ホーム » エッセイ » 【『従軍慰安婦』への視点 : 癒しがたい傷を癒やすことへの第1歩 】
太平洋戦争中の残酷な歴史の中でも、従軍慰安婦にされてしまった女性たちの悲惨な境遇は長く記憶されるべきものである
『慰安婦問題の経緯』は種々様々であったことは想像できる、しかし重要なのはその先にあった人間として耐え難い苦しみの方
領土問題が先鋭化し、国家主義者たちが地域の安定をかき乱そうとする状況下、引きずって来た過去の清算は、国家間の融和を導く
社説 / ガーディアン 2015年12月28日
最高で200,000人に上る主に朝鮮半島出身の女性が、第二次世界大戦中、性的な強制労働者として使役されました。
そして今、ついに日本が謝罪しました
彼女たちは「従軍慰安婦」と呼ばれています。
しかしこの言葉は彼女たちを最も恥ずべき方法で搾取し、その人格を踏みにじった人間たち自身が考えだしたものです。
その人間たちは女性たちをあたかも戦利品のように扱い、性的奴隷へと貶めました。
第二次世界大戦の戦前戦中、最高で200,000人に上る主に朝鮮半島出身の女性が身柄を拘束され、日本軍兵士を相手にするため設置された売春宿に送り込まれました。
その後女性たちが置かれた窮境は、終わることの無い政治的、外交的論争の対象となりましたが、中には彼女たちが強いられた厳しい現実そのものを、否定しようとする動きすら見られました。
太平洋戦争における、そして日本が占領していた諸国、諸地域における残酷な仕打ちの中でも、従軍慰安婦にされてしまった女性たちの悲惨な境遇は長く記憶されるべきものであり、その責任を負わなければならない人間が誰であるかは、時間が経った今でも解明されるべきです。
そして戦争が終わって70年以上が過ぎた今、日本と韓国両政府は、この問題について「最終的に、そして不可逆的に決着させる」ことを決定しました。
日本政府は「その責任を痛感している」と断言し、安倍晋三首相は「計り知れない程つらい経験をされたすべての女性に対し、心からの謝罪と後悔」を表明しました。
韓国内では今も「従軍慰安婦」にされた犠牲者の女性46人が存命していますが、彼女たちのために基金が設立され、日本政府は10億円を拠出することになります。
韓国の朴大統領は、日韓両国の「信頼に基づく新たな関係」が構築されることになると語りました。
戦時中の記録についての緊張関係が数十年間続いた後、戦略的な必要性が日韓両国の今回の合意を導き出した点は疑いありません。
軍事的台頭を続ける中国と予測不能の北朝鮮の政治に直面し、日韓両国は安全保障上緊密な協力関係を構築することが不可欠であることを認めるようになりました。
この点については両国の最大の同盟国であるアメリカ合衆国もまた利害を同じくしています。
いつの時代においても、領土問題が先鋭化し、国家主義者たちが地域の安定をかき乱そうとする状況下では、過去から引きずって来た問題に決着をつけることは、国家間の融和を導くことに貢献します。
批判的観点に立てば、日本の謝罪の誠意を疑う見方もできます。
日本はこれまでも謝罪を行ってきました。
しかしこれまでの謝罪は範囲を限定することによって問題を小さくしようとする意図があり、韓国民にとって到底受け入れられないものもありました。
「従軍慰安婦」に対し最大の支援を行っている人々は、今回の合意で日本政府から賠償金という形で直接の支払いを引き出せなかったことについて、最終的に日本側の法的責任がうやむやにされる可能性がある事を残念に思っているかもしれません。
一方で日本側には、これまでの主張が認められなかったと感じている人間たちもいます。
しかし、一歩前進があったことは明らかです。
しかし日本がかつて植民地支配と侵略を行った国々と新たな信頼関係を構築したいのであれば、第二次世界大戦の戦前戦中に軍が行なった残酷な仕打ちの史実と正面から向き合うことは大切なことです。
安倍首相が国内において国家主義を煽っていることは世界的に知られていましたが、今回は長期的視野に基づいて行動したか、あるいは少なくともその手法に円熟の度を加えました。
アメリカの圧力に加え、2015年の始めに来日したドイツのアンゲラ・メルケル首相が一役買ったかどうかは、誰にもわからないことです - メルケル首相はドイツが第二次世界大戦中に犯した数々の国家的犯罪とどう向き合ったかに言及し、かつての敵国の要求に誠実に向き合い過去を清算する事の大切さを安倍首相に伝えました。
韓国朝鮮は1910年に併合されて以降、戦争が終わるまで日本の植民地でした。
この間の朝鮮半島の歴史は複雑であり、何が正しいかについてはまだまだ論争が続くでしょう。
しかし当時の日本の支配層の責任は否定できない事実です。
一方で韓国朝鮮の不当利得者や日本の民間人も女性たちに甘言を用いて誘ったり、強制的に売春施設に送り込んだりしました。
これまで外交的な協定が可能にしたのは、国家間の対立する見解に妥協点を見出すことだけでした。2、3年前、1人の韓国の歴史家が、慰安婦となった女性たちの中には貧しさなどから自暴自棄になり、自ら売春施設に身を投じたと報告しました。
しかし疑いようのない事実は、その先にあった人間として耐え難い苦しみの方です。
「慰安」などという言葉は、許しがたい婉曲表現です。
彼女たちが経験させられたのは、一生消すことのできない傷跡を残すことになった残忍な搾取でした。
事実の存在確認と責任の自覚、この二つが実現したという点において今回の合意は重要なものになりました。
現存する88歳の元慰安婦の女性がこう語りました。
「振り返ってみると、私たちは基本的人権を奪われ続ける人生を送らされてきました。私たちは本当に長い間待ち続けてきたのです。」
http://www.theguardian.com/commentisfree/2015/dec/28/the-guardian-view-on-japan-south-korea-and-comfort-women-one-step-towards-healing-the-wounds-of-the-past
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前回、ニューヨークタイムズの記事をご紹介しましたが、『慰安婦問題』に関する正論中の正論ともいうべきものに出会いましたのでご紹介します。
私自身も歴史の常識から、女性たちが慰安婦にされてしまった経緯には強制徴用から自分から身を売った例まで、その両方があると考えていました。
そしてその割合など200,000人という規模から考え、到底正確な数値は出せないだろうとも考えています。
しかし本文中にある通り、重要なのは女性たちの「人間として耐え難い苦しみの方です。」
日本の江戸時代には、女郎として身を売られることについて『苦界に身を沈める』という表現がありましたが、慰安婦の女性たちの状況はさらに悲惨であった可能性があります。
かつてご紹介した記事の中には「女性たちは日に何回も強姦された。」という表現がありました。
男女の差はあってもそうした状況がどういうものであるか考えるとき、思い浮かぶ言葉は『絶望』しかありません。
「女たちは自分から身を売ったんだ」と主張し日の丸をかついで練り歩く人間たちに、同じ人間としてこのことに思いを巡らす想像力はあるのでしょうか?
問題の性質が性質だけに、彼らに対する世界の嫌悪はドイツのネオナチに対する以上のものがあることを、そして一般の日本人も同質の感覚を持っていると見なされる恐れがあることを、私たち日本人は考える必要があると思います。