ホーム » エッセイ » 【 安倍首相、都合の悪い戦時記録を抹殺する取り組み 】《後篇》NYT
日本政府、中国政府、韓国政府、それぞれがそれぞれに『不都合な事実』を隠そうとしている
ドイツは第二次世界大戦中の国家の犯罪行為と正面から向き合い、進んでその事実を認め、隣国との関係改善が進んだ
和解への近道は、事実を否定して自己を正当化することではなく、責任を認め友好を進めるための手立てを尽くすこと
ハワード・フレンチ / ニューヨークタイムズ 8月18日
しかし2013年安倍氏は2期目の首相に就任した直後、最初の機会をとらえて靖国神社に参拝し、今度は自分が中国と韓国との関係を悪化させるきっかけを作りました。
そして国内においては、日々反安倍勢力が結束を固め、市民たちが続々と声を挙げる状況に直面しています。
中でも自国の防衛能力と同盟国であるアメリカの軍事力を強化するために、関連する一連の法律を改変することにより平和憲法が定める禁止条項を回避するやり方は、国民の不信と不満をかきたてることになりました。
なぜ東アジアにおいてはヨーロッパとは異なり、国家間に深い溝が埋まらぬまま今日を迎えているのでしょうか?
ヨーロッパにおいては、ドイツが第二次世界大戦中の国家の犯罪行為と正面から向き合い、むしろ進んでその事実を受け入れようという態度を示しました。
これに対し、直接被害を被った隣国はドイツの誠実さを認め、関係の改善がいち早く進むことになりました。
その原因の一つが、中国政府の打算です。
毛沢東主義とマルクス・レーニン主義はともに共産主義を基本とする国家的イデオロギーですが、すでに実質的な関連性は失われています。
国家的イデオロギーに代わり、何か問題が発生した時に、国民の関心をまとめ上げる手段として、歴史上に敵対する国家を予め設定しておくことは、政治的に有益なことなのです。
しかしその事は中国共産党による一党独裁の正当性への疑問、あざとい程の国家主義に対する嫌気、減速を続ける経済成長という状況が見え隠れする中で、中国政府の屋台骨が細り続けるという現実を作りだしました。
マンチェスター大学で近代中国の研究を専門にするウィリアムA.キャラハン教授によれば、中国を代表する番組製作会社の横店映画村(Hengdian World Studios)が制作した映画、テレビ番組の約60パーセントで、抗日戦争や反日闘争が何らかの形で取り上げられていました。
これらの番組や映画の中で殺された日本人の総数は7億人に達し、実際の日本の総人口の5倍に達していました。
中国の場合20世紀の歴史のほとんどが、共産党によって史実の極端なまでの不正な書き換えと検閲が行なわれたため、今後是正されることが待たれます。
中国では今、これまでで最大の国家伝説が揺らぎ始めています。
すなわち横店映画村が制作したほとんどの映画・テレビ版組で語られる、抗日戦争の最大の英雄にして勝利者・毛沢東という伝説です。
しかし実際に抗日戦争の大半を担ったのは蒋介石の国民党軍でした。
毛沢東を指導者と仰いだ1958~1962年の大躍進政策は、本来国民の食糧生産を担うべき農民を半ば強制的に大量に工業生産に動員したため大飢饉が発生し、沿岸部を中心に3,000万から4,000万人の国民が餓死しました。
誤った国内政策が、日本軍の侵略による死者をはるかに上回る犠牲者を出したことになります。
この問題を始め中国共産党が政権をとって以降の数多くの歴史事実が、一切触れてはならない問題として扱われています。
同様の歴史的事実は韓国にもあります。
韓国の朴正煕大統領時代、現在の朴槿恵大統領の父親ですが、第二次世界大戦(太平洋戦争)当時は日本軍の組織に身を置き、大統領就任後は大々的に日本の協力を得て、今日の韓国経済の基礎を築きあげました。
事実、朴正煕氏は日本の敗戦まで日本語の名前を名乗っていました。
彼は特に成績優秀者のみが入学を認められる帝国陸軍士官学校を卒業し、帝国陸軍の参謀将校として第二次世界大戦に参戦しました。
