ホーム » エッセイ » 【 参院選・選挙結果の勝手な解釈は許されない 】
選挙期間中に一度も言われてない憲法改定について、国民が信任を与えたなどと言う事は有りえない
公約を放り捨てて経済問題を後回しにし、憲法改定に突き進めば、その先には国民の怒りが待っている
連立与党プラス弱小右翼政党イコール、どんな憲法改定になるのか想像することもできない
ジャスティン・マッカリー / ガーディアン 7月10日
10日日曜日に実施された参議院議員選挙の出口調査の結果、安倍首相率いる連立与党は日本の平和憲法の書き換えを可能にするための議席数を確保する、完全な勝利を手にすることが確実になりました。
出口調査によれば安倍首相が率いる自由党民主党は、今回改善の対象となった121議席のうち57から59議席の獲得が見えてきました(実際には56議席 : 訳者注)。
仏教徒が強力にバックアップする連立与党の公明党は、14議席の獲得が確実視されています。
他の保守系小政党と併せ、連立与党は1947年のアメリカの占領下で制定されて以来初めて、憲法の改定の発議に必要な議席の3分の2を獲得しました。
議論の的となると見られているのが、日本の自衛隊に他国の軍隊と変わらない軍事行動の自由を与えるため、戦争の放棄を謳っている憲法第9条を書き換えるかどうかという点です。
憲法第9条は国際紛争の解決に武力を行使することを禁じており、陸上、海上、航空の各自衛隊に対しその行動を日本の国土防衛に徹するよう厳しく制限しています。
日本の野党が再び壊滅的な打撃を受けることになったこの夜、安倍首相が率いる連立与党は、日本の国会の両院家で3分の2の大多数の確保に迫る勢いを見せました。
憲法第9条を改定するには、衆議院と参議院で3分の2の大多数を、そして国民投票で過半数を制する必要があります。
選挙前に実施された世論調査では、国民は日本の軍事力の増強に慎重な考えを持っていることが明らかにされており、選挙期間中安倍首相は憲法改定の話題にはほとんど触れませんでした。
そして選挙の争点はアベノミクスの名で知られる安倍政権の経済政策に対する信任投票であると強調していました。
「アベノミクスは決して失敗ではありません、まだ道半ばであるというだけです。」
安倍首相は9日地土曜日、東京で有権者にこう訴えました。
「私たちが今取り組まなければならないことのすべては、この政策をしっかり、着実に前進させていくことです。」
2パーセントのインフレターゲット、一向に上向かない消費者支出、そして英国のEU脱退により一層加速することになった円高などの諸問題について、安倍首相は選挙後に10兆円を超える規模の景気刺激策を打ちだすものと見られています。
「私の目標は議席の過半数を制することでしたので、今それを実現できてほっとしています。」
当落予想について伝えられると、安倍首相はテレビの取材にこう答えました。
「私たちの経済政策に対する国民の信任を得ることが出来たので、この問題に努力を集中させるつもりです。」
そしてこうつけ加えました。
「この時点で(憲法の改定に踏み切るかどうかについて)イエスかノーか答えることは無意味です。」
「私には自民党総裁としての任期があと2年あります。憲法の改定は自民党の結党以来の目的でもあり、粛々と進めていくつもりです。」
しかし投票が締め切られるやいなや、自民党の稲田朋美政調会長は憲法改定は選挙公約の中に記載されていると語りました。
「我々自民党は憲法改定を要求する党であり、すでに憲法改定草案を提示済みです。」
一部のアナリストは、選挙後に自民党が経済問題から憲法改定へとその活動の焦点をずらすいかなる動きを見せても、有権者の怒りを買うことになるだろうと見ています。
「市場は安倍首相が権力をしっかりと握ったままでいることが保証されることを望んでいます。同時にその権力を憲法の改定ではなく、経済問題に最優先で取り組むために行使するよう望んでいます。」
ファンドマネージャー、ウィズダム・トゥリー・ジャパンの最高責任者であるイェスパー・コール氏がこう語りました。
野党は選挙戦で、安倍首相は日本の軍事力行使に対する制限を解除するため憲法を書き換えたいという宿願の隠れ蓑として経済問題を利用しているだけだと警告していました。
安部首相を始めとする保守派の政治家たちは、国際的テロの発生、北朝鮮の核兵器開発問題、中国の軍事的台頭など地域の安全保障に係る環境が変化しているにもかかわらず、憲法第9条がこうした事態に対応するための能力を不当に制限していると信じ込んでいます。
しかし専門家は、議会の絶対多数を手にしたからといって、安倍首相が憲法の書き換えを進めることについて信任を得たという訳ではないと語りました。
「たとえ憲法の改定が自民党のマニフェストの中に小さく書かれていたとしても、安倍首相は選挙運動中経済問題ばかりを取り上げ、この問題に言及することを完全に避けていました。」
上智大学で政治学を専攻する中野孝一教授がこう語りました。
安部首相は以前、世論調査の結果、憲法第9条を廃棄することへの情熱を理解している有権者がほとんどいないことが明らかになると、憲法改定について提案することを断念しました。
ワシントンに本部があるテネオ・インターナショナルの日本担当アナリストのトビアス・ハリス氏は、安倍首相は日本の軍事行動の範囲を拡大していく軍政策の変更について、公明党の支持を取り付けることに苦労する可能性があると指摘しました。
「今回の選挙運動中、憲法改定に対する自民党と公明党のビジョンが明らかに違う事が露呈されました。両党におけるいてこの問題をどの程度重要視するのかという考え方は明らかに異なっています。」
ハリスはこう語りました。
「この連立に、さらに弱小右翼政党が加わった場合、総合的ビジョンはますますわからなくなります。その結果憲法改定の手続きがどのように進められるのか、少なくとも私はすぐには理解できません。」
上智大学の中野教授は、平和憲法を捨てることになれば、「日本が再軍備に力を入れれば入れる程、国も世界も安全になるという雑な考え方が人間を支配することになり」、極東アジアの地域における軍拡競争の正式の始まりを告げることになるだろうと警告しました。
早稲田大学の憲法学者である長谷部安夫教授は、今回の参院選の圧勝は、有権者が安倍政権に憲法改正の承認を与えたことを意味するものではないと語りました。
「連立与党は憲法の改定の具体的手続きについて、今回の選挙期間中一切言及しませんでした。当然ですが、言われてもいないことについて国民が信任を与えるなどと言う事は有りえません。」
「日本国憲法の大本とも言うべき部分の変更は有権者にとってきわめて評判が悪く、連立与党は選挙期間中この問題に触れることすらできなかったのです。」
投票年齢が20歳から18歳まで引き下げられ、今回はその最初の選挙という意味で重要な意味を持つものでした。
選挙年齢の引き下げによる有権者数の増加は約240万人です。
しかし新たに選挙権を手にした若い世代の投票率は、マンガによるキャンペーンを始めとする様々な啓蒙活動にもかかわらず、概して低いものになってしまいました。
https://www.theguardian.com/world/2016/jul/10/coalition-election-victory-in-japan-could-herald-bigger-role-for-armed-forces
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今回の参院選の結果は『人々が安倍政権に突きつけているNO!』が形にならず、この稿をお読みの方も切歯扼腕の思いでしょう。
しかし私が暮らす東北では、『野党共闘』が5勝1敗と唯一気を吐きました。
これは東北の人々が3.11東日本大震災とその後の『復興事業』を目の当たりにしたからではないかと考えています。
安倍政権の主張する『復興』は、5年以上が経っても経済的弱者が仮設住宅で暮らし続ける一方、歓楽街やゴルフ場に建設土建関係者の姿をかつてない程数多く見かけるという現実を作りだしました。
そしてもっと深刻なのは、日本、中国、北朝鮮の軍拡競争が現実になれば、建設土建と軍需産業ばかりが税金を吸い上げ、教育や福祉は後回しにされる恐れがあるという事です。
私たちはこの国の子孫に何を残したいのでしょうか?
教育という無形の財産でしょうか?
それとも大量の兵器や有用無用の判断がつきにくい大量のハコモノでしょうか?
今度こそ派手な宣伝文句に惑わされず、『選挙後』の動き - 現実を最大限注視しなければなりません。
そして日本が軍拡競争を始める最悪の選択だけは阻止しなければなりません。
政治家が誤った流れを止められないなら、私たち市民が直接それを担わなければならないと思います。