ホーム » エッセイ » 【 遥かな先にしか見えない福島第一原発の事故収束 】《後篇》
福島第一原発の溶け落ちた核燃料取り出しの着手は、70年~80年先と見るのが現実的
かつて人間が暮らしていた場所は、1000万個を超える低線量放射性廃棄物の詰まったビニール袋でいっぱい
福島の被災地の環境中の放射線量を1ミリシーベルト以下に下げるのは、『非現実的』
ジャスティン・マッカリー / ガーディアン 3月11日
溶け落ちた燃料の除去にいつ着手すべきなのか、その答えを明確にすべきだとの求めが各方面から寄せられる中、日本の原子力発電所の運用を監督する立場にある人からも、現在の廃炉計画に対する疑問が提示されるようになりました。
先月、原子力規制委員会の更田(ふけた)豊志委員は、溶け落ちた燃料の全てを取り除くためには40年以上の時間が必要なのではないかとの考えを明らかにしました。
「私は正確な答えを知っているわけではありませんが、溶け落ちた核燃料デブリを取り出すにはこれから70年〜80年という年月が必要ではないだろうかと考えています。」
更田委員は取材した記者にこう語りました。
「他にいくつかの方法が考えられます。可能な限り多くの核燃料デブリを取り出した後、取り出せない残りを固化させてしまうのも選択肢の一つです。」
福島第一原子力発電所の安定した状態は、核燃料が再加熱しないよう絶え間なく原子炉内に注ぎ込まれている大量の水によって実現しています。
今のところそれ以外の手段はありません。
この方法はその効果が実証されていますが、一方で大量の放射能汚染水を作り続けています。
発電所の丘側から流れ込む地下水と冷却剤が混じり合った液体が原子炉内の核燃料に直接触れるため、高濃度の放射能汚染水と化してしまうのです。
こうして高い放射能に汚染された水が毎日大量に作りだされる結果、福島第一原発の敷地内を覆うようにして莫大な数の汚染水補完タンクが作り続けられています。
東京電力はこの汚染水から62種類の放射性物質を除去し浄化する装置を有しますが、トリチウム(三重水素)だけは取り除くことができません。
このため地元の漁業組合などから上記の浄化処理済みの汚染水を太平洋に放水することについて、同意を取りつけることができずにいます。
地下水が福島第一原発の敷地内に流れ込む前にポンプでくみ上げ、これをそのまま海洋中に放出する対策を取った結果、汚染される地下水の量を一日あたり400トンから150トンに減らすことができました。
しかし今、長年福島第一原発の事故収束・廃炉作業現場を苦しめてきたこの汚染水問題を解決するための決定打となるはずだった技術が、別の問題に行き当たりました。
東京電力は約3,000億円の費用を投じ、地中を凍結させることにより遮水壁を建設し、汚染水問題の決定的解決方法とする予定でしたが、工事作業が遅れている上、その効果に疑問が呈せられるようになったのです。
この方法は今年の始めに工事を完了させた地中に埋め込んだ無数のパイプに、冷却剤を注入し地中に遮水壁を築き、地下水の流入を防ごうというものです。
福島第一原発の敷地内には現在1,000基850,000トン分の汚染水保管タンクが建造済みですが、その限界に近づいています。
そこでさらにタンクを増設し、汚染水の収容能力を100万トン近くにする計画が進められています。
東京電力の原子力・立地本部長代理を務める菅野定信氏は、2020年までに前述の方法によって放射性物質を処理した汚染水を原子炉の周囲で保管し、これに必要なだけの処理を繰り返し冷却水として使用する計画を持っていると語りました。
事故発生から5年の間うちすてられた町や村の周辺には、福島を再び人間が住める場所に戻すための数多くの骨の折れる作業が遅れがちになっている状況が見てとれます。
福島第一原発の事故では160,000人が自宅を捨てて避難することを強いられました。
そして未だにそのうちの100,000人は自宅に戻ることができずにいます。
そして放射線の低線量被ばくが引き起こす健康障害を懸念する両親の判断により、約10,000人の子供たちは避難したまま福島に戻ることなく別の場所で暮らし続けています。
この子供たちがかつて暮した場所には除染から出た汚染土その他の低線量放射性廃棄物の詰まった1,000万個以上の黒いビニール袋が、家や学校、そして公共施設の周囲などに山積みにされ、そこがそのまま放射性廃棄物の一時保管場所になってしまいました。
進展の遅れはここでもまた著しく、各地方自治体の報告を集計すると40カ所以上の地区・村落の除染が終わらないままになっています。
前例のないほど巨大な規模で進められている除染作業は、環境中の放射線量、つい先ごろ日本の環境大臣が『非現実的』だと批判した1ミリシーベルト以下にするという目標の下、進められています。
日本政府は今後12ヵ月間にさらに多くの市町村の避難命令を解除しようと、現在作業を進めています。
しかし事故発生5周年の直前に行われた原発被災者を対象とした調査では、3人に2人が故郷に再び戻って生活するという希望を永遠にあきらめたと答えました。
「福島第一原発の事故発生後の緊急事態は未だに続いていると認める一方で、住民政策においては避難命令を解除し、原発被災者に自宅に戻れと日本政府が言うことは間違っています。」
2016年3月始め、東京で行われた集会の会場で、福島から避難している73歳の熊本美也子さんがこう語りました。
〈 完 〉
http://www.theguardian.com/environment/2016/mar/11/fukushima-daiichi-nuclear-reactors-decommission-cleanup-japan-tsunami-meltdown