ホーム » エッセイ » 【 侵略戦争、従軍慰安婦問題、日本は歴史の事実にもっと真摯に向き合うべき 】
アメリカ、ヨーロッパを中心に世界中の学術関係者が挙げた抗議の声、安倍首相には届かず
日本歴史学会の声明文に世界中の歴史学者が反応、日本の一部の人間たちの歴史の歪曲を厳しく指弾
ジャスティン・マッカリー / ガーディアン 2015年5月27日
中国、フィリピン、韓国、台湾の元従軍慰安婦の肖像を掲げ、東京で抗議を行う人々(写真上)
第二次世界大戦(太平洋戦争)が敗戦に終わってから70年を迎える記念日が刻々と近づく中、歴史を専門とする日本の学術関係者が安倍晋三首相に対し、戦争中にアジア各国の女性を売春婦として徴用した従軍慰安婦問題について、もっと誠実な見解を持つよう訴えました。
世界の専門家からの呼びかけに答える形で、日本歴史学会を含む歴史学関係16団体が安倍首相に対し、日本政府が大日本帝国が犯した非人道的行為と真摯に向かい合うべきであるとの提言を行いました。
日中関係には改善の徴候が現れているにもかかわらず、安倍首相率いる保守タカ派政権は、これまでの日本の歴代政権が繰り返してきた「従軍慰安婦」問題に関する謝罪は繰り返さないという見方が有力です。
「従軍慰安婦」とは、朝鮮半島を中心にアジア各地から徴用され、軍の施設での売春行為を強制された200,000人に上る女性たちに対する婉曲的表現です。
20世紀初頭、朝鮮半島と中国の一部を植民地としたことをきっかけに、当時の大日本帝国が20世紀前半アジア全土に侵略と植民地支配の手を広げていったことについても、安倍首相は言及することは無い、当初からこうした見方が有力でした。
70周年の声明において安倍首相がこの二つの問題に言及しなければ、これまで歴代の政権が引き継いできた謝罪姿勢に終止符が打たれることになり、中国、韓国との関係が再び悪化の方向に向かう危険を冒すことになります。
歴史研究に携わる日本の学術関係者たちは声明の中で、従軍慰安婦にされた女性たちが『筆舌に尽くしがたい性的暴力』の犠牲者であったと述べています。
そして次のようにつけ加えました。
「近年の歴史研究は、動員過程の強制性のみならず、動員された女性たちが、人権を蹂躙された性奴隷の状態に置かれていたことを明らかにしている。
日本軍「慰安婦」問題に関し、事実から目をそらす無責任な態度を一部の政治家やメディアがとり続けるならば、それは日本が人権を尊重しないことを国際的に発信するに等しい。」
「こうした態度が、過酷な被害に遭った日本軍性奴隷制度の被害者の尊厳を、さらに蹂躙することになる。」
安倍首相は、1993年、当時官房長官であった河野洋平氏が従軍慰安婦として売春を強いられた女性たちの生存者に対して行われた謝罪、いわゆる河野談話について、その文言を変更しないと語りましたが、文言通りの謝罪を安倍首相も繰り返すべきだとする圧力には抵抗しています。
その最新の事例がアメリカ議会における演説でした。
これに対し、日本歴史学会は『当該政治家やメディアに対し、過去の加害の事実、およびその被害者と真摯に向き合うことを』求めました。
この声明に対する反響は、すぐに世界中から巻き起こりました。
主だったものはアメリカ国内、そしてヨーロッパ諸国からのものです。
何百人という世界中の学術関係者が、今日本が行なおうとしている歴史の歪曲行為に対して警告を発し、安部首相に対し戦争中のデリケートな問題について『襟を正して向かい合うよう』求めました。
公開書簡で180人以上の学者たちが、次のように要求しています。
「過去の過ちについて、可能な限り漏れることなく、可能な限り公平な記録を行うべきである。」
この書簡が公開されると、自分も賛同者として名を連ねたいという学術関係者が世界中で相次ぎ、その数は当初の数の3倍近い450名以上になりました。
安倍政権と行動を共にする右翼の修正主義者たちは、朝日新聞が従軍慰安婦問題に関し誤報道を行ったことで勢いを得ました。
昨年の夏、日本のリベラル紙である朝日新聞は1980年代にさかのぼり、元日本軍兵士の吉田清二氏の証言に基づき作成されたシリーズ記事が、虚偽の発言に基づく誤報であったとして謝罪を行いました。
これに対し保守派の一部の日本の政治家が、朝日新聞は海外における日本の評価を傷つけたと主張しましたが、安倍首相もそのひとりでした。
しかし日本歴史学会は、先の河野談話に見られる日本政府の謝罪が朝日新聞の報道、あるいは吉田氏の証言を根拠としたものではないと指摘しています。
そしてこう述べています。
『強制連行された「慰安婦」の存在は、これまでに多くの史料と研究によって実証されてきた。』
安倍首相は当初、日本の軍当局が女性たちを強制連行したという定説に疑問を呈していました。
安倍首相はこうも語っています。
「第二次世界大戦(太平洋戦争)中の行為についての謝罪は、日本はもう十分に行ったはずだ。」
※日本歴史学会の声明文については、東京歴史科学研究会のサイト( http://www.torekiken.org/trk/blog/oshirase/20150525.html )を参照させていただきました。