ホーム » エッセイ » 【 福島、いつわりの安心 】災害の対応にあたった政府と東京電力の職員の、手抜き、誤った判断・対応が、とめどもなく暴露され続けた[ニューヨーク・タイムズ]
変わり始めた日本人
クミコ・マキハラ / インターナショナル・ヘラルド・トリビューン(ニューヨークタイムズ国際版)7月23日
福島県郡山市
山々に囲まれた手つかずの自然の中、日本の伝統的なたたずまいを見せる旅館やホテルが提供する至れり尽くせりのもてなしは、誰もが知っているものです。
エレガントで見た目にも美しい8つのコースからなる夕食が、私たちの部屋に運ばれてきました。
屋外にある露天風呂からは、荒々しい断崖のはるか上の方まで、さまざまな色合いの緑を眺めやることができます。
下の方から聞こえてくる川のせせらぎの音が、乾いた心にしみわたってきます。
かつて私は日本中どこに行っても、こうした快適な時間を楽しむことができました。
私が宿を発とうした時でした。
いつもならその地の名物のお菓子が入った小さなお土産か、泊まった宿の名前が記されたタオルを手渡されるはずでした。
しかし今回に限り、私が宿の経営者から受け取ったのは、一つのビニール袋でした。
中には使い捨てのレインコート、綿製の手袋、そしてガーゼマスク。
「必要になるかもしれませんから。」
彼が言いました。
「時々雨が降るのですが、放射線量が高いのです。」
彼が環境中の放射線量の測定値について触れました。
つい最近福島県を訪問した私は、沈鬱な雰囲気の中、人々が普段と変わらない様子で黙々と働いている、非現実的光景と出会いました。
昨年、襲った巨大地震と巨大津波がきっかけとなり、大事故を引き起こした福島第一原発で廃炉に向けた懸命の作業が続く中、被ばくによる健康被害はどうなるのか、そして災害の対応にあたった政府と東京電力の職員の手抜きと誤った判断・対応が、とめどもなく暴露され続けたことに対する疑問は膨れ上がるばかりです。
丘の多い地形の中心部に広がる、平らな土地のそこここに点在し、自在に区画を区切っている水田では、よく手入れされた稲が光を反射させています。
しかし放射能汚染を懸念する消費者の敬遠により、このあたりのコメの価格は低迷したままです。
観光客の一行が、あたりでひときわ目立つ存在であり、近く放映されるテレビ・シリーズの舞台となる、鶴ヶ城からの眺めを賞賛していました。
今回の取材旅行のガイド役を買って出た友人は、
「福島第一原発の周辺を除く福島全県で、私たちは観光客の誘致に取り組んでいるのです。」
と語りました。
このような危機の本質から目を逸らし、何とか物事の明るい面を見ようとする姿勢 – まず自分を律しようとする一種の禁欲主義的態度は、災害発生当時は秩序の崩壊を防ぐものとして世界中の賞賛を勝ち取りましたが、やがて今回の危機を招いた遠因の一つとして、批判の矛先を向けられることになりました。
国会事故調査委員会の黒川清委員長は、福島第一原発の事故調査報告書においてこの点に言及し、「我々の習慣化された服従的態度、権力に対する盲従、群れを作りその群れの掟に固執する態度、個人の責任を曖昧にするための集団主義、そして島国根性」という日本人の習性を痛烈に批判しました。
黒川委員長はこうした日本文化の負の側面が、原子力発電関係者であるとないとに関わらず、現状を変えることを厭う性向から、政府の監視機関と東京電力の職員が安全基準をないがしろにし、事故を引き起こすのを許してしまった、と指摘しました。
黒川レポートは、それぞれ異なる機関によって昨年来調査が続けられ、そして公表された、4つの大きな調査委員会の一つによるものですが、いずれの報告書も、この地震が多発する国土において原子力発電を行う事の危険性を、それぞれの立場で明らかにしました。
日本は現在、各原子力発電所付近にある活断層についての調査を進める一方、今後のエネルギー政策の在り方に関する公聴会を開催しています。
こうした取り組みの結論も出ていないのに、この7月、日本政府が停止中の原子炉の再稼働を認めたことは、私は驚かざるを得ませんでした。
その一方で、何万にもの人々が通りにあふれ出て、再稼働に対する抗議の声を挙げ始めたことにはもっと驚かされました。
この3月以来、人々は毎週金曜日の夕刻、東京都心にある首相官邸前に集まり、脱原発、そして再稼働反対の抗議活動を続けています。
直近の金曜日はあいにくの雨でしたが、抗議者であふれかえる歩道が、政府側の規制により一層渋滞してしまいました。
