ホーム » エッセイ » 独り勝ちを狙うトランプの北朝鮮外交、恐ろしいツケを払わされるのは日本と韓国《前編》ECO
西側各国が考える以上にしたたかな北朝鮮外交、関係各国に法外な対価を要求する算段
歴史的なツーショットのシャッターチャンス以外、米朝首脳の直接会談が何をもたらすかはっきりしない
エコノミスト 2018年6月7日
アメリカが他の国に「ウィンウィン」の関係を持ちかけたとしたら、アメリカは「ウィン」を両方とも取り上げて一方的利益を手にする、と言うことを意味する。
ひとりの外交官がこう語りました。
しかしながら6月12日にシンガポールで開催された米国と北朝鮮の首脳会談は、例外的に2つの国の主要な主人公が2人とも勝利宣言することを可能にするかもしれません。
そして同時にその行方を固唾を飲んで見守っているオブザーバー諸国を喜ばせることになるかもしれません。
言うまでもなく韓国と中国はこの階段に大きな期待を寄せています。
一方の日本はやや懐疑的です。
しかしもし会談が不成功に終わった場合、無数にまたたくフラッシュと膨大な数の報道関係者が作り出す喧騒の中で、最大の敗者の姿はその中に紛れて存在意義不明のものになってしまう可能性があります。
最大の敗者とはアジアに何十年もの安定をもたらした米国主導型の安全保障体制です。
米朝首脳会談が行われたのはシンガポールの他の地域と橋、ケーブルカー、モノレールで結ばれたリゾート地区であるセントーサ島の超高級ホテルです。
近くには多くのゴルフコース、ビーチ、ろう人形物館、そして「銀河系の正義と悪との戦い」と「ハムナプトラの復讐」と銘打たれた宇宙船に乗って暗黒の宇宙に突入するイベントを売り物にしたユニバーサルスタジオのテーマパークがあります。
「セントーサ」とは「平和」「静謐」を意味するマレー語です。
こうした事実は預言者や占い師の社会的地位が高い韓国では物事が好転する前兆と見なされています。
しかしこの島の名前はシンガポール観光局の助言もあり1972年に変更されたばかりです。
それ以前はこの島は『プラウ・ブラキング・マティ(Pulau Blakang Mati)』という名で知られていました。
『死が背後から忍び寄ってくる島』という意味です。
アメリカと北朝鮮の外交はいつも非常に奇妙で理解し難いギリギリの線を走ってきました。
2000年に北朝鮮の首都平壌を訪れたマドレーヌ・オルブライト米国国務長官は、大量動員された人々によるマス・ゲームと兵士による捧げ筒の歓迎を受けました。
現在の独裁者の金正恩(キム・ジョンウン)祖父であった金日成(キム・イルソン)が権力の座にあった1992年以降初めて、米朝両国は2000年に北朝鮮の核兵器開発計画について話し合いをすることになりました。
北朝鮮は核兵器開発計画を放棄するという約束を繰り返し反故にしてきました。
韓国の北朝鮮問題の専門家たちは、核兵器が北朝鮮にとって金一族体制維持のための切り札なのか、それとも国際社会における国家の位置を押し上げるためのものなのか、長い間議論を戦わせてきました。
いずれが正解であるにせよ、核兵器がなくても北朝鮮はいつでも韓国の首都ソウルに砲弾の雨を降らせることができる軍事力を有しており、数十年の間抑止力として機能してきました。
いずれにしても、アメリカが求める「完全で検証可能で不可逆的な軍縮」はおそらく実現不可能です。
しかしドナルド・トランプ大統領と金正恩総書記は互いが平和の実現を熱望しているように演技することにより、直接首脳会談が「成功だった」と宣言することができます。
トランプもキム・ジョンウンも相手をテーブルの向こう側に座らせ、面と向かって直接会談さえすれば、自分たちの勇気ある決断と先見性についておおいに宣伝することが可能になるのです。
ホワイトハウスが大声で自画自賛する権利を6月4日早々に手にしました。
この日はトランプが大統領に就任してからちょうど500日目にあたり、過去18ヶ月間かつてない程強力な圧力をかけた結果、北朝鮮は大量破壊兵器の保有を諦める決心をしたのであり、チーム・トランプは「ドナルド・J・トランプ米国大統領の偉大なる500日間」 がそのことを可能にしたのだと持ち上げました。
トランプ大統領の下でアメリカは北朝鮮にいつでも北朝鮮全土に『炎と怒り』の雨を降らせると脅しながら、一切の妥協に応じないことを繰り返し強調し、「最大限の圧力」をかける政策を徹底して行ってきました。
一方、年間何度も北朝鮮を訪問している中国政府が資金を提供するシンクタンクの研究者は、キム・ジョンウン委員長はスターリン主義的独裁政治を続けながら、矛盾する状況の中で絶えず揺れ動いていると語りました。
「昨年、核兵器やミサイル実験をクリエしていた際、金正恩(キム・ジョンウン)委員長は北朝鮮のエリートに対し、目的はとにかくアメリカを交渉のテーブルにつかせることだと語っていました。」
「ですから今回の会談の実現について、北朝鮮の人々は金正恩が勝利したのだと考えるでしょう。」
《中編》に続く
https://www.economist.com/asia/2018/06/07/talks-between-america-and-north-korea-might-succeed-at-a-terrible-price
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前編の方には日本や韓国にどのような法外なツケが回ってくる可能性があるのかは書かれていません。
肝心な話しは後編になります。
ご容赦ください。
会談後、キム・ジョンウンを褒めちぎったトランプはメディアから
「キム・ジョンウンは国民を迫害し、基本的人権を踏みにじる独裁者じゃないのか?」
と追求されました。
これに対する返答は、まるでこう言っているようでした。
「北朝鮮国民がどのような状況に置かれているか、そんなことには興味はない。大切なのはヤツが俺にとって役に立つ人間かどうか、それだけだ。」
トランプがいかなる国民の基本的人権にも関心がない、ということは早くから欧米のメディアが指摘してきました。
上の発言(と言っても実際にこう入ってませんが)の北朝鮮国民を日本国民に、ヤツを安倍首相に置き換えると、トランプの日本への見方そのものになると思うのですが。