ホーム » エッセイ » 【 日本をほんものの成長軌道に載せるために 】《後篇》
日本における最大の問題は、柔軟性の無い労働市場にある
日本の可能性を現実のものにするためには、殻をひとつ破らなければならない
エコノミスト 2016年11月5日
日本における最大の問題は、柔軟性の無い労働市場にあります。
かつてほどではないとしても日本企業は終身雇用を旨とし、長く勤めた社員程高く評価されます。
典型的サラリーマンの理想とされるのは、学校を卒業後はひとつの企業に身を捧げるようにして務め、出世のための会談を一段一段登っていくことです。
より良い待遇を求めて会社から会社へ渡り歩くことではないのです。
こうした日本社会の特徴は、企業において中堅として働ける人々を獲得することを難しくしていると、WANTEDLY(ウォンテッドリー)の社長を務める仲さんがこう指摘しました。
ウォンテッドリーの社員は全員が新顔ということになります。
ウォンテッドリーは、互いに条件の合う企業と求職者を結びつけるため、ひとつのフォーラムを提供します。
現在アメリカにも進出を果たしたピアツーピア(互いが同格同士のやりとり)のフリーマーケット・アプリのメルカリの石塚りょうさんは、日本では社員を解雇することは難しく、その事がかえって成長し進化を遂げた人がもっと良い機会を手に入れることを難しくしていると語りました。
こうした背景は、成功を手にした日本の新しいビジネス起業家の中に若い女性が目立つ、理由の一つかもしれません。
「彼女たちは現在の職場で性差別の問題に直面させられており、独力を発揮できる場では他には負けない能力を持っているのです。」
ウィリアム斎藤さんがこう語りました。
会社の整理手続きをもっと簡単にできるようにする必要もあります。
アメリカでは5年以内に廃業する企業が中小企業全体の33%を占めますが、日本はわずか12%です。
古い企業が時折日本政府の援助によって延命措置が取られる例がありますが、これはかえって新生企業の設立を妨げることにもなります。
日本政府が作った現在の仕組みの中では、開発・研究に対する中小企業補助金などの制度を活用できるなど、新生企業よりすでに設立され軌道に乗っている会社の方が有利になっています。
さらにはもし中小企業が倒産した場合、日本国内で主に資金提供元となっている銀行は融資をする際に非常に面倒な保証人の手続きをとっているため、個人である保証人の負担が極めて重いものとなっています。
日本政府は新世代事業の中で最も人気のあるスタイルの多くを制限する、あるいは禁止する煩雑な規則を廃止すべきかもしれません。
Uber(ウーバー・テクノロジーズが運営する、自動車配車ウェブサイトおよび配車アプリ)は、他の国とは違い日本では高級車だけを取扱います。
Airbnb(エアビーアンドビーは世界中の旅行者に宿泊施設・民宿を貸し出す人向けのウェブサイト)を使って部屋を貸し出す事業についての判断はグレーのままです。
メルカリの石塚りょうさんはこうした状況を恥ずべきものだと語り、日本において最も可能性が高いのは消費者対消費者の事業だと指摘しました。
新たに起業するための費用が安くなり、一生涯の雇用を保証してくれる終身雇用の機会を見つけることが難しくなった今は、これまで挙げてきたような問題に日本が取り組む良い機会かもしれません。
GEM(国際的起業家調査◆ベンチャー企業の研究に定評があるロンドン・スクール・オブ・エコノミクスと米国のバブソン大学が呼び掛け、先進7カ国にデンマーク、フィンランド、イスラエルを加えた計10カ国の研究者を組織して1998年に行われた起業家調査。-[アルク]http://eow.alc.co.jp/より引用)によれば、日本社会全体では起業を志向する人々の割合は高くは無いものの、機会があれば自分に
起業する能力があると考える日本人の割合は19.5%で、アメリカ人の17.4%を上回っています。
日本には可能性があります。
しかし日本の企業家は前に進むためには、殻をひとつ破らなければなりません。
〈 完 〉
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【 12月9日までの報道写真から 】《2》
アメリカNBCニュース 2016年12月9日
12月8日イラク、モスル東部ザーラ地区にある国連機関が運営する食糧配布所前、妹の手を握って並ぶイラク人の男の子。(写真上)
12月7日ブラジル、リオデジャネイロの『スラム街』マングエイラ地区にある15人が暮らす小さな家屋。この場所は2016年リオデジャネイロ・オリンピックの開会式・閉会式が行われたマラカナ・スタジアムから1キロメートルほどの場所にあります。
スタジアムはワールドカップとオリンピック開催のため数億ドルを受け取りましたが、スラム街の住民たちは自分たちにはほとんど恩恵は無かったと語っています。(写真下・以下同じ)
12月4日、アメリカ、ノースダコタ州キャノンボール郊外にある先住民族ロック・スー族の居留地の上に上がる花火。
居留地の近くを通る予定のダコタ・アクセス・パイプラインの建設が、居留地の環境と文化を破壊する恐れがあるとして建設を制限する措置が決定したことを祝って。
http://www.nbcnews.com/slideshow/week-pictures-dec-2-9-n694191