人々は官邸に向かいながら再稼働反対を叫んでいましたが、持っている傘で人を傷つけたりしないよう、慎重に歩みを進めていました。
人々の礼儀正しさは相変わらずでしたが、もはやそこには「権力に対して盲従する態度」や、「権力に対し疑問を持つことのためらい」はありませんでした。
「東北に春の到来を告げる広野町へようこそ」、広野町の入口にはこう書かれた看板があります。
福島県双葉郡広野町は、福島第一原発の周囲20キロメートルに設定された立ち入り禁止区域の真南に位置します。
広野町は居住が許可されていますが、ほとんどの人は町を出て行き、週末ごとに家の空気を入れ替えるために立ち戻るだけの場所になってしまいました。
サッカー練習のための巨大な複合施設J-ビレッジは、福島第一原発で収束作業に取り組む作業員たちのための前進基地の役割を果たしています。
通り沿いのあちこちに、「汚染泥土仮置き場」の文字が書かれた表示が点在しています。
しかし車をガソリンスタンドに乗り入れると、小ざっぱりとした制服をきちんと着こなした2人の係員が現れ、まるで私たちが馴染みのお得意さんであるかのように、てきぱきと給油その他のすべてのサービスをしてくれました。
事務所内も、トイレもシミひとつない程きれいでした。
同じように活気があるセブンイレブンの店内では、愛想のよい店員が入荷したばかりの小豆の入った和菓子の品質に、満足した様子でした。
その近くでは喫茶店が再開され、来店者に自分の店で焼き上げたクッキーを提供していました。
この国が現在取り組まなければならない難しい課題、それは賞賛に値する日本の人々の忍耐力はそのままに、国家や組織に対する健全な批判精神をどう育てていくか、という事なのです。
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昨日のトップニュースは「香港の活動家」の尖閣諸島への上陸がトップニュースでした。
「活動家」とは言っても、背後に中国政府がいる事は疑いの無い事でしょう。
中国といい、韓国といい、ここのところ日本に対する強硬姿勢が目立ちますが、その原因を皆さんはどうお考えでしょうか?
自民党の総裁が「日本の外交を立て直さなければならない」と語っていましたが、あまりに皮相的な見方です。
まさか外交的「威圧」を加えるためには、軍備強化、核兵器装備が必要だ、などと言い出すつもりなのでしょうか?
だいたい外交の立て直しなど、相手のある事であり、10年や20年で立て直せるものでないことは、世界史に少し興味をお持ちの方なら、どなたでもご承知のはずです。
中国、韓国の本音は
「国民の支持を得ていない政府など、何ほどの事やあらん!」という事ではないでしょうか?!
一枚岩となった国に下手な手出しをすれば必ず痛い目に遭う、その事は第二次世界大戦でドイツが英国を、1960年〜70年代、アメリカがベトナムを相手に、思い知らされた事です。
それと同時に、国民の支持を得ていない政府がどれほどもろく、また信頼してはならない相手であるということも、世界は知っています。
「経産省前」がやがて「首相官邸前」に発展し、日本政府、いや今の日本の政治に対する「国民の支持」など、どれほども無い事を世界のメディアが、世界中に発信してしまいました。
弱り目に祟り目という言葉があります。
弱り目が祟り目を呼び込む、と解釈してよいでしょう。
国民の大方の支持を失った事が日本の政府・政治の弱り目なら、中国・韓国の強硬姿勢は祟り目である、それだけの事だと私は思っています。
これ以上、近隣諸国に侮られないようにするには、国民がきちんと信頼できる政治・政権を、私たちがこの国に打ち立てる必要があります。
英国では、保守党も、労働党も、その人間としての資質に疑問をもたれたら、国会議員どころか地方組織の幹部にもなれない、それほど「政治家の資質」に対する国民の目は厳しい、と言います。
わたしたちもそのような目でこの国の政治家を選ばない限り、世界の日本を見る目は変わらないのではないでしょうか。
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[8月16日午後に発生した通信障害についてのお詫び]
8月16日木曜日、午後2時10分〜57分の間、この【星の金貨】のサーバーに問題が発生し、アクセス・表示が出来なくなりました。
この間アクセスいただいた皆様には、ご不快な思いをさせてしまいました事を、心よりお詫び申し上げます。