本の反人種差別主義もまた、成長の過程で様々な困難に遭遇してきました。
3.11のできごとは多くの日本人にとって、それまで眠っていた意識を覚醒されるきっかけになりました。
しかしその一方、在日韓国朝鮮人やその他の少数派の人々は、日本に人種差別やその他の規準による差別が厳然と存在するという現実に直面させられることになったのです。
これに対し差別に反対する活動家たちは、より地域に密着した組織作りを目指して連携を深め、互いに支え合う体制づくりに一層の努力をするようになったのです。
ヘイトスピーチに反対する川崎市民の会は、こうした問題が地方都市においても緊急性を帯びてきていることを一般市民に持つ絶え寝るため、同市内の在日韓国朝鮮人組織の指導層との連携を図るようになりました。
さらに日本国内に組織的・機構的に存在する差別と闘うため、同性愛者の権利を求める活動家や難民の支援団体などとも共同歩調をとるようになってきました。
こうした中、ヘイトスピーチの集会やデモが徐々に下火になっていく中、これらの活動家たちはより健全な市民の権利の確立を目指し、さらなる活動の場を求めるようになりました。
そしてこれまで実際には人種差別の攻撃対象にされながら、この問題の中で取り上げられることが少ない人々に対し、活動家たちの視線が向けられるようになったのです。
国際的に問題視されているシリアの難民危機と、日本人の漫画家が描いた難民の子どもたちをまるで思慮の浅い日和見主義者のように扱った冷酷な一群の排外的漫画作品もまた、これら活動家の中で軽視できない問題として大きく取り上げられるようになりました。
さらに沖縄において地元民を侮辱する発言があった事件についても注意が向けられました。
沖縄県民の多くが反対している米軍基地建設へのデモに参加するため、実際に数名の人権活動家が辺野古に出向きました。
人種差別と闘っている日本の活動家たちはしばしば、差別が全世界的な問題であると感じています。
活動家たちが着ている英語版のTシャツにはトレイヴォン・マーティンとアンジェラ・デービスの写真があしらわれています。
そして英国と北アメリカの対レイシスト行動集団(C.R.A.C)のツイッター・アカウントは世界中の利用者に向け、ジェスチャーで主張を伝えようとしています。
ツイッターに精通した活動家たちはさらに『ブラック・リヴス・マター』の活動家、アメリカのノースダコタ・パイプライン建設反対運動(NoDAPL)、ウーマンズ・マーチ運動その他の市民運動との連携も図っています。
移民排斥運動や国家主義など世界的な政治の右傾化傾向は、こうした活動家たちに自分たちの闘いがとりもなおさず民主主義を守る大きな戦いの一翼を担っているのだという認識を広めることになりました。
人種差別と闘う羽田勝男さんは、反原発運動の活動家として福島第一原発の事故以降今日まで国会前での抗議デモを続けている、数少ない人権活動家のひとりです。
羽田さんは未だに自分の過去について後悔をしています。
福島第一原発が事故を起こす前から、羽田さんは長い間原子力発電というものに疑問を抱いていましたが、彼自身の言葉を借りれば
「何も行動はしませんでした。」
羽田さんは今、日本国内の人種差別について似た感情を抱いています。
羽田さんが次のように指摘しました。
この10年間、インターネットの世界の隅の方で外国人の排斥、人種差別などの動きが蠢動を続けていました。
そして公共の場でヘイトスピーチが行なわれるようになったことで、羽田さんも、そして多くの日本人も衝撃を受け、心を揺さぶられ、そして行動する必要性を痛感するようになりました。
3.11以降、「深い後悔の念が心から去ることはありませんでした。責任を果たすためには、沈黙しつ続けることは間違いです。」
※ビビアン・ショーは人種、政治と文化を研究分野とする社会学者です。
〈 完 〉
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差別というのはいわば自分の弱点を隠すための、サイテーの行為です。
ところでこれまで一日おきに新しい記事を掲載してきた【星の金貨】ですが、これまでの掲載本数が増えすぎて自分でも混乱することもあり、新規掲載日を(月)(水)(金)の週3回に固定させていただくことにいたしました。
次回の新しい記事の掲載は4月17日(月)とさせていただきます。
これからもよろしくお願いいたします。