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健全な経済発展を支えるべき一般勤労者の賃金が上がらない日本、消費行動が鈍いのはあたりまえ
2017年、日本は名目賃金に加え諸手当の5%から10%の引き上げを『何としても』実現させなければならない
エコノミスト 2016年9月17日
それはIMFにとっては正式な見解ではないということになっています。
8月、IMFが公表した報告書は、日本の企業が労働者に対しもっと高い賃金を支払わせるようにする政策を採るべきだと示唆しました。
この見解はIMFの前チーフ・エコノミストであるオリビエ・ブランシャール、そして別のもう一人のエコノミストであるアダム・ポーゼンの勧告の直後に行われました。
2017年、日本は名目賃金に加え諸手当の5%から10%の引き上げを『何としても』実現させなければならないと彼らは口をそろえて主張しています。
賃金政策は、長く経済学者に嫌われてきました。
その態度を捨ててまでこうした勧告が行なわれたという事は、日本経済の現状に対する懸念がいかに深刻であるかを端的に表しています。
安倍政権が進めてきた財政政策と金融政策では、日本人の消費行動を活性化させることは出来ませんでした。
GDPの約61%は個人消費から生まれますが、日本人の消費行動はきわめて鈍いままです。
その理由は日本人が現在デフレーションが進行していることを念頭に、モノの値段が将来さらに下落することを見越して消費を控えているからではありません。
収入が頭打ちの状態が続いているため、将来さらに自分たちが経済的に追い詰められることになるだろうと考えていることの方が、理由として大きいとみられます。
IMFは1995年以降、日本の賃金の上昇率はわずか0.3%に過ぎないという状況を明らかにしました。
2015年、日本を代表する自動車メーカー、トヨタの従業員のベースアップはわずか1.1%というものでした。
IMFによればメンバーのほとんどが日本の大手企業である経団連加盟219社の平均的賃上げ率は、0.4%でした。
ところがこれらの企業が社内留保として積み上げている現金の総額は、約377兆円という巨額なものです。
安倍晋三首相は自らに対する評価を日本の景気回復に賭け、その中で低迷する賃金の引き上げを実現させようとしました。
そして政策の中で最低賃金の引き上げを行い、10月1日には再度引き上げが行なわれます。
しかしその政策の規模は大きくは無く、恩恵にあずかることが出来るのは労働者全体から見ればわずかなものです。
2016年度の賃金交渉においては、安倍首相は経団連に対し賃金の引き上げを依頼し、日本政府のオブザーバーが永久就職し組合制度によって身分が保証されている労使交渉の場に参加しました。
安部首相は次年度の交渉においても、同じ取り組みを行うつもりです。
上のグラフを見ると日本の賃金は2014年で下げ止まり、2015年以降上昇に転じたことが解ります。
しかしそれは労働者実感できるほど早い訳ではありません。
モルガン・スタンレー(銀行)のロバート・フェルドマン氏は、賃金の上昇が少なくとも政府のインフレターゲットである2%を上回り、4%代に乗らなければ日本の勤労者層の消費マインドは改善しないだろうと見ています。
日本最大の労働組合である連合の須田隆氏は、大企業と比べ賃金上昇率が低いまま留まって来た中小企業の労働者の賃金上昇率をより高いものにしなければならないと主張しました。
そしてもともと給与の高い人々よりも、低い人々の賃金を上昇させることの方が、消費改善には効果的なはずだとも指摘しました。
しかし企業内に現金が積み上がっているにも関わらず、そして大企業であるが故にまだ労働力の不足という問題には直面してない経団連のメンバーたちは、円高によるコストの上昇を理由に賃金の引き上げには着手していません。
この点は安倍首相周辺にとっては非常に悔しい部分でしょう。
そこで彼らが提示したのが、賃金の引き上げを行った企業に対しては、法人税の減免措置をとるというものでした。
しかし安倍首相に出来るのはここまででしょう。
安部首相自身は企業や権威や名声を手にしている経済学者を敵に回してまで、勤労者の賃金の引き上げを迫るつもりはないでしょう。
その代り日本政府は現在、企業の内部留保に対する課税を検討していると言われています。
「私はそれは脅しやはったりの類いだと思っています。しかし良い意味でのはったりです。」
サントリーホールディングス株式会社代表取締役社長で、政府の労働政策に関する諮問委員会のメンバーでもある新浪剛史氏がこう語りました。
〈 後篇に続く 〉
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【 10月3日までの報道写真から 】
アメリカNBCニュース 9月25日~10月3日
10月3日、アラブ首長国連邦ドバイの約50キロ南東のアルリザイリにある農場に帰るラクダのキャラバン。(写真上)
10月2日、イスラエル北部のハイファ近くの温室で、ワイヤーの上を歩きながら温室にネットを張る労働者。(写真下)
9月25日、地中海上でNGOのプロアクティヴァ・オープン・アームズ(進んで差し伸べられた両手)の救助船に乗せられた8歳のソマリアの少年。政治的混乱が続き国境管理もできないリビアの約1,800キロの海岸線は、ヨーロッパへ不法に移住しようとするアフリカ難民の出港地と化しています。
9月29日シリア、イドリブ市内の病院で治療の順番を待つ、空爆によって負傷したと見られる子供たち。
http://www.nbcnews.com/slideshow/today-pictures-oct-3-n658866