戦後は安部首相の祖父の盟友として、韓国政治のかじ取りを行いました。
しかしこの歴史的事実については、韓国内ではありのままには伝えられていません。
しかしながら1930年代、アジア地区において国家として一方的に占領政策を推進した以上、日本は将来の根本的な和解に向けた取り組みを放棄することは許されません。
その意味で安倍首相の第二次世界大戦(太平洋戦争)当時の不都合な史実の数々を人々の視界から消し去ろうとする行為は、事態を不必要に悪化させることになります。
今年4月に安倍首相がアメリカ上下両院合同会議の席上行った演説がきっかけとなり、これまで日本の首相がアジア向けに行ったすべての演説が再評価されることになりました。
安倍首相は第二次世界大戦の中でも日米戦史上非常に有名な戦いである真珠湾や硫黄島、あるいは捕虜虐待の最悪例のひとつとなったバターンなどの具体的名称を挙げ、多くの人命が喪われてしまったことに「心からの悔悟」を表明しました。
そして敗戦国日本と勝利した米国が戦後確固たる友好関係を築き上げたことについて、意図して聴衆に感動を与えられるよう話を進めていきました。
これとは対照的に、70周年記念談話の中ではアジア諸国との間の同様の事件については、日本の責任の所在をぼかす、あいまいな表現に終始しました。
日本の将来の世代が、はるか昔のことまでその責任を問われる必要はない、安倍氏のその主張は間違ってはいません。
安倍首相の誤りは、過去の事実と正面から向き合おうとしないこと、史実を事実として認めようとしない、その点にあります。
過去の罪業をてっとり早くすべて清算してしまう方法などはありません。
和解への近道は、事実を否定して自己を正当化することではなく、責任を認め友好を進めるための様々な手立てを尽くすことです。
※ハワードW.フレンチは元ニューヨークタイムズ通信員であり、コロンビア大学のジャーナリズムの準教授で、『第2の中国大陸』『100万人の移民がアフリカで新たな帝国を築いた方法』等の著作があります。
〈 完 〉
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【 戦争・暴力・貧困に追われ、綱渡りの脱出を続ける難民たち 】《1》
アメリカNBCニュース 8月31日
(写真をクリックして、大きな画像をご覧ください)
ヨーロッパには今、戦争と暴力、貧困が支配する中東・アフリカの各地から大量の難民が流れ込んでいます。
難民は裕福な欧州連合の加盟国であるハンガリーに入る事さえできれば、後はビザなしで域内を自由に移動できます。
流れ込む難民の数のあまりの多さに、ついにハンガリーはEU加盟国では無いセルビアとの国境沿いに長さ約180キロの有刺鉄線を張り巡らす対策を始めました。
ハンガリー当局が把握しているところでは、いわゆるバルカン・ルート、すなわちトルコ~ギリシャ~マケドニア~セルビアを経由してやってくる難民の数が2015年に入ってから急増を続けています。
8月30日、アソッサロムの町の南西、セルビアとの国境沿いに有刺鉄線の設置をするハンガリーの兵士。(写真上)
8月31日ハンガリー領内のレーツケで難民の流入を監視する警官。(写真下・以下同じ)
8月30日セルビア国境沿いの有刺鉄線のフェンスをくぐり抜け、ハンガリー・レーツケ村の森に向かって走る難民。
8月30日、アソッサロムの隣町モラハロムで、地面の上で眠りこけるアフガニスタン難民の脇を迂回して通る地元のサイクリスト。
8月30日セルビア国境近く、ハンガリー・レーツケ村を歩く難民たち。
8月30日、国境のフェンス沿いにパトロールするハンガリーの警察車両。
http://www.nbcnews.com/storyline/europes-border-crisis/migrants-brave-razor-wire-hungary-reach-european-union-n418866