ホーム » エッセイ » 【 日本と韓国の将来に垂れ込める暗雲、背後にうごめく戦争中の亡霊たち 】
真実の勇気を持つ政治指導者だけが、本当の融和に向け国家間の争いを収めさせることができる
日韓の関係を一層悪化させているものは、両国の首相・大統領の個人的背景?
たかが握手を交わしただけのことが外交上の成果として報じられる程、日韓関係は悪化している
フレッド・ハイアット(ワシントンポスト論説委員)/ ワシントンポスト 4月5日
太平洋を舞台にした第二次世界大戦は、まだ終わっていないのでしょうか?
第二次世界大戦(太平洋戦争)におけるアメリカ軍が主導した連合軍の勝利の70周年を祝う意味も込めて、日本と韓国のリーダーがそれぞれにアメリカを訪問するという年にこんな質問をするのはばかげているかもしれません。
しかし最近アジアを専門とする学者マイケル・オースリンが語ったように、日本と韓国の外交関係はこの半世紀でかつてない程緊張した状態を迎えています。
第一次オバマ政権で国務省のアジア局長を務めたカート・キャンベル氏もこの点に同意し、次のように語りました。
「日韓関係がどこまで悪化するのか、予断を許さない状況となっています。」
「全対の状況は日韓両国にとってきわめて有害です。そしてさらに重要な事は、アメリカにとっても極めて有害だという事です。」
ジョージ・W・ブッシュ大統領の下でアジア政策担当としてホワイトハウスの上級官僚を務めたヴィクター・チャ氏は、次のように語りました。
「アメリカ軍は日本、韓国、その両方の拠点があって初めてアジア地区に展開することができるのです。」
「現在の日韓関係を見る限り、アメリカのアジア地区への展開は難しいものになっています。」
こうした状況全てが、先月アメリカ・エンタープライズ研究所の委員会で委員の一人、ニコラス・エバーシュタットをして、次のような質問をさせることになりました。
「現在が第二次世界大戦が終わった後の『戦後』の時代なのか、それとも大きな戦争と戦争の間の『狭間』の時代なのか、判断できる方はいらっしゃいますか?」
エバーシュタットは次のように語りました。
1940年代後半から1950年代にかけてヨーロッパの勇気あるリーダーたちは、ドイツとフランスの真の融和に命題を定め、そのために歴史の再検証を行いました。
その結果、NATOという結束力において世界でも有数の同盟関係が成立し、あるいは最初は欧州石炭鉄鋼共同体としてスタートした国家間連合がEUにまで成長し、ヨーロッパ大陸の融和が実現したのです。
しかし北東アジアでは、安全保障の上でも、経済の上でも、そうした構造は見当たりません。
そして朝鮮半島は韓国と北朝鮮に分断され、地図上には二つの中国(中華人民共和国と中華民国)があります。
日本は中国、韓国、さらにはロシアとも領土問題を抱えています。
そして韓国人と中国人、あるいは少なくとも両国の政府は、その一世代前の人々が体験した日本の第二次世界大戦(太平洋戦争)前、戦中の行為に対する現在の日本政府の姿勢について、怒りを抑えかねているように見受けられます。
第二次世界大戦において主戦場となったヨーロッパ大陸とアジアにおいて、きわめて対照的な事実が認められる、カート・キャンベル氏がこう語りました。
ヨーロッパはいわば手入れの行き届いた墓苑です。
この地で何が起きたのか、人々の間で適切な歴史認識の共有化が実現し、誰もが無益な争いを再現させるべきではないという意識を共有しています。
しかしパラオ共和国のペリリューの戦場を始めとする太平洋戦争の戦場となった島々では、たった今戦闘が終わったかのように、武器の残骸がそこここに散らばっています。」
「戦闘は終わったものの、まだ戦争は終わっていないかのような印象を受けます。」
だからと言って、アジア各国が臨戦態勢になっているという訳ではありません。
しかし状況は数日前にシンガポールで行われたリー・クアンユー元首相の国葬の席上、日本の安倍晋三首相と韓国の朴槿恵大統領が握手を交わしたことを、日本の新聞が外交上の重要な成果として報道しなければならない程、両国関係の悪化は著しいものがあります。
4月に訪米することになっている安倍首相と、6月に訪米するものと見られている朴槿恵大統領は両国の関係改善に前向きに取り組んでいる姿勢を強調しています。
両者とも政治的立場は保守であり、米国との同盟関係については強化していくという姿勢を取っています。
しかし朴大統領は、安倍首相との関係改善より、中国共産党の指導者たちや北朝鮮の首脳との関係強化に重き置く姿勢を見せてきました。
何が起きているのでしょうか?
いくつかの点において、安倍首相も朴大統領も自分たちの経歴に自由を奪われているという事が出来ます。
安倍首相の祖父は第二次世界大戦(太平洋戦争)中の大日本帝国の指導者のひとりであり、戦後は首相を務めました。
そのせいかどうか、安倍首相は中国や韓国が求めているレベルまで、日本の戦争中の事歴について検証・批判されることを望まないようです。
一方朴大統領の父親は、戦争中韓国を植民地支配していた日本軍の将校を務め、戦後韓国の大統領に就任しました。
1965年、日本との国交を正常化する条約を締結しましたが、後にその補償内容が日本に対して寛大すぎるとの批判を受けたため、娘の朴槿恵大統領は日本に甘い顔をすれば、直ちに批判を招きかねないとの懸念を強く持っている可能性があります。
こうした個人的な背景が、韓国に対する謝罪と補償はもう終わっているはずだという日本人の感情を、日本が行なった謝罪には誠意がなく、きちんとした補償をさらに行うべきだとする韓国人の感情を、一層かきたてているのかもしれません。
隣接する国同士の紛争によく見られる事ですが、日本と韓国が歴史認識について争っている背景には、中国の台頭とアメリカの影響力の相対的な低下に対する懸念があります。
日本も韓国も中国との貿易と投資に経済的に依存する一方で、安全保障についてはアメリカ合衆国の力に大きく期待しています。
日韓両国とも、オバマ大統領がアメリカは現在内政に重きを置くべき時に来ていると語り、その海軍を縮小させていることを注意深く見守っています。
そのような状況の中で、オバマ大統領が一線と考えていた状況を超えてシリア情勢が悪化していること、そしてロシアがウクライナで西側諸国との対決姿勢を強めていることについて、日韓両国は懸念を深めています。
こうした状況の中、たまたまですが、現在は承認をためらっている米国議会の承認が得られれば、オバマ大統領の手に日韓関係改善のための決め手となるカードが渡されることになる可能性があります。
日本、ベトナム、カナダ、メキシコを含む太平洋岸12カ国が交渉を行っているTPP(環太平洋パートナーシップ)です。
順調に進めば、韓国の参加への動きも早まるものと考えられます。
第二次世界大戦後ヨーロッパで実現しアジアでは実現しなかった融和のための枠組み作りが、TPPによって始まる可能性があります。
TPPには長期に渡る関係の安定化が織り込み済みであり、順調に進めばアジアでも本当の意味で第二次世界大戦(太平洋戦争)が終息する可能性があります。
http://www.washingtonpost.com/opinions/wartime-ghosts/2015/04/05/994bd176-da12-11e4-ba28-f2a685dc7f89_story.html
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誤解をいただかないよう記しますが、翻訳した記事については「海外にはこのような意見がある」「指摘がある」と言う趣旨での掲載のつもりです。
従いまして結論部分にあるTPPが日韓関係を改善するための有力なツールに成り得る、というのは飽くまでワシントンポスト紙の主張であり、翻訳者はその見解が正しい・正しくないという判断をする立場にはありません。
皆さんに関心を持っていただき、議論のきっかけのようなものになれば、と思っています。