ホーム » エッセイ » 【 ドナルド・トランプ大統領の登場、勝った人間敗けた人間 】《後篇》
アメリカの国益にさえ抵触しなければ、世界中の独裁者が何をしようがおかまいなし
イラン国内のイスラム教強硬派と立場は同じ、ミャンマーの民主化も遠のいた
トランプは、国際的刑事裁判所も大方の国連システムも支持していない
サイモン・ティズダル / ガーディアン 2016年11月9日
対照的に本来勝者となるべき資格など持っていないはずなのに、大きな勝利を得ることになったのが新任のフィリピンの大統領、ロドリゴ・ドゥアルテです。
彼はオバマ大統領を『ろくでなし(son of a whore : Whoreは売春婦の意)』と罵倒し、アメリカとの軍事同盟からの離脱を宣言していました。
一方で麻薬密売組織に対する暗殺チームを編成し、殺害を繰り返してきたことでも悪名高いドゥアルテはトランプの勝利をもろ手を挙げて歓迎しましたが、ビルマ(ミャンマー)からベラルーシにかけて権力を握る独裁者たちも同じ思いであったはずです。
がホワイトハウスに向かって歩き始めた今、イランのハッサン・ローハニは一層の苦境に追い込まれることになりました。
イランの核兵器開発に絡み彼が昨年オバマ大統領と行った取引は、最高指導者アヤトラ・アリ・ハメネイを筆頭とする国内の保守派からの絶えざる批判にさらされてきました。
この点でトランプはイラン国内のイスラム教強硬派と立場を同じくしており、ローハニ、オバマ両大統領が締結した協定を「歴史上最悪の取引」とこき下ろし、自分が大統領になったら直ちに廃棄すると公言しています。
トランプの世界の外交問題に対する無関心と無知は、たとえばスーダンの大統領オマール・アル・バシルのような権力者に対する外交的重圧を取り去ることになるかもしれません。
彼はダルフールで起きた大量虐殺と戦争犯罪に関する罪で訴追を受けています。
イエメンで一般市民に悲惨な境遇を強いているサウジアラビアの強権体制も、同様に恩恵を受けることでしょう。
トランプは、国際的刑事裁判所も大方の国連のシステムも支持してはいません。
次期国連事務局長であるアントニオ・グテレスは、アメリカをこれまで通り国連の活動に関わらせることに苦労するかもしれません。
メキシコは未だ国境沿いに壁を作られてはいませんが、敗者となることは確実かもしれません。
主要通貨のペソが暴落したことにすでにその兆候が表れています。
エンリケ大統領はトランプが9月にメキシコを電撃訪問した際、その敵対的姿勢を変えさせることに失敗し、国民から愛想を尽かされました。
しかし公式にされることは無いでしょうが、過激保守とも言うべき人間がアメリカ大統領に就任することによりかえって自分の立場が良くなる可能性もあり、個人的には歓迎しているかもしれません。
多くのヨーロッパの首都におけるトランプの勝利に対する煮え切らない反応は、トランプのイデオロギーと政治姿勢に対する強い嫌悪感の存在を際立たせることになりました。
普段公式声明については極めて慎重なドイツの閣僚たちも、今回は完全に悪い結果になったとさえ表現しました。
フランスのオランド大統領はそれを上回って不機嫌でした。
これでヨーロッパは自分の面倒はすべて自分で見なければならなくなったと語りました。
すでに英国の脱退が決まってしまった今、EU(欧州連合)にとってトランプ大統領の登場は泣きっ面にハチと言うべきかもしれません。
そして自由貿易主義へのトランプの敵意は、大西洋横断貿易投資パートナーシップ協定(英: Transatlantic Trade and Investment Partnership、略称: TTIP)はまだ完全に反古になった訳ではありませんが、もはや死に体と言って良いでしょう。
ヨーロッパは自身の安全保障を確立したいのであればその資金は自分で賄うべきだというトランプの持論により、EU(欧州連合)各国は圏内の経済的自立はもちろん軍事能力や他の能力について、すべて自前で整備することを求められることになります。
しかしEU(欧州連合)の中で経済的に安定した国々にとっては、最悪の時が訪れたという訳ではなさそうです。
国内での総選挙を控えたフランス、ドイツ、オランダでは、フランス国民戦線を含む右翼の人民主義や国家主義の政党がトランプの勝利を概ね歓迎する態度を示していますが、これは選挙戦における自分たちの勝利を容易にする可能性があると感じたからでしょう。
これからEU(欧州連合)離脱の手続きを実現しなければならない英国政府は、トランプの勝利は今まさに必要な後押しを提供してくれることになりました。
トランプは僅差でEU(欧州連合)離脱を決めた英国に拍手を贈り、アメリカ大統領選挙期間中イギリス独立党党首でEU離脱を主唱していたナイジェル・ファラージを招待し、接待しました。
トランプは米国との貿易関係において英国にペナルティを課すというオバマの脅迫を否定しました。
一方でトランプ勝利はEU残留支持派でスコットランド独立を唱えるニコラ・スタージョン国民党党首にとっては不愉快な事態です。
一方でEU(欧州連合)離脱の手続きを進めなければならないテリーザ・メイ首相にとって、トランプ大統領の誕生は歓迎すべき事態です。
彼女はトランプの当選が決まると、素早く見え透いたお世辞に満ちた祝福を贈りました。
保守党党首として国内の総選挙に臨まなければならない彼女は、トランプ勝利の余波が英国にも波及するよう願っていることでしょう。
〈 完 〉
https://www.theguardian.com/us-news/2016/nov/09/donald-trump-victory-us-election-winners-losers
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【 オバマ大統領のアテネ訪問と市民の反米デモ 】
アメリカNBCニュース 2016年11月16日
11月15日アメリカのオバマ大統領は任期中最後の外遊中、ギリシャ、アテネのアクロポリスを一巡しました。(写真上)
彼の訪問に合わせすべての施設から一般の観光客などが締め出され、大統領としての特権を享受しての訪問となりました。
丘の頂に建ち並ぶ一連の施設は、自由な思想、芸術的表現と優れた建築理念の象徴と考えられています。
一方、その日の夜アテネ市内では約3,000人の反米デモ隊と警官隊が激しく衝突しました。
左派の活動家や学生の間には、1967年から74年まで続いたギリシャの軍事独裁政権をアメリカが指示したことに対する怒りと反発が根強く残っています。
「トランプよ、壁を築くならお前の顔が見えないように築け!」と書かれたプラカードを掲げるデモ隊のメンバー。(写真下)
http://www.nbcnews.com/news/world/obama-tours-acropolis-democracy-s-birthplace-n684696
http://www.nbcnews.com/slideshow/protestors-riot-athens-against-obama-s-visit-n684711