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イギリスの大規模原発建設に、中国政府が関わる広東核電集団が参加、セキュリティ上の懸念は?
信じられない程巨額の追加予算、完成時期を全く見通せない程遅れる工期、それが新世代原子炉の現実
デイヴィッド・ジョリィ、スタンリー・リード(パリ) / ニューヨークタイムズ 5月7日
ヨーロッパを代表するフランスの原子力発電企業アレバとEDF双方と長く協力関係にあったもうひとつの中国企業、中国広東核電集団は、これまで複数のフランス企業が準備を進めてきた大型プロジェクトにおいて、主導的役割を果たすための契約を交わしました。
その大型プロジェクトとは、英国のヒンクリー・ポイント原子力発電所であり、英国としてはこの数十年間で初めての新たな原発建設となるこの建設に英国政府はすでに承認を与えました。
しかしアレバ社とエレクトリシテ・デ・フランス – むしろEDFという名の方が有名ですが、ヒンクリー・ポイント原子力発電所建設についても、計画の実現性と建設費用の点で黄色信号が点滅しています。
そしてデイビッド・キャメロン首相が中国企業の参入を歓迎する一方、英国政府の他の当局者は中国政府が関与する企業が英国の重要施設の建設に関わることに、セキュリティ上の懸念を表明しました。
フランス原子力関連企業が苦境にあえぐ一方で、一部の核(原子力)問題の専門家は、原子力発電事業の地勢上の大移動を感じ取っています。
「アレバ社の窮状はロシア製、そして中国製原子炉の輸出のためのドアを開ける可能性を持っています。しかし、中国製とロシア製の原子炉を輸出するについては、建造実績、そして設置技術は経験が不足しています。さらにこれらの原子炉の安全性については、ほとんど知られていません。」
こう語るのはロンドンに拠点を置く研究組織、チャタム・ハウスの核問題の専門研究員アンソニー・フォガット氏です。
そして2009年にアブダビでの2兆5,000億円規模の原子炉建造の入札でフランスの原子力産業を打ち負かした韓国もまた、海外での原子炉建造の経験不足により、実際に建設を進めていく中でつまずく危険性があるとフォガット氏が語りました。
フランス政府の再建策の一環として、アレバ社はその基幹事業であった原子炉設計・建造部門を、同国内でさらに大規模なEDFに譲渡することになっています。
EDFの昨年の売上高は730億ユーロ(約10兆2,000億円)であるのに対し、アレバのそれは83億ユーロ(約1兆1,600億円)と小規模です。
EDFが黒字体質を保っているのに対し、アレバ社は多額の損失を計上しました。
今年3月アレバは単年で48億ユーロ(約6,700億円)の損失を計上しました。
その前の年は5億ユーロ(約700億円)の損失を出しています。
アレバが最後に黒字を計上したのは2010年でした。
フランス政府によるアレバ社の事業縮小計画は、その業務内容を決まりきったものに固定化しようというものですが、その分事業としての旨味はありません。
ウラン鉱山の経営、ウランの精製、ウラン燃料の原子力発電所への販売、そして放射性廃棄物の処分です。
マニュエル・ヴァルス首相は、政府が「夏までに」フランスの原子力産業の再建計画の最初のたたき台を公表する予定だと語りました。
この再建計画の目的のひとつは、すでに原子力発電所の経営において規模的にも世界一の実績を持つEDFがアレバからの引き継ぎを受け、これから取り組まなければならない21世紀型原子力発電所建設に伴う技術的、財政的課題を乗り切る事だと考えられます。
しかしこの再編が世界の原子力産業のリーダーとしてのフランスの立場を守り、際限もなく増え続けるアレバの財政赤字を止めることができるかどうかは不透明です。
福島第一原子力発電所の事故が、原子力発電に対する世界中の認識を変えてしまったことは疑いがありません。
そして太陽光や風力のような比較的安価な再生可能エネルギーブームの到来は、巨額の投資を必要とする原子力発電のビジネスモデルに対する疑問をいやがうえにもかきたてることになりました。
しかし最大の問題点は、フランスの大手原子力企業が10年以上前、『新世代(第4世代)原子炉』建設という賭けに打って出たことにあるかもしれません。
フランスの原子力産業界はこの新世代の原子炉をE.P.R.(European pressurized reactor - 欧州型加圧式原子炉)と名付け、かつてない強力な発電能力と安全性とを併せ持つ技術を駆使した原子力発電所の建設を約束しました。
しかしフィンランドのオルキルオト、フランス、ノルマンディー地方のフラマンヴィル、いずれも現在建設中のプロジェクトは、すでに完成予定を数年過ぎています。
そして完成・稼働までには、当初予算の何倍もの費用を必要とする可能性が出てきました。
例えばフィンランドのオルキルオト原子力発電所は約30億ユーロ(約4,200億円)の建設費用をかけ2009年に発電を開始する予定でした。
ところが2015年現在までかかった費用はその約3倍に達し、しかも完成は早くとも2018年までずれ込む予定です。
アレバはこの予算超過のせいで、プロジェクトに関してすでに45億ユーロの損失が発生している事を認めたのです。
《第3回に続く》
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【 太陽帆衛星、その自画像を公開 】
アラン・ボイル / アメリカNBCニュース 6月9日
全米惑星協会は衛星軌道上でその太陽光帆を広げ、航行を初めた2日後に撮影された写真を公開しました。
写真は衛星自身が撮影したものですが、この衛星のエネルギー源である、9,300万マイル(1億5,000万キロ)の彼方で燦然と輝く太陽も写されています。
「これが宇宙旅行の将来の姿です。」
NPO法人である全米惑星協会( http://planetary.org/ )の会長であり、科学好きのビル・ナイ氏は9日、こうツィートしました。
この写真は、太陽帆衛星に取り付けられたウェブカメラの内の1台が撮影したものです。
太陽帆衛星は5月20日にアトラス5型ロケットによって打ち上げられましたが、2段目に格納されてた32平方メートルの大きさの、反射プラスチック製の太陽帆はパン一斤ほどの大きさに折りたたまれていました。
今回の実験の最大の目的は、衛星軌道上で折りたたまれた太陽帆を広げるメカニズムの動作確認でした。
この衛星はその軌道を346~642 ㎞の間で上げ下げしながら地球を周回して行きます。
地上346㎞という高度は太陽帆衛星にとっては条件的に厳しいものです。
さらに複雑な動作が可能かどうかを実験するための衛星が、来年打ち上げられる予定になっています。
実はこの技術については、日本のイカロス太陽帆衛星が先駆者です。
太陽帆の技術により、人間は太陽系のどこへでも、そして太陽系の外、遠い銀河へも衛星を航行させることが可能になることでしょう。
http://www.nbcnews.com/science/space/lightsail-sends-solar-sail-selfie-space-n